原田泰造×コトブキツカサの「深掘り映画トーク」

見応えある熱演と緊迫感 実話に基づく韓国スパイ映画『工作』 

ネプチューンの原田泰造さんと、映画パーソナリティーのコトブキツカサさん。映画が大好きなお二人が、新作や印象に残る名作について自由にトークする対談企画です。今回の題材は、公開中の韓国映画『工作 黒金星(ブラック・ヴィーナス)と呼ばれた男』。実話に基づくサスペンスです。

 

ⓒ 2018 CJ ENM CORPORATION ALL RIGHTS RESERVED

ⓒ 2018 CJ ENM CORPORATION ALL RIGHTS RESERVED

<ストーリー>
1992年、韓国 国軍情報司令部に所属していたパク・ソギョン(ファン・ジョンミン)は、国家安全企画部のチェ・ハクソン室長(チョ・ジヌン)から、北朝鮮の核兵器開発の実態を探るためにスパイとして潜入することを命じられる。パクは“黒金星(ブラック・ヴィーナス)”というコードネームを与えられ、実業家になりすまし、北京に駐在する対外経済委員会の所長リ・ミョンウン(イ・ソンミン)に接触する……。
実在したスパイの緊迫した工作活動と、祖国の闇を知り苦悩する姿を描く、驚愕のサスペンス・ドラマ。

 

コトブキ 『工作』は、北朝鮮と韓国の対立の裏で暗躍していたスパイの姿を描いた作品。内容についても語り甲斐がある作品ですけど、泰造さんにとっては、なんといっても主演のファン・ジョンミンですよね。

原田 ファン・ジョンミン、大好きなんだよ! どの作品でもカッコいいというか、男の色気を感じるような演技をみせてくれるんだよね。最初に観(み)たのは『国際市場で逢いましょう』だったと思うけど、もう目が離せなかったから。

コトブキ 『国際市場』は、泰造さんに教えてもらって観た作品ですけど、あれは泣けますよね。

原田 それから『ベテラン』の頼れる刑事も良かったし、『アシュラ』のイヤな感じの市長さんもすごかった。『新しき世界』の先輩ヤクザ役も存在感あったよね。

コトブキ あと『哭声/コクソン』の祈祷(きとう)師! 物語の途中から口笛吹きながら出てきて、胡散(うさん)臭いなぁと思うんだけど、そこから映画の雰囲気が変わるというか、ファン・ジョンミンがほとんど持っていくぐらいの演技でしたね。

原田 役によって、全然違ってみえるんだよね。本当に悪い人をやるし、チンピラやらせても上手(うま)いし、優しいお兄さんを演じても説得力がある。それも置きにいく演技じゃなくて、ちゃんと攻めた演技をするんだよ。

原田泰造さんとコトブキツカサさん

原田 『工作』でも、すごい演技だったよね。ファン・ジョンミンが演じるパク・ソギョンという男は、韓国 国軍情報司令部の軍人なんだけど、ビジネスマンを装って北朝鮮に潜入していく。彼は、まずは自分がビジネスマンだということを北側の人間に信用させなくちゃならない。パクは、身分を偽りつつ、腹の探り合いをしながら様々な人物に取り入っていくんだけど、これをファン・ジョンミンは抑えた演技で表現していて、すごいテクニックだと思った。

コトブキ スパイもの、潜入捜査ものでは、役者は二重、三重に含んだ演技を求められますよね。北朝鮮側の人間をダマすという説得力も必要だし、バレるかどうかという部分で観客をヒヤヒヤさせるような隙も出さなきゃいけないし。

原田 この映画は、ストーリーがけっこう複雑じゃない? 敵も味方もはっきりしないし 当時の政治の状況も絡んでくる。内容的にもかなり踏み込んでるんだけど、それでも人間ドラマとしてストレートに感動できる。

コトブキ 北朝鮮と韓国の関係は多くの映画でモチーフになってますけど、『工作』を観ると、まだこんな話があったんだって思いますよね。時代背景も90年代くらいで、そんなに古いものでもないじゃないですか。あの頃にこんな暗闘が存在していたんだという驚きもありますよね。

