湯山玲子の“現代メンズ解析”

たけし映画の色気は“死とのたわむれ”にある 水道橋博士が語る非日常を生きるロマン

橋下徹・元大阪市長の「小金稼ぎ」発言を受けて「たかじんNOマネー」(テレビ大阪)の生放送中に突如退席、そのまま番組を降板して世間を驚かせたのは6年前のこと。昨年には、格闘イベント「HATASHIAI」で幻冬舎の編集者・箕輪厚介さんと拳を交えたことでも話題に。50歳を過ぎてなお、「たけし軍団」の“イズム”を感じさせる水道橋博士さん。

その生き様に影響を与えたのは、ビートたけしさんをはじめ、各界の豪傑たち。数々の著名人の知られざる素顔に迫り、ベストセラーとなった著書『藝人春秋』(文春文庫)は、これまで水道橋博士さんが魅了された「カッコよさ」「美学」「ロマン」を軸にした人物評伝とも言えます。

「今どきのカッコよさ」をテーマにした対談連載「現代メンズ解析」。古くからの友人である湯山玲子さんが、水道橋博士さんが考える「カッコよさ」に迫ります。

女性には奇怪に映る 行き過ぎた通過儀礼

 

湯山玲子

湯山玲子(以下、湯山) 「たけし軍団」はいわゆる、伝統的な男の世界を体現した集団。博士も当時、絶対的な上下関係や男の美学に憧れて、その中に入っていったと思う。ところが、今の時代はそういった価値観をどんどん解体する方向に進んでいる。博士自身もそれをわかっているだろうから、価値観が引き裂かれるような実感があるような気がする。まずはそこを聞いてみたいな、と。

水道橋博士 たけし軍団の全盛期は80年代で、ビートたけしさんと弟子の10人を中心とした、いわばセクハラとパワハラが主体の芸能です。全裸での破廉恥なセクハラの笑いや、熱湯風呂に入るなどのパワハラの笑いが中心。いずれの行為も今はあってはならないものだけれど、それでも当時は、光GENJI、アルフィー、チェッカーズといったグループと匹敵して語られるほどのアイドル的な人気を誇っていた。

水道橋博士

湯山 いわゆる「イニシエーション」(通過儀礼)ってあるでしょ。子供が大人になるために、今までの生き方と決別し、ある集団の構成員として認められていくために積むハードな経験のこと。理不尽を体験することで大人にもなるし、トップを中心とした強い結束ができる。それは戦後の会社組織を支えた力学でもあり、体育会の体質でもある。

もちろんそれは女性も体験しうることだけど、男性の集団は、どう考えても正気の沙汰とは思えないレベルにまでエスカレートすることもある。これは、はっきり言って、女性からすると奇怪にしか見えなくて。何がいいの?

水道橋博士 正直、当時は通過儀礼とは思わなかった。俺は自分を痛めつけてほしくて望んでたけし軍団に入ったから。シャバっ気を抜くんだ、この世界で生きていくんだ、そのためにはどんな理不尽も応じる、しごきを受けたいからたけし軍団に入る――。ここまで振り切れないと、芸能の世界にいてはならないと思い込んでいたんだよね。だから、先輩から理不尽なパンチを受けたことも今となっては懐かしい思い出に昇華されている。

もちろん、ふつうの人はそんなイニシエーションを受ける必要はない。ふつうに社会に入って、自分の適性に応じた仕事をして、能力を発揮すればいいわけで。だから、自分自身が下の世代に同じことを求めるかといったらまったく思わない。後輩に強要することもなかった。自分の息子が俺みたいなことになったら絶対いやだね。絶対に。

湯山 ちょっと待って!  それだけのつらい経験が、なぜ「良い思い出」に変えることができたんですか。理不尽な制裁を与えてきた相手にも「この人はすごい」と、グッとくるものがあったということ? 本当に鬼畜だったら、そんな風に昇華されないでしょう?

