76年前に生まれた英国の名機「スピットファイア」が世界一周へ

2019年8月5日、イギリス南部チチェスターのグッドウッドから、第2次大戦中に製造された単発航空機スピットファイアが、同機としては史上初の世界一周飛行に旅立った。

「The Longest Flight」と名付けられたこの世界一周プロジェクトは、2人の英国人パイロット、スティーブ・ボールトビー・ブルックスとマット・ジョーンズのアイデアによる。

【動画】世界一周の旅へ飛び立つスピットファイア

今回のミッションのため「シルバー・スピットファイア」と名付けられた航空機は、1943年に製造されたスピットファイアLFマークⅨ型機である。同機は本来戦闘機であり、長距離飛行用ではないため、750kmごとに燃料を補給する必要がある。

そこで、今回は2人が交代しながら、世界30カ国・約100カ所に着陸・補給を続けながら旅する。飛行25時間ごとにメンテナンスも受けることになる。英国を出発して、西回りでの世界一周には約4カ月を要し、12月8日にイギリスに帰着する計画である。

2019年8月4日、前夜祭に合わせて英国チチェスターのグッドウッド・ハウスに参考展示されたスピットファイアMK805レプリカ

2019年8月4日、前夜祭に合わせて英国チチェスターのグッドウッド・ハウスに参考展示されたスピットファイアMK805レプリカ

 

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スピットファイアは航空機開発史上、最も洗練された戦闘機のひとつと評価されている。

1931年にスーパーマリン社が開発を開始。チーフエンジニア、レジナルド・J.ミッチェルは、がんに冒されながらも、他国の戦闘機に対抗できるだけの性能を持たせるべく設計上の難題に取り組んだ。1937年に彼が無念の死を遂げたあとは、ジョセフ・スミスによって引き継がれ、スピットファイアは完成して英国軍に採用された。

エンジンはロールス・ロイス製V型12気筒。アイコンともいえる楕円(だえん)翼は、翼の外側から内側にかけて均等な揚力を発生させることができ、高速時や急旋回など、あらゆる状況で高い性能を発揮した。

スピットファイアは、第2次大戦中にドーバー海峡上で起きたドイツ空軍との歴史的空中戦「バトル・オブ・ブリテン」で活躍したことで、一躍その名が知られることになった。マークⅠから24まで開発は続き、1948年の生産終了までに、総製造数は2万300機以上に達した。

出発の朝、4万3000kmのフライトを取材するため、チチェスター・グッドウッド飛行場の格納庫を訪れた。パイロットたちはスタート前の緊張感でぴりぴりしているかと思ったが、意外にも2人とも笑顔を絶やさなかった。

彼らはこう説明してくれた。「雲の上に達してしまえば、それは平和な世界だ」。スティーブによれば、最も忙しいのは着陸時という。「通信、気象、機体の各種状態のチェックといったものを、短い時間にすべて行わなければならないから」。この緊張と弛緩(しかん)をこれから12月まで繰り返す。

飛行当日の朝、格納庫でパイロット2人。マット・ジョーンズ(左)とスティーブ・ボールトビー・ブルックス(右)

飛行当日の朝、格納庫でパイロット2人。マット・ジョーンズ(左)とスティーブ・ボールトビー・ブルックス(右)

冒険をサポートするのは、スイスの時計ブランド、IWCシャフハウゼンである。同社は1936年に初のパイロット・ウォッチを発売。4年後には初の飛行監視要員用時計を世に送り出し、パイロット・ウォッチの先駆けとなった。1948年からは英国空軍のためのモデル「マーク11」を製造している。現在もパイロット・ウォッチ・コレクションとして、その名も「スピットファイア」をラインアップする。スピットファイアと縁が深いブランドである。

同社のクリストフ・グランジェ・ヘア最高経営責任者(CEO)は、今回のフライトを支援する理由を次のように語った。

「私たちが忘れてならないのは、人間によるクラフツマンシップのスキルやエンジニアリングの才能です。デジタル・テクノロジーは、時に物事を簡単にしてくれますが、人々がこれまで築き上げた基礎的なスキルを置き去りにして発展しようとしています。今日、飛行機の世界では、次の世代を担う修練を重ねた職人やエンジニアが不足しています。そうしたスキルをゼロからトレーニングしてゆく場をつくることが重要なのです」

今回のシルバー・スピットファイアでは、8万点のリベット(部品)が一つひとつ検査され、清掃もしくは交換が行われたという。飛行直前、筆者が実際に主翼を手でなでてみると、徹底的にサーフェス(表面)が面一(ツライチ)にされているのがわかった。

最初のパイロット、ジョーンズがコックピットに収まる

最初のパイロット、ジョーンズがコックピットに収まる

朝は現地の悲観的な天気予報どおり、暗い空と雨に見舞われた。しかし昼前になると、風こそ残るものの突然太陽が顔を見せスタッフを歓喜させた。

格納庫脇でのランチを終え、13時30分、プレスやゲストが見守る中シルバー・スピットファイアのエンジンが始動した。

そして、まずはマットの操縦で、仲間のスピットファイアとしばし飛行を披露したあと、最初の寄港地であるスコットランドのロジーマスへと向かっていった。

日本には9月に飛来する予定となっている。

(文=大矢アキオ Akio Lorenzo OYA、写真=大矢アキオ Akio Lorenzo OYA、IWC Schaffhausen)

「シルバー・スピットファイア」(左上)は、他のスピットファイアとしばし飛行を披露したあと、最初の寄港地であるスコットランドのロジーマスへと向かった

「シルバー・スピットファイア」(左上)は、他のスピットファイアとしばし飛行を披露したあと、最初の寄港地であるスコットランドのロジーマスへと向かった

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