インタビュー

池松壮亮×蒼井優「今、逆境にいる人に届いて欲しい」 熱量を込めて撮影した映画『宮本から君へ』

人生最大の試練に直面した時、人はどうするのか。立ち向かうのか、受け流すのか、それともそこから逃げるのか。その試練が自分だけでなく、大切な人の人生も大きく左右するものだったら、答えは変わるのかもしれない。バブル崩壊直前、1990年に誕生した伝説の漫画『宮本から君へ』が、昨年のテレビドラマ化を経て映画化される。ドラマに続き、主人公の宮本浩を演じるのが池松壮亮さん、恋人の中野靖子を演じるのが蒼井優さんだ。

令和元年を迎えた時代にはそぐわない、熱血で正直すぎる不器用な男・宮本の生き様は2人の目にどう映るのか。

劇中では、感情がほとばしる魂のぶつかり合いを繰り広げる2人だが、インタビュー中の会話はとてもおだやか。ドラマ版から映画『斬、』、そして本作と共演が続いているからか、肩の力の抜けたやり取りが心地よく、役との温度差が興味深い。

【動画】池松壮亮、共演者への思いや役作りで歯を抜こうとしたエピソードを語る。蒼井優「歯は大事だよ」(8月22日完成披露舞台あいさつ)

自分に噛(か)み付き、周りを蹴散らす。「宮本ほどかっこいい人に出会ったことがない」(池松)

原作は、新井英樹による人気同名コミック。バブルで浮かれる日本をあざ笑うかのように、熱血営業マン・宮本浩の愚直な生き様を描いた。多くの著名人から愛され、“人生のバイブル”と愛読するファンも多い人気漫画だ。
まず、主人公・宮本の言動をどう思うかを聞いた。

池松 宮本に比べれば、僕は社会に迎合して生きてきたし、感情をより多数派に寄せて、正論に蓋(ふた)をしてきたと思います。宮本は、あれだけ正論を言い、自分の思いを通すために周りを蹴散らして牙をむいている。そして、一番噛み付いているのは、一貫して“自分に”対してなんです。こんなに正しい人が実在しているとしたら教えて欲しいし、ここまでかっこいい人に出会えたことはないですね。

池松壮亮さん

「(原作者の)新井英樹さんはすごく優しい人で、声なき声にまで耳を傾ける人。当時より、今のほうが声を上げたい人たちがたくさんいるはずで、それをピックアップしようとしているんだと思います」【もっと写真を見る】

蒼井 少なくとも、靖子にとってはヒーローだったと思います。あの状況で、プロポーズした瞬間は。でも、もし靖子の心に余裕があったら、宮本をヒーローだと思うなら「落ち着いて!」って言いたくなる(笑)。ヒーロー像って、移りゆくものなのかなと思います。時代じゃなく、その時、その人のホルモンバランスとか、コンディションとかによって変わる。言ってしまえば、その時の自分にとって都合のいい、筋の通った人がヒーローに見えるのかなと思います。

蒼井優さん

「印象的だったセリフは?」という質問に、「『お前が泣いてどうすんの!』と靖子が言うシーンが好きでした」と答える蒼井さん【もっと写真を見る】

文具メーカーで働く営業マン・宮本は、先輩の友人だった靖子と恋に落ちる。靖子には元彼の存在がちらついていたが、宮本は「この女は俺が守る!」と元彼に言い切り、2人は恋人同士に。ある日、営業先で気に入られた取引先との飲み会に、靖子を連れて参加する宮本。その夜、事件が起こる。男のプライドを傷つけ、女の尊厳を踏みにじる出来事に、2人の関係は大きく揺らぐ。

靖子の魅力は、リアルな“女”であること。「自分の物差しで選択している」(蒼井)

原作者の新井英樹は、「女の人に向けた映画です」とコメントを寄せている。不器用すぎる宮本と勝ち気で芯の強い靖子。女性優位にも見える2人の関係は、今の時代らしいカップル像にも見える。

蒼井 私は靖子のようには生きられないですね。靖子の魅力は、男性が描いたキャラクターなのに、女神化されていなくて、きちんと本物の“女”であるところ。物語の中だと、こういう彼女が欲しいな、こんな奥さんが欲しいなという幻想で描かれる女性が多いですけど、靖子はきちんと2人の男性の間で気持ちが揺れ動くし、いい女とダメな女が同居しているバランスがものすごく好きです。
共感できるところをあげるなら、自分自身で選択しているところかな。靖子は、すごく優しいけど、わがままで軽いところは軽くて。でも自分の物差しをちゃんと持っています。いまは、いろいろな人の価値観を知り過ぎる世の中だから、靖子みたいな人は生きづらいんじゃないかと思う。だから、こんな生き方も悪くないって、映画を見た人がちょっと楽になってもらえるかなという気がします。

映画『宮本から君へ』

映画『宮本から君へ』より (C)2019「宮本から君へ」製作委員会【もっと写真を見る】

必死にビンタをしたら、鼻血がポタポタ……

「カロリー(熱量)が高い現場だった」「逆境だらけだった」。2人が声をそろえるのが、撮影現場での過酷な日々。そんな中、宮本と靖子を演じるのが“お互いで良かった”と思える瞬間がたくさんあったそうだ。

池松 蒼井さんで良かったのは全部がそうですが、一番そう感じた瞬間を挙げるとすれば、ごはんを食べるシーンですね。口にいっぱいごはんを含んでしゃべるものだから、ごはん粒が飛んで仕方なかった。宮本と靖子の関係性ありきのシーンですし、まあ、蒼井さんだからいいや、もっとやっちゃえと思ったのは確かです(笑)。後から思うと、女優さんにごはん粒を飛ばしちゃダメですよね。

