LONG LIFE DESIGN

「どこにでもある田舎」に必要なデザインとは ナガオカケンメイのふるさとデザイン

ザイン活動家・D&DEPARTMENTディレクターのナガオカケンメイさんのコラムです。ナガオカさんのふるさとである愛知県阿久比町。42年変わらぬお好み焼き屋さんでナガオカさんが感じたことは。

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愛知県知多郡阿久比町。僕のふるさとです。あぐいと読みます。よく「あくび」なんて読まれたりします。でも、それも似合うとも思っています。この土地に暮らす人は、とっても穏やかです。

僕は北海道に生まれ、3歳で父の会社の転勤で愛知県へ。会社の社宅がある阿久比で高校を卒業するまでの15年間を過ごしました。デザイナーになりたくて18歳でまさに逃げるように飛び出し、それから現在までずっと東京暮らし。住まいも転々としているおかげで、同窓会の案内は一度も届かず、阿久比に帰る場所もきっかけもなくなり、少し寂しい思いでいたある日、「阿久比町商工会青年部」から講演の依頼を頂きました。

阿久比町商工会館にて。阿久比町商工会青年部の岡戸秀樹部長(僕の右)とその隣は商工会経営指導員の加藤嘉雄さん(写真はすべてナガオカケンメイさん提供)

阿久比町商工会館にて。阿久比町商工会青年部の岡戸秀樹部長(僕の右)とその隣は商工会経営指導員の加藤嘉雄さん(写真はすべてナガオカケンメイさん提供)

今年2019年の9月20日にここで講演会です。会場の下見も兼ねてお邪魔しました。一般の方も参加できるようで、講演の日は隣町の半田に泊まります。できたらたくさんの人と、阿久比の将来について呑み語りたいです。詳しくは、商工会の加藤さんへ(agui@aichiskr.or.jp)

今年2019年の9月20日にここで講演会です。会場の下見も兼ねてお邪魔しました。一般の方も参加できるようで、講演の日は隣町の半田に泊まります。できたらたくさんの人と、阿久比の将来について、飲み語りたいです。詳しくは、商工会の加藤さんへ(agui@aichiskr.or.jp)

そして、面白いことに全く別の話で、隣町の「半田市」のある企業から、観光拠点としての商業施設開発のお話を頂き、その下見に行くことに。どうせならば阿久比の青年会の方にも会ってこようという、僕にとってふるさとで何か仕事というか、ふるさとのデザインに関われそうな帰郷となりました。

今回はそんな自分のふるさとのデザインについて書いてみたいと思います。

まず阿久比町は、製鉄の町の東海市と、半田市に囲まれた知多半島のちょうど真ん中あたりに位置します。農業と細々とした製造業の集まる、特に際立ったもののない人口2万6千人ほどの本当に穏やかなどこにでもある町です。知多半島を南下し海に向かっていく途中、通り抜ける町。都会である名古屋にも、知多半島道路や電車を使えば40分の距離で、過ごしやすいことからベッドタウン化しています。

今回、開発の相談を受けた隣の半田市は、12万人ほどが住む製造業の多いところ。江戸時代から海運で栄え、醸造業も多く、お酢で有名なミツカンの本社もここにあり、自動車製造関連の企業も多くあります。家具で有名な「カリモク」も、近くの刈谷市の「刈谷木材」の略です。半田市のお隣の常滑市は、SONY創業者・盛田昭夫さんの実家の酒造会社の創業地で、2005年には中部国際空港もできましたが、なんと言いましょうか、あくまで半島の穏やかさは崩さず、のんびりとみんな暮らしています。

「どこにでもある田舎」に必要なデザインとは ナガオカケンメイのふるさとデザイン

「どこにでもある田舎」に必要なデザインとは ナガオカケンメイのふるさとデザイン

小中高と住んだ阿久比町ですが、自分の町で何が作られていたのか、改めて商工会のこうした展示を見て、何も知らないことを知ります。大人になった今、そして、全国を巡って物産や工芸を見てまわることをしているので、僕にとってはこうした展示は本当にワクワクします

小中高と住んだ阿久比町ですが、自分の町で何が作られていたのか、改めて商工会のこうした展示を見て、何も知らないことを知ります。大人になった今、そして、全国を巡って物産や工芸を見てまわることをしているので、僕にとってはこうした展示は本当にワクワクします

さて、今回は2泊の出張でしたが、宿泊は名古屋へいちいち戻りました。阿久比にはまずホテルがありません。もちろん隣の半田には駅前にビジネスホテルはありますが、泊まるには情緒がありません。

今回の出張は、知人と計3人の旅。1人は今回の仕事には関係のないAさん。Aさんは偶然、高知県で出会った阿久比出身者。「いつか一緒に阿久比を巡ろうね!!」という約束を今回、実現させました。そして、もう1人は、この半田の開発に最初に誘われた園芸会社の社長のGさん。全国的にも観葉植物のセレクトセンスの良さで知られる人気店で、開発の皆さんは、彼の店を誘致したい様子。それを聞いた僕が、彼にお願いして自分もその開発に関わりたいと伝えてもらったところから、今に至っています。要するに、ふるさとで何かしたくてくっついてきたのです。