湯山玲子

水道橋博士 そうですね。「イニシエーションをしてくれた“父”である」という感覚は抜けずに残っている。それは先輩からフォローがあったことも大きい。

たとえば、軍団の鬼軍曹であったダンカンさんに「ネタを1日1000本書いてこい」と言われる。そんなの理不尽ですけど、僕も寝ないで書く。ダンカンさんも同じことをする。結果40本、50本であっても、書いてきたことを認めてくれる。決して見放さない。軍曹も軍曹であることを演じていて、一度イニシエーションをくぐりぬけた人に対しては、その後一切手を出すことはなくなる。

水道橋博士

湯山 そうか、そこには「しごいた相手には責任を持つ」というルールが徹底されていたんですね。

博士が言うところの「イニシエーションしてくれた父」という点でいえば、父親はあるときまで、こちらの言い分が通らない、理解する努力もしない「理不尽」の権化だよね。

自分のことを無条件に愛するのが母親、理不尽として立ちはだかるのが父親だった。しかし、今の父親は友だち父子になってしまう。壁、軍曹役、憎まれ役なんて引き受けられないし、割に合わなくてできない。博士は父親として憎まれ役を演じることはあるの?

水道橋博士 ないですね。

湯山 なぜ? 自分を育ててくれた誇りあるシステムなのに。

水道橋博士 少年時代、家庭のなかに非日常がなかったからそれを求めたのであって、今は家庭に持ち込もうとは思わないね。自分に子どもができてからは、特に。

湯山 なぜ昔の父親は、軍曹役ができたんだろうね。

水道橋博士 それは、大雑把に言えば、かつて日本に武士道があり軍国主義があり、長幼の序もあったから。でも、うちは父親が教育に無関心で親子で話すこともあまりなかったし、俺も父親に憧れることはなかった。中学生のときに不登校になったけど、親が悪いと思ったこともないし、むしろ自分が弱くてこうなったのだから、外に出てあらゆる試練を引き受けて自分を変えなきゃいけないと思った。それで中3から高1にかけて、本を読み、学校に行かずに映画館に行くようになった。

湯山玲子×水道橋博士

映画は大きかったね。世界中のままならぬ青春を描き、アウトローを描き……そういう多様な人生に触れて、それまでの自分の人生の捉え方の薄っぺらさに愕然(がくぜん)とした。自分は人生というものを教科書に書いてあることでしか捉えられていなかったと思い知らされたから。教育というのなら、学校でニューシネマ以降の名画や問題作を100本くらい見せればいいのにって本気で思うよ。映画や本は人生の予行演習だから。

湯山 父親が子供の教育に関わらず、母親任せというのは、戦後の高度成長を支えた核家族の典型だよね。博士はご自身のお子さんにはどんなしつけをしているの?

水道橋博士 何も言わないね。放置している。長男は「パパは本が好きだけど、俺は一生読まない人生を送る」と、小6のころに言ってた。それなのに昨日、急に「おすすめの本ない?」って。「風の歌を聴け」(村上春樹)や、たけしさんや園子温の自叙伝とか、「ケインとアベル」(ジェフリー・アーチャー)を貸しました。東京には映画館がたくさんあるのだから、学校を休んで映画を見に行けばいいのにと思うけど、妻がそういう不良化を勧めないんだよね。

娘は小4のときに小説を書いて才能があると思ったけど、小5からは受験勉強しかしなくなった。いま中1。本当にもったいないよ。勉強なんて日常でしょう。勉強もしながら他のこともするのが望ましい。

「死とのたわむれ」に宿るたけしの美学

湯山 改めて聞くけど、博士が思う「カッコよさ」とは?

水道橋博士 俺はビートたけしが好きだから、ビートたけしイコールカッコいい。今、お笑いで好感度ナンバーワンのサンドウィッチマンは、やさしいし安全だし、かつおもしろいけど、ビートたけしは、よりやさしく、より凶暴で、時代をぶち壊して突破していった。あのころのオスとしての色気はすごかった。

