インタビュー

「HUNGRY DAYS アオハルかよ。」を生み出したクリエイター佐藤雄介に聞く“魅せるCM”とは

2年前、鮮烈な印象を残したテレビCMがある。

国民的アニメヒロイン(魔女の宅急便、アルプスの少女ハイジ、サザエさん)を現代の高校生として登場させ、パラレルワールドのような形で新しい青春群像劇を描いた、日清カップヌードルの『HUNGRY DAYS アオハルかよ。』だ。

原作の物語とは違うパラレルワールド、人気イラストレーター窪之内英策さんが描くキャラクター、BUMP OF CHICKENの楽曲、有名声優の起用、仕込まれた数々の小ネタなど、ひとつのCMの中に魅力的な要素が詰まっており、放送されるとすぐに大きな話題となった。

そして2019年5月、新しく『HUNGRY DAYS ワンピース ゾロ篇』が放映された。こちらも国民的人気漫画のキャラクターを登場させ、前シリーズと変わらず見た人にセンセーショナルなCMになっている。
このCMを手掛けたのは、電通 第5CRプランニング局クリエイティブディレクターの佐藤雄介さん。

佐藤さんは、最も優れたクリエイティブワークを行ったクリエイターを表彰するクリエイター・オブ・ザ・イヤーを2017年度に受賞した。現在は、HUNGRY DAYSシリーズだけでなく、NTTドコモの『星プロ』や、GATSBYの『GATSBY COP なんだ有能か』などのCMも手掛けている。
そんな彼のCM制作における役割は多岐に渡る。

CM制作は「本当に不思議な職業」

広告代理店は、主に5つの役割をクリエイティブ業務として担っている。
CMの企画~完成までに関わるCMプランナー、WEBの企画~完成までに関わるWEBプランナー、広告の言葉まわりやコピーを考えるコピーライター、グラフィックのデザインやビジュアルを企画するアートディレクター。そして、それら4つの役割を統括してキャンペーンをつくるクリエイティブディレクター。

佐藤さんはこの5つの役割のうち、アートディレクター以外の役割を担当するという。
制作するクリエイティブの案件ごとに役割を使い分け、クリエイティブディレクターとCMプランナーを兼ねるものから、CMプランナーだけ担当するものなど。どちらも広告主(クライアント)からCM制作の依頼を受け、企画の段階から入り込む役割だ。
この仕事に対して佐藤さんは「本当に不思議な職業ですよ」と笑いながらこう話す。

「企画からチームのアサインまで、CM制作の全体を見るとても重要な役割を担っています。
『HUNGRY DAYS』に関しては、様々な作品のキャラクターを登場させる企画だったので、版権の交渉にもかなり時間をかけています。熱量を持てなければ到底やってられない職業だと思うんです」

佐藤さんがこの職業を知ったのは高校生の時。短編の映像作品が好きだったことからCMプランナーを目指すようになる。今でも、作品を企画する際には、必ず高校生の自分の気持ちを思い出しながら進めるそうだ。

「高校時代の自分だったら面白いと思うかどうかを意識しています。今の10代の気持ちがそこまで分かるわけではないけど、自分が映像を面白いと感動して観(み)ていた時の気持ちなら分かるから」

すべての要素に差を生ませない

佐藤さんはCMだけでなく、ミュージックビデオの制作に携わった経験もある。そもそも、彼が映像制作に興味を持ったキッカケの一つがミュージックビデオだからだ。
そういった原体験が現在のCM制作でも生かされているように感じる。

HUNGRY DAYSシリーズでは、BUMP OF CHICKENの『記念撮影』が流れる。この楽曲を聞くたびに『アオハルかよ。』、このキャッチコピーを思い出す人が多いのではないだろうか。

「CMを盛り上げる一つの要因として、楽曲のパワー、アーティストのパワーは確実にあるので、そこはこだわってる部分の一つ。だから、アーティストの方と仕事をする機会はすごく大切で。楽曲の制作に直接関わることは少ないけど、『今回のCMはこういうテーマでこういう楽曲がイメージです』と事前に何度もやり取りします」

佐藤雄介

「CMも音楽もwin winな関係になるように意識しています。見た人が、『なぜ、このCMにこの楽曲が使われてるのだろう?』と感じてしまうような、映像と楽曲のイメージの間の差はつくらない方がいいと思っていて。制作に携わるチームも、アーティストも、世の中も納得するように、気持ちいいと思えるようにしたいです」

