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トップランナーがこぞって着用 ピンクの厚底シューズ 「ヴェイパーフライ ネクスト%」は何がすごいのか?

あの熱狂のMGCから3週間経った。前回は優勝候補と目されながら3位に終わった大迫傑選手(ナイキ)のインタビューをもとにレースを振り返ったが、今回はMGCを盛り上げたもう一つの話題、“ピンクの厚底シューズ”について書いておきたい。

レースを観戦した人の誰もが気づいたと思うのが選手の足元を固めるピンクのシューズだ。 ナイキがこの日に合わせて新色(ピンクブラスト)を発売した「ナイキ ズームX ヴェイパーフライ ネクスト%」である。あまりの席巻ぶりに翌日(16日)の朝日新聞「天声人語」が取り上げたほど。なにしろ男子30人中16人が着用し、優勝した中村匠吾選手(富士通)、2位の服部勇馬選手(トヨタ自動車)、3位の大迫選手を始め上位10人中8人がこのシューズを履いていたのだ。

 

女子では、2位で五輪切符を手にした鈴木亜由子選手(日本郵政グループ)もピンクシューズだ。つまり、この日決まった2020東京オリンピックのマラソン日本代表4人のうち3人までがナイキの厚底シューズだったわけだ。過去のオリンピック男子マラソン日本代表でナイキを履いていたのは2000年シドニー五輪の川嶋伸次選手のみだというから大躍進と言えるだろう。

厚底のおかげで疲労が少なく後半のスパートまで足が残せたという中村匠吾選手/NIKE

厚底のおかげで疲労が少なく後半のスパートまで足が残せたという中村匠吾選手/NIKE

改めてブームをザックリ振り返ると、きっかけは2017年5月に行われた「Breaking2」(マラソンで2時間の壁を突破することを目標としたプロジェクト)という非公認レースでエリウド・キプチョゲ選手が2時間切りにあと25秒というところにまで迫ったことだ。同選手は翌年9月のベルリンマラソンで世界記録を1分18秒も短縮する2時間1分39秒のスーパー記録を打ち立てる。以来、世界のトップ選手がナイキの厚底シューズで数々のレースを制し、ブームがあれよあれよと言う間に広がった。

本連載が初めてナイキの厚底シューズを取り上げたのは、2018年2月の東京マラソンで設楽悠太選手(Honda)が16年ぶりに日本新記録を出したときだ。この記録は8カ月後のシカゴマラソンでさらに大迫選手が塗り替える。いずれも、“ナイキの厚底”による記録である。

日本では、この二つの新記録誕生で手がつけられなくなるほどブームが広がっていく。その大きな要因の一つは、これまでトップ選手はメーカーが特別にあつらえた「別注シューズ」を履くことが多かったが、大迫選手や設楽選手のシューズは市販品とまったく同じものだということだ。

誰もがあのトップランナーと同じシューズが履ける。脚に自信のあるランナーなら「アレ」を履けば、「オレも」速くなれると思うのも無理はない。結果、これは筆者の個人計測だが、今年の東京マラソンでは上位エリートランナーの約7割がナイキの厚底シューズを履いているという始末だった。

この間、“ナイキの厚底”は「ズーム ヴェイパーフライ4%」「ズーム ヴェイパーフライ4% フライニット」と進化を遂げ、今年4月のロンドンマラソンで現在の「ズームX ヴェイパーフライ ネクスト%」がデビューする。この大会でも、優勝したキプチョゲ選手以下、男子の上位5人が鮮やかなグリーンの“新厚底シューズ”を履く圧勝ぶりを見せつけた。ちなみに、MGCに合わせて発売された新色ピンクは、この鮮やかなグリーンと補色の関係にある。

アスリートらの要望を細かく反映 革新的シューズが誕生

厚底シューズは、もともとキプチョゲ選手らトップアスリートの「クッショニングを重視した、脚への負担が少ないシューズが欲しい」という要望に応える形で開発された。ナイキは「軽さ」と「クッション性」を両立させるために、ミッドソールに航空宇宙産業で使う特殊素材に由来するフォーム(ズームX)を採用する。

