インタビュー

電子廃棄物でつくったアートを売り、ガーナにリサイクル工場を建てる アーティスト・長坂真護の挑戦

「2030年までに150億円を集めて、ガーナのスラム街にリサイクル工場を建てるのが目標。この目標は、絶対に実現できるという感覚があります」

はっきりした口調で話すのは、アーティストの長坂真護さん(ながさかまご・34歳)。長坂さんは2017年に単身、西アフリカのガーナへ渡ると、スラム街に不法投棄された電子廃棄物を材料にアート作品をつくりはじめた。いま、彼の作品は1点あたり1千万円以上の価格がつき、昨年1年間で約1億円を売り上げた。

「ガーナのゴミで作品をつくって、それを売ったお金でリサイクル工場を建てる。ゴミで稼いだお金で地球をきれいにして、人を幸せにしたい」(長坂さん)

電子廃棄物でつくったアートを売り、ガーナにリサイクル工場を建てる アーティスト・長坂真護の挑戦作品の題材はさまざまだ。ガーナで暮らす男性をモデルに描いた肖像では、目に壊れたスピーカー、鼻にはコピー機の一部、頰(ほお)には古い携帯電話(ガラケー)を使った。アニメキャラクターのような可愛い子どもの絵や、ガーナの国旗とスラム街をモチーフにしたメッセージ性の強い作品もある。随所で使われている電子廃棄物は、圧倒的な存在感で鑑賞者に迫ってくる。

きっかけは、1枚の報道写真

長坂さんがガーナの電子廃棄物に目を向けたきっかけは、1枚の報道写真だった。「3年前、1人の女の子が見渡す限りのゴミの山でゴミを持っている写真を見て、鳥肌が立ちました。その写真には、悲しみと不条理が詰まっていた。調べるうちに、アグボグブロシーの存在を知りました」

ガーナの首都アクラの近郊にあるアグボグブロシーと呼ばれる地区はいま、世界最大級の電子廃棄物(E-waste)の不法投棄場として知られている。国連の関係機関などが集う『E-waste Coalition』が2019年にまとめた報告書によると、世界では年間約5千万トンの電子廃棄物が発生し、そのうち正規にリサイクルされるのは20%足らずだという。日本に住む私たちが捨てた電子機器が輸出され、最終的にアグボグブロシーに不法投棄されている可能性も十分にある。

また、アグボグブロシーには、廃棄された電子機器から取り出した金属を転売して生計を立てている人たちがいる。英ガーディアン紙は、ここで生活する人は若くしてがんを患い、20〜30代で亡くなる人が多いと報じている。廃棄物の処理や金属を取り出す際に出る煙による大気汚染が原因として指摘されている。長坂さんが絵のモデルにしているのは、ここで暮らす人々だ。

電子廃棄物でつくったアートを売り、ガーナにリサイクル工場を建てる アーティスト・長坂真護の挑戦

「僕は電子機器が大好きだから、僕たちが捨てたゴミで、誰かが若くして死んでいると知ってショックでした。どんな現実があるのか、情報を集めても疑問が出るばかりだったので、実際に見てみようと思い、2017年に1人でガーナに行きました」

長坂さんが訪れたアグボグブロシーは、至るところで電子機器を燃やす煙が上がり、有毒ガスが充満していた。そこで目の当たりにしたのは、マスクもせずに1日12時間、日本円に換算して日給500円で働いている人たちだった。

「これは現代の見えない奴隷制度だと思いました。この不幸な現実に、今も僕は加担しているのだと思ったら、空気を吸うことさえ申し訳ない気持ちになった。一方で、正直なところこんな現実は知らなきゃよかったとも思った。でも、目の前にある景色は変わらないし、僕はそれを体感してしまったのだから、本気で、この現実をアートで変えようと思いました」

電子廃棄物でつくったアートを売り、ガーナにリサイクル工場を建てる アーティスト・長坂真護の挑戦

ナンバーワンホストから会社経営者へ、そして何もなくなる

実は、長坂さんのアーティストとしての経歴は長くない。ファッションの専門学校を卒業後に歌舞伎町のホストになり、その後、路上の絵描きからアーティストとしての歩みをスタートしている。

高校まで福井で育った長坂さんは、ファッションの専門学校に入学するために上京し、服づくりにのめりこんだ。成績は良く、卒業制作のファッションコンテストで最終選考に残ったという。

「そこで優勝すれば、イギリス留学ができるというコンテストでした。絶対にイギリスに行きたくて、優勝できる手応えもありましたが、落選しました。本当に悔しくて、東京に来て初めて泣きました。お金があればイギリスに留学できたのにと思っていて、当時の僕は、世の中で最も大切なのはお金だと考えてしまった(笑)」

手っ取り早く稼げる職業は何か? その答えをホストに見いだした長坂さんは、すぐに歌舞伎町に向かいホストクラブに入る。しかし初任給は4万円。自分のお客さんが踏み倒した支払いも重なり、気がつけば100万円の借金を背負っていたという。

「当時の僕には、借金100万はすごくショックでした。そこから、どんな手を使っても女性を口説くというマインドになりました。お客さんが何を求めているのか察して、求められているキャラクターをお客さんごとに演じていました。店に入って8カ月で初めてナンバーワンになって借金を返したのですが、そのころから、精神的にはかなり疲れていました。でも、自分の人生を変えたい一心でナンバーワンをとり続けて、ホストになって1年8カ月後には、年収が3600万円になっていました」

