On the New York City! ~現代美術家の目線から見たニューヨーク~

LGBTの一大イベント「プライド」に300万人が集結! カラフルに彩られたNYの街

現代美術家・伊藤知宏さんがアーティスト目線でニューヨーク(以下、NY)の街をレポートする連載「On the New York City! 」。今回は6月にNYで開かれたLGBT関連のイベントの様子をレポートします。

ニューヨークのプライド月間

NYの6月はプライド月間だった。「プライド」は「誇り」の意味を持つ言葉だが、近年では「性的少数者の誇りを掲げるためのパレードやその前後に行われるイベント」を肯定的に指すものとして、広く世界的に周知されている。

欧米・アジア諸国をはじめ世界の主要都市では、このプライドが恒例行事として、大小様々な規模で毎年開催されている。

あまりいろいろなことをうまく楽しめない僕は、センシティブな事柄をお祭りのように楽しんでしまう彼らを見て、なんだか不思議な気分になった。そんな光景をこの文章を通してみなさんにも味わっていただければうれしい。

僕が住んでいるブルックリンのブッシュウィックが①。今回取り上げる42ストリートNY公共図書館本館がL。ストーン・ウォール・インは⑦

僕が住んでいるブルックリンのブッシュウィックが①。今回取り上げる42ストリートNY公共図書館本館がL。ストーン・ウォール・インは⑦

性的少数者の社会立場を変えた事件「ストーンウォールの反乱」

NYでは、1969年に起きた「ストーンウォール(以下SW)の反乱」を記念し、プライドが毎年6月に行われる。

同性愛者への酒類提供を禁じた法律に基づき、NYのグリニッジ・ヴィレッジにあるゲイバー「ストーンウォール・イン(The Stonewall Inn)」に警察が捜査を行い、それに対し店にいた同性愛者らが抵抗したのがこの事件だ。

反乱の発端は諸説ある。主流は、トランスジェンダーのマーシャ・P・ジョンソン(1945-92)らが中心となり、突然踏み込んできた警察に対し店から出て行くように抵抗したという説だ。それをきっかけに、彼女(彼)はプライドのシンボル的存在になった。マーシャの死を巡るドキュメンタリー映画「マーシャ・P・ジョンソンの生と死」(2017年/アメリカ制作)などを見れば、より詳しく知ることができる。

現在のSW・インの外観。2階建てで、ビリヤードやトランスジェンダーのイベントなども楽しめる。最近では観光客も多く、入場時には身分証明書が必須

現在のSW・インの外観。2階建てで、ビリヤードやトランスジェンダーのイベントなども楽しめる。最近では観光客も多く、入場時には身分証明書が必須

バーの前には「SWの反乱」を記念した「ストーンウォール国立記念碑」がある。写真は園内にある彫刻家ジョージ・シーガルのLGBTQAI+をたたえる彫刻作品

バーの前には「SWの反乱」を記念した「ストーンウォール国立記念碑」がある。写真は園内にある彫刻家ジョージ・シーガルのLGBTQAI+をたたえる彫刻作品

以前までNYのホイットニー美術館で行われていた現代美術家アンディ・ウォーホルの回顧展より、アンディが制作した有名人肖像画シリーズのマーシャ・P・ジョンソン/Andy Warhol, Ladies and Gentlemen (Marsha P. Johnson), 1975. Acrylic and silkscreen ink on linen, 50 × 40 1⁄8 in. (127 × 101.8 cm). Museum Brandhorst, Munich. © 2018 The Andy Warhol Foundation for the Visual Arts, Inc. / Artists Rights Society (ARS), New York

以前までNYのホイットニー美術館で行われていた現代美術家アンディ・ウォーホルの回顧展より、アンディが制作した有名人肖像画シリーズのマーシャ・P・ジョンソン/Andy Warhol, Ladies and Gentlemen (Marsha P. Johnson), 1975. Acrylic and silkscreen ink on linen, 50 × 40 1⁄8 in. (127 × 101.8 cm). Museum Brandhorst, Munich. © 2018 The Andy Warhol Foundation for the Visual Arts, Inc. / Artists Rights Society (ARS), New York

