CROSS TALK ―クロストーク―

休日課長×花柳凜 葛飾北斎を見て進化したベーシストと、日本舞踊をカジュアルにする舞踊家

人気ロックバンド「ゲスの極み乙女。」のベーシスト休日課長さん。日本舞踊の最大流派「花柳流」の師範免許を21歳で取得した、舞踊家の花柳凜さん。今回の「クロストーク」はジャンルの異なる表現者2人による対談です。

トークテーマは次の二つ。それぞれの対談を&Mと&wに掲載します。

休日課長×花柳凜 葛飾北斎を見て進化したベーシストと、日本舞踊をカジュアルにする舞踊家

一度ラジオ番組で共演して以来、プライベートでも親交が深いという2人。これまで仕事の話をじっくりしたことがなかったそうで、対談は仕事のこだわりをぶつけ合う展開に。互いに知らなかった一面がどんどん飛び出し、あっという間に1時間が過ぎました。一つの舞台のようにも思える息がぴったりの2人のトークをご堪能ください!

 

休日課長×花柳凜 葛飾北斎を見て進化したベーシストと、日本舞踊をカジュアルにする舞踊家休日課長×花柳凜 葛飾北斎を見て進化したベーシストと、日本舞踊をカジュアルにする舞踊家

休日課長×花柳凜 葛飾北斎を見て進化したベーシストと、日本舞踊をカジュアルにする舞踊家
休日課長(きゅうじつかちょう)

ベーシスト。2012年、川谷絵音に誘われ「ゲスの極み乙女。」に加入。14年までは一般企業に勤めながら、バンド活動を展開。17年に「DADARAY」、18年に「ichikoro」にベーシストとして加入。

休日課長×花柳凜 葛飾北斎を見て進化したベーシストと、日本舞踊をカジュアルにする舞踊家
花柳凜(はなやぎ・りん)

日本舞踊家。幼少期より、祖父、故花柳稔に師事。2歳で初舞台。2006年、16歳で名取免許取得。11年、21歳で師範免許取得。豊かな表現力と、古典を重んじた繊細かつ伸びやかな技術で注目を集める。音楽やアートとのコラボレーションなど、ジャンルを超えた活動も展開する。

 

伝統芸能を“カッコよく見ようとする”空気を壊したい

休日課長×花柳凜 葛飾北斎を見て進化したベーシストと、日本舞踊をカジュアルにする舞踊家

花柳凜(以下、凜) 今だから正直に言いますけど、課長さんって初対面で「ウェ~イ!」って言いそうな人だなと思っていました。今どきの売れてるミュージシャンはそういうノリなのかなって勝手なイメージで(笑)。けど、実際は腰が低いし、優しいし、めちゃくちゃ紳士。私は謙虚な人ほどすてきだと思います。課長さんがカッコいいと思うのはどんな人?

課長 いろいろありますが、一番はこだわりのある人ですね。仕事でも趣味でも、何でもいいんですよ。「そうめんはこの店でしか食べない。なぜなら……」って。そう、その「なぜなら」が語れるくらいだといいですね。

 ああ、わかる! 何事もおおざっぱに見える人が、ふとした瞬間にとんでもないこだわりを発揮したりするのもすてきですよね。

課長 そうそう、グッときます。凜さんも職業に対するものすごく強いこだわりがあるじゃないですか。YouTubeで凜さんが海外の方に向けて日本舞踊を紹介する動画を見て、何百年も続く伝統を背負っている人の言葉の重みを感じました。

でも、舞台の上でそういう思いを口にすることはないし、プライベートでお会いしたときも、仕事のこだわりなどを聞いたことがない。私はわりと何でも話してしまうたちなので、やっぱり内に秘めている人は全然違うなと。あっ、「秘めている」ってカッコよくないですか!?

