いしわたり淳治のWORD HUNT

『偽装不倫』主題歌「us」で到達した高み miletの時代、幕開けの予感

音楽バラエティー番組『関ジャム 完全燃SHOW』(テレビ朝日系)で披露するロジカルな歌詞解説が話題の作詞家いしわたり淳治。この連載では、いしわたりが歌詞、本、テレビ番組、映画、広告コピーなどから気になるフレーズを毎月ピックアップし、論評していく。今月は次の5本。

1 “好きだと言ってしまえば 何かが変わるかな”(milet「us」/作詞:milet・TomoLow・Yui Mugino)
2 “位置覚
3 “どんなものを食べているか言ってごらん。君がどんな人間か当ててみせよう”(ジャン・アンテルム・ブリア=サヴァラン)
4 “パーマ当ててるって聞いて嫌いになった”(有吉弘行)
5 “動物のなかで料理をするのは人間だけ”(料理研究家・土井善晴)

最後に日々の雑感をつづったコラムも。そちらもぜひ楽しんでいただきたい。

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いしわたり淳治 今気になる五つのフレーズ

 

『偽装不倫』主題歌「us」で到達した高み miletの時代、幕開けの予感

miletと書いて「ミレイ」。初見では読むのがなかなか難しいアーティスト名であるが、令和の「レイ」はmiletの「レイ」ではないか、というくらいにこの令和元年が、これから始まるであろうmiletの黄金時代の幕開けのように感じている今日この頃である。

これまでの彼女の作品は良くも悪くも、彼女自身のミステリアスな雰囲気も相まって、とても格好が良かった。格好いいというのは当然、いいことでもあるのだけれど、どうしてもとっつきにくい感じがしてしまうものだ。

事実、これまでの彼女の歌は、聞き手が歩み寄っていかなければ意味をつかみにくいものも多かった。その感じはどこか、前述のアーティスト名自体からも漂っているように思う。

コメディータッチで描かれた日本テレビ系ドラマ『偽装不倫』のOPテーマ曲だった「us」。これまでのmiletのアーティスト性から考えると、なかなか難しいタイアップだったろうと思う。でも、彼女は「好きだと言ってしまえば 何かが変わるかな」という、誰もが一聴して分かるまっすぐな言葉を、これまで彼女が持っていた「格好いい」雰囲気を1ミリも損なうことなく、美しく、クールに歌い上げた。

彼女の方から、ここまで聞き手に歩み寄った歌を歌っても、彼女の格好よさはまったく揺るがない、それが証明されたターニングポイントになるだろう一曲という感じがする。

このタイアップで、彼女は大きな翼を手に入れた気がする。この翼があれば、この先どんなに高いステージへも自由に羽ばたいていけるのでは。そんな予感がするのである。

 

『偽装不倫』主題歌「us」で到達した高み miletの時代、幕開けの予感
部屋の中を歩いている時にテーブルの脚に足の小指をぶつけて悶絶(もんぜつ)した経験は誰しもあると思う。それは脳の「位置覚」という感覚が、原因なのだそうだ。「位置覚」を調べてみると「体感と四肢の関節における屈伸状態を感受し、その位置、動きを察知する感覚」とある。つまり、自分の体が今この瞬間、どういう状態で、どの位置にあるのかを、脳が察知する感覚である。

この位置覚が大半の人はずれているらしい。そのずれがどれくらいかというと脳が認識しているよりも実際の体が1センチ程度外側にあることが多いのだそう。1センチの誤差、つまり「足の小指一本分」の誤差である。だから、通れると思った幅の隙間で足の小指をぶつけてしまうのだそうだ。

これは身体の話だけれど、同じことは心の中にも言えるような気がするなと、ふと思った。ぶつからなくてもいいところで、誰かとぶつかって、必要以上にもめている人がたまにいる。これは“心の位置覚”みたいなものがずれているからなのではないだろうか。特に普段から「自分を大きく見せている」ようなタイプは、黙ってすれ違えばいいところで、無駄に人とぶつかって、もめている気がする。

自分という人間のサイズを見誤らず、正確に認識していることが、人間関係における衝突をすり抜けるためには大切なのかもしれないと、なんとなく思った。

 

『偽装不倫』主題歌「us」で到達した高み miletの時代、幕開けの予感

19世紀に『美味礼讃』を著した美食家ブリア=サヴァランの名言。私は最近この言葉を知ったのだけれど、なるほどこれは言い得て妙だなと思った。

会話に困った時に「好きな食べ物は何ですか?」なんて、おざなりな質問をする人がたまにいるけれど、そんな凡庸な質問で会話が盛り上がることは、ほぼない。でもこれは、もしかしたら好きな食べ物を聞くからいけないのかもしれない。好きな食べ物ではなく、「あなたがよく食べるものって何ですか?」と聞くことは、相手のことを知る意味では、いい質問だと思うのだ。

その答えが、「週7でタピってます〜」と言われたら、この人は流行(はや)りに躊躇(ちゅうちょ)なく乗っかれるタイプなんだなあと思うし、「セブンイレブンの『しっとりバタースコッチ』です」と言われたら、ああ、食事を菓子パンだけで済ませられるタイプなんだなと思うし、「サラダチキンとプロテインです」と言われれば、家ではタンクトップなのかしらと思うし、「ストロング系の缶チューハイっすねー」と言われたら、こりゃあ相当ストレスがたまっているなと思うし、「オーガニック野菜を取り寄せて毎日必ず自炊しています」と言われたら、これはこれで大変そうなタイプだなと思う。

好きな食べ物というのは、どこか「鏡に映った自分の顔」みたいな感じがする。鏡の前では人は誰しも、大なり小なり気取っていて「ちょっと意識した表情」をしているものだ。周りの人がいつも見ている、本当の意味の「普段の自分の顔」は鏡では見ることが出来ないのである。

意識して食べている好きな食べ物よりも、なんとなくいつも食べてしまう食べ物のほうに、その人の個性が顕著にあらわれている気がする。ちなみに、私が好きな食べ物は「焼き肉」だけれど、普段よく食べているのは「雪印のさけるチーズ、プレーン味」である。ほら、やっぱりこっちの方がなんだか話が広がりそうな気がしません?

