天才人語

Aマッソ加納が「天才」とあがめる芸人とは? 「見えない力に動かされているとしか思えない」

著名人に誰を天才と思うかを聞いていくインタビュー企画「天才人語」。今回は芸人のAマッソ加納が登場する。

お笑い好きに「いま一番とがっている芸人は?」と聞いて、必ずと言っていいほど名前が挙がる「Aマッソ」。“容姿いじり”などをネタにせず、独特の言語センスなどを武器にお笑いの世界で注目を集める。

ネタ作りを担当するAマッソ加納は、誰を天才と思っているのか。彼女が挙げたのは、漫才コンビ「米粒写経」の居島一平(おりしま・いっぺい)。以前この企画に登場した芸人・水道橋博士も天才の一人として挙げていた人物だ。そのすごさとは――。

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「この人、マジで何思ってるねん……」という怖さを感じる

Aマッソ加納が「天才」とあがめる芸人とは? 「見えない力に動かされているとしか思えない」

――加納さんが天才だと思う人は、米粒写経の居島一平さんだそうですね。どういうところが天才だと思いますか?

Aマッソ加納(以下、加納) 「強さ」ですね。「オモロい」以外に生で見て初めて「すげえ」と思った人です。あの人、自分でも何言ってるかわからんときがあると思うんですよね。居島さんは昔、1人で2時間ネタをやって、客が帰らんかったから「お前らすごい!」って言ってさらに2時間やっていました。何なんやろな、あの人。

居島一平

1974年生まれ、東京出身。早稲田大学社会科学部中退。98年、大学の後輩サンキュータツオと「米粒写経」を結成。ソロ活動として、軍国漫談「大本営八俵」やニュース番組『真相深入り!虎ノ門ニュース』のMCとしても活躍中。歴史、仏教、映画、イラストなど幅広い趣味を持つ。

――初めて見たのはいつですか?

加納 3~4年前かな。「すごい人がおるから見に行こう」って同期の芸人に誘われて、ライブを見に行って。そのとき居島さんは「大本営八俵」(居島のピン芸人としての名義)として1人でネタをやっていました。

――居島さんを見て特別に感じたのはどういうところですか?

加納 あるライブで、1個のボケをウワーって言うて、お客さんがポカンとしていたときがあって。そこで居島さんは「わからんこと言われたんやったら船出さんかい!」って言ったんですよ(笑)。全く意味がわからないですよね。でも、たぶん居島さんはその場でホンマに「船を出せ」って思ったんやと思います。「こういうこと言ったらオモロいやろ」って頭で考えて言っているときももちろんあるんやろうけど、このときはホンマにそう思っていたんじゃないですか。

――そのとき、そのフレーズはウケていたんですか?

加納 めちゃめちゃウケてましたね。だって意味わからんもん。力ももちろん備わっていたし。でも、そういう発言って絶妙なバランスで成り立っているのに、テレビとかではやっぱり「意味わからんこと言った」で片付けられちゃう。たぶん、居島さんは思ったことをそのまま言わざるを得ない人なんですよ。売れるためとかじゃなくて、見えない力みたいなものに押されながらずっと芸人をやっていて。これからも絶対に変なことを言い続けてくれるだろうと思わせる強さがあるんです。

Aマッソ加納が「天才」とあがめる芸人とは? 「見えない力に動かされているとしか思えない」

加納 居島さんを見とったら肌がビリビリするんですよね。こういう芸に対して「オモロいしウケてるけど、売れへんやろうな」みたいな感想で片付けんといてほしい。そんな話、今してへんねん、っていう。この人は魂でしゃべってはんねん、って思うんですけどね。

――加納さんが舞台上で何か言うときには、ある程度は自分の頭の中で考えてから発しているという感覚があるんでしょうか?

加納 多くはそうですね。そうじゃないときもあるかもしれないですけど。

――思ったままをしゃべるのは怖いという感覚があるんでしょうか?

加納 というか、私は何でもないようなことを思っているんですよね。人を震わせられるようなことを思っていないんです。居島さんは「そもそも何を思っとんねん」っていう。天才って変な人ですよね。

――思っていること自体が変だということですね。

加納 でも、本人は違和感もないし、あえて少数派になろうとして言ってはるわけじゃない。ホンマに思っていて、ホンマに怒ってはるし。そんな人がお笑いという仕事を選んでくれてうれしいです。

天才は「才能に突き動かされている人」

Aマッソ加納が「天才」とあがめる芸人とは? 「見えない力に動かされているとしか思えない」

――いまお話しされたことのまとめとしてうかがいたいんですが、加納さんにとって「天才」とはどういう人だと思いますか?

