インタビュー

今、オリジナルアニメが真価を発揮する。赤根和樹監督 新作アニメ『星合の空』に込めた思い

星合の空

2019年10月、1本の挑戦的なテレビアニメーションが始まる。作品名は『星合の空』だ。

かつてはテレビアニメもオリジナル作品が多かったが、現在多くのアニメには原作がある。原作がある作品の“アニメ化”の割合は、6割以上とも8割以上とも言われる。『星合の空』は、最近ではめずらしくなったオリジナルアニメだ。

この作品で監督・原作・脚本を務める赤根和樹さんは、これまでも3本のオリジナルアニメを手がけてきた。ただ、そのどれもがSFやファンタジーなど、“非現実的”なテーマで物語が繰り広げられている。

しかし、今回の『星合の空』は、これまでの赤根監督の作品とは異なり、中学生の青春をテーマにした“現実的”な物語となっている。

なぜいま、もう一度、原作のないオリジナルアニメを、手がけたことがないテーマでつくることにしたのか。

その理由は、赤根監督がアニメ業界に入ったルーツに潜んでいた。

 

『ガンダム』でオリジナルアニメの可能性に触れた

赤根監督がアニメ業界を志した理由の一つに「アニメの可能性を感じた」がある。

当時、宮崎駿監督や富野由悠季監督など、多くの監督が原作のないオリジナル作品を手掛け、アニメ業界を盛り上げていた。赤根監督は、彼らに大きく影響を受けている。

「子どもの頃にスティーヴン・スピルバーグの『未知との遭遇』や、ジョージ・ルーカスの『スターウォーズ』を見て、海外の実写映画に憧れていました。見ていてワクワクして楽しくておかしい、エンターテインメント性を感じる作品が海外の実写映画には沢山あった。一方、日本の実写映画は芸術性に特化した作品が多く、エンターテインメント性があまりなかったんです」

 

赤根和樹監督

「そんな時、宮崎さんや富野さんの作品を見て、これはエンターテインメントだ! 日本でもエンターテインメント性のある作品がつくれるんだ!と。同時に、これからはアニメの時代になるかもしれないと思いました」

赤根監督は大学卒業後、サンライズに入社。『機動戦士ガンダム』シリーズの生みの親で、赤根監督がアニメ業界を志したきっかけの1人である富野由悠季監督の下で、アニメ作品の制作進行を務めた。

富野監督は、ガンダムシリーズをはじめ、多くのオリジナルロボットアニメを手掛けてきた。赤根監督は、そんな富野監督の作品づくりに魅せられたのだ。

「富野さんの現場では、常に自分のアイデアを入れることが求められた。富野さんのプロット(物語の骨子)をベースに、ライターさんがシナリオを書き、それをコンテ担当が絵コンテに落とし込むのですが、シナリオ通りの絵コンテが上がってくると富野さんは怒るんですよ。もっとアイデアを入れろと。俺がこれだけアイデアを入れてるのに、なんでお前らはアイデアを入れないんだ!って(笑)。作品を面白くするために、常に疑問を持ちながら、アイデアを注いで叩いていく作業をオリジナルアニメはやらなきゃいけなかった。20代の時にそれを見て、オリジナルアニメをつくる楽しさに触れてきました」

赤根監督は、この経験から、オリジナルアニメを手掛けることは、アニメーション監督として当たり前のことだと考えるようになっていく。

 

オリジナルアニメの衰退。見えてきた二つの危機感

サンライズを離れ、フリーランスに転身した赤根監督は、オリジナルアニメを次々と生み出す。『ジーンシャフト』(2001年)、『ヒートガイジェイ』(2002年)、『ノエイン もうひとりの君へ』(2005年)では、それぞれ原作・監督・シリーズ構成を手掛けた。

しかし、オリジナルアニメをつくることが時代の流れとともに難しさを増していった。

アニメのフィルム(VHSやDVD)を視聴者が買えるようになったことで、フィルムの売り上げを気にする風潮が業界全体に生まれてきたからだ。

「オリジナルアニメは製作や宣伝に工数とコストがかかります。しかし、当たるかは出してみなければ分からない。一方、漫画・ライトノベル・ゲームなど人気の原作があるアニメは、ストーリーやキャラクターも出来上がってますし、そこまで宣伝しなくてもある程度は売れると分かっています」

