大御所シェフのいつものごはん

気づいたらシェフだらけに 自由が丘の和食店「旬炉 あわい」にプロたちが通うワケ

卓越した技術・味覚・知識を持つ料理界のトップランナーが、行きつけの飲食店を明かす当連載。今回はイタリアンの巨匠・日髙良実さんが通う和食店「旬炉 あわい」を紹介します。

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今回の大御所シェフ 

気づいたらシェフだらけに 自由が丘の和食店「旬炉 あわい」にプロたちが通うワケ

日髙良実さん 

1957年神戸市生まれ。フランスの三つ星唯一の海外店だった神戸「アラン・シャペル」で修業中、イタリア人シェフの料理書に感銘を受けてフレンチからイタリアンへの転向を決意。上京し、東京・銀座「リストランテ ハナダ」へ。86年から3年間、イタリアの北から南まで八つの州の14の店で働いて地方料理への見識を深め、帰国後「リストランテ山﨑」を経て90年より「リストランテ アクアパッツァ」料理長。イタリア郷土の味と日本の素材を融合させた“地産地消のイタリアン”を発信し続けている。

【大御所シェフが通う店】旬炉 あわい(自由が丘)

「あわい」は「間(あいだ)」の古語。職場から家に帰るあいだの寛ぎの場に、という思いがこめられている

さっきクックパッドを見たら、アクアパッツァ(イタリアの煮魚料理)のレシピが1800品以上も載っていて、和食の煮魚をはるかに超えていた(煮魚のレシピ数は1300超)。もはや、立派なニッポンのおかずである。

釣った魚を船上で海水だけで煮る、この南イタリアの豪快な漁師料理にほれこみ、店の名前にしてしまったのが日髙良実さんだ。1990年代から雑誌やテレビの料理講師としてレシピを盛んに紹介したことが、アクアパッツァ普及のきっかけになった。

日本と同じく南北に細長いイタリアでは、それぞれの環境と産物に根ざした郷土の味が発達した。アクアパッツァをはじめ、日髙さんが持ち帰った地方料理の数々は、“イタリア料理=スパゲティとピザ”というステレオタイプを覆し、イタ飯ブームを牽引(けんいん)する原動力になった。

日髙さんがイタリアで暮らし、料理以上に感動したのが、わいわいと盛り上がりながら全身全霊で食べることを楽しむイタリア人の生き方だったというが、日髙さん自身が、友人たちとの食事をこよなく愛し、なにより大切にしている人。インターネットで店を新規開拓し、食べに行くこともしょっちゅうだ。

超多忙な仕事の合間を縫って、外食にもまめな日髙さんが、いまいちばん通いつめているのが、「旬炉 あわい」。自由が丘駅から歩いて5、6分、おしゃれな街らしい、あかぬけた居酒屋だ。

ライブ感あふれるオープンキッチン。奥にはテーブル席もある

ライブ感あふれるオープンキッチン。奥にはテーブル席もある

地元住民の常連が多く、1週間前の予約が必須だが、深夜1時半まで営業しているので、予約なしでも席が取りやすい22時過ぎになると、店が引けた近隣の料理人がひとり、ふたりと集まってきて、気がついたら客がシェフだらけになることも珍しくない。それほど料理のプロをひきつける理由とは?

「お酒が好きなので、飲むのが中心になりがちですが、ここではたくさん食べますよ。なにより、素材が素晴らしい。料理長の内海竜也さんの出身地である気仙沼から産直の魚介類は、珍しい種類も多く、扱い方もプロ中のプロ。いつも感心するおいしさです」

そう語る日髙さんは、まず、刺し身をつまみながら冷酒を1杯。いつも真面目で礼儀正しい日髙さんの頬がゆるんで、このうえなく幸せそうになる。

刺し身はおまかせで盛り合わせてもらうが、欠かせないのがミズダコだ。神戸で明石産のマダコを食べて育った日髙さんだが、気仙沼のミズダコはサイズがちょうどよく、ゆで方が絶妙なのだそうだ。

