五輪開催の東京上空に巨大な『顔』!? 中学生の夢から始まったアート作品の狙いとは

世界の注目が集まる2020年夏の東京の上空に、実在する誰かの巨大な「顔」を浮かべる――。そんな奇抜なプロジェクトが、現代アートチーム「目 [mé]」の企画・制作で進んでいる。発想の原点は、メンバーが中学生のころに見た個人的な夢。五輪・パラリンピック開かれる街で、それを「まさゆめ」にする狙いとは。埼玉県北本市のアトリエでメンバーに話を聞いた。

五輪開催の東京上空に巨大な『顔』!? 中学生の夢から始まったアート作品の狙いとは

(写真右)荒神明香「目 [mé]」のアーティスト
(写真左)南川憲二「目 [mé]」のディレクター

「なんて馬鹿らしいことをするんだろう(笑)」。6月下旬、空に浮かべる「顔」を決めるために東京都内で開かれた、「顔会議」の席上。ゲストとして登壇した東京大学特任教授で「日本顔学会役員」の原島博さんがプロジェクトについてそう話すと、一般の参加者50人が集まった会場は笑いに包まれた。

「まさゆめ」と名付けられたこのプロジェクトは、東京都が五輪に向けて主催する文化プログラム「Tokyo Tokyo FESTIVAL」の一環だ。いまの計画では、大会期間中かその前後に、都内の数カ所で巨大な顔の立体物を上空に浮かべる。顔は一般から公募し、選ばれるのは一人だけ。大きさや上がる高さは未定だ。素材や浮上の仕掛けは現在、検討中だという。目 [mé]のディレクター・南川憲二さんは「人の顔が景色の一部として見えるように、試行錯誤を重ねたい」と話す。

「目 [mé]」は、南川さんと東京芸術大学在学中から親交のあった荒神明香さん、南川さんとアートユニットを組んでいた増井宏文さんが、2012年に結成した現代アートチーム。「瀬戸内国際芸術祭」や「大地の芸術祭」といった各地のアートイベントで作品を発表する、いま注目のアートチームだ。

はじまりはメンバーが中学生の時に見た夢

五輪開催の東京上空に巨大な『顔』!? 中学生の夢から始まったアート作品の狙いとは

荒神明香さん

プロジェクトの原点は「目 [mé]」のアーティストである荒神さんが中学生の頃に見た夢。電車の車窓に夕暮れ時の街が広がり、その上空に顔があった。「お月様みたいに、めっちゃ光ってる人の顔が浮かんでいたんです。ヤバい!って思ったけど、何となく大切なものだという気がして」。荒神さんはその後、まわりの人に夢の話をして回ったが、「ほとんど誰からも相手にされなかった(笑)」。

ただ、南川さんは違った。目を結成した翌年の2013年、偶然この夢を思い出した荒神さんから話を聞き、「実現してみよう」と提案。荒神さんにどんな顔だったのか聞いたところ、「おじさんだったような気がする」ということぐらいしか覚えていなかったため、とにかく「おじさん」の顔をたくさん集めて、そこから選ぶことに決めた。そんな経緯で、宇都宮美術館の館外プロジェクトとして、2014年に宇都宮市で初めて顔を浮かべた。

五輪開催の東京上空に巨大な『顔』!? 中学生の夢から始まったアート作品の狙いとは

宇都宮美術館 館外プロジェクト

実現までの流れはこうだ。まず、宇都宮の商店街に「顔収集センター」という怪しげなネーミングの施設を置いた。そこを拠点に、街中にいた「おじさん」たちに、顔モデルとして協力を呼びかけ約220人の顔写真を収集。興味を持った人が、自分から写真を撮ってもらいに来ることもあったという。

その後開いたのが、どんな顔を上げるべきかを大まじめに話し合う「顔会議」。10代から80代の参加者約20人が、約5時間かけて真剣に議論し、「『個』を表象しすぎていない、自然な顔」(南川さん)という理由で、一人の顔を選んだ。選ばれたことを聞かされた本人は「ほんとにおれでいいの?」と何度も聞いたという。

