VOL.3を迎えた「落合陽一×日本フィルプロジェクト」 オーケストラの進化が向かう未来は

メディアアーティストの落合陽一さんと日本フィルハーモニー交響楽団が、テクノロジーを使ってオーケストラの新しい可能性を切りひらくプロジェクトのVOL.3が8月20日(火)と27日(火)の2夜にわたって開かれる。

開催まで約一カ月となった7月22日、『&M』編集部は、演出の落合陽一さんと指揮者の海老原光さん、ビジュアルデザインを担当し、“映像を演奏”するWOWの近藤樹さんの3人に対する公開インタビューを行った。

今回のVOL.3は2公演に分かれている。まず8月20日の《耳で聴かない音楽会2019》は、Diversity(ダイバーシティ)をテーマに、聴覚障がいのある、なしに関わらず音楽を楽しむことができる音楽会として企画された。Artがテーマの8月27日の《交錯する音楽会》では、昨年8月に開催された《変態する音楽会》をアップデートして、視覚と聴覚を連動させて楽しむ映像演出がオーケストラと競演する。

今のところ曲目で公開されているのは、第1夜は「パッヘルベル:カノン」「サン=サーンス:動物の謝肉祭」、第2夜は「小山清茂:管弦楽のための木挽歌(こびきうた)」「ドビュッシー:交響詩《海》より第3楽章「風と海との対話」だけだ。公表されている曲がどのように演出されるのか、他にはどんな曲がどんな映像と共に演奏されるのかは、当日、劇場に足を運んでみなければわからない。

インタビューでは、まず、2夜にわけて開催する狙いから質問した。演出を担当する落合さんが、VOL.1から順を追って説明してくれた。

「2018年に行われた最初の《耳で聴かない音楽会》では、“音楽を耳で聴かなくても楽しめること”を色々なやり方で試してみようというのが大きなコンセプトでした。2018年夏の《変態する音楽会》では、共感覚(※)的な、目で見たものと耳で聴いたものがクロスモーダル(※)になる状態をつくり、そこに自然な形でサウンドハグ(SOUND HUG)やオンテナ(Ontenna)という聴覚の補助装置が入って、さらにダンサーの持つ電飾棒が映像表現と合わさっていた。かつ、お客さんが参加するワークショップでは双方向性を持つ状態をつくり、“目で見る”、“耳で聴く”ということをあまり考えなくても楽しめるようにする。表現が多様なものが混ざって複雑になることで、ダイバーシティ(多様性)をインクルーシビティ(包摂性)に変換できるようにすることが目標でした」

(※編注:「共感覚」=ある一つの刺激が、本来起こる感覚以外の領域の感覚も引き起こすこと。「クロスモーダル」=本来は別の知覚がお互いに影響を及ぼし合うこと)

 

落合陽一さんと海老原光さん

演出するメディアアーティストの落合陽一さんと指揮者の海老原光さん(右)

「《耳で聴かない音楽会》はシリーズ化したいと思っていて、今回は“耳で聴かない”というエッセンスをしっかりと映像でも、触覚でも見せようとしています。一方で、VOL.2《変態する音楽会》での共感覚的な側面、つまり“目で見る音楽”や、耳で聴いたもののイメージから画(え)に戻るという“映像の奏者”というコンセプトは面白かったので、それらは深掘りできるのではないかと考え、今回のVOL.3では、音楽会を二つに分けました。《耳で聴かない音楽会》は、よりみんなで感覚の分断を超えて音楽を楽しむ。《交錯する音楽会》は、今のオーケストラのスタイルを、オーケストラの人々と真剣に議論しながら、楽器として映像を使い、アップデートするかを意識してつくっています」

