CROSS TALK ―クロストーク―

西加奈子×田我流 「しなやかさ」と「狂気」に宿るカッコよさ

様々な世界で活躍する男女2人による対談連載「クロストーク」。今回登場するのは小説家の西加奈子さんとラッパーの田我流さんです。

じっくり話し合うのはこれが初めてという2人。といっても実は初対面ではなく、かねて田我流さんファンだった西さんは、ライブにも通って一緒に写真も撮っていた……それを田我流さんは気づいていなかったそうです。

そんな2人に語り合ってもらったテーマは次の二つ。それぞれの対談を&Mと&wに掲載します。

西加奈子×田我流 「しなやかさ」と「狂気」に宿るカッコよさ

「カッコよさ」と聞いて2人が思い浮かべることとは――。さまざまな人物の名前が挙がった、こだわり満載のトークをお届けします。

 

西加奈子×田我流 「しなやかさ」と「狂気」に宿るカッコよさ西加奈子×田我流 「しなやかさ」と「狂気」に宿るカッコよさ

西加奈子×田我流 「しなやかさ」と「狂気」に宿るカッコよさ
西加奈子(にし・かなこ)

1977年、イランのテヘラン市生まれ。2004年に『あおい』でデビュー。2007年『通天閣』で織田作之助賞、2013年『ふくわらい』で河合隼雄物語賞を受賞。2015年『サラバ!』で第152回直木三十五賞を受賞し、同シリーズは累計100万部を突破。その他の小説に『i』『おまじない』など多数。向田邦子のエッセイ『字のないはがき』を角田光代が文章化した絵本の絵を手がけた。

西加奈子×田我流 「しなやかさ」と「狂気」に宿るカッコよさ
田我流(でんがりゅう)

2004年、ラップグループ「stillichimiya」を結成。08年にファースト・ソロ「作品集~JUST~」、12年にセカンド・アルバム「B級映画のように2」を発表し、評価を高める。19年、新しいプロデューサー陣と制作したサード・アルバム「Ride On Time」を発表。エモーショナルなライブパフォーマンスには定評がある。

 

「お前が正解で、世界が間違ってる」

西加奈子さん

西加奈子(以下、西) 対談のテーマは「カッコよさ」なんですね。まず初めに言っておきたいのは、「別に男性はカッコよくなくていいよ」ってこと。

「カッコよさ」という概念はすごくぼんやりしてるし、定義も人それぞれ。今の時代、そういうものをあえて追い求めなくてもいいと思います。それを大前提として、私自身がカッコいいと思うのはしなやかな人。これは男女問わずね。

田我流 しなやかさとは?

西 柔軟さかな。以前、清原(和博)さんが逮捕されたのが、ものすごく象徴的だと思ったんです。もちろん芯からそういう性質もお持ちだろうけれど、「男、清原」みたいなパブリックイメージにすごく忠実だったでしょ? すごくマッチョな外見で、言動も「男らしく」て。

「きっと本当は繊細な方なんだろうな」って思っていたら、あの事件が起こって。清原さんはしんどかったんやと思うし、それを吐露できなかったのではないかな。事件後の、弱さを認めた清原さんの方が、私は好きです。私自身弱さを吐露する柔軟さを持っていたいし、強さと弱さの両面を持ってる人に憧れますね。

田我流 「こうあれ」みたいな同調圧力って、女性にもありますよね。

西 うん。「私は強い母親であり、良い妻であり」みたいな。一種のマッチョイズムですよね。そういう考え方ってすごく強固なように思えるけれど、意外と中身が伴ってないことが多くて。つまり虚像なんだよ。そういうものにすがってしまうと、いざというとき、簡単に折れてしまう。

田我流 わかります。男らしさや女らしさなんて、一括りにできるもんじゃない。地球上に何十億人いると思ってんだよっていう(笑)。いろんな考え方や人となりがあって当然だろって。

田我流さん

まあでも、真面目な人ほど、そういう虚像を愚直に信じちゃったりもするんでしょうね。俺の周りは矛盾しまくってる人が多くて、俺自身も矛盾の塊だから、理屈だけの虚像を信じちゃうようなことはほとんどないんですよね。

西 その正直さが大事なんやと思うよ。田我流さんはどんな人がカッコいいと思う?

