LONG LIFE DESIGN

『つづくをつくる』から4話

今年の6月、『つづくをつくる』というタイトルの本を出しました。これはロングセラーを持つメーカーを訪ね、その秘訣(ひけつ)や理由を「つくる」「売る」「流行」「つづく」という四つの視点で取材したものをまとめたものです。

6月に出版された僕の最新本です。今回はこの中からご紹介します

6月に出版された僕の最新本です。今回はこの中からご紹介します

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グラフィックデザイナーである僕としては、どうしてもロングセラーのものは「デザイン性」、特にパッケージデザインの話になりがちで、そのデザインの遍歴などが取り上げられることが多いのですが、やはり商品ですので、営業の人の工夫や、創業者のこだわりなど、「デザイン以外」のものがあるはずで、取材をしてそれらにたくさん出会いました。

「つくる」とは、そもそもどうやってロングセラーとなるものを作ったのか。そして「売る」は、具体的にロングセラー商品になるためには売り場とどう連携しつづけているのか。そして「流行」では、それをどう利用するのか、はたまたかわすのか、そもそも流行などに乗ってしまえばそれが終われば販売の波も終わるわけで、そこをどう考えているのか。そして最後の「つづく」とは、つづく状態、ファンへのケア、商品力がつづくように何を心がけているかなどを聞き出しました。

今日はその本の中から4話、特別に取り上げてみたいと思います。

1・ふくや(福岡・味の明太子)

「つづくをつくる」(日経BP社)より

「つづくをつくる」(日経BP社)より

【つくる】明太子の生みの親なのに、特許をとったりしない

最近、映画にもなった「ふくや」さん。博多明太子の生みの親です。苦労して生み出した作り方ですが、周りのひとに聞かれるとおしげもなく教えたそうです。こうして博多中に広がり、名物になったわけです。面白いエピソードがあります。ふくやに基本的な作り方を教わったある明太子屋さんが、独自の明太子を生み出し、その製法を特許申請しようとしたときのこと。周りの同業者から「そんなこと、ふくやさんに恥ずかしいからやめなよ」といわれ、やめたそうです。おしげもなく教えたことで、地域の名物となり、その土地に行くと必ず買って帰るものになっていったわけですね。

【売る】独自の店舗デザインはしない

普通はブランド展開する時は、自社ブランドとすぐにどこででもわかるよう、デザインを統一します。例えば、ブランドカラーが黄色と赤のマクドナルドなら、どこにいってもそれを使い、一目でわかるようにします。しかし、ふくやさんは違います。ネオンがまぶしい繁華街には、華やかで明るい店舗。景観条例の布かれている美しい町並みの場所では、その町並みに馴染(なじ)むもの。つまり、自己主張するのではなく、その土地に馴染み、溶け込むデザインにしています。長くつづいているのはその町そのもの。ならばその町の景色になってこそ、ずっと長い関係性がつくれる。すごいですね。

ふくやの店舗

繁華街にある「ふくや」の店舗

ふくやの店舗

町並みに溶け込む「ふくや」の店舗

【つづく】地元で続いて欲しいものを応援する

ふくやはずっと「博多祇園山笠」のスポンサーをしています。町に長くつづいているもの、つづいて欲しいとみんなが願うものに対して、積極的にサポートしていました。博多に暮らすみんなにとって、山笠の何かで「ふくや」の文字を見つけると、それは単なる広告ではなく、「町の“つづく”に加わりつづける意識」と感じるでしょう。なかなか商売の厳しいご時世に簡単なことではないと思います。

 

2・カリモク家具・Kチェア(愛知県・家具)

「つづくをつくる」(日経BP社)より

「つづくをつくる」(日経BP社)より

【つくる】業務用品のようにつくる

この椅子のデザインは、徹底したコストパフォーマンス発想から出てきた形。もっと簡単に言うと「材料の取り都合(歩留まり)」から出てきたそうです。新幹線のデザインも「空力実験」の結果で左右されると聞きましたが、ちょっと似てますね。つまり、人間の造形というよりも、合理性から浮き彫りになってくる形なんですね。そして、売り先は自衛隊とか中小企業の応接間。さっぱりとした見栄えと、価格が安くて座り心地がほどよくあり、修理も買い足しもすぐにできる。なかなか優れた木製家具です。