前置きが長くなりましたが、今回の書きたいことは、自分のふるさとをどうデザインで元気にしたらいいか、ということです。普通なら全国に知られる人気のカフェを誘致したりして、「その土地にないもの」で活性化してしまうことが多いと思います。逆にその土地に長くあるものは、住んでいる人々には目新しくもない。長くつづいているロングライフデザインを整備したところで、刺激にもならず、つまらないわけです。

半田での打ち合わせで、開発のプランを少し見せていただきました。その企業の使っていない土地の有効活用で、公園を中心に商業施設を何店舗か誘致するということでした。僕は少し疑問に思いました。これでは全国でよく見る場所にしかならないのではないか、と。その土地にない、珍しいものがやってくる。珍しいから賑(にぎ)わう。しかし、それはその町の「個性」と呼べるだろうか。どこでも同じようなことが起こり、その土地らしい風景すら均一になっていくことは、どうなのだろうか。

半田の開発場所の横にあるミツカンさんの倉庫群。景観としてとてもしっかり残され、こんな場所が隣町にあったことにびっくり。同時にとても誇らしく思いました。 僕の左はGさん、右はAさん

半田の開発予定地の横にあるミツカンさんの倉庫群。景観としてとてもしっかり残され、こんな場所が隣町にあったことにびっくり。同時にとても誇らしく思いました。僕の左はGさん、右はAさん

話を阿久比に戻します。商工会の皆さんと話していて、この町が「何も困っていない」ことに気づきました。講演のタイトルは「ナガオカケンメイに学ぶ、ロングライフデザインな経営学」と頂きました。そこで印象的だったのは「私たちの町で何かする、ということよりも、お隣の町と一緒に考えながら、発展していきたい」ということで、正直、よくわかりませんでした。しかし、何度か前置きした通り、とにかく穏やかな町です。田んぼが広がり、周辺の製造業の下請けを丁寧に細々と行う中小企業が多くある。「隣の町の発展を助けたい」的な意味のコメントに、どうしたらいいのか、と考えてしまいましたが、そもそも困っていない、そもそも「派手な発展を望んでいない」ということは、デザインなんて必要ない、ということでもある。そう思いました。

では問題がないかというとそうでもありません。僕や一緒に巡った阿久比出身のAさんもそうです。逃げ出したわけです。のんびりと穏やかで暮らしやすい町ですが、「未来」に向かって意欲的に成長していく年齢層にとって「ここに暮らしていても、楽しい未来が望めない」と思い、そして、僕は東京へ、Aさんは高知へと飛び出したのです。

ちなみに高知だってあまり大差はないのでは、と思うでしょう。高知県は広いですが、彼女が勤める「砂浜美術館」は、砂浜です。Tシャツに絵を描いて全国から応募、参加してもらい、砂浜で洗濯物を干すような展示は、自然の風景である海と相まって壮観です。そこにマラソン大会やシンポジウムなどが加わり、緩やかですが、町をデザインで質のよさを感じられるものにしています。

彼女がそこに惹(ひ)かれるのは、とてもよくわかります。デザイン的な表現や発想があるから、そこにアーティストやミュージシャン、建築家などが定期的に集まり、そうした流れは、彼らを移住させ、なおも広がり、古く使われなくなった建物をリノベーションしてユニークな宿泊施設にしたりする人が現れる。また、そんな故郷を持つ人たちが、自分のふるさとがいわゆる「観光」ではなく、若々しい創造によって活気を帯びていくその様子に「未来」を感じ、ふるさとに戻り、家業を若々しい方向に継いでいく。町の活性化とは、やはり、住んでいる人たちによって行われないといけないと思います。

また、その土地になかった、どこにでもあるものを持ってきても、それはその土地には根付かないし、愛されないとも思うのです。そして高知には「美味(おい)しい」ものがたくさんある。季節によっても名物はたくさん。自然が豊富で、季節の食べ物も美味しく、そして、デザインがある。このバランスにAさんは惹かれたのでした。

最近、観光の捉え方が変化してきています。大型バスで移動して、降りて、駆け足で見て、食べて、買って、乗車して移動、というものではなく、じっくりその町を散策する。しかも、その土地にしかないものに触れる。

また、観光客が押し寄せ、暮らしに影響が出てはいけませんが、最近の観光は「地元の人」の気分を味わいたいというものが多い。沖縄でこんなことがありました。とある地元の人や特に学生が利用するスーパーの総菜コーナーは、その場でパンを買って、トッピングしてハンバーガーを作るなど、そのライブなアレンジが楽しく、そして、美味しく、安い。これがそうした観光客に知られ、毎日普通に利用していた住人が買えなくなってしまったといいます。もちろん一時の流行のようなもので、しばらくすればおさまるのでしょうけれど、地元を知って楽しんでもらいたい半面、やはり、こうしたことは避けられません。

阿久比町ののどかな街並み。観光地化されていないけれど、風情が残っていて、僕はただただ、懐かしい思いでいっぱい。みんなに見て欲しい気持ちと同時に、そっとしてあげたい気持ち半分。昔は味噌や醤油、蚕から機織りもしていたエリア。小学校へ通う通学路