ホタテ貝のヒモ。コリコリ感が素晴らしい

ホタテ貝のヒモ。コリコリ感が素晴らしい

ヒラメ、マコガレイ、ホウボウ、アイナメ、ミズダコ、ヒラマサ、ホタテ貝の7種の盛り合わせで2人前が2400円

ヒラメ、マコガレイ、ホウボウ、アイナメ、ミズダコ、ヒラマサ、ホタテ貝の7種の盛り合わせで2人前が2400円

この日は、生きている殻付きホヤが入荷していた。ホヤほど鮮度が影響する食材はなく、「こんなに食べごろのホヤが味わえる店は、東京では珍しいですよ」と日髙さん。頰張ると、“海のパイナップル”と称される甘み、潮の香りが口中にほとばしる。

ホヤは気仙沼のゆるキャラになるほどの名産品だ

ホヤは気仙沼のゆるキャラになるほどの名産品だ

気仙沼の海の幸を知りつくす内海シェフ

現在、日髙さんは「みなと気仙沼大使」をつとめ、気仙沼の食材でイタリアンのレシピ開発をするなど、料理で復興に協力している。

阪神・淡路大震災でいち早く救援物資を神戸港に届けてくれたのが、気仙沼の船団だった。そのお返しで、神戸市は東日本大震災では各方面で気仙沼を支援している。日髙さんも、そのひとり。漁師の家に生まれ、気仙沼の海の幸を知りつくす内海さんの存在が、あわいに通う理由のひとつだった。

気仙沼から直送の、鮮度が抜群の魚介類がそろう

気仙沼から直送の、鮮度が抜群の魚介類がそろう

気仙沼は、フカヒレの原料になるサメ類とカツオの水揚げが多いことで有名だが、実はメカジキの水揚げ量も日本一。都市部のスーパーなどには「カジキマグロ」の名前で安価な冷凍品が出回るため、味が過小評価されやすい魚だ。

そう思っている人は、生の最上品を用いたあわいのメカジキ料理を食べると、印象ががらりと変わるだろう。冬ならば、刺し身が絶品。鮮度が落ちるとアンモニア臭が出るため、産地以外ではめったに食べられない。

メカジキの背びれを持つ内海さん。その形から地元では「メカジキのハモニカ」と呼ばれている

背びれの付け根といっても大型魚なのでビッグサイズ。その形から地元では「メカジキのハモニカ」と呼ばれている

日髙さん絶対のおすすめが、背びれの付け根部分の煮付けだ。背びれといっても、大型魚なのでびっくりするほどの特大サイズ。軟骨のあいだに身がたっぷり入っていて、1枚で2、3人分はとれる。こちらは通年のメニューだが、希少部位ゆえに、1日2、3皿しか提供していないという。

内海さんは、煮魚はすべて作りおきしない。作りたてでないと、かたく締まっておいしさが半減するからだ。

また、内海さんにいわせると、しゃばしゃばで水気の多い煮付けは、煮汁のなかで魚のうまみが薄まった状態。煮汁にはうまみがぎゅっと凝縮し、ソース状に魚にからむくらいの濃度がなければならない。

最後は鍋を傾け、汁をすくっては上からかけて煮詰める

最後は鍋を傾け、汁をすくっては上からかけて煮詰める

背びれの場合は、生姜(しょうが)入りの湯で15分ほど下煮し、濃い口しょうゆとたまりじょうゆを加え、後半は煮汁をすくっては魚にかけながら煮詰めていく。その煮方には、アクアパッツァと共通するダイナミックさがある。

フォークとスプーンで軟骨からはずしたメカジキの身は、脂も十分。食感はほわっとやわらかく、こっくりとしたうまみがしみ出してくる。内海さん独特のやり方を学ぼうと、煮はじめから一部始終を見ながらメモをとる客もいるそうだ。