電子廃棄物でつくったアートを売り、ガーナにリサイクル工場を建てる アーティスト・長坂真護の挑戦

2年弱のホスト業で3000万円の貯金をした長坂さんは、ホストクラブを辞めて23歳でアパレル会社を起業する。しかし、パートナーらの裏切りに遭い、1年で貯金は底を突き、1千万円の借金と大量の在庫が手元に残った。

「たった1年で会社が倒産してすごく落ち込んでいるのに、友だちには倒産したことを言えなくて、順調だよってうそをついていた。うそをつくとどうなるかというと、うそをつき通すためにだんだん人に会わなくなるんです。服の在庫が積まれた倉庫に引きこもっているうちに、自信もお金も消えていった。あのころ、僕はどん底にいました」

ただ、どん底の長坂さんが得たことがある。それは、人との本質的な付き合い方だった。

「どんなに偉い人にもホームレスの人にも、全く同じようにありのままの自分でぶつかるようになりました。現代社会では、たとえば、ちょっと変な大人がいたら目をそらして知らんぷりをしておくとか、常識と呼ばれるものを無理やり守らされているところがある。でも、その常識の枠を超えて、人と人がもっと本心でぶつかり合えば、本当の友だちになれる。こういう人との付き合い方は、いまアグボグブロシーのみんなとコミュニケーションをとる時にも役立っています」

電子廃棄物でつくったアートを売り、ガーナにリサイクル工場を建てる アーティスト・長坂真護の挑戦

本気で人を救いたいと思ったら、才能は開花する

2009年、24歳になった長坂さんは、東京・新宿の路上で絵画のライブペイントを始めた。徐々に足を止めて見守る人が増え、10カ月後には、初開催した個展で絵が売れたという。

「23歳でどん底を味わって、それからどうやって立ち上がるか考えたときに、クリエーティブなことをしてお金を稼ぐことは諦めないと決めた。そこで考えたのが、子どもの頃から好きだった絵を描くことでした。絵なら、企画・生産・販売まで1人でできるし、工場も在庫もいらない。道は誰でも歩いていいし、たくさんの人がいる都会なら見てくれる人もいるだろうと思って、ライブペイントを始めました。初めて絵が売れたときは、飛び上がって喜びました」

電子廃棄物でつくったアートを売り、ガーナにリサイクル工場を建てる アーティスト・長坂真護の挑戦

初めて売れた絵は美人画だった。しかし、すぐに絵だけで食べていけるほど甘くはなく、アパレル会社時代の在庫を売り、短期のアルバイトなどをしながら、描き続けていたという。

「ガーナに行くまでは、僕自身が自分のアートの可能性を完全には信じていなかった。自分のアートが、どう社会に関わっているのか疑問を持ちながら描いていたんです。いま思えば、あのころの僕の絵は丸く、人の心を刺すようなとがった部分がありませんでした。それが、ガーナの現状を見たら、この状況をなんとか変えたいというどうしようもない感情がわいてきて、いきなり全く違う画風の絵が描けた。本気でアグボグブロシーの人たちを救いたいという愛が、僕の才能を引き出したと思う。本気の必然で描いた絵は、たくさんの人に評価してもらえるようになりました」電子廃棄物でつくったアートを売り、ガーナにリサイクル工場を建てる アーティスト・長坂真護の挑戦

アグボグブロシーを、美しい湿地帯に戻したい

長坂さんはガーナの電子廃棄物でつくったアートを売ったお金で、現地の人たちに600個のガスマスクを手渡した。また、現地に完全無料の学校をつくり、アグボグブロシーで生活する子どもたちに学びの機会を与えている。日本では、日本環境設計が開発した再生ポリエステルの生地で、自身のアート作品をプリントしたTシャツを販売している。

「僕は、慈善事業をしているつもりはありません。アグボグブロシーで経済・環境・文化の三つの軸が循環する社会をつくりたい。世界中から大量の電子廃棄物が集まっている場所には、1日500円で働く豊かな人材があります。そして今は、プラスチックやポリエステルを再生する技術もある。ゴミの山をお金に変えるリサイクル工場が現地にあれば、彼らは喜んでゴミをリサイクル工場に持ち込むでしょう。いつか、アグボグブロシーをゴミ山になる前の、美しい湿地帯に戻すこともできると思っています」

電子廃棄物でつくったアートを売り、ガーナにリサイクル工場を建てる アーティスト・長坂真護の挑戦

2019年8月、長坂さんはアグボグブロシーにオフィス兼ギャラリーを開いた。電子廃棄物でつくる作品の運営本部と、作品・映像制作の拠点にするという。

長坂さんは、リサイクル工場建設資金とするため、2030年までに150億円を集める目標を掲げている。この金額や構想を、ただの夢だと冷ややかに見る人もいるかもしれない。けれども、現状を知らない、または知っていても何も動き出せない人の一歩も二歩も先を、長坂さんは着実に歩いている。歩きはじめなければ、ゴールには到達できないのだ。

(文・石川歩、写真・福田秀世)

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