インタビュー

映画『ひとよ』で兄妹役の佐藤健×鈴木亮平×松岡茉優。3人の家族論とちょっとしたこだわり

最も身近な存在でありながら、時にはいがみ合い、すれ違う。どんな人にとっても“家族”との関係は複雑であり、お互いに対してさまざまな感情を抱えて生きている。

映画『ひとよ』では、最愛の子を守るために夫を殺害した母と、その3人の子どもの15年後が描かれる。この物語で、3兄妹を演じたのが佐藤健さん、鈴木亮平さん、松岡茉優さん。トップを走り続ける人気俳優3人に、今回の役作りから撮影の裏話、プライベートでのこだわりを聞いた。

質問に「私から!」「あるある!」と積極的に答える松岡さんがムードメーカーになって、佐藤さんと鈴木さんのボケあり、他の2人のツッコミありと、和やかな雰囲気でインタビューは進んだ。

【動画】佐藤健の忘れられない“一夜”は……(9月25日、ジャパンプレミア舞台あいさつ)

「線を太くするために、食べる量を増やしトレーニングをした」(佐藤)

原作は、2011年に劇作家の桑原裕子が手がけた舞台『ひとよ』。『凶悪』や『孤狼の血』の白石和彌監督がメガホンを取る。公開前から無精ひげを生やした佐藤健さんの写真が話題になった。しがないフリーライターとして東京で働く次男・雄二を演じた佐藤さんは、ある準備をして撮影に臨んだ。

映画『ひとよ』より

東京でフリーライターとして働く、主人公の稲村雄二(佐藤健・中央) (c)2019「ひとよ」製作委員会【もっと写真を見る】

佐藤 白石監督の過去の作品を見て、雄二を演じるなら、やっぱり線が細いより太いほうがいいと思いました。重心は低いほうがいいし、奇麗すぎないほうがいいだろうと思って体重をいつもより増やしましたね。食べる量を増やして、トレーニングをして。体重を増やすためではなく、線を太くするためのトレーニングをしました。
雄二という役は、共感しながら演じられました。好きなところは、なんだかんだ言って頼りになるところ。兄妹が、どう動くのが正解か分からなくて固まっちゃう時に、自分が率先して動けるところです。

佐藤健さん

佐藤さんと鈴木さんは、松岡さんと初共演。初対面の印象は、「あ、松岡茉優だ。白いなって(笑)。僕は色白推しなんです」(佐藤)【もっと写真を見る】

吃音(きつおん)があり、人とのコミュニケーションが苦手な長男・大樹を演じる鈴木亮平さん。美容師になる夢を諦めた長女・園子を演じた松岡茉優さんは、自身の役をこう振り返る。

鈴木 僕は、大樹の全部が嫌いでしたね。父親みたいになりたくないと意識していながらも、似ているところも感じていて。唯一好きだと思ったのは、母親への愛情がとても深いところ。本人も気づいていないけど、母親をものすごく愛している。「将来何になりたい?」と聞かれて、「お母さんみたいな人と結婚したい」っていう子って、すごいなと思って。だからこそ、15年後に再会した時のリアクションが、愛情の裏返しだと思いました。15年間、愛情を与えられなかった憎しみのような感じです。

映画『ひとよ』より

稲村家の3兄妹。左から弟の雄二(佐藤健)、妹の園子(松岡茉優)、兄の大樹(鈴木亮平)(c)2019「ひとよ」製作委員会【もっと写真を見る】

松岡 園子の他人に対して諦めないところはとても好き。私だったら、雄二みたいなお兄ちゃんとは早々に縁を切るだろうけど、ずっと諦めずに「あの人は、あれでいいから」って。兄に対してもお母さんに対しても、最後まで絆を大切にしている愛情の深さは好きです。その半面、自分のことを決める力がないところは自分に似ていて嫌でしたね。

15年間の母親の思い。「田中裕子さんの愛情深い芝居で気づかされた」(鈴木)

物語の始まりは、15年前のある夜。3兄妹の母・こはるが、暴力を振るう父から子供たちを守ろうと父を殺害する。「15年経ったら、必ず戻ってくるから」と言い残して母は警察に出頭する。それから15年後、母が兄妹の元に帰ってくる。3人の15年間不在だった母への思いは複雑だ。愛情、憎しみ、怒り、反感。その思いを、どう受け止め、演じようと思ったのか。