阿久比町ののどかな街並み。観光地化されていないけれど、風情が残っていて、僕はただただ、懐かしい思いでいっぱい。みんなに見て欲しい気持ちと同時に、そっとしてあげたい気持ち半分。昔は味噌や醤油、蚕から機織りもしていたエリア。小学校へ通う通学路

また、放置された田畑などを活用して、お米を育て、収穫して分け合うような、その土地により深く関わるタイプの観光も増えています。ここでもやはり「そこにしかない」ということが重要となります。

阿久比滞在初日の昼食。Aさんが幼稚園の時からあるお好み焼き屋さんに連れて行ってくれました。地元の小学生がふつうに利用できるよう、一番デラックスなお好み焼き、焼きそばの値段は300円。42年間変わらぬ味……。もし、ここがそうしたいわゆる観光客に知られてしまったらどうなるだろう。しかし、こういう店こそ、ここ阿久比らしい場所だなぁと思うのです。つまり「のどかな暮らしが続く」場所。何も変わらないという価値です。新しさや刺激が欲しければ、よその町や国に行けばいい。自分のところは、何も変わらない居心地があればいい。隣町にできるおしゃれなカフェなどいらない。それよりも、子供の頃からずっとある風景の中で、本当に美味しいお茶を楽しみたい。

Aさんが子供の頃から通ったお好み焼き屋さん。42年間変わらずにあるそうです

Aさんが子供の頃から通ったお好み焼き屋さん。42年間変わらずにあるそうです

人々が、作られた観光に気持ちが向かなくなり、健やかな観光に関心が湧いてき始めている。そう思うと、そこにあるデザインや建築ってどんなのが理想なのか。少なくとも、あのお好み焼き屋さんのメニュー表がデジタルなデザインでされていたら、少し、いや、かなりがっかりすると思うのです。

翌日、私たちは阿久比町を車で巡りました。車の中で、おにぎり屋さんのテーブルで、みんなで議論しました。どこにでもある田舎であるここ、阿久比町に必要なデザインとはどんなものかを。

自分のふるさとで日本酒が作られていることは、うっすらと聞いたことはありましたが、訪ねて行ったのは初めて。もっともっと知ってもらいたいと思いました。「ほしいずみ」の代表銘柄を持つ丸一酒造株式会社

自分のふるさとで日本酒が作られていることは、うっすらと聞いたことはありましたが、訪ねて行ったのは初めて。もっともっと知ってもらいたいと思いました。「ほしいずみ」の代表銘柄を持つ丸一酒造株式会社

阿久比町の坂部駅の近くにある、田んぼと鉄道を眺められるカフェ(名前は秘密)。こうした店内のしつらえも「デザイン」であり、しっかりと世界観を持って「ながめ」にポイントを置かれている素敵な阿久比を代表するカフェだと思う。やはり「その町の物語」に関心を持つ場所は、緩やかな観光名所でもある。全国的な有名カフェを誘致したりせず、地元の人と一緒に、意識高い場所を作れたら、とても素晴らしいと思う。デザインはそうした意識を「はっきり」させる一つの手段だと思います。デザインが主張してしまう場所や空間が多くて残念ですが、知って欲しいことにゆっくりと導くことにデザインを使うことで、こうした場所が現れ、その土地への興味、未来を緩やかな緊張感で創造したくなる

阿久比町の坂部駅の近くにある、田んぼと鉄道を眺められるカフェ(名前は秘密)。こうした店内のしつらえも「デザイン」であり、しっかりと世界観を持って「ながめ」にポイントを置かれている素敵な阿久比を代表するカフェだと思う。やはり「その町の物語」に関心を持つ場所は、緩やかな観光名所でもある。全国的な有名カフェを誘致したりせず、地元の人と一緒に、意識高い場所を作れたら、とても素晴らしいと思う。デザインはそうした意識を「はっきり」させる一つの手段だと思います。デザインが主張してしまう場所や空間が多くて残念ですが、知って欲しいことにゆっくりと導くことにデザインを使うことで、こうした場所が現れ、その土地への興味、未来を緩やかな緊張感で創造したくなる

次回へつづく

PROFILE

ナガオカケンメイ

デザイン活動家・D&DEPARTMENTディレクター
その土地に長く続くもの、ことを紹介するストア「D&DEPARTMENT」(北海道・埼玉・東京・富山・山梨・静岡・京都・鹿児島・沖縄・韓国ソウル・中国黄山)、常に47都道府県をテーマとする日本初の日本物産MUSEUM「d47MUSEUM」(渋谷ヒカリエ8F)、その土地らしさを持つ場所だけを2ヶ月住んで取材していく文化観光誌「d design travel」など、すでに世の中に生まれ、長く愛されているものを「デザイン」と位置づけていく活動をしています。’13年毎日デザイン賞受賞。毎週火曜夜にはメールマガジン「ナガオカケンメイのメール」www.nagaokakenmei.comを配信中。

長く続いている素晴らしいことには、じっと支え続ける誰かがいる。ナガオカケンメイが考えるオーケストラ

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