 いいですね(笑)。見えない努力とか、こだわって積み重ねてきたことが外に滲み出たものこそカッコよさだと思います。

課長 私ね、凜さんの舞台に足を運んだとき、びっくりしたんですよ。「人ってこんなにゆっくり動くんだ」とか、「360度、どこから見ても美しいってすごいな」とか、とてつもない稽古や努力の結晶を目撃した気がして。それでこの舞台をもっと多くの人に見てもらいたいと思ったのですが、格調の高さみたいなものから遠慮してしまう人も少なからずいると思うんです。たとえばお酒飲みながら見たりするのはダメなんですか?

 私もそれはありだと思っていて。伝統芸能って、お客様がカッコよく見ようとしちゃうんです。たとえば劇場にはスーツで行かなければならないとか、知識がなくちゃいけないとか。そういうものに縛られて楽しむ余裕がなくなってしまっている。どこで拍手したらいいかわからなくてガチガチになっていたりしますから。

課長  あ、確かに私も拍手のときは迷いました……。

 そんなこと考える必要は全然ないんです。だって、音楽ファンはライブで感情をむきだしにして楽しむでしょ? 日本舞踊ももともとそういう風に楽しまれてきた文化です。私、これまでいろいろなミュージシャンとコラボさせてもらいましたが、熱狂するファンの方々を見て思ったんです。日本舞踊に対するお客様のリアクションも、昔はこういうものだったんだろうなって。

それなのに、「伝統芸能」とか言われるようになってからは、魂で楽しむことより、「楽しみ方」のようなものが意識されるようになってしまった。本当は、お酒を飲んで寝転んでいたり感情全開で見ていただいたりしてもいいと思うんです。

休日課長×花柳凜 葛飾北斎を見て進化したベーシストと、日本舞踊をカジュアルにする舞踊家

課長 なるほど。でも、凜さんがそういうこと言って大丈夫なんですか? 花柳流は日本舞踊の五大流派の一つでしょ。どちらかというと、そういうスタイルを崩しちゃいけない立場なのかなとも思うのですが。

 いえ、崩すんじゃなくて、“戻す”んです。伝統芸能って、数百年の歴史の中で、あらゆる天才たちが「これはカッコいい、これはカッコ悪い」って必要な要素を取捨選択してきた結晶なので、もはや何をする必要もないほど洗練されています。それが庶民にカジュアルに親しまれていました。私はその原点に戻したい。現代の堅苦しいスタイルから、小屋でお酒を飲みながら楽しむ江戸時代のスタイルに戻す、つまりやり方ではなく見方を変えたい。

課長 小屋って良い響きですね。そこでお酒を飲みながら見たら、舞踊家とオーディエンスの距離ももっと近くなりそう。

 でも、心配事もあって……。課長さんは、ファンの人たちとの距離も近いし、厳しい意見をもらうこともあるでしょ。実際どうですか? 私、こんなこと言っておいて、結構メンタル弱くて(笑)。

課長 ファンの方に限らず、厳しい意見をいただいたときは、それについて考察し、変える必要があると思ったことは変えます。ただ、好きで音楽やっているので、好きだったり大切にしていたりする部分はなかなかブレることはないかなと思います。何かしら思うところがあれば、すぐ試してジャッジすることができますしね。

はやりの“型”をそのまま使うのはカッコ悪い

休日課長×花柳凜 葛飾北斎を見て進化したベーシストと、日本舞踊をカジュアルにする舞踊家

 課長さんは、「売れる」ということは意識していますか? 伝統芸能の世界にいると「売れなきゃいけない」という感覚があまりなくて、細々とでいいから、100年先、200年先……とにかく自分が死んだ後にもこのすばらしい文化が残っていれば、それがゴールだと思っています。

ミュージシャンにも同じような感覚はあると思いますが、それと同時に「売れなければならない」というプレッシャーもある気がして。そこはどうバランスを取っていますか。

課長 うーん、正直あんまり考えていないかも。今はとにかく、自分がカッコいいと思うものを作るしかないと思っています。私は何かしらキャッチーな要素が入った音楽が好きで、特にはやりのテンプレート(手法)を使わずにキャッチーさがあるものが好きなんです。その先に「売れる」ということがあるのかもしれないけど。

 

休日課長さん

 そう考えると「カッコいい」って難しいですね。自分がそう思ったことが、運良くヒットする人もいれば、先鋭的な表現をしているのに多くの人が理解できない地点に到達しているゆえに「売れない」人もいるわけで……。