佐藤さんのCM制作へのこだわりは極めてシンプルだ。みんなが納得する作品を、みんなが面白いと感じる作品を作りたい、そんな想いが貫かれている。

“シンプル”な世界観と、“複雑”な映像表現

想いはシンプルだが、佐藤さんの手掛ける映像作品は良い意味で複雑さを持っている。
HUNGRY DAYSシリーズは、15秒ないし30秒の中でたくさんのキャラクターが登場する。どのキャラクターがどのシーンに登場するのかを考察し、何度も見返す人が多かった。短い時間の中で多くのネタが仕込まれており、何度見ても新しい発見のある映像は、佐藤さん独特の表現ともいえる。

「HUNGRY DAYSが話題になった一番の理由は、国民的キャラクターを現代のアニメーションで高校生として描いたこと。そして、“青春”というシンプルなテーマ・ストーリーにしたことが受け入れてもらえた。

この企画自体が話題を呼び、加えて映像の“複雑さ”を表現したことで、何度も見てもらえるようなCMに仕上がったと思ってます。『神は細部に宿る』というほど大げさなことでもないけれど、そういった作り手のこだわりや、熱量が伝わる表現をしたかった」

HUNGRY DAYS アオハルかよCM

日清カップヌードルCM「HUNGRY DAYS アオハルかよ。サザエさん」より

「こだわりに気づいてくれた視聴者が喜んでくれたり、話題にしてくれたり。今はYouTubeでいつでも映像に触れることができる時代だからこそ、『あ、こんなところにこんなものが隠れてる! もう一度見てみよう』という行動が30秒・15秒のCMで生まれたんだと思います」

1年間かけて6本のキャンペーンCMを放映した『HUNGRY DAYS アオハルかよ。』は、『アルマゲドン』の主題歌『ミス・ア・シング』をBGMに、世界が終わる中での青春が描かれたことで、一度幕を下ろした。

『HUNGRY DAYS アオハルかよ。』は食品類のCM好感度1位に輝き、日清カップヌードルのセールスは過去最高益を更新した。特に、キャンペーンのターゲットである高校生・大学生の喫食率が前年比8%増となった。

CM制作のセオリーを覆す、新たな挑戦

そして、2019年5月、漫画『ワンピース』を題材にした新しいHUNGRY DAYSシリーズの幕が上がった。
キャラクターデザインは引き続きイラストレーターの窪之内さんが、BGMにはBUMP OF CHICKENの楽曲を使用している。ただ、この仕掛けは、CM制作のセオリーから外れているのだという。

「これまで新シリーズのCMを作る際には、新しい表現や新しい楽曲に変えて、新規性を出すというのがセオリーでした。ただ、このHUNGRY DAYSシリーズは、窪之内さんのキャラデザとBUMP OF CHICKENさんの『記念撮影』という楽曲がセットで世界観が生み出されている。だからそこはブレずにいこうと、ある種の挑戦でもあったんです」

【動画】日清カップヌードルCM「HUNGRY DAYS ワンピース ゾロ篇」より

「結果として、いい意味ですごく話題になりました。シリーズのファンでいてくれた方たちのエンゲージが高まったり、多くの人からリアクションをいただけたりして。変えなくても良いんだ、変えない良さもあるんだと、とても勉強になりました」

もちろん、前シリーズとは違う点も複数ある。これまでは国民的キャラクターがヒロインとなり、恋愛を軸にストーリーが展開されていた。ところが今回は男性キャラクターを主人公に置き、恋愛ではない青春を軸にストーリーが進んでいく。

また、ワンピースのアニメで実際に声を担当している声優陣をそのまま起用したことも、前シリーズとは大きく異なる。

「“青春”という世界観の中で、各キャラクターの性格や、原作のエピソードを元にストーリーを描いています。今回はゾロのパーソナリティに合わせて恋愛ではなく、部活という青春を描きました」

佐藤雄介

「声も同様に、世界観とキャラクターに合った表現を作り出すために声優さんを決めています。前回のシリーズは、原作のキャラクターの年齢と高校生の年齢に距離があったので、原作の声優さんとは違う方にお願いしました。でも、ワンピースに登場するキャラクターたちは高校生の年齢と大きく変わらない。であれば、実際に声を担当されている声優さんが、それぞれの「高校生版」を演じてくれたら、それはきっとみんなが観たいものになるのでは? となり、今回の企画が実現しました。ルフィ役の田中真弓さんやゾロ役の中井和哉さんを始め、ワンピースの声優陣が高校生版の声を演じてくれたのを収録ブースで聴いた時、とても感動しました」

佐藤さんが手がけたCMは、世界観がとても丁寧に作りこまれている。同時に、国民的キャラクターへのリスペクトも感じられる。15秒・30秒という短い時間の中に潜む熱量やこだわりが感じられることで、何度見ても心を揺さぶられるのかもしれない。