落合さんに続き、海老原さんは、指揮者の立場からどのように今回のプロジェクトに関わっているかを語った。

「僕は音楽の方面からアプローチしていますが、落合さんと近藤さんは違う方向からアプローチしています。前回から続けてやってきて、究極的に目指すところは、『音楽を聴いて感じることと、映像を見て感じることが同じであればいいんだ』ということです。そうすると、目が見えないひとが音楽を聴いても、耳が聞こえないひとが映像を見ても、イベントが終わって帰る時に持つ感情が一緒になるのではないか。それを目指せたらいいと思っています。実際にやってみて、自分が音楽だけで世界をつくろうとした時にも、そこに画であったりストーリーであったり、いろいろなものを感知しながらやっているのだと気づきました。落合さんや近藤さんと打ち合わせをしている時に、2人から出てきた言葉を聞くと、『ああそれ自分もそう感じているな』と思うことがあった。音楽ではないものと出会った時に、初めて音楽の存在価値が出てくることがある。自分は音楽ではないものとの出会いが好きな音楽家なのだと思う」

海老原さんはさらに、《交錯する音楽会》の英文タイトルが、「THE CROSSING UN-ORCHESTRA」であることに触れて、「(否定の接頭語の)UNがついているから、オーケストラじゃない。これがいいですよね」と笑顔で話した。

VOL.3を迎えた「落合陽一×日本フィルプロジェクト」 オーケストラの進化が向かう未来は

“映像の奏者”を担当するWOWの近藤樹さん(右)

昨年の《変態する音楽会》では、“映像を演奏”するという、言葉を聞くだけではなかなか想像できないやり方で、オーケストラの可能性を拡大しようと試みた。その演奏の奏者を務めたWOWの近藤さんは、自らの役割を次のように説明してくれた。

「落合さんからは、『オーケストラに映像をつけたい訳ではない。古い作曲家の時代に、もしいまのような映像装置が存在していたら、きっと楽譜の中に映像のパートも書き込んだはず。いまはそれができるからやってみよう』という説明をされました。映像が与える情報の広さや繊細さを奏者としてうまくコントロールすることで、聴いている人、観ている人の頭の中に、いろいろな想像の幅を広げられるのではないかと思っています」

昨年のVOL.2から1年。技術面では、音を振動に変換できる聴覚補助装置として「サウンドハグ(SOUND HUG)/ピクシーダストテクノロジーズ」や「オンテナ(Ontenna)/富士通」が使われていたが、《耳で聴かない音楽会2019》では、上記に加え、聴覚に障がいがある人には、googleの音声文字変換アプリをインストールしたスマートフォンが貸し出され、鑑賞を手助けする。

会場のイメージ(実際の舞台とは異なります)。日本フィル提供

舞台のイメージ(実際の公演とは異なります)。日本フィル提供

《交錯する音楽会》では、映像表現や演出がアップデートされると説明された。落合さんは「会場が東京芸術劇場になるので、立体感のある舞台をどう演出するか。オーケストラが日本に輸入されてからおよそ100年の歴史の中で、どのように受け入れられてきたかを考える内容にしたい。それが明治の和洋折衷文化なのか、農村風景なのか、戦争なのか、高度経済成長的いわゆる日本の家庭のカレーの味なのかを考えた時、“日本のにおい”が消しきれないものを表現しようとしています」と語った。

プロジェクトの目的である「オーケストラのアップデート」とはどういうことで、いま考えられる到達点はどこなのか。海老原さんは「映像が奏者として参加するオーケストラをどう表現するべきか、まだわからない。この試みが続くことで聴衆の耳にさらされ、新しい批評が出てくると思う。新しい価値観に対する新しい批評が社会の中でアップデートされていくのではないかという楽しみがある」と語り、落合さんも「オーケストラと映像を組み合わせようとする試みは他にもあるけれど、映像の譜面化や楽器としての映像化などあの手この手で最適解を探りながら、生楽器としての映像を捉えて、何年もオーケストラとひたすら議論を続けて継続的にその結果を見せていくような、こういった様式はおそらくやっていない。だから、どういう対比構造で語るべきか、批評する言語はまだ存在しないのではないか。批評する言葉が出てくるぐらい普及すればよいと思う。もちろん、主役は音楽。目を閉じればいつものオーケストラが聴こえる。これは決してオーケストラが映像に合わせて演奏するわけではない」と話した。