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SWの反乱は、性的少数者が自らの社会での立場を改善しようとする運動の引き金となり、「ゲイ解放」の旗印の下、性的少数者の権利獲得運動は数千人を動員する全国運動へと発展した。

事件発生の50年を控えた今年6月6日、NY市警察のジェームズ・オニール署長は、SWの強制捜査について謝罪した。

今年のNYでのプライド(ニューヨークシティ・プライド・マーチ)は、「SWの反乱」50周年の記念と、数年に一度開催都市を決めて行う「ワールド・プライド」がかさなり、世界最大規模のイベントとなった。主催者発表で推計300万人の支援者や観衆が虹色の旗を振り、その中を世界中から参加した約15万人が行進した。

 
 
 
 
 
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300619 NYC pride parade 🏳️‍🌈 #pride #nycpride2019

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今年のプライドのパレードの様子。筆者のインスタグラムより

虹色の旗の意味

プライドが行われる以前からLGBTQAI+(*)を肯定するシンボル、虹色の旗をNYでよく見かけた。

デパートやアパレル・ショップからバーやアイスクリーム・ショップまで、まるでお祭り騒ぎのように虹色の旗をかかげた。イベントの盛り上がりが最高潮となる6月の最終日曜日まで、虹色の旗は増え続けた。

虹色の旗はカリフォルニアのデザイナー、故ギルバート・ベイカーが78年に作ったものだ。数回の改良の後、現在の6色のデザインになった。レッド(生命)、オレンジ(癒やし)、イエロー(太陽)、グリーン(自然)、藍色(平穏/調和)、パープル(精神)と各色に意味がある。

大量の虹色の旗や広告を通して、ニューヨーカーたちがどれだけプライドに関心があるのかを感じ、非常に驚いた。

※ LGBTQAI+
L=レズビアン(女性同性愛者)、G=ゲイ(男性同性愛者)、B=バイセクシュアル(両性愛者)、T=トランスジェンダー(身体の性と心の性が一致しないが、外科的手術は望まない人)、Q=クエスチョニング(自分の性別がわからない・意図的に決めていない・決まっていない人)とクィア(性的少数者全体を包括する概念)、A=アセクシュアル(誰に対しても恋愛感情や性的欲求を抱かない人)、I=インターセックス(生まれつき男女両方の身体的特徴を持つ人)の各単語の頭文字を組み合わせたもの。+はその他のセクシュアリティーを意味する

ライトアップされたブルックリン・ミュージアム。プライド月間は特別にプライド・カラーに

ライトアップされたブルックリン・ミュージアム。プライド月間は特別にプライド・カラーに

地下鉄の電光掲示板ではパレードに参加する人たちへの呼びかけが行われた

地下鉄の電光掲示板ではパレードに参加する人たちへの呼びかけが行われた

図書館で「プライド」の大規模展示

6月後半から7月中旬、マンハッタンの42丁目にあるNY公共図書館本館のギャラリーでは、展示「ラブ・レジスタンス:SW50展」が行われた。一般的な現代美術作品に比べ、よりカラフルな陳列方法が見る者の興味をそそる。

NY公共図書館本館の正面入り口

NY公共図書館本館の正面入り口

この展覧会は、LGBTQAI+に対する人々の認識を変えた2人のフォト・ジャーナリスト、ケイ・トビン・ラフセンとダイアナ・デイヴィスの写真や、図書館の資料を通してSWやLGBTQAI+の歴史を詳しく説明するもの。

当時の記録写真やチラシ、ジン(小冊子)などを通じてストーンウォールの歴史が紹介され、プライドにごく最近興味を持った僕でも、わかりやすさを感じた。

グラフィックは、プロの目線でもいまだに参考になるほどレベルが高く、時間をかけた手の込んだものが多いので楽しめる。その表現力の高さの背景には、バックグラウンドや教育水準が違う人々があつまるアメリカにおいて、文字より視覚的にアプローチできるグラフィックの方が情報伝達に適している、という文化的な事情が存在するように感じた。

壁面にはテーマ別に当時の資料が並んでいた/"Love & Resistance: Stonewall 50," an exhibition at the New York Public Library. NYPL

壁面にはテーマ別に当時の資料が並んでいた/”Love & Resistance: Stonewall 50,” an exhibition at the New York Public Library. NYPL