原田 北朝鮮に潜入したパクに対して、北側の人間が油断して本音をポロッとしゃべっちゃうシーンがあったじゃない? パクは盗聴されてることを知ってて、「今それを言うな」ということを顔だけで伝えるんだけど、ああいう場面はゾクゾクするよね。日本の政治家が北朝鮮に入った時も、盗聴されているのが前提だったっていう話もあったよね。そういうニュースを知ってるから、映画とはいえ、こういう作品を韓国でよく作ったなって思うよね。

コトブキ 最近の日本では『新聞記者』も、ある種のタブーに触れた作品として話題になりましたよね。自分の番組で取り上げたら反響が大きくて、そんなに扱いが難しい作品なんだなって思いましたから。

原田 そういった意味でも『工作』のクライマックスは、パクが北朝鮮の中枢にまで入り込んで金正日と会うシーンだよね。作品の中で、金正日を登場させているのは踏み込んでいるなって思った。

ⓒ 2018 CJ ENM CORPORATION ALL RIGHTS RESERVED

ⓒ 2018 CJ ENM CORPORATION ALL RIGHTS RESERVED

コトブキ  あのシーンの緊張感はすごいですよね。金正日が可愛い犬を飼っているところもリアルで、逆に迫力が出ていた。韓国映画として、あそこまで描くというのは大変なことだと思うし、政権が交代するまで公開できなかったという話もわかる気がしますね。

原田 金正日もそうだけど、北朝鮮側の人物を演じた役者さんたちは大変だったと思う。パクと交渉する立場になる対外経済委員会のリ・ミョンウン所長を演じたイ・ソンミンの演技は説得力あったし、驚くほど上手かった。

コトブキ 小日向文世さんみたいな雰囲気の人ですよね。僕は言葉は分からないですけど、たぶんセリフも北朝鮮訛(なま)りとかをうまく表現してる感じでしたよね。

原田 リ所長とパクは、お互いに認めあっていくんだけど、内に秘めた情熱みたいなものを繊細な演技で表現しているから、すごく見入ってしまう。もう後半なんて、ふたりで食事してるだけで、腹の探り合いとシンパシーが何層にも入り組んだ芝居になっていて、それが敵味方を超えたというか、「北朝鮮側にも人間がいるぞ」っていうことが伝わってくる。

コトブキ 確かにそうなんですよ。北朝鮮を敵として描くだけじゃなくて、ちゃんと血が通った人間なんだって表現していますよね。ただ、あの北側の国家安全保衛部のチョン課長は機械的で怖かったですけどね。

原田 チョン課長が執拗にパクを疑ってかかるから、緊張感が持続するし、それを乗り越えたからこそ金正日のところにたどり着いたシーンの見応えが増すんだよね。

見応えある熱演と緊迫感 実話に基づく韓国スパイ映画『工作』 

コトブキ チョン課長を演じたチュ・ジフンは、この連載でも取り上げた『神と共に』にも出てた役者ですよね。全然違うタイプの演技をしているから、最初は気づきませんでしたよ。

原田 パクが疑われて、チョン課長から拳銃突きつけられるシーンがあるんだけど、あれは名場面。軍人だったら拳銃突きつけられても動じない。でも、ビジネスマンだったら普通にビビって命乞いをするほうが自然かもしれない。それをパクは一般人だけどビジネスに命張ってるから「お前の拳銃なんて怖くない」という気持ちを出して、窮地をすり抜けていく。

コトブキ ああいうシーンは、潜入モノとしての見せ場ですよね。『インファナル・アフェア』とか、『ディパーテッド』とかでも、身元がバレそうな場面がいちばん手に汗握りますから。

原田 そこで、こちらの気持ちが乗るかどうかって、潜入してる人物がどれだけ命張ってるかってことじゃない? 周りを全部だますみたいなことって、人生を賭けた仕事で、ひとつミスをしたら命を失うわけだから。

コトブキ そこまでいくと、個人的な野心とかカネのためじゃなくて、国を背負うぐらいの立場じゃないと説得力ないですよね。そのためには、やっぱり戦争という舞台設定が必要だし、それを現代モノでやるなら、北朝鮮と韓国というシチュエーションじゃないと成立しないのかもしれない。