田我流 何かに“狂えてる”人かな。リリー・フランキーさんの「Little baby nothing」(『ボロボロになった人へ』に収録)という短編の中で、「俺はアイドルが好きなんじゃない。そのアイドルになりたいんだ」と言うやつに対して、「あいつ、狂えてるな」って感心するシーンがあるんですよ。その、何かに夢中になって“狂えてる”様に、俺はすごく魅力を感じます。

昨日、地元で運転席以外にびっしりと人形が敷き詰められている車を発見したときも、「この人、狂えてるな」って感心しました(笑)。人間いつ死ぬか分からないし、誰の目も気にせずに生きてるほうがカッコいいですよ。

西 自分がやってることをどれだけ信じられるかっていう話ですよね。先日、岡野陽一さんという芸人さんにお会いしたんです。おかしな人で、眠りから覚めた時に外が暗かったら、とりあえず時計を見ずに駅まで歩くんだって。何をしているのかというと、駅まで歩く中で街の雰囲気や歩いてる人を見て、今が朝か夜か夕方かを当てるゲームをしていると。それを満面の笑顔で話すんですよ。

西加奈子さん

おかしなことを言っているのに、なぜか一緒にいるとこっちも幸せな気持ちになってくる。世の中にはVIPルームに入ることがカッコいいとか、お金を持ってることが幸せだと考える人もいるけど、私は岡野さんのような人もすてきやなと思うんですよ。

田我流 そういう狂えてる人にも、そうなるまでにはいろんな人生の機微があったはずなんですよね。俺の親戚は学校で結構いじめられていましたが、俺は親戚としてその人の人生を身近に見てきたから、同級生たちが知らないいろんな面を知ってる。

つまり社会の仕組みからあぶれた人にもいろんなストーリーがあるんですよ。その結果、狂えているのなら、俺はカッコいいと思う。だから、いわゆる人気者もいいけど、端っこでダークな雰囲気を醸し出してるやつのほうが気になっちゃうんですよね。

西 田我流さんは自分が社会の仕組みの中にいると思う?

田我流 全然。集団行動はおろか、基本、みんなと同じことができないですから。その傾向には高校くらいから感づいていて、例えばバイトの皿洗いとか、別に手を抜いてるわけじゃないのに、俺だけめっちゃ遅いんです。もちろん普通に頑張ってるんですよ。でも全然みんなに追いつかないし、俺が洗った皿は超汚い。

田我流さんと西加奈子さん

西 それで精神的に潰れちゃったりしなかった?

田我流 他のバイトのやつにすげえ文句言われてましたね。最初は結構悩んだけど、ある日開き直っちゃって(笑)。「俺が遅いなら、お前が俺を手伝え」と思ったし、実際そう言いました。さらに忌野清志郎さんの「ロックで独立する方法」という本と出会ったんです。それ読んで、即バイトを辞めて、音楽で生きていくことに決めたんです。

西 強いなあ。普通の人は「俺が遅いなら、お前が手伝え」とは言えないよ。

田我流 当然、そこに至るまでには自分の中にいろんな葛藤がありました。ただ、実はまだその感情を整理できてない。ラッパーとして自分の言葉になってないというか。だから最新のアルバムでは、そういう部分をあまり出さなかったんです。でもすごく悩んでいる人や、感情が負のスパイラルに入ってしまっている人に「お前が正解で、世界が間違ってる」くらいのことを言ってあげたいんですよね。

田我流さん

この世界に自分の居場所がないって感じる人はすごくいっぱいいるような気がして。自分もそれで精神的に落ちたこともあるし。でも「世界にはお前の居場所がきっとあるぜ」ってことを言いたい。それをちゃんとした形で発信していけば、少なからず誰かに届くのではないかと思っています。

「正しさ」だけだと息苦しい

田我流さんと西加奈子さん

西 田我流さんは具体的にカッコいいと思う人おる?

田我流 般若さんとOZROSAURUSのMACCHOさん。2人とも先輩のラッパーです。一緒にいると背筋が伸びるんです。

西 おふたりともカッコいいけど、厳しいとか?

田我流 2人ともすごく優しいです。でも動物的なんです。そういう野性が残ってる感じは、生物として憧れちゃいますね。西さんは?

西 私が影響を受けたのは、チママンダ・ンゴズィ・アディーチェというナイジェリアの女性作家です。今世界中で新しいフェミニズムが盛り上がってるけど、そのパイオニアのような方です。

田我流 その方、「まにまに」(西加奈子さんのエッセー集)でも紹介されてましたよね?