加納 「才能に突き動かされている人」ですよね。なんて言ったらいいんやろ……行動や人生を意識して選び取っているようには見えない、というか。「怖い」って思う感じかな。居島さんを見て、悔しいとかではなく「この人、怖っ!」って思いました。「悔しい」とか言ってる時点で、自分と同じラインにいる人として見ているんですよね。居島さんは違う動物やと思っています。同じ舞台に立ったら、この人よりウケようとがんばることはあるけど、そもそもの存在として「すげえ人」って思ってます。

――うらやましくもないですか?

加納 うらやましくもないです。だって、なに言うてるかわからんもん(笑)。悔しくもうらやましくもないですね。すごいから追いかける存在ではあるんですけど。でも別に……。

――こうなりたいとは思わない?

加納 思わないですね。だって意味わからんもん。三島由紀夫の演説を再現したりとか、ホンマに意味わからへん。なんでそんなことするの、っていう。ライブで「今から俺、三島由紀夫やるから」って言って、お客さんにそれぞれ役柄を割り振るんですよ。「お前らは記者をやれ」とか「こっちからヤジ入れる学生をやれ」とか。それで、全員が大声でその当時の三島由紀夫の演説を再現するんです。それを初めて見たときは震えました。お客さん全員がずっとしゃべっているお笑いライブなんかないじゃないですか。じゃあ、誰に向けてやってんねん、みたいな(笑)。

私はもう涙出るぐらい笑ったんですけど、マジで観客は私しかおらんやん、って思ったくらい全員が参加していて。でも、それをずっとやっているんです。もしかしたら居島さん自身もそれをやりたいなんて思っていなかったのかもしれない。やるからな、っていうか、終わった後に自分のやったことに気付いているくらいの感覚なんかなと思う。

Aマッソ加納が「天才」とあがめる芸人とは? 「見えない力に動かされているとしか思えない」

――居島さん以外にも、計算だけではなく、何かに突き動かされてやってしまうタイプの芸人さんはいますか?

加納 やっぱり数は多くないとは思います。若手で言わずにおれんことを言ってるような人って「変なこと言いたがってるやつ」で片付けられている。やっぱり技術がないから、ウケもせん。ウケるだけの技術も付いていて、さらにそういうことを言えている人ってなると、単純に少数になってくるじゃないですか。だから、居島さんの芸歴であの純度のままでいられること自体がすごいことだし、天才なんでしょうね。

――加納さん自身は自分でネタを作るときに言いたいことを言うとか、やりたいことをやるという感覚はあるんでしょうか?

加納 あんまりないですね。言いたいことはほかの芸人よりは言ってる方やと思いますけど、パワーがないから。お客さんが受ける印象も「あいつ、変なことを言ってる」っていうところで終始しちゃうと思う。居島さんほど「(わからない)こっちが悪いのかも」って思わせられる力はないです。居島さんはご自身が変な人やから、そこから発せられるものは絶対変やし。……先輩のことをずっと変な人って言いまくってるけど、大丈夫かな(笑)。

(文/ラリー遠田 撮影/小島マサヒロ)

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プロフィール

Aマッソ加納が「天才」とあがめる芸人とは? 「見えない力に動かされているとしか思えない」

Aマッソ加納

1989年生まれ、大阪出身。同志社大学を中退後、2010年に村上愛とともにお笑いコンビ「Aマッソ」を結成。ネタ作りを担当。16年、17年のM-1グランプリのセミファイナリスト、キングオブコント2017でセミファイナル進出。webちくまでコラム「何言うてんねん」を連載中。

ライブ情報

第六回 Aマッソ単独ライブ「欄(おばしま)編集長の逆説」

Aマッソ加納が「天才」とあがめる芸人とは? 「見えない力に動かされているとしか思えない」

○東京公演

2019/8/30(金)19:00開演
2019/8/31(土)13:00開演 ←追加公演
2019/8/31(土)18:00開演
会場:東京・伝承ホール(東京都渋谷区桜丘町23-21)

○大阪公演

2019/9/11(水)19:30開演
2019/9/12(木)19:30開演
会場:大阪・HEP HALL(大阪府大阪市北区角田町5-15 HEP FIVE 8F)
チケット料金:前売3,800円(税込・全席指定)

▼加納さんより一言

今回の単独ライブは楽しさを重視しようと思います。「オモロい」だけを突き詰めることは、今は要らん、っていうか。オモロいけど楽しくないライブや、賞レースに持っていくための”筋トレ”を見せつけるようなライブではなく、とにかく「楽しさ」メイン。ウチらも苦手なことなんですけど、このライブでは楽しさがちょっと入れられたらな、って思います。

具体的には……客席に犬を放ってみたりとか。それから逃げるだけでも笑いが生まれるやん、って。もうクリエイティブでも何でもない。「犬から逃げよう」のコーナー、みたいなね。いや、やらないですけど(笑)。

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