《耳で聴かない音楽会2019》と《交錯する音楽会》のどちらも、実際に劇場で体験しなければ、どこが一般的なオーケストラの演奏や、映像を組み合わせた他の試みと異なるのかを理解することは難しい。近藤さんが今回のインタビューで「どちらの音楽会も、こちらの答えを押し付けるようなことはしたくない。ある程度、みなさんの頭の中で想像が広がるような形が望ましい」と語っていた通り、演奏と演出の受け止め方はすべて観客に委ねられている。

日本フィルと落合さんたちが始めた試みは、進化を重ねて、100年後には一般的な芸術表現として定着している可能性はある。だからこそ、クラシックファンの方も、メディアアートが好きな方も、まずは先入観なく劇場で体験することをお勧めしたい。それは、一つの芸術が発展する過程に臨場する貴重な経験になるかもしれないからだ。

落合陽一さんと近藤樹さんと海老原光さん

(文・&M編集部 久土地亮、写真・野呂美帆)

公演概要

演出:落合陽一
出演:海老原光(指揮)
   日本フィルハーモニー交響楽団(管弦楽)
   江原陽子(ファシリテーター)
ビジュアルデザイン:WOW
照明:成瀬一裕

第1夜 Diversity《耳で聴かない音楽会2019》
日時:2019年8月20日(火) 開演19:00(ロビー開場18:00)
場所:東京オペラシティコンサートホール タケミツ メモリアル(東京都新宿区西新宿3丁目20-2)
演奏曲目:パッヘルベル:カノン
     サン=サーンス :《動物の謝肉祭》オーケストラ版  他
参考映像:VOL.1《耳で聴かない音楽会》ダイジェスト

https://www.youtube.com/watch?v=wJEKht0zix0

第2夜 Art《交錯する音楽会》
日時:2019年8月27日(火) 開演19:00(ロビー開場18:00)
場所:東京芸術劇場 コンサートホール(東京都豊島区西池袋1丁目8-1)
演奏曲目:小山清茂:管弦楽のための木挽歌
     ドビュッシー:交響詩《海》より第3楽章「風と海との対話」 他
参考映像:VOL.2《変態する音楽会》ダイジェスト

https://www.youtube.com/watch?v=PJ6gJrnMRSs

対象:小学生以上
※両日とも未就学児の入場はご遠慮ください。託児サービスあり(事前予約制、有料)
料金:2公演セット券:SS席24,000円~B席10,000円
20 日SS席 12,000円~B席5,000円、27日SS席 13,000円~B席6,000円
※障害者手帳をお持ちの方は割引あり(20日SOUND HUG席は聴覚障害の方限定)
※Ys(25歳以下)、Gs(65歳以上)割引あり
発売日:2019年6月12日(水)10:00 セット券先行発売
    2019年6月19日(水)10:00 一般発売

申し込み:日本フィル・サービスセンター Tel.03-5378-5911[平日10-17時] 
https://www.japanphil.or.jp
※各プレイガイドでも取り扱い有(S、A、B席のみ)

主催:公益財団法人日本フィルハーモニー交響楽団
協力:落合陽一、WOW、一般社団法人xDiversity、TBWA\HAKUHODO、
身体で聴こう音楽会(パイオニア株式会社)、ピクシーダストテクノロジーズ株式会社
助成:2019年度日本博を契機とする文化資源コンテンツ創成事業
東京都歴史文化財団アーツカウンシル東京(Tokyo Tokyo festival助成)
協賛:株式会社朝日新聞社、株式会社プリズム、他
*beyond2020プログラム 認証事業

また、障がいのある子どもをコンサートに招待する資金と、演出に用いるシステムの資金確保のため、クラウドファンディングプロジェクトも実施される。
「クラウドファンディングサービス Readyfor 落合陽一×日本フィルVOL.3」https://readyfor.jp/projects/VOL3

               ◇
朝日新聞社は、昨年のVOL.2に続き、「落合陽一×日本フィルハーモニー交響楽団プロジェクトVOL.3』を協賛いたします。今年も『&M』で準備過程のレポート記事を掲載します。チケットの読者プレゼントも予定しております。

>>昨年のVOL.2の記事はこちら

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