束ねている人数だってすごいでしょう。のべ100人規模の弟子を自分のポケットマネーで養ってた。

湯山玲子×水道橋博士

湯山 そういえば、たけしさん自身は集団に入っていた経験がほとんどない方なのでは? 会社員をしていたわけでもないし。

水道橋博士 大学出てから就職もせず社会の底辺みたいなところでどっちつかずの人生を送っていたと思いますよ。そこから日給1000円のフランス座で働くようになって。

俺も30年後にフランス座に入ったけど日給は一緒だった。その日暮らしで底がない生活。ああいうストリップ小屋の暮らしも、自分にとっちゃすべてがロマンですよ。4日しか行ってないけど(たけしさんと同じ)明治大学に入って、たけしさんに弟子志願して、ストリップ小屋のフランス座で泊まり込みの修業をして……一連のたけしさんの人生をなぞるのは、自分のなかではロマン探求。極貧生活も好きでやってるわけ。すごろくで試練のマスを通らない人生なんて物語がないからね。

両親は、自分の息子が急に行方をくらまして、いつの間にかストリップ小屋で働いて食うや食わずで15キロ痩せて、不思議でしょうがなかったと思う。家では、たけしさんへの憧れなんて見せたことがなかったから。それで俺を迎えに来るわけ。「子どもを返せー」って。そしたらフランス座の社長は、「正芳くん(水道橋博士さんの名前)は20歳を過ぎてますから、本人が希望してここにいる以上、渡せない」と返した。

 

湯山玲子×水道橋博士

今のお笑いの仕事は、ふつうに学校を卒業して、反射神経の良さを生かしてテレビのサイズに合ったおもしろいフレーズを言える人が真ん中に座っていくルールで、親もそれほど心配しないじゃん。俺のころはお笑いなんて親としては子どもにさせたくない仕事。心配したと思いますよ。

村本大輔、山本太郎……彼らはもっと評価されていい!

湯山 博士の言う「ロマン」は、わかりやすく言うとなんなのだろうか。

水道橋博士 非日常を生きること。親がいて就職を世話してもらってお見合いで結婚して……そういう人生は簡単に想像できたし、それを歩むのはいやだと思ったね。非日常を生きたい。芸能界に入った時点で、朝起きたら自分の師匠はビートたけしで、たけし軍団の兄さん方がいて、ダンカンさんに急に殴られる。殴られてる瞬間、「あ、俺、非日常を生きてる」と思った。

湯山 男女の決定論的なことは言いたくないのだけれど、今まで生きてきた中で、現実を見限った上の「非日常」志向は圧倒的に男性が多かったなあ。女性は「私の人生」という現実に、悩み、格闘するけど、男の人の「その辺は上の空」な感じはすごいな、と思うところがある。何というか、現実に向き合わず、不真面目で頭が遊んでいるというか、ちょっとタナトス(ギリシャ神話の死に神)を感じるのだけれど、そこにカッコよさや色気を感じる女性は少なからずいる気がする。

水道橋博士 それは男でもわかる。たけしさんはテレビの中ではおどけた道化であるけど、映画は死とのたわむれしか描かない。「ソナチネ」はその典型。あの美意識、エロスとタナトスの広がり方にほれぼれする。たけしさんはいつ死んでもいいように生きてる感じがする。明日に保険をかけない人生とでも言うべきか。

湯山 世代で言うと、博士や私の1960年代生まれや全共闘世代は、男のロマンに心奪われながら、あえて日常を過ごしているところがあるよね。一方で私たちの下の世代、たとえば村本くん(ウーマンラッシュアワー村本大輔/1980年生まれ)くらいの世代になると、非日常より実人生を大事にしている感があるんですよ。当たり前だよね。もう、彼らには「男ロマンの非日常を生きる」余裕はないわけだから。

水道橋博士 それでも彼らは、余裕がなくとも希求はしているよ。村本くんにしても山本太郎にしても、もっとヒーローになってもいいと思うよね。もちろん、彼らのすべてがいいわけじゃないですよ。問題もたくさんあるだろうけど、どう考えても面倒で困難なことに向き合っている。まさに、今は、希少な非日常を生きている。「よくこの時代にやるね」と俺は共感しているけど、その共感は広がっていない。現実的にはテレビから追放されて、ほとんどの人は「バカなことしているな」と思ってる。

水道橋博士

湯山 博士も一時、Twitterで果敢に発言し、炎上に挑んでいた。すごかったよ。本当に今は、SNSが影響力を発揮する過酷な現実になっている。なぜ、その渦中に飛び込んだの?