課長 でもやっぱり、世の中にはこだわり抜いたものや、普段からこだわっている人が生み出したものが残っていると思います。音楽の世界でも、トレンドや“型”を作った人は文句なしにすごい。一方で、そのテンプレートをただ単に使っているだけの人たちは、深みがないからすぐに飽きられてしまう。音楽を聞いて「またこの感じか」みたいな感覚を覚えることもあります。私は自分が考え抜いたことを形にすることにこだわりたい。

 課長さんのこだわりってどんなものですか?

課長 いろいろありますが、一番のこだわりは「音色(おんしょく)」ですね。同じドレミファソラシドでもピアノとギターでは聞こえ方が違うように、音には“色”があります。ベースでいえば、弦への指の当て方や、指を振り切る角度など、音ごとに弾き方を変えていくことでさまざまな音色を表現できます。自分なりにベースラインをアレンジしようと思うと、音の鳴らし方が大事になってくる。

休日課長×花柳凜 葛飾北斎を見て進化したベーシストと、日本舞踊をカジュアルにする舞踊家

 どうしてそれを意識するようになったんですか?

課長 きっかけは数年前に葛飾北斎の展示を見たことで……。

 えっ!? 北斎?

課長 はい。その会場には北斎の作品が展示してあって、線画から色彩豊かな版画に移り変わったところで打ちのめされたんです。「これ、音楽も一緒じゃん」って。

つまり、ドレミファソラシドなどのメロディーラインが「線」で、楽器の種類や奏で方によって変わる音色を「色」と置き換えた場合、私が北斎の「色」に魅了されたように、「音色」というものは聴き手の直感に訴えかける力があるのではないかと考えるようになったんです。聴き手が「この音、カッコいい」と思う理由が音色にあるのなら、これはこだわらないといけないなと。それからさまざまな弾き方を試すようになりました。

 なるほどなあ。しかも課長さん、全て独学なんですよね。日本舞踊には必ず師匠がいるので、独学なんて想像つかない。すごいことだなって思います。

課長 私の場合はベースを弾き始めてすぐに良い考え方に巡り合えたのが大きかった。教則DVDで江川ほーじんさんが、「エレキベースの歴史はそれほど長くないから、正しいフォームはない」といったことをおっしゃっていて、気持ちが自由になったんです。大事なのはどういう音を出したいか、それにあったフォームを己で追求する。ベースには伝統芸能のように流派はないし、自分なりのやり方でとことん練習するしかないと。

 いや……そうは言っても、何が正解かわからない世界に突き進んでいくわけですよね。本当に尊敬します。

課長 みんながそれぞれ偏った方法で練習しているから、いびつなカッコよさがたくさん出てくるのかなと。日本舞踊は稽古の仕方が決まってるんですか?

 私は祖父(花柳稔)が師匠で、祖父の教えが全てのベースです。舞踊ってとにかく体幹が重要で。頭の上に本を乗せて、その上にコップを置いた状態で、「はい、1時間歩きなさい!」みたいな。「えー! 無理でしょ!」って思いましたけど(笑)、それが徐々にできるようになっていくんです。

課長 すごいな。私、ベースを始めてすぐ頭にコップを乗せられた状態で弾けって指導されたら、音楽を続けていたかどうか……。挫折していたかな……。

 何を鍛えるんですか、それ(笑)。

課長 いや……冗談です、すみません(笑)。

休日課長×花柳凜 葛飾北斎を見て進化したベーシストと、日本舞踊をカジュアルにする舞踊家

 でもね、さっきの課長さんの北斎の話を聞いてハッとしたんです。日本舞踊もベースと一緒で、稽古場の外からの刺激が非常に重要だなと。それこそ絵を見たり自然を見たり、良い恋愛をしたり友人と遊んだり。そういう経験が豊かな表現を支えることになりますから。

課長 幅広い人生経験が表現の引き出しを増やすことにつながるというか。

 そうなんです。人との出会いと別れを経験しなければ出来ない表現がたくさんあって。私は祖父母が亡くなって命の重みや家族のありがたみを知りましたし、それを理解した人間の表現でないと、お客様にはきっと何も伝わらない。だから稽古場以外の経験って本当に大事なんです。

課長 ちなみにミュージシャンや他の業界のクリエーターとコラボするのも、新しい経験じゃないですか。そういった活動は自ら積極的にやっているんですか?