さらに、「推進力」をつけるため、特殊素材の間に反発力のあるスプーン状のカーボンプレートを挟み込んだ。フォアフット(前足部)で着地すると、このカーボンプレートがググッと屈曲して、元に戻ろうとする力が脚を前へ推し進め、「シューズが勝手に走ってくれる」という感覚が生まれる。

ヴェイパーフライ ネクスト%は、この基本テクノロジーはそのままに、ミッドソールをさらに厚くしたのが第一の特徴だ。前足部で4mm、ヒール部で1mm、フォーム量をアップし、ミッドソール全体を15%増量させた。

美しいフォルムと色で、なんだか履くのがもったいないような気もしてくる/NIKE

美しいフォルムと色で、なんだか履くのがもったいないような気もしてくる/NIKE

その結果、オフセット(ヒール部と前足部のソールの厚さの差)が11mmから8mmに抑えられ、旧シリーズに比べて「加速力、推進力が増し、着地から足が地面を離れるまでのスピードがアップした」(開発担当者)という。フォームの量が増えたことで、当然クッション性も高くなった。

ヴェイパーフライ4% フライニットで日本記録を更新した大迫選手は、「ネクスト%になっていちばん感じたのはクッション性が増したこと。ソールの厚みが脚を守ってくれる」と言い、MGC優勝の中村選手も「(シリーズの中では)ネクスト%がいちばん気に入っている。旧モデルより疲労感が抑えられ、MGCでも後半スパートするまで脚が残せました。もちろん練習の成果ではあるけれど、シューズもうまく機能したと思う」と語っている。

開発チームが初期の試作品を大迫選手に見せたところ、一目で気に入ったという/NIKE

開発チームが初期の試作品を大迫選手に見せたところ、一目で気に入ったという/NIKE

旧モデルで人気だったアッパーのフライニット素材はフィット感に優れているが、水分を含みやすい欠点があった。昨年のボストンマラソンのレース中に雨でシューズが重くなったというアスリートからのフィードバックを受けて撥水(はっすい)性の高い素材に換えた。

これによって水分吸収率が7%改善された。また、一昨年のベルリンマラソンで雨の中を走ったキプチョゲ選手のリクエストに応えて、靴底をよりグリップが強いデザインにした。MGC準優勝の服部選手はこう語る。

「ネクスト%になっていちばんよかったのが撥水性です。雨はもちろんですが、夏のマラソンでは給水やスポンジの水でシューズがぬれてぐちゃぐちゃする感じがある。今回も水をかぶりながら走ったけれど、撥水性があってそういう感じにはならなかった」

ピンクシューズでMGC準優勝の服部勇馬選手は昨年の福岡国際マラソンでも“厚底”で優勝している!/NIKE

ピンクシューズでMGC準優勝の服部勇馬選手は昨年の福岡国際マラソンでも“厚底”で優勝している!/NIKE

モー・ファラー選手の強い希望で足の繊細な部分への圧迫を防ぐためにシューレース(靴ひも)を中心から少しずらした位置に配置するなどアスリートファーストの細かな改善点もいろいろある。「初期モデルから履いていますが、非常に革新的なシューズだと思っています。ネクスト%になって、さらに細かいところまで選手の意見が反映されていると感じます」(山本憲二選手=マツダ)。

勝負をかけたトップランナーにとって頼もしいシューズであることは間違いなさそうだが、アマチュアランナーにとって気になるのは耐久性だ。一般に250マイル、約400kmがレースでの使用限度と言われている。これで価格3万250円(税込み)は悩ましい。

でも、トップ選手と同じシューズを履くことでモチベーションアップにつながり、自己ベストが更新できれば……まあ、いいか(笑)。もちろん、普段の練習に使うのはもったいない。練習には、タイプが似ているペガサスターボやズーム フライを履いて、ネクスト%はあくまでもレース用の一張羅と考えた方がいいだろう。

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PROFILE

山口一臣

1961年東京生まれ。ゴルフダイジェスト社を経て89年に朝日新聞社入社。週刊誌歴3誌27年。2005年11月から11年3月まで『週刊朝日』編集長。この間、テレビやラジオのコメンテーターなども務める。16年11月30日に朝日新聞社を退社。株式会社POWER NEWSを設立し、代表取締役。2010年のJALホノルルマラソン以来、フルマラソン20回完走! 自己ベストは3時間41分19秒(ネット)。

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