細かすぎて伝わらない、だけどこだわりたい

佐藤さんの細部へのこだわりは、彼がリスペクトする作品の数々が大きく影響しているようだ。

「ドラマ『ケイゾク』やアニメ『新世紀エヴァンゲリオン』のOPは、よく見ると伏線が仕込まれていて。一度見ただけじゃ分からないけど、回を重ねるごとに意味が分かっていくような表現が昔からすごく好きでした。

そういった作品から着想を得て細かい部分にネタを入れています。例えば、『HUNGRY DAYS アオハルかよ。』の最終章、隕石が落ちてるシーンでよく見るとサザエさんもマスオさんも逃げているとか。そういう細かい部分を表現するために、いろいろな交渉にものすごく時間をかけてるCMでもあります(笑)」

佐藤雄介

「細かすぎて未だに意外と気づかれてないネタもあって(笑)。『HUNGRY DAYS ワンピース ゾロ篇』の中なんですけど……実はあるキャラクターが声だけ出演してるんですよ!今のところ誰にも気づかれていないので、ぜひ隅々までチェックしてくれたら嬉しいです」

こういったこだわりはHUNGRY DAYSシリーズに限らない。佐藤さんが現在クリエイティブディレクターやCMプランナーとして関わる『星プロ』や『GATSBY COP 』は、世界観のある映像や役者同士の演技を楽しんでもらう表現を入れている。さらに、この二つのCMは世界が、ちょっとだけリンクしているというのだ。

「『GATSBY COP』に登場するキャラクターが『星プロ』に登場していたり、登場する街が隣同士という設定が組み込まれていたり(笑)。『ディズニー映画』に他のディズニー作品のキャラクターが隠れているとか、『スター・ウォーズ』にE.T.がカメオ的に出演してるとか、そういう部分が昔から好きで、誰も気づかないかもしれないけど、気付いたら喜んでくれる人がいるんじゃないか? と思って。広告に遊びの部分をつくっています」

「HUNGRY DAYS アオハルかよ。」を生み出したクリエイター佐藤雄介に聞く“魅せるCM”とは

NTTドコモCM「星プロ」×GATSBY CM『GATSBY COP なんだ有能か』より

「世界観がリンクする仕掛けは、主にWEB上で展開しています。それぞれのキャラクターがSNSで交流するなど、企画や表現の幅が広がったのは、面白い発見でした」

CMは誰にでも届くチャンスを秘めた映像コンテンツ

近年、若者を中心にテレビ離れが進んでいる。
テレビ視聴する時間をネット利用する時間に充てたり、映像コンテンツは動画配信サービスを利用したり。また、テレビは見るがリアルタイムでの視聴はしないという人(録画する人)もいる。

テレビCMの制作にもこうした状況は影響を与えるのではないか、そう佐藤さんに尋ねてみた。それに対する答えは、「テレビが視聴されなくなっても、テレビCMが注目されるチャンスは多くある」という言葉だった。

「一人ひとりの好みが細分化され、多様性が受け入れられる時代になったことで、映像を視聴するプラットフォームも、視聴する番組(チャンネル)も一極集中されなくなったと感じています。だから視聴率も取りにくくなってきている」

「でも、プラットフォームが分散しても、CMを見る機会は平等です。テレビだけでなくwebにも街頭ビジョンにも流れるし、視聴する番組(チャンネル)にも関係ない。だから、国民みんなが共通して知っている映像コンテンツがテレビCMであることは、いまでも実は多い。全国民が見る可能性のある映像コンテンツだからこそ、お茶の間に受け入れてもらえる広告を、思わず話題にしてみたくなる広告を考えて制作していきたいと思っています」

佐藤雄介

佐藤さんの表現は、枠にとらわれない。
枠にとらわれない彼のCMだからこそ、「また何か新しいことを仕掛けてくるのではないか」と期待に胸が膨らむ。

『HUNGRY DAYS ワンピース ゾロ篇』の次はどんな展開が待っているのか。
その問いに、彼は笑顔でこう答えた。

「それはお楽しみということで(笑)。でも、きっと面白いと思いますよ」

(取材・文=阿部裕華、撮影=和田咲子)

プロフィール

 佐藤 雄介(さとう・ゆうすけ)

クリエイティブ・ディレクター/CMプランナー
1984年生まれ。2007年電通入社。最近の主な仕事に、カップヌードル「HUNGRY DAYS アオハルかよ」、ドコモ「星プロ」、ギャツビー「GATSBY COP なんだ有能か」、ポカリスエット「踊る修学旅行」、マルコメ「世界初かわいい味噌汁」「DJ MARUKOMEプロジェクト」など。2017年に、クリエイター・オブ・ザ・イヤーを受賞。カンヌ広告祭ヤングカンヌ「フィルム部門」にて日本人初のメダリスト。その他、TCC賞、TCC新人賞、ACC賞、ADC賞、ギャラクシー賞など受賞。

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