 いや、全然。たとえばサカナクションさんのMV(「夜の踊り子」)に出たのは、踊りの先輩に声をかけられたのがきっかけで。あれ、富士山の麓(ふもと)で24時間かけて撮影したんですよ(*)。

*当該楽曲のMVは、富士山の麓でサカナクションのメンバーが演奏し、そのかたわらで花柳さんら日本舞踊家2人が舞う様子を離れた場所からカメラが撮影し、徐々に近づいていくという演出方法が採用されている。https://www.youtube.com/watch?v=2I25AFSBm2g

課長 24時間!

 カメラの位置を固定したままズームにしていくことが出来ないらしく、数秒撮っては、一旦演奏を止めて、カメラの位置を前にずらして再び撮影する、ということの繰り返し。だから、めちゃくちゃ時間がかかっています。私はカナブンまみれで、撮影が止まるたびに先輩がガシガシ取ってくれました(笑)。

課長 そりゃまたハードな撮影ですね……。でも、今後もそういうオファーが来そうな気がするな。日本の伝統芸能って海外のクリエーターで興味を持ってる方が多いイメージです。凜さん的にはコラボはあまり興味ない?

 う~ん、どうかな。今まで舞台至上主義で来ましたからね……。日本舞踊って360度あらゆる方向から見せる芸能なので、映像作品のように正面だけ撮られることにものすごくストレスを感じることはあります。「前面だけ撮っても、舞踊はわからないよ!」って。課長さんでいえば、レベルの低いオーディオ機器で自分の作品を聴かれるようなものかもしれない。

課長 それは確かにつらいですね。

 とはいえ、いわゆる映像作品でも舞踊の魅力を伝えられるようにしないと、この文化はきっと残らない。そういうジレンマもあって……。将来的に日本舞踊が消えてしまうことが一番つらいことなので、最近は柔軟に考えるようにしています。現代的なものとの融合を考えたり、そういうことを積極的にやろうとする若い子を育てたり。

休日課長×花柳凜 葛飾北斎を見て進化したベーシストと、日本舞踊をカジュアルにする舞踊家

課長 たとえばVRとの融合などは、今いろんな分野で言われていますよね。

 そう、私もそれにすごく興味があって。VRで祖父をよみがえらせたいんです! そうすれば、きっと日本舞踊の面白さがもっと多くの人に伝えられる気がして。

課長 なるほど! それができたらめちゃくちゃ面白い。日本舞踊の原点の話やお祖父様のお話をうかがったこともあって大変興味深いです。

 でしょ! これも私にとっては“戻す”こと。伝統芸能は完成された原点に立ち返ることが大切だと思っています。

(構成/&M編集部 下元 陽 撮影/南 阿沙美)

 

トークはまだ続く

&M用の1時間の対談を終え、休憩時間へ。2人とも話し足りない様子で、休日課長さんからは「お酒を飲みながら話したい(笑)」と本音がぽろり。休憩の後は&w用の対談。互いのルーツやライフスタイル、創作の秘密などを語り合います。

★対談の続きはこちら
花柳凜×休日課長 表現者の2人が語る大切なライフスタイルとは?

バックナンバー

<01>MIYAVI×諏訪綾子 
&M:トップアーティスト2人が語る「カッコいい」の本質 
&w:トップアーティスト2人が語る 「学ぶことは生きること。生きることはあじわうこと」

<02>田我流×西加奈子
&M:「しなやかさ」と「狂気」に宿るカッコよさ
&w:表現者の2人が語る大切なライフスタイルとは?

*次回は「いしわたり淳治×高橋久美子」10月後半公開予定

西加奈子×田我流 「しなやかさ」と「狂気」に宿るカッコよさ

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