西 そうそう。すごく信念がある人でとにかく強い。私、2017年に電話でインタビューしたことがあるんです。その時もいろんな質問にしっかりと正面から答えてくれた。

これは記事に書かなかったんやけど、彼女はもともとヒラリーの支持者だったの。その取材はちょうどトランプが勝った直後だったのね。だから「率直に今の気持ちを教えてほしい」って聞いたら、「わからない」って答えて、それにすごく驚いた。だって彼女ならいくらでも“正しい答え”ができるから。さらに「人生は短いから、そんなこともう考えたくないわ」と続けたんですよ。

それってつまり「トランプなんかのことで人生を浪費したくない」ってことでしょ。それを聞いて、私は「そういう考え方もありなんだ!」って感動したんですよ。

田我流 すごく柔軟な人ですね。それこそ、しなやか。

西 本当にそう。パブリックの彼女はすごく強い人だけど、プライベートでは自分の人生を守ることを大切にしてるんだって。「正しさ」だけだと息苦しいんですよね。彼女はユーモアがあるところも大好き。以前アメリカの「TED」というプレゼン番組に出た時もめっちゃ観客を爆笑させてて。とにかく強いんだけど柔らかいんです。

西加奈子さん

田我流 アディーチェさんの本、俺も読んでみよう。

西 たぶん田我流さんも好きやと思う。アメリカ移民であるアフリカ人のことを書いているんですが、その中でアフリカンアメリカンの女性の髪のことに言及してたりとか。なぜ髪の毛をストレートにしないといけないのか、つまりそれは西洋の美の基準ではないか、みたいなことをすごく巧みにユーモアを持って物語の中に織り込んでいる。

田我流 アフリカって一度行ってみたいんだよな……。西さんってエジプトのカイロ出身だから、何となくわかりますか? 

西 うーん。エジプトはアフリカ大陸にあるけれど、文化的には中東やしな……。ただ、私たちはアフリカというと「母なる大地」とか、「助けを求めているエリア」「ジェノサイドが起こっている土地」みたいなイメージを持ちますよね。

実際、私自身もフェラ・クティ(ナイジェリア出身のミュージシャン。アフロビートの創始者と呼ばれる)とか、アフリカ文学の代名詞とも言われているエイモス・チュツオーラの「やし酒飲み」のような神話的な世界観も大好きやったんですよ。

でも、アディーチェはそういうアフリカのステレオタイプも覆そうとしてるんです。彼女がTEDで言ってたのは、「私は『アメリカンサイコ』を読んでも、アメリカ人が全員シリアルキラーだとは思わなかった。なぜならアメリカのことを描いた本をたくさん読んだから」って。画一的な物の見方は危険だと言ってるんですね。だから彼女は、本当に普通のナイジェリアの日常を物語にしてる。そういう姿勢も大好きですね。

みんなもっと本を読んだほうがいい!

田我流さんと西加奈子さん

西 私ね、世の中には一色だけの人なんていないと思うの。醜いだけの人間も、美しいだけの人間も。私はヘイトスピーチをする人間なんて顔も見たくないけど、その人たちにも美しい瞬間はある。小説家としては、そういう部分を見ていかなくてはいけないと思っています。さっき田我流さんが世間からあぶれた人にも歴史があると言ったように、なぜ彼ら彼女らは醜い部分を出さないといけないのか、とかね。

「Ride On Time」(田我流さんの最新アルバム)で、田我流さんは「急増するサイコパス / 自殺 / 過労死 / 膨れ上がる怒り憎しみ / また1人闇に落ちてなるHater」(「Broiler」)と歌っていましたよね。あの感覚に通じるというか。ニュースでは「ヘイトスピーチに〇〇人が集まりました」と結果だけを報じるけど、私たちの役割はそのうちの1人がなんでそこに行くようになったのかを考えることかなって。

田我流 ラップの場合、1曲だと表現できることに制限があるからそこまで深掘りはできないかもしれないけど、でも「ヘイトスピーチに向かう誰か」をテーマに対して1枚のアルバムを作れば、そういう表現も可能かも。でも、大変そうだからやりたくない(笑)。

西 やってよ!(笑)。

田我流さんと西加奈子さん

田我流 いまSNSには自己顕示欲が渦巻いてますよね。俺、あれもある種の「闇」と感じていて、リア充的な投稿を見ると、人生の素敵じゃない瞬間を自分の中でうまく処理できてないのかな?……って思っちゃうんですよ。夏目漱石の「こころ」にはドロドロした人間模様が描かれています。それが人間の本質だと思っているから、俺は無理して自分の人生を良く見せたいと思わない。うん、やっぱり現代人はもっと本を読んだほうがいいと思うな(笑)。

西 本当にもっと読んでほしいよ(笑)。

田我流 小説家の人には独特の視点があるじゃないですか。物事の裏側まできれいに見通せる目というか。世の中にはいろんなことで悩んでいる人がいるけれど、読書で解消されることは多いと思います。

(文/宮崎敬太 写真/江森康之)


トークはまだ続く

「カッコよさ」に関するトークを終え、2人は食事休憩へ。ゆっくりブレイクを入れるのかと思いきや、ランチ中も話は止まりません! 後半戦は「ライフスタイル」がテーマ。2人の仕事や生き方に迫ります! 

>「西加奈子×田我流」対談の続きはこちら
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