蒼井 私は、靖子がビンタをするシーンですね。私、人をビンタしたことがなくて、「映るから、ちゃんとたたいてください」って言われて。前の日に家の柱で練習をしました(笑)。ほら、ずれたら悪いから。

池松 蒼井さんは、ドラマでも1シーンあったのですが、実際はたたいてなかった。でも今回は「どうしてもください」ということで。そしたら一発目で鼻血が出た(笑)。

蒼井 必死にビンタして、カットがかかってパッと見たら、血がポタポタって。結構な鼻血で(笑)。その時は、ごめんと思ったし、申し訳ないと思ったけど、池松くんで良かったとも思った(笑)。

、蒼井優さん

「宮本って、足が臭そうじゃないですか。毛嫌いされるけど、絶対足が臭いほうが、かっこいいと思うんですよ」と話す池松さんに、「飲んでた?(笑)」と突っ込む蒼井さん【もっと写真を見る】

撮影2日目に声がかすれる事件。「オールアフレコになるかと思いました」(池松)

宮本を演じるために歯を抜こうとした池松さん。しかし、蒼井さんやスタッフに止められ、マウスピースをして演じることに。劇中、ずっと声がかすれている宮本が印象的だったが、「演出ではなかった」と裏話を明かしてくれた。

池松 毎晩、発声練習をして声をからしました(笑)。というのはうそで、実はかれちゃったんですよ。撮影2日目くらいに。

蒼井 劇団四季の発声でやらなかったからだよね(笑)。

池松 でも同じ量(の演技)をやっているはずなのに、蒼井さんは全然かすれないんですよ。

蒼井 ストレスはすごかったと思うけど、話の流れがつながったのは良かったよね。声がクリアな時とそうじゃない時がないから。あと、現場で聞くより、(映画では)ちゃんと声が聞こえていた。扁桃(へんとう)腺と声帯が腫れて、声も息も漏れまくっていたから、米粒も飛ぶはずだよね(笑)。マウスピースをつけてしゃべるのは難しかったと思う。

池松 オールアフレコになると思ったら、割とそのままいけたので良かったです。

池松壮亮さん

「(蒼井さんとの共演は)よく分からないけど、不思議です。初めて日本映画に出た時も、初めて出演したテレビドラマでも蒼井さんとご一緒しましたし、実家も近いし。何年かに1回は会うし、『行くぜー!』みたいな時に2本連続でやっているし。何かこう、あるんでしょうね」【もっと写真を見る】

「“憎まれっ子世にはばかる”みたいな瞬間が来たと思いたい」(池松)

スマートやクールに生きることが重視されがちないまの時代に公開される、圧倒的な“人間臭さ”と“不器用さ”、“執念”がむき出しになった物語。強烈なエネルギーのぶつかり合いに心が震える。人生最大の試練に立ち向かい、打ち破る2人の姿は、見る人にどんな思いを湧き立たせるのか。

蒼井 撮影中は、HP(体力)が残っていない状態でずっと演じていました。どうやって使い切った体力と気力を復活させるか、毎カットごとに祈るような思いでした。ずっと重量挙げをやらされているような感じで、横で一生懸命重量挙げている人がいるから、私もやるけど、みたいな(笑)。自分の人生があと何年あるか分からないけど、残りの人生を2時間に収めた感じで、その熱量が何千分の1でもお客さんに伝わればいいと思っています。

池松 僕は90年生まれで、原作も90年に描かれています。いろんな人から毛嫌いされ、疎まれ、煙たがられた宮本が、いよいよ“憎まれっ子世にはばかる”瞬間が来たと思いたい。映画を撮り終わった今も、決してスカッとはしないし、挑めば挑むほど、望めば望むほど、無力感は増す一方なんです。宮本はケンカに勝ったけれど、事実は変えられない。ただ、宮本の力を借りて、靖子の痛みは半分だけは取れたんじゃないかなと思う。そういうことが今、逆境にいる人に届けばいいと思っています。
この映画から、突出して社会に投げかけたい言葉はありません。ただ、日々を生きること、誰かを思うこと、愛すること。そういうことに少しでも立ち向かっている迷える同士や先輩、未来の人に、『宮本から君へ』って結構いいかもよ、面白いかもよと伝えたい。そういった人に向けて作った映画なので、そこを見て欲しいですね。

(文・武田由紀子 写真・花田龍之介)

蒼井優さんと池松壮亮さん

右・池松壮亮さん(スタイリスト:HIDENORI NOHARA/ヘアメイク:FUJIU JIMI )、蒼井優さん(スタイリスト:ARISA TABATA/ヘアメイク:CHIE ISHIKAWA)【もっと写真を見る】

映画『宮本から君へ』作品情報

キャスト:池松壮亮、蒼井優、井浦新、一ノ瀬ワタル、佐藤二朗、松山ケンイチ
監督:真利子哲也
脚本:真利子哲也、港岳彦
原作:新井英樹 『宮本から君へ』 百万年書房/太田出版刊
主題歌:宮本浩次「Do you remember?」(ユニバーサルシグマ)
配給:スターサンズ/KADOKAWA
(C)2019「宮本から君へ」製作委員会
9月27日(金)新宿バルト9ほか全国ロードショー
公式サイト:miyamotomovie.jp

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