1970年の女性限定のダンスパーティーの広告/“All Women’s Dance” New York: Gay Liberation Front, 1970 / New York Public Library, Manuscripts and Archives Division

1970年の女性限定のダンスパーティーの広告/“All Women’s Dance” New York: Gay Liberation Front, 1970 / New York Public Library, Manuscripts and Archives Division

プライドとアート それぞれの歴史に見る共通性

プライドの社会的位置づけは時代を経るごとに変化している。SWの反乱があった69年頃のアメリカは、自由な反面、保守的な風潮も強く、LGBTとわかるファッションで道を歩けば罵倒されたりしていた。

しかしプライドも回数を重ねるごとに性的少数者に対する議論は深まり、現在ではその理解も一般に広がっている。ただ、実際プライドを経験しての感想は、半数以上の人々は単にお祭り騒ぎにきている、というもの。プライドは巨大な街、NYの商業主義に飲み込まれながら進化をつづけていると思った。

1970年のプライドの様子/Photo by Diana Davies, Gay Liberation Front marches on Times Square, New York, 1970 / New York Public Library, Manuscripts and Archives Division

1970年のプライドの様子/Photo by Diana Davies, Gay Liberation Front marches on Times Square, New York, 1970 / New York Public Library, Manuscripts and Archives Division

今回、記事にするためにプライドをはじめて掘り下げて調べた。思いのほか興味深く、いい意味で人間臭い。

芸術家の草間彌生が自身の芸術活動を「戦い」という言葉で表現したように、アートの世界にもオルタナティブな思考や価値観を持つ人間が伝統と戦って認められてきた歴史がある。構造は異なるが、プライドの歩みもまさに少数派の戦いの歴史だ。僕がプライドを身近に感じた理由のひとつは、ほんの少しアートの世界と似たものを感じたからかもしれない。

これらの展示を見終えた後、映画や歴史のドキュメンタリー作品などを通じて様々な「愛」について研究した。「そういえば、愛することってもともと自由だったんだなぁ」。そう思いながら夏のNYの夕空を見上げるとなんだか楽しい気分になった。

写真は7月に僕が参加したイースト・ビレッジのギャラリー「ラ・ママ・ラ・ギャラリエ」で行われていたグループ展「ウェン・ブラック・スワロー・ウィル・レッド」(若手キュレーター、ダンディー・グさんがキュレーション)の様子。僕は自身が監督・制作したドキュメンタリー映像「セイブ・ザ・ラスト・ダンス・フォー・ミー」、「ジョナス・メカス最後のインタビュー映像」(共に2019年/日本・アメリカ制作)の2本を上映した

写真は7月に僕が参加したイースト・ビレッジのギャラリー「ラ・ママ・ラ・ギャラリエ」で行われていたグループ展「ウェン・ブラック・スワロー・ウィル・レッド」(若手キュレーター、ダンディー・グさんがキュレーション)の様子。僕は自身が監督・制作したドキュメンタリー映像「セイブ・ザ・ラスト・ダンス・フォー・ミー」、「ジョナス・メカス最後のインタビュー映像」(共に2019年/日本・アメリカ制作)の2本を上映した

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PROFILE

伊藤知宏

1980年生まれ。東京・阿佐ケ谷育ちの現代美術家。日本政府から助成金を得てニューヨークへ渡米。武蔵野美術大学卒。東京や欧米を中心に活動。ポルトガル (欧州文化首都招待〈2012〉、CAAA招待〈2012-18毎年〉)、セルビア共和国(NPO日本・ユーゴアートプロジェクト招待〈12、14〉)、キプロス共和国(Home for Cooperation招待〈17〉)他。ギャラリー、美術館、路地や畑などでも作品展を行う。近年は野菜や花、音や“そこにあるものをえがく”と題してその場所にあるものをモチーフに絵を描く。谷川俊太郎・賢作氏らとコラボレーションも行う。ホルベインスカラシップ受賞。文化庁新進芸術家海外研修制度研修員(2018-19)および日米芸術家交換計画日本側派遣芸術家。

希少なグラフィックアートがずらり NYの「パンク」展覧会

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