抜群の照りのよさ。これぞ、ザ・煮魚という輝きだ

抜群の照りのよさ。これぞ、ザ・煮魚という輝きだ

軟骨の間の身はスプーンとフォークでかんたんに取れる

軟骨の間の身はスプーンとフォークでかんたんに取れる

超人気食材「川俣軍鶏」の炭火焼き

川俣軍鶏は、炭火焼き専門のスタッフが念入りに焼く

川俣軍鶏は、炭火焼き専門のスタッフが念入りに焼く

あわいのもうひとつの名物が、川俣軍鶏(かわまたしゃも)の炭火焼き。福島県伊達郡川俣町の農家で、ブロイラーの2倍以上の期間をかけて飼育される地鶏だ。福島第一原発事故による風評被害に苦しめられたが、現在は再び、東京の料理店でひっぱりだこの人気食材になっている。

15年前の開店からずっと使い続けているあわいには、希少な内臓類も入荷し、値段は他店より若干安めだ。

川俣軍鶏の特徴である濃厚なうまみを生かすべく、専門の焼き手が入念に焼き上げる。見事なカリカリ具合に焼けた皮を食べ、日髙さんはひとこと「素晴らしい」。レアに焼いたささみとレバーは、対照的にとろりとした食感だ。基本は塩で、唯一タレで焼くつくねには、川俣軍鶏の卵を別注文でつけられる。

気づいたらシェフだらけに 自由が丘の和食店「旬炉 あわい」にプロたちが通うワケ

川俣軍鶏の串焼き260〜350円。1本から注文できる

川俣軍鶏の串焼き260〜350円。1本から注文できる

店のレベルアップにつながる大御所シェフの存在

あわいの創業時より料理長をつとめる内海竜也さん

あわいの創業時より料理長をつとめる内海竜也さん

日髙さんが来店するときは、「何を出そうか、プレッシャーとの戦いですが、スタッフ全員、本当にいろいろなことを学ばせてもらって、店の向上につながります」と内海さん。日髙さんから受けた刺激から、新しい工夫や味つけが生まれ、それを客に出して反応や感想を得ることで、さらに料理の内容がふくらんでいく。

店は客が育てると、よくいわれる。内海さんのように勉強熱心な料理人に、日髙さんのような“こわい”食べ手がついているのは、いってみれば鬼に金棒。客と店との循環の理想形を見た思いがした。

気づいたらシェフだらけに 自由が丘の和食店「旬炉 あわい」にプロたちが通うワケ

(撮影・森カズシゲ)

店舗情報

旬炉 あわい

東京都世田谷区奥沢6-31-18 ロ・カーサ自由が丘1F
東急東横線、大井町線「自由が丘」駅より徒歩5分
03-6432-2888
営業時間:17:00~25:30 (L.O. 食事24:30/ドリンク25:00)
定休日:水曜、第3火曜
公式サイト:http://awaijiyugaoka.com/

大御所シェフのお店

リストランテ アクアパッツァ

東京都港区南青山2-27-18 AOYAMA M’s TOWER(青山エムズタワー) パサージュ青山2F
東京メトロ銀座線「外苑前」駅より徒歩2分、銀座線・半蔵門線・千代田線「表参道」駅より徒歩8分、都営大江戸線「青山一丁目」駅より徒歩12分
03-6434-7506
営業時間:11:30〜15:00(L.O.14:00) 17:30〜23:00(L.O.21:30)
定休日:水曜(団体の場合は定休日の利用も相談可)、年末年始、メンテナンス休暇有
公式サイト:https://acqua-pazza.jp/

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PROFILE

畑中三応子

編集者、ライター、フードジャーナリスト。『シェフ・シリーズ』『暮しの設計』(ともに中央公論社)の元編集長。料理本を幅広く手がけるかたわら、流行食関連の研究や執筆も行う。著書に『ファッションフード、あります。——はやりの食べ物クロニクル』(紀伊國屋書店、ちくま文庫)、『カリスマフード 肉・乳・米と日本人』(春秋社)など。第3回「食生活ジャーナリスト大賞」では「ジャーナリズム」部門の大賞を受賞。

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