佐藤 雄二は、一番気持ちが分かりにくくて、僕自身も分からなかった。どういうテンションで芝居しようか迷って、「監督に任せよう」と現場に入りました。実際にやってみると、その空気の中で一番気持ちのいいところがあって。監督と話して決めようとしたことも、意外とこの感じがいいのかもしれないと。亮平くん、松岡さんから引き出してもらったシーンが全てです(笑)。松岡さんがこれくらいで来るから、僕はこれくらいにしよう、とか。全部、人まかせの役作りでしたね。この2人じゃなかったら、全然違うものになっていたと思います。

鈴木亮平さん

役になった自分自身の感想は、「黄色い服でめがねだったから、大きいのび太だと思った(笑)。そしたら、だんだん『ずん』の飯尾さんに見えてきて(笑)。昔から似てるって言われるんです」(鈴木)【もっと写真を見る】

15年の空白の重みを一瞬で気づかせるのが、母・こはるの帰宅シーンだ。鈴木さんと松岡さんは、こはる役の田中裕子さんの圧倒的な演技によって、それぞれの演じる人物の心情に気づかされたという。

鈴木 大樹の母親への愛が何だったのか、田中さんのお芝居で気づかされました。帰ってきて抱きしめられた時、15年前に感じたぬくもり、匂いを思い出す。それは赤ちゃんの時から嗅いできた匂いで、それにものすごく引っ張られる自分がいるけど、「あんたは15年間それを与えてくれなかった!」と憎んでもいる。もし感動に身を任せたら、「自分の15年間はなんだったんだ!」となってしまうから。
でも、撮影で田中さんに抱きしめられるまでは、一切そんなことは思わなかった。田中さんの愛情深いお芝居と横で感動する園子がいて、そんな発見ができたことは面白かった。

松岡 私は、お母さんが帰ってきてくれた時の気持ちを、愛情も憎しみも、何度も繰り返しテストしました。怒りパターン、うれしいパターン、泣くパターン。それを超えて、お母さんに対する思いが同じ女として、少しだけ冷たくなっている部分がありました。母親に対する思いは、女の人と男の人では少し違うじゃないですか?
帰ってきた母を見て、それほど感動できない自分がいることを認めました。もちろん体は反応しているのですけど。物語のクライマックスのあたりで、やっと母親への思いが温まり始めるんだけど、それでも「(母との関係は)もう全部終わっちゃった」と感じました。

映画『ひとよ』より

15年不在だった母・稲村こはる(田中裕子) (c)2019「ひとよ」製作委員会【もっと写真を見る】

「仲良しの秘訣(ひけつ)は、悪口大会(笑)」(松岡)

取材現場では息の合った受け答えをしていた3人だが、顔を合わせたのは撮影現場が初めてだった。「衣装合わせでも会ってないし、本読みもなかったし。『マンションで1週間くらい一緒に住んだんです』とか、全くの冗談を言いたくなるくらい、現場で『はじめまして』だったんです(笑)」(松岡)。そんな中、兄妹仲を深めたエピソードを教えてくれた。

松岡 仲良しの秘訣(ひけつ)は、3人で悪口大会をしたことです(笑)。ぐっと距離が縮まりましたね。もちろん、今回の現場のことではないですよ。

鈴木 言ったねえ。“今まで会った一番許せない人”とか。

佐藤 僕だけは、許せない人がいなかったんですよ(笑)。

鈴木 コラ!(笑)。すごかったですよ、2人(佐藤さんと松岡さん)は。

松岡 ほぼ言ってなかったのは鈴木さんだよ! 鈴木さんは「ああ」とか「うーん」とか相づちを打って話を引き出すからずるい!

鈴木 ほら、僕は人に好かれたいタイプだから(笑)。

家族をテーマにした作品ということで、「役のヒントになった自身の経験は?」という質問には、松岡さんからある人の名前が。

松岡 映画『万引き家族』で安藤サクラさんと共演していなかったら、園子の演じ方は全然違っていたと思います。今回の役は、家族のバランサーというか、それぞれの気持ちをかいつまんで引き出す感じが、『万引き家族』でのサクラさんの役と近くて。生活をしている人の空気感とか。とても参考にさせてもらいました。

松岡茉優さん

雄二役の佐藤さんを初めて見て、「見たことないくらい汚い佐藤さんがいて。ドラマ『ルーキーズ』を見ていたから、ギャップにびっくりしました」(松岡)【もっと写真を見る】