そうして迎えた顔浮上の当日。高さ約15メートルの顔をつくり、計2日間、宇都宮市内上空に浮かべた。作られたおじさんの顔は夜間、光るような仕掛けにした。

「泣いてる子がいたり、腹をよじらせて地面で転がりながら笑っている人がそこら中にいたり。橋の両端から浮かんだ顔を見ながら歩いてきた主婦同士が、真ん中で抱き合う形になって、お互いの顔を見たら、なぜか泣いていた、ということもあったらしいです(笑)」と南川さん。ツイッターで画像が拡散したり、海外の通信社が報道したりと、宇都宮以外にも反響が広がった。

2020年に実現する意味とは

五輪開催の東京上空に巨大な『顔』!? 中学生の夢から始まったアート作品の狙いとは

「先が全く見えないまま、とにかく突っ走った」(南川さん)という、突拍子もない企画から数年。この作品をなぜ、東京五輪のタイミングでもう一度やろうと思ったのか。そこには、真剣な理由があった。

それは、この作品が「公(景色)」と「個(個人の顔)」が対峙(たいじ)する状況をつくるからだと南川さんは言う。1964年東京五輪のように、戦後復興や経済成長の象徴といった意味や目的が「公」に保障されているわけではない。「生きていく意味や目的、2020年以降の未来を自分たち自身が引き受けなくてはならない」。

そんな状況の中で、14歳の少女がみた夢の景色が現れる。「まるで論理的な理由を持たない光景は、私たち一人一人に、その意味を問う。五輪に対しても、なぜ膨大な数の人間が4年に1度、これほど盛大に集っているのかといった、根本的で哲学的な想像を生むきっかけになるかもしれない」と南川さんは話す。

東京各地で顔を収集するワークショップを開催

五輪開催の東京上空に巨大な『顔』!? 中学生の夢から始まったアート作品の狙いとは

プロジェクトでは6月いっぱいまで顔を集めてきた。インターネットでの公募のほか、その場で顔を撮影する「顔収集ワークショップ」を都内中心に実施。おばあちゃんの原宿・巣鴨地蔵通り商店街では、物珍しそうにたくさんの人が足を止め、年配の人の写真が多く集まった。荒神さんは「場所によって、本当に色んな人が参加をしてくれる」。今回はおじさんに限らず、老若男女、人種もさまざまな1千人以上の顔写真がそろった。

五輪開催の東京上空に巨大な『顔』!? 中学生の夢から始まったアート作品の狙いとは

ワークショップの撮影は、アーティスト本人の手を使い行われた

最後は、ただ『え?』っていうだけの作品に

五輪開催の東京上空に巨大な『顔』!? 中学生の夢から始まったアート作品の狙いとは

今後はその中から、どの顔を浮かべるかを決める作業が続く。有名人の中からではなく、あくまで集まった一般の人から選ぶ。南川さんは「目がこうで、鼻がこうで、と基準を決めるんじゃなくて、誰でもいいけれどこの人でなければならない、という『逆さの必然』が見つかるきっかけを探している」と話す。難しい作業だ。

6月末の「顔会議」では、一般の人50人が参加して話し合ったが、結論は出なかった。

顔選びは、答えがないだけに難しそうなテーマだが、完成する作品は単に、巨大な顔が空に浮かんでいるというおかしな光景だ。南川さんは「最後までいくらもめても、顔が浮かぶ日が来れば、作品とかその意味とかを超えて、ただただ『え?』っていうだけだと思う」。荒神さんも、「中学生とか子供たちが見て、こういうことを本気でやっていいんだ!っていう勇気につながったらいいと思います」と話していた。どんな顔が浮かぶといいのか、せっかくなので読者のみなさんも考えてみてはどうだろうか。

五輪開催の東京上空に巨大な『顔』!? 中学生の夢から始まったアート作品の狙いとは

プロフィール

■目 [mé]

アーティスト 荒神明香、ディレクター 南川憲二、インストーラー 増井宏文を中心とする現代アートチーム。個々の技術や適性を活かすチーム・クリエイションのもと、特定の手法やジャンルにこだわらず展示空間や観客を含めた状況/導線を重視し、果てしなく不確かな現実世界を私たちの実感に引き寄せようとする作品を展開している。アーティスト情報はこちら

「まさゆめ」の情報はこちら

見本のようなハッチバック メルセデス・ベンツ新型Bクラス試乗レポート

トップへ戻る

ナイキ史上最も“優しい”シューズ「 ジョイライド ラン フライニット」 至高の履き心地

RECOMMENDおすすめの記事