水道橋博士 いわゆるネットの右傾化と誰も戦わないんだと思って、「だったら、俺ひとりで戦うよ。かかってこい」という感覚だった。一種の躁(そう)状態だったと思う。炎上に薪をくべるようにネトウヨをさらして暖を取って。長期戦で結果的に俺の身も心も壊れた。

今はTwitterはもうほぼやらない。ただ、振り返ればバカバカしいことだけども、一矢報いる人も必要なわけじゃん。村本くんや山本太郎はすごいよ。きっと身も心も削りながらやっているのだと思う。やればやるほどつぶされる時代だからね。

湯山 博士は今年57歳。人生も後半だけど、生き方の心棒は見えてきた?

湯山玲子×水道橋博士

水道橋博士 いや、正直、老化を日々実感しているね。身体的な衰えで、体が痛いし、病気がちだし、そういう身体全般に対する不安もあるし、将来の金の不安もある。老後に2000万円ためておかなきゃとかね。明日死んでもいいと思っていた頃に比べて、なんとごく平凡で大衆的で日常的なことを考えているのか、というのが今の自分。

湯山 それは、受け容れがたい現実なのだろうか。

水道橋博士 本当にやる気があるなら変えられるとは思う。昔、ラジオの深夜放送をやっていたので、「またレギュラーでやりますか」とオファーがあったとき、マネジャーに「もしやるなら俺は離婚する」と言ったんですよ。

マイホームを持って子どもが3人いて、悠々自適な暮らしをしながら、深夜放送で若者にメッセージを送れるわけがない。崖っぷちにいて苦しみにもがいていることにリスナーは共感するのだから、自分がそういう境遇にならないとやらないって。結局、「博士は本当に離婚しかねないから申し込まない」と事務所に止められましたけど。いつまでも、築き上げてきた安定の全てを破壊してしまいたい願望は抜けきらない。

湯山玲子×水道橋博士

湯山 それはある意味極端な決断だなぁ。深夜放送を聞いている若者に、現実をしっかり生きている中年男が伝えるメッセージもまた多く存在する、と私は思いますけどね。私は考えが揺らいでもいいと思う。自分のロマン的な生き方に照らして、そうじゃない路線を進んだとしても、そこはまた、思いも寄らなかった人生の果実が得られることもあるのではないかな。そういうファジー(不確か、あいまいな状態)な考えは博士にはないの?

水道橋博士 いやいや、経験的にも、事に及んでブレることを良しとしています。そして、挫折から立ち上がることも無制限に奨励していま す。結局、死ぬまでファジーなことを考えるんじゃないかなあ。生きるとはそういうこと。

湯山 ロマンは男性にとっては、魅力ある毒薬だと本当に思いますね。効かせすぎると破滅に向かう。

水道橋博士 特に若いときほど何かに狂信的になるからね。ただ、その狂信的な思いは、人間を破壊者だけでなく変革者にすることだってある。今は日常を大切にする人が多いのかもしれないけど、若者には変革者であってほしいね。

(構成/安楽由紀子 撮影/野呂美帆)

湯山玲子×水道橋博士

PROFILE

湯山玲子

プロデューサー。現場主義をモットーに、クラブカルチャー、映画、音楽、食、ファッション等、文化全般を独特の筆致で横断する執筆を展開。NHK『ごごナマ』、MXテレビ『バラいろダンディ』レギュラー、TBS『新・情報7daysニュースキャスター』などにコメンテーターとしても出演。著作に『女ひとり寿司』(幻冬舍文庫) 、『クラブカルチャー ! 』(毎日新聞社)、『女装する女』(新潮新書) 、『四十路越え ! 』(角川文庫)、上野千鶴子との対談集『快楽上等 ! 3.11以降を生きる』(幻冬舎) 、『文化系女子という生き方』(大和書房)、『男をこじらせる前に』(角川文庫)等。月一回のペースで、爆音でクラシックを聴くイベント「爆クラ」を開催中。日本大学藝術学部文藝学科非常勤講師。

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