【流行】取材を受けるときの言葉に気をつけた

この家具は1962年のデザイン。そして、この椅子が再登場した2000年ごろといえば、全国「レトロブーム」でした。しかし、この椅子については、雑誌から取材を受ける前に「NGワード」を先に提示しました。それが「レトロ」でした。レトロブームなのだから「レトロ」とつければブームに乗り信じられないほどの売り上げになったかもしれません。しかし、この言葉を意識的に避けることでブームを避け、今もつづくロングセラーとなりました。もし、あのとき、「レトロ」と言う言葉を記事中にちりばめていたら、この椅子はずっと「レトロ」というマーケットの中で語られる、一部のレトロ趣味な人の椅子となっていたでしょう。

 

3・キャンパスノート(大阪・ノート)

「つづくをつくる」(日経BP社)より

「つづくをつくる」(日経BP社)より

 

【売る】販売店の什器に合わせたデザイン

表紙のキャンパスノートの文字は横になったり縦になったり時代によって変えていますが、これは販売店の什器(じゅうき)の様子からでてきたアイデア。自分たちの都合でモデルチェンジなどしていません。この辺り「業務用」の発想と一緒ですね。

【つづく】みんなの嫌いをなくしてつくる

このノート、とにかく徹底した販売店、ユーザー目線でつくられました。それらも含め、リサーチを膨大にするわけですが、「好評」なことは置いておき、「不評」なことを徹底的になくしていく。「好き」を伸ばすのではなく「嫌い」をゼロにしていくという作業から生まれていました。コクヨ側は「みんなのことを聞き取り」する。そして、それをそのままデザインに落とす。「国民のノートをつくる」という言葉も出てくる通り、「みんなの“嫌い”がない」ことが特徴。社内にデザイナーがいますが、とにかくこの商品に関しては、担当することに決まると緊張が半端ないそうです。とにかく責任重大。大役です。しかし、おもしろいのは、デザイナーとしての個性を出すのではなく、リサーチの結果に基づきバランスを整える。これももちろんデザイナーの大切な仕事。「みんなで決める」的で、なかなかいまっぽい創造のやり方でした。

 

4・一澤信三郎帆布(京都・カバン)

「つづくをつくる」(日経BP社)より

「つづくをつくる」(日経BP社)より

【つくる】架空のターゲット設定を一切しない

普通の量産の商品開発は「ターゲット」と呼ばれる人を架空に想定します。30歳・男性、年収400万……みたいな。そして、その人のライフスタイルを調べ、「多分、こういうものが欲しいハズ」としてつくります。しかし、一澤信三郎帆布では、一切それをしていません。店頭に来た人のリクエストを聞いたり、面白い特注にはとことん付き合い、その人とこの世でひとつのかばんを完成させ、その後も改良を重ねて改良するところがなくなったら「そろそろ商品と呼ぼうか」みたいなことでした。そもそも世の中の有名な椅子や家具は、ひとりの施主の例えば「ダイニングセット」だったわけです。いまのように、最初からできている家具が少なかったとも言えますが、誰かの特注品が後に量産されることが多く、一澤さんもそこにこだわっていました。
もうひとつ、おもしろかったのは、「デザイナーに頼まない」ということ。40人近くいる職人は全員、全商品をつくれるそうです。なので型紙はありますが、廃番という発想がなく、いつでも誰でもどんな商品でも「修理」ができるそうです。いや、自身のブランドの大きさを熟知した哲学。参りました。

【つづく】京都から出ない

一澤さんのところは直営1店舗のみ。ネット通販すらやっていません。理由を聞くと「誰だか知らん人に売ってもつまらん」とのこと。一日中パソコンの前に座ってもらうその従業員に気の毒……という話も出ました。「不自然なことはしたくない」と一澤さんはきっぱり。人の手に負えなくなるようなことは、とことんしたくないそうです。なので、結果として「明太子のふくや」さんのように、一澤さんのカバンは京都を代表する商品となり、いまでは海外からのお客様で休みの日に限らず、平日も店は大盛況でした。

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PROFILE

ナガオカケンメイ

デザイン活動家・D&DEPARTMENTディレクター
その土地に長く続くもの、ことを紹介するストア「D&DEPARTMENT」(北海道・埼玉・東京・富山・山梨・静岡・京都・鹿児島・沖縄・韓国ソウル・中国黄山)、常に47都道府県をテーマとする日本初の日本物産MUSEUM「d47MUSEUM」(渋谷ヒカリエ8F)、その土地らしさを持つ場所だけを2ヶ月住んで取材していく文化観光誌「d design travel」など、すでに世の中に生まれ、長く愛されているものを「デザイン」と位置づけていく活動をしています。’13年毎日デザイン賞受賞。毎週火曜夜にはメールマガジン「ナガオカケンメイのメール」www.nagaokakenmei.comを配信中。

ながくつづく雑談 5話

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