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メンズ部門アーティスティック・ディレクター、ヴェロニク・ニシャニアンに聞くエルメスの服作り哲学

エルメスのメンズの世界観を紹介するインターネットラジオ「ラジオエルメス(www.radio-hermes.com)」が公開中だ。東京・神宮前にはポップアップステーションが出現し、公開収録や動画などが楽しめる。イベントに合わせて来日したメンズ部門のアーティスティック・ディレクター、ヴェロニク・ニシャニアンに、服づくりにかける思いなどを聞いた。

(TOP画像:大原広和撮影)

Olivier Metzger撮影

Olivier Metzger撮影

パリ生まれ。パリ・オートクチュール専門学校を首席で卒業した。チェルッティを経て1988年、老舗メゾンの男性部門を任され、エルメスらしい優雅な服を第一線で作り続けている。どんな時にデザインを考えているのかと問うと、「常に発想している。だから、長年やっていても尽きることはない」と応じた。

30年超に及ぶ在任期間中、エルメスのレディースではマルタン・マルジェラやジャン=ポール・ゴルチエ、クリストフ・ルメールといったモード界を代表するデザイナーたちの去就があったが、メンズは不動だ。その要因を聞くと「私もびっくり。明るくてポジティブだからかしら?」と笑い、「みんなそれぞれの世界観があって、やり方は違う。メゾンとデザイナーの関係は結婚と同じ。続く人もいれば離婚して再婚する人もいる。私は長続きするタイプね」と加えた。

近年は多くのブランドでデザイナーの交代劇が話題になるが「今ファッションの世界では、メゾンの服なのか、デザイナーの服なのか分からないこともある。奇妙な状況だと思う」。

エルメスは巨大ファッショングループに属さない孤高の存在だ。「私たちにはマーケティングという観点がないし、私はラグジュアリーという言葉も嫌い。意味がないと思っている」。追求するのは、究極の美だ。2019年秋冬で見せたムートンや、20年春夏のレザーやシルク。採算を気にせず最高級の素材を使える環境だといい、「多くの人から『夢の領域だ』と言われるが、それは実際に働く我々が夢を見ながら仕事が出来ているから」と明かした。

メンズ部門アーティスティック・ディレクター、ヴェロニク・ニシャニアンに聞くエルメスの服作り哲学

大原広和撮影

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大原広和撮影

ほとんどのブランドは、ショーで披露した服のうち何点かは実際には商品化しない。「見せる服」と「売る服」を分けており、業界の常識だ。しかしエルメスでは、国や店舗によって取り扱いは異なるものの、ショーピースの全てを、世界中のブティックで売る。「それは、一種の誠実さだ」という。ぜいたくで高価だが、流行にとらわれず、きちんと長年着てもらえる「本物」の服づくりが信条だ。

メンズ部門アーティスティック・ディレクター、ヴェロニク・ニシャニアンに聞くエルメスの服作り哲学

大原広和撮影

デザインにあたっては、特定の人や年齢、体形、国籍などはイメージせず、複数形の「エルメスの男性たち」を思い浮かべている。それが多くの人たちへのアプローチを可能にするのだという。

メンズ部門アーティスティック・ディレクター、ヴェロニク・ニシャニアンに聞くエルメスの服作り哲学

大原広和撮影

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大原広和撮影

自分の名を冠したブランドを持ちたいという野心はない。「エルメスを愛しているし、私の人間としての価値も、今の立場で表現できることに喜びを感じる」

ラジオエルメス(www.radio-hermes.com)では自身の世界観を紹介するほか、交流のある日本の著名人を番組に招く。神宮前の特設ステーションでは番組の収録を見学したり、映像を楽しんだりできるイベントを開催している。企画したのは、日本の文化や日本に住む人の考え方が大好きで、服作りにも影響を受けているからだという。例えば「侘び寂び」という言葉。簡素で自然の持つ力を大切にする姿勢が、彼女やエルメスの精神に通じるのだという。

メンズ部門アーティスティック・ディレクター、ヴェロニク・ニシャニアンに聞くエルメスの服作り哲学

© Nácasa&Partneres Inc.

今後については「これまでと同じように、とてもワクワクするような新作を届け続けたい。エルメスとは30年間仕事を続けてきたけれど、目の前にはあと50年ぐらいは新たな世界が広がっているような気がする」と語った。(文・後藤洋平)

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