 

『偽装不倫』主題歌「us」で到達した高み miletの時代、幕開けの予感

根っからのカープファンである有吉さんをあの手この手で巨人ファンにしようという番組、日本テレビ系『有吉×巨人』の9月12日放送の最終回。今までで印象に残った選手は誰だったかという話で、有吉さんは「亀井選手は、はえぬきで、嫌な目にも結構あってきたから、かわいそうだなってずっと思ってたんだけど、この番組で“パーマ当ててる”って聞いて嫌いになった」と笑って言った。

いや、これ、ちょっとわかるのだ。自分も野球をやっていたからなおさらわかる。野球というのは、常に帽子かヘルメットをかぶっているスポーツなので、当然、帽子の中で髪の毛はぎゅうぎゅうに圧縮され続けていて、おしゃれパーマも何もあったものじゃない。帽子をとった時の悲劇を考えると、パーマなんか当てる意味がわからないのだ。

私自身、学生時代は坊主頭で野球をしていたから何も感じていなかったのだけれど、大人になって髪を伸ばすようになって、自分が結構な天然パーマだとわかって、草野球を始めた時、自前の天然パーマに押し出されて帽子がやけに脱げやすくてイライラした経験がある。とにかく、パーマと帽子は相性が悪いのである。

でも、高校球児が有無を言わさず全員坊主頭なのは理不尽だなあと昔から思っていたから、最近、髪形自由の高校が甲子園に出ているのを見ると、本当によかったなあ、とつくづく思う。髪の毛なんか伸ばしたっていいじゃないか。何なら染めたっていい。でも、パーマはちょっと違うんだよなあ。ましてやプロ野球選手ともなると、この人はプロなのに、野球をしていない時をメインで考えて、この髪形にしているんだなぁと思ってしまうのである。

 

『偽装不倫』主題歌「us」で到達した高み miletの時代、幕開けの予感

至極当たり前だけれど、これを聞いてなるほどと思った。もしも何の調理もしなかったら、私たちは、この世にある食材のうち、いったいどれだけのものをおいしく、安全に、食べることができるだろう。いかに料理というものが、人間にとって大切な営みであるかに気づかされる。

なんてことを考えていたら、ふと「猫舌」というのは、おかしな言葉なのだなと気づいた。料理をする、つまり火を使う動物は人間だけなのだから、口に入れて「熱い!」と感じるような温度の食べ物を口に入れる動物は、地球上で人間だけなのだ。つまり、人間以外の動物はみんな猫舌に違いない。猫舌、それは正しく言い表すなら、「野性舌」なのではないかしら。

<mini column> プレゼントのセンス

先日、誕生日を迎えて42歳になった。その日、4歳の息子がSuperflyの『愛をこめて花束を』を歌いながら花束をプレゼントしてくれた。聞くと、一本ずつ自分で花を選んだのだそう。つたない歌唱と不思議な色合いの花束がとても愛らしい。

「他にもプレゼントがあるんだよ!」と息子が顔をキラキラさせて、次に手紙を差し出した。紙いっぱいに覚えたばかりのいびつなひらがながジグザグに並んで、だいすき、あいしてる、といったことが何度もくりかえし書かれていた。

すると、「まだ他にもあるんだよ!」と言って、今度は自作の歌を歌いながら、息を切らしてダンスを踊ってくれた。2分以上ある大作で、歌詞はおおむね手紙と同じ内容の、ものすごくストレートなラブソングだった。ありがとう、とってもうれしいよ。息子を抱きしめて、その小さな肩であふれてくる涙をそっと拭った。

でも、いいかい。ひとつだけ教えておくよ。誕生日に花束と自作の歌を贈るようなタイプは相手に嫌われやすいんだぞ。と、心の中でとなえた。

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ロジカルな歌詞分析が話題の作詞家いしわたり淳治さんが、歌詞、本、テレビ番組、映画、広告コピーなどから気になるフレーズをピックアップし、論評していきます。

PROFILE

いしわたり淳治

1997年、ロックバンドSUPERCARのメンバーとしてデビュー。全曲の作詞とギターを担当。2005年のバンド解散後は、作詞家としてSuperfly、SMAP、関ジャニ∞、布袋寅泰、今井美樹、JUJU、少女時代、私立恵比寿中学などに歌詞を提供するほか、チャットモンチー、9mm Parabellum Bullet、flumpool、ねごと、NICO Touches the Walls、GLIM SPANKYなどをプロデュース。現在オンエア中のコカ・コーラCM曲「世界はあなたに笑いかけている」(Little Glee Monster)や、情報番組『スッキリ』(日本テレビ系)のエンディングテーマ曲「Electric Kiss」(EXO)の作詞も担当するなど、さまざまな音楽ジャンルを横断しながら通算600曲以上の楽曲を手掛ける。

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