小川フミオのモーターカー

サイドビューがなにより美しい 初代・ポルシェ911スピードスター

ポルシェ911は、1963年に初代がデビューし、現在にいたるまで連綿とモデルチェンジを繰り返している。そのなかで、私がもっともスタイリッシュだと思っているのが、1988年の「ポルシェ911スピードスター」だ。

(TOP写真:ウィンドシールドの存在感を出来るだけ消しているのが特徴)

スピードスターとはぜいたくな装備を持たず、ドライビングを楽しむことを目的としたオープンのスポーツカーを意味している。ポルシェは1954年に「356スピードスター」というモデルを作っており、そのイメージを生かしたのが911スピードスターなのだ。

サイドビューがなにより美しく、低いウィンドシールドにドライバーの背後に設けられた合成樹脂製の”ダブルバブル”型のカバーが目を引く。通常はフルオープンで走行するのが前提だけれど、幌(ほろ)をかけたときも薄く見えるキャビンのシルエットがじつに美しい。

ポルシェ911スピードスター

合成樹脂製のカバーの下に幌が収まっている

ヘッドランプを起点としたフェンダーのラインが、きれいな弧を描いてリアのコンビネーションへとつながる、この時代の911シリーズのスタイリングの特徴が、ほかの911シリーズ以上にきわだっている。ちょっとした思いつきで企画されたモデルとは思えない。

ベースになっているのは、1984年に登場した911カレラ・カブリオレである。この時代の911は、1970年代に起こったスーパーカーブームの影響もあって、日本でポルシェのイメージを定着させたモデルだ。

どことなく古典的で、それでいて未来的でもあり、かなりユニークなスタイルだった。いっぽう、車重はカブリオレより140キロ軽く、たんにスタイルの新奇さを狙ったモデルではないことを証明していた。

ポルシェ911スピードスター

ウィンドシールドの傾斜はカブリオレより強いけれど、本来はもっと小さなものとなるはずだった

大型化する911シリーズに対して、“昔みたいに軽快な仕様が欲しい”という米国を中心とした顧客の要望をもとに、計画がスタートした。しかし開発の過程では、さまざまな苦労があったようだ。

ごく初期は、幌もつけないで、(低いウィンドスクリーンの上から路面が見られるという理由で)ワイパーもなく、快晴日数の多い国や地域(米ロサンゼルスなど)に限定して販売しよう、とポルシェでは考えていたらしい。

ところが実際に開発が進むうちに、ベースになっている911のモデルチェンジが遅れたことで生産調整の計画に巻き込まれたり、輸出先国の安全基準を満たしていないことなどが露呈したりして、いくつもの手直しを加えることになっていった。

ウィンドスクリーンは設計され直し、サイドウィンドーも当初は差し込み式だったのを、通常のクルマのように巻き上げ式へと変更された(この設計がかなり困難だったとか)。当初の、小さな“レーシングスクリーン”はオプションとして用意され、オーナーは自分で交換することになった。というが、私が信頼しているポルシェ専門のメカニックによると、再度取り付けたときの幌やドアとの調整が大変なので、シロウトは手を出さないほうが無難だとか。

ポルシェ356スピードスター

イメージの源泉となった356スピードスター

1989年までの2年間に、2100台を超える911スピードスターが販売され、うち1900台以上が、911ターボと同様の大型フェンダー、ブレーキ、サスペンションシステム、それにフロントスポイラーを持った“ターボルック”である。

そもそものスピードスターの企画といい、自社の“資産”をさまざまに組み合わせることで、新たな魅力をもった商品を作り上げる。ポルシェの巧妙なマーケティングの成果ともいえる。

1994年には、930シリーズの後継となる964シリーズに、さらにそれ以降も、折にふれてスピードスター仕様が設けられているのを見ると、一度ヒットを出すと、ずっと食べられるんだなあと感心する。なにはともあれ、冒頭で書いたように、この初代911スピードスターはいまも私の好きなモデルだ。
(写真=Porsche AG提供)

PROFILE

小川フミオ

クルマ雑誌の編集長を経て、フリーランスとして活躍中。新車の試乗記をはじめ、クルマの世界をいろいろな角度から取り上げた記事を、専門誌、一般誌、そしてウェブに寄稿中。趣味としては、どちらかというとクラシックなクルマが好み。1年に1台買い替えても、生きている間に好きなクルマすべてに乗れない……のが悩み(笑)。

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