働き方のコンパス

外では通用しないと思っているスキルにこそ、競争力があるかもしれません

「働き方のコンパス」は、ビジネスパーソンの悩みに哲学者や社会学者、経済学者などの研究者が答えていくシリーズです。それぞれの学問的な見地から、仕事の悩みはどう分析できるのでしょうか。今回の回答者は、経済学者の安田洋祐さんです。

今回の回答者

経済学者
大阪大学大学院経済学研究科准教授
安田洋祐さん

「東京大学経済学部から、プリンストン大学へ留学。同大学で博士号を取り、2007年に帰国。政策研究大学院大学助教授を経て、現在大阪大学大学院経済学研究科准教授。専門はゲーム理論とマーケットデザイン。サッカーとマンガとパンケーキが好き」

今回のお悩み

Q.所属組織のカラーが強すぎて、外では使えないやつになっているかも……

現在、専門学校で中間管理職に就いています。新卒で就職して以来、出世を目指して努力を重ねてきました。ところがいざ管理職になってみると、身についたのは組織内の常識や業界内営業のスキルばかりで、この組織以外では使い物にならないのではと心配になりました。変化の激しい時代ですし、職場の外に出ても生かせる柔軟な思考力やスキルを磨きたいのですが、いまの職場で頑張ってもそれは得られそうになく、ジレンマを感じています。
(42歳、男性、専門学校職員)

A.まずは、何が問題かを明らかにしましょう

「ボイス」や「イグジット」が必要……ではない?

最初、相談文を読んで「ボイス」と「イグジット」の話をしようと思ったんです。これは、組織の現状に不満があるときにとれる二つの選択肢です。「ボイス」は声をあげて組織を変えること、「イグジット」は組織を出ていくということです。
ボイスでガラパゴス化している組織を変えるなら、まず現状に不満を持つ仲間を集めたほうがいい。イグジットを選択するならば、もう少し自分に力をつけていいオファーが来るのを待ったほうがいい……といった、いくつかの提案を考えたところで、もう一度相談文を読み直しました。

もしかしてあなたは、組織を変えたいわけではないのでしょうか。そして、外でも通用する人材にはなりたいが、転職したいわけでもない。ただただ、ジレンマを感じている。これに対して僕は何を答えたらよいのでしょう。考えながら何度も相談文を読んで、気づきました。あなたは現状の何が問題なのか、これからどうしたいのか、ご自分でよくわかっていないのでは、と。

責めているわけではありません。自分の問題を適切に把握するのは難しいことですから。むしろ、悩みというのは、自分が何に悩んでいるかわかった瞬間、半分解決しているのです。研究も同じ。優れた問いを思いついた瞬間、もう論文は半分書けたようなものです。問いを見つけることこそが難しい。というわけで、ここでは解決策ではなく、あなたがこの先どうしたいのかを一緒に考えていくことにしましょう。

「どこでも生かせるスキル」はあぶない

相談文のなかであなたは一つだけ、何をしたいのか書いています。それは「どこに出ても生かせる柔軟な思考力やスキルを磨きたい」というところです。「柔軟な思考力」「どこに出ても生かせるスキル」とは何で、何をしたら磨けるのかわかりますか? おそらくここがぼんやりとしているのではないでしょうか。

海外の取引先と折衝するための英語力? 業務のIT化に備えてプログラミングのスキル? こうした能力はたしかに汎用(はんよう)性があります。でも、そのスキルがこの先の社会で重宝されるかというと、そうではありません。

京都大学客員准教授で投資家の瀧本哲史さんは、人材の「コモディティー化」に警鐘を鳴らしています。コモディティーとは、一般的で他と差別化ができない製品やサービスを指します。こうなると、徹底的に安く買いたたかれてしまう。それは、人材も同じです。コモディティー化に陥らないためには、他の人にはないスキルを磨いたほうがいい。そこで実は、あなたの職場が「ガラパゴス化」していることが、強みになるかもしれないのです。

社会や経済について勉強して視野を広げよう

「カラーが強い」というのは、個性的であるということ。新卒から同じ職場で働き続けているとなかなか気づけないかもしれませんが、あなたが「他では通用しないローカルスキル」だと思っていることが、競争力のあるスキルである可能性があります。
専門学校ならば、その学校ならではのブランディング、学生採用の方法などが、もしかしたら他校がまねしたいと思うようなすごいスキルになっているかもしれません。もちろん、独自に進化しすぎて、または非生産的すぎて、他では役に立たない可能性もあります。それは他校のやり方を知らない限りわかりません。

身につけたスキルに競争力があるかどうか、自分はこの先どういうスキルを身につけたいか。それを知るためには、社会や経済について勉強する必要があります。今は、有志による読書会や研究会、社会人向けのコミュニティ・カレッジ的な講義がいろいろなところで行われています。そうしたところに参加して、視野を広げてみてください。

42歳で立ち止まって考え始められたのは、すばらしいこと。人生100年時代、定年が延びることを考えると、まだキャリアの折り返し地点にもたどり着いていません。これからどんなスキルを磨き、どんな仕事をしていきたいのか。ここでじっくり考えてみてください。

悩めるあなたにこの一冊

瀧本哲史『僕は君たちに武器を配りたい』(講談社)

外では通用しないと思っているスキルにこそ、競争力があるかもしれません

本文中であげた「コモディティー化」について詳しく書かれた本です。瀧本さんの本はどれも読みやすく、示唆に富んでいるのでおすすめです。そのなかでも、今のあなたには本書がいいのではないかと思いました。まさに、これからの世の中ではどんな変化があるのか、そして生き残るために必要な「武器」とはなにか、について語られています。こうした本を読んで、今までより一段高い視点からスキルや働き方について考えてみてください。

(文・崎谷実穂)

安田洋祐
1980年、東京都生まれ。2002年に東京大学経済学部を卒業。最優秀卒業論文に与えられる大内兵衛賞を受賞し、卒業生総代を務める。2002年から2007年までプリンストン大学経済学部に留学。同大学で博士号取得。2007年から政策研究大学院大学助教授、現在は大阪大学大学院経済学研究科准教授。編著に『学校選択制のデザイン』(NTT出版)、共著に『経済学で出る数学 高校数学からきちんと攻める』(日本評論社)など。関西テレビ「報道ランナー」、テレビ東京「ワールドビジネスサテライト」などにコメンテーターとして出演中。

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