こだわりが全くない。「でも、ごはんはちょい硬めがいい。カレーの時とか」(佐藤)

続いて、『&M』のテーマの一つである“こだわり”について聞いてみた。

佐藤 僕はそういうのが全くないんです。なんでも対応できるタイプで。

松岡 佐藤さんは、監督が「こうしたい」というのを、演じる側が「でもこれって……」と言いたくなるところを何も言わずに、「分かりました」とすぐにやってみるスタイルが素敵だと思いました。監督の意図通りにできるところがカッコよかった。

佐藤 松岡さんは、(質問への)返しの天才だな(笑)。あ、僕ね、軟らかいごはんだけ、ちょっと苦手です。ごはんは、ちょい硬めがいい。特にカレーの時とかね。

松岡 私は料理をする時に、爪の中までしっかりせっけんで洗います。特に生肉とか触った時には、見ている人がいたら引くぐらいしっかり洗ってから別のことをしますね。手は清潔にしたい。日常的にもよく手を洗います。

佐藤 確かに、たばこを吸うシーンが終わった後、手がたばこ臭いのをすごく嫌がっていましたね。

鈴木 僕はスマホの充電を常に50%以上に保っておきたい。30%とか不安になる。何があるか分からないから、50%を切るとすぐに充電しちゃうね。いつも充電器を持っています。あと、最近のこだわりは、かばんの中を整理したいと思って、メッシュのポーチで小分けにするようになった。

佐藤健×鈴木亮平×松岡茉優

撮影現場で初めて顔を合わせたという3人【もっと写真を見る】

家族=爽やか、軽やかではない。「映画を見て、どこか許されて欲しい」(松岡)

映画『ひとよ』は、15年の時を超えて紡がれる家族の物語。描かれた親と子の絆は、私たちに「家族とは何か」「どう向き合っていくか」を問いかけ、胸に抱えたわだかまりをすっと浄化させるような物語でもある。最後に、3人が映画へのメッセージをくれた。

佐藤 家族って、こういうものだよな、と演じて改めて思いました。家族の数だけ形がある。家族の印象が変わるというより、自分の家族を改めて考えるきっかけになってくれたらいいと思う。連絡してみようと思ったり、ちょっと話してみようかなと思ったり。そうなってくれたら、すごくうれしいです。

鈴木 家族の根底に流れている愛情は同じで、極限の状況に置かれてバラバラになっても、家族は抑えきれない愛情を抱えている。血のつながりだけじゃない愛情、ある種、動物的な。理性ではどうしようもできないところがあるのかなと思いました。親の愛って子供が思うより何倍もあって、結局自分がどのくらい愛されているか実感できないくらい、母親は愛してくれているんだろうなと、この作品を通じて思いました。

松岡 私は自分の母が大好きで、今でも週に1回は会うし、15年も母がいなかったことが正直ピンと来ませんでした。でも、ガラス越しに立っている田中裕子さんを見た時に「本当に15年ぶりなんだ」と思わされたんです。この作品を見て、家族と聞いて「爽やかで軽やか」と捉える人の方が少ないのだろうなと思ったので、母親や家族に“ごろっとした何か”を抱えている、そんな人がこの映画を見て、どこか許されて欲しいなと思いました。
(文・武田由紀子 写真・花田龍之介)

映画『ひとよ』より

(c)2019「ひとよ」製作委員会【もっと写真を見る】

映画『ひとよ』作品情報

キャスト:佐藤健、鈴木亮平、松岡茉優、音尾琢真、筒井真理子、浅利陽介、韓英恵、MEGUMI、大悟(千鳥)、佐々木蔵之介・田中裕子
監督:白石和彌
脚本:髙橋泉
音楽:大間々昂
原作:桑原裕子「ひとよ」
製作幹事・配給:日活
配給協力:ライブ・ビューイング・ジャパン
企画・制作プロダクション:ROBOT
PG12
(c)2019「ひとよ」製作委員会
11月8日(金) 全国ロードショー
公式サイト:hitoyo-movie.jp
Twitter:@hitoyomovie
Facebook:@hitoyomovie

関連記事【#映画

チャープラン BNK48選抜総選挙第1位!タイ最難関の国立大学卒の彼女が、なぜ“アイドル”の道を選んだのか?

トップへ戻る

「ほかの誰かが見ている世界を知りたい」又吉直樹 初の長編小説『人間』でたどり着いた新境地

RECOMMENDおすすめの記事