原田 そういう意味でも、韓国だからこそ作れた作品だね。政治のウラを描いた作品としても、人間ドラマとしても、いろんな人に観てほしい作品だと思う。

コトブキ 本当に面白い作品なんですけど……ひとつだけ言わせてもらうと、『工作』ってタイトルが日本人にはイメージが湧きにくくないですか? 日本人からみると、どうしても「図画工作」を連想しちゃうから。

原田 確かに。ただ、どんなタイトルであっても『ジーサンズ』よりはいい。あんなに名優が出てる映画で邦題に『ジーサンズ』ってつけちゃうよりは全部マシ(笑)。

コトブキ これは原題も『工作』なんですよ。原題を尊重するのはアリなんですけど、独自の引きのある邦題をつけてもよかったかも。あと、僕はサブタイトルもいらないと思うんですよ。「黒金星と呼ばれた男」という言葉を添えたところで、よくわからないじゃないですか。「黒金星」で観たいって思う人だったら、もう『工作』の時点で興味湧いてますから(笑)。キャッチコピーならいいと思いますけどね。

原田 キャッチコピーで説明するというのは、いまは通用しにくいんじゃないなかな? 昔は映画のテレビCMがたくさんやってて、例えば『サスペリア』だったら『決してひとりでは見ないでください』というキャッチコピーがセリフで耳に入ってきたんだよね。でも今はネットがメインで、文字だけで伝えることが多いから、説明的なサブタイトルをつけるパターンが増えてきたんじゃないかな。

コトブキ その説は説得力がありますね。あとは、ファン・ジョンミン主演って言ってもなかなか普通のお客さんには伝わらなさそうなんですよね。泰造さんや僕がどんなにファン・ジョンミンがすごいって言っても、10人に1人ぐらいしか顔と名前が一致しないでしょうから。

原田 それはもどかしいよね。もっとみんなにファン・ジョンミンの作品を観てもらいたいよ。

コトブキ 『コクソン』の祈祷師の人って言って「あー」みたいな。それくらいなんですよ。これは僕も含めた映画を紹介する側の力不足ですよね。韓国の役者だとイケメン系の俳優さんのほうがまだ知名度あるかもしれないですよね。だって、チェ・ミンシクって言っても伝わらなさそうじゃないですか。

原田 そうなのか……。じゃあソン・ガンホはどうかな?

コトブキ ソン・ガンホは知名度ありますね。で、それを超えてきそうなのがマ・ドンソクですよ! 日本でも主演作がどんどん公開されてますし、ついにハリウッドに進出して、MARVELの『エターナルズ』 という作品に出演が決まりましたから。

原田 それは楽しみだな。っていうか、俺たち毎回、マ・ドンソクの話をしてるような気がする(笑)。

(文/大谷弦、写真/野呂美帆)

 

『工作 黒金星(ブラック・ヴィーナス)と呼ばれた男』

監督:ユン・ジョンビン
出演:ファン・ジョンミン、イ・ソンミン、チョ・ジヌン、チュ・ジフン

http://kosaku-movie.com/

PROFILE

  • 原田泰造

    1970年、東京都出身。主な出演作に、WOWOW「パンドラⅣ AI戦争」(18)、映画「スマホを落としただけなのに」(18)、NHK「そろばん侍 風の市兵衛」(18)、映画「ミッドナイト・バス」(18)、NHK連続テレビ小説「ごちそうさん」(13-14)、NHK大河ドラマ「龍馬伝」(10)など。

  • コトブキツカサ

    1973年、静岡県出身。映画パーソナリティとしてTV、ラジオ、雑誌などで活躍中。年間映画鑑賞数は約500本。その豊富な知識を活かし日本工学院専門学校 放送・映画科非常勤講師を務める。

シリーズ初心者でも楽しめて、かつ集大成にふさわしい物語 『X-MEN ダーク・フェニックス』

トップへ戻る

映画じゃないと成立しない、エルトン・ジョンの半生『ロケットマン』

RECOMMENDおすすめの記事