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日差しの強い「デンジャラスゾーン」を発見! 東京五輪のマラソンコースを走ってみた(自転車で)

なにやら不穏なニュースが相次いでいる。2020東京オリンピック・パラリンピックの競技環境に関する話だ。

8月17日に行われた五輪・パラリンピックのテスト大会を兼ねたパラトライアスロンのワールドカップでは、会場となるお台場海浜公園前のスイムコースの水質が悪化して競泳競技が中止になる事態が起きた。11日に行われた健常者のテスト大会でも、選手から「トイレみたいな臭いがする」と不評を買ったと報道された。臭いだけでなく、酷暑で水温が上昇したため、スタート時間を3時間繰り上げての実施になった。

さらに、男子競歩20kmの世界記録保持者である鈴木雄介選手(富士通)が、「日陰がまったくない」五輪コースを実地踏査したうえで、コースの変更を求めているというニュースもあった。正直、真夏の東京の暑さは日常生活を送るだけでもかなりしんどい。こうなると、がぜん心配になるのがスタートから2時間超、屋外を走り続けるマラソンだ。

東京五輪のマラソンは、立候補ファイルでは午前7時半スタートとされていたが、昨年7月のIOC(国際オリンピック委員会)理事会時には30分繰り上げた午前7時スタート案が承認された。だが、その後も日本医師会と東京都医師会が「午前5時半に繰り上げるべし」と提言するなど、内外から熱中症リスクなどを指摘する声が相次ぎ、最終的に午前6時の“早朝スタート”に決定されたという経緯がある。だが、それで本当に大丈夫なのか?  実際に走って試してみた。

東京マラソンのコースに似ている五輪マラソンコース

実証実験を行ったのは8月18日(日)。天気は晴れ。最初に告白しておくと、“走った”と言ってもオリンピック選手のようなスピードで走れるわけもないので、自転車を使った(笑)。

午前5時30分、JR千駄ヶ谷駅前のBike Shareポートで自転車を借り出す。スタートまでまだ時間があったので完成間近の新国立競技場の周りをグルッと1周回ってみる。連日の酷暑に体が慣れきっているからなのか、ジメッとした感じはあるものの「暑い」とは思わなかった。用意した暑さ指数計(WBGT計)を見ると、気温28.9℃、湿度80%で熱中症危険レベルは「厳重警戒」(炎天下を避け屋内では室温上昇に注意)だ。スタート前から厳重警戒か……と不安がよぎる。

地図:東京2020大会公式ホームページより

地図:東京2020大会公式ホームページより

午前6時、新国立競技場西側の外苑西通りからスタートを切る。時速20km(キロ3分ペース)を意識しながら自転車のペダルを踏む。東京五輪マラソンコースは、東京マラソンのコースとちょっと違うが、かなり似ている。富久町の交差点を右折すると、しばらくは“勝手知ったる”東京マラソンコースである。まだ太陽が低く、道路沿いに建物があるため、この辺りでは直射日光を浴びることはない。

防衛省前を過ぎて市ヶ谷を左折して外堀通りへ入ったところから、若干日差しが出てくる。だが、まだそれほど暑さは感じない。飯田橋で暑さ指数計をチェックすると、気温29.6℃、湿度76%、やはり「厳重警戒」レベルだ。東京マラソンは飯田橋で右折するが、五輪コースは水道橋まで直進してから右折する。神保町の交差点を左折すると、またしばらくは“おなじみ”東京マラソンコースになる。須田町を右折して中央通りに入る。日本橋に近づくと、早くも「TOKYO2020」のアイコンがしつらえてあり、いやが上にも気分が盛り上がる。

人影がほとんどなかった早朝の日本橋。早くも「TOKYO2020」のアイコンが

人影がほとんどなかった早朝の日本橋。早くも「TOKYO2020」のアイコンが

各所で変わる日差しの強さ

ここまで来てわかったのは、早朝の時間帯は、ザックリ言うと東西に走る道には日差しがあるが、南北に走る道は左右のビルのおかげで日陰になるということだ。この法則は応援ポイントを決めるときの参考にもなるはずだ。日が高くなるにつれて気温は上がるが湿度は下がる傾向にある。どっちに転んでも環境は厳しい。

10km地点を超えてコレド日本橋の角を左に曲がり、浅草雷門まで約5km、折り返して日本橋に戻ると約20kmになる。 雷門で測ったら、気温30.3℃、湿度69%とついに30℃を超えてきた。自転車だからなんとか走っていられるが、自分の脚ではしんどそうだ。日本橋から再び中央通りに戻る。京橋の手前で気温は31℃を超えた。東京マラソンでは銀座4丁目を右折して日比谷通りに向かうが、五輪マラソンでは新橋まで直進してから右折することになる。

日比谷通りに入って、東京タワー、増上寺を右手に見ながら芝公園で折り返しになるが、実は御成門を超えて芝公園までの往復約2kmが最初のデンジャラスゾーンだということがわかった。道の左右が開けているため、いわゆる炎天下での走行になるのだ。芝公園で暑さ指数計を取り出すと、直射日光を浴びて数字がグングン上がり、気温34.0℃、湿度62%で、熱中症危険レベルもついに「危険」(外出はなるべく避け、涼しい室内に移動する)になってしまった。

直射日光が照りつける芝公園周辺(日比谷通り)に来ると気温が急上昇した

直射日光が照りつける芝公園周辺(日比谷通り)に来ると気温が急上昇した

この後、日比谷通り→外堀通り→中央通り→靖国通りを通って神保町を左折して皇居前へ向かうことになるが、パレスホテルの先から二重橋前の折り返しまで、このわずかな距離も炎天下を走る第2のデンジャラスゾーンだった。気温37.8℃、湿度42%で、当然「危険」レベルだ。ただ、ここまでですでにスタートから2時間43分が過ぎていた。トップクラスの選手なら1時間前には皇居前を駆け抜けるはず。だから、気温はこれよりもう少し低いとは思う。それにしても……。

あとはひたすら来た道を戻るだけ。市ヶ谷を右折すると富久町まで上り坂が続く。観客にとっては見どころになるだろうが、選手にとっては厳しいだろう。結局、今回の自転車による試走は途中で写真を撮ったりしたこともあり3時間19分でのゴールとなった。実際のオリンピックのマラソンでは2時間数分で終わるので、あくまでも参考値だが、その時点での気温は35.0℃、湿度48%。そして、スタートからフィニッシュまで熱中症危険レベルが「厳重警戒」を下回ることはなかった。一般のアマチュアランナーにとっては走ってはいけない水準である。

唯一の救いは、2カ所の短いデンジャラスゾーン以外は日陰がわりと多く、サングラスもいらないほどだったことだ。スタート時間をこれ以上、繰り上げることは難しいだろう。この環境下でトップアスリートたちはどんな走りを見せるのか。心配しながら見守ることになりそうだ。

(トップ写真=Kikovic/ Getty Images その他写真=山口一臣)

PROFILE

山口一臣

1961年東京生まれ。ゴルフダイジェスト社を経て89年に朝日新聞社入社。週刊誌歴3誌27年。2005年11月から11年3月まで『週刊朝日』編集長。この間、テレビやラジオのコメンテーターなども務める。16年11月30日に朝日新聞社を退社。株式会社POWER NEWSを設立し、代表取締役。2010年のJALホノルルマラソン以来、フルマラソン20回完走! 自己ベストは3時間41分19秒(ネット)。

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