そうして、オリジナルアニメの企画はどんどん減っていった。現在放映しているほとんどのアニメが原作ありの作品となってきた。この状況に、二つの危機感を抱いていると赤根監督は話す。

「一つ目に、視聴者の皆さんがどんどんアニメに飽き始めているように感じています。原作があるということは、わざわざアニメを真面目に見ずとも展開が分かってしまう。真剣にアニメを見てくれなくなっているんじゃないかと。アニメは今、例えるなら刺身のツマになってはいないでしょうか。SNSが刺身で、アニメがツマ。SNSで話題にするためにアニメを見る。コミュニケーションを取るための道具にアニメはなってしまっている。僕ら作り手としては敗北です」

「もう一つは、アニメ業界の衰退です。というのも、オリジナルアニメをつくるノウハウを持った人がいなくなっているからです。今の若いアニメーターの多くは、原作のあるアニメを見て、この業界に入ってきています。オリジナルのアニメをつくりたいと思い、この業界を志す人が本当に減ってしまいました。そんな今だからこそ、オリジナルアニメが必要なんです」

 

従来のアニメーションのパターンを崩し、新しい道を切り開く

赤根監督が『ノエイン もうひとりの君へ』から、およそ14年ぶりに手掛けるオリジナルアニメこそ、『星合の空』だ。

危機感をきっかけに赤根監督自身、「アニメーションの新しい分岐、可能性に進まなければいけない」という思いが芽生えた。

「最近の若い人たちが何にお金を払うのかを考えたとき、“体験”にお金を払っていると思いました。ライブやイベントなど、その場でしか味わうことのできない体験を求めているのではないかと。では、アニメのライブ感は何かと考えたら、オリジナルアニメこそライブ感があると思いました。見たことのないモノだからこそ、放映を初めて見たときに驚きがあり、今後の展開が読めないからこそ様々な感情が湧き上がる、その場でしか味わうことのできない体験をオリジナルアニメはつくることができると思ったんです」

この“体験”を視聴者に感じてもらうために、特に意識したのが“物語”だという。

これまでのオリジナルアニメでは、原作・監督・シリーズ構成を担っていたが、今回は原作・監督、そして「脚本」を手掛けている。さらに、本作はSFやファンタジーといった空想の世界が舞台ではなく、学生の青春を描いた“現実的”な物語だ。近年、異世界をテーマにした“非現実的”な物語が増えている中で、あえて“現実的”な物語にすることにより、ライブ感を増幅できるという赤根監督の意図が込められている。

「『星合の空』では、物語を、従来のアニメのパターンを崩して表現しています。今放映されているアニメの多くは『逃避場所』としての役割があります。あり得ないことを面白おかしく描いて、日常生活が忘れられるような作品が多いです。それは決して悪いことではないけど、アニメがそれ以外の役割を持っていいのではないかと思っています。ただ単に面白い、見てて気持ちいい、感動する、それだけではなく、視聴者にテーマを投げかけて『この現象・事象をどう思いますか?』と一緒に考えてもらえる物語を目指しました。今生きている人たちが抱える悩みや葛藤など、アニメで今の時代を映したい。さらに、視聴者だけでなく、今アニメ制作に関わっている人たちへも、こういうアニメのつくり方もあるんだよ、という新しい道を見せたいと思っています」

赤根和樹監督

 

今の時代の子供たちを表現した『星合の空』

そして、2019年10月、ついに『星合の空』が放映される。本作は、企画からおよそ3年の年月をかけて制作された。制作にあたり、赤根監督は登場人物と同じ世代・境遇の若者にインタビューしたという。

「今回、お話をいただいたとき、まずは自分の子ども時代を思い返しました。アニメに登場する子どもたちって、楽しそうで、ノスタルジーを象徴するかのように描かれるけど、実際そうかなと。僕は子ども時代を振り返った時、窮屈さとか、自分や周りに対する苛立(いらだ)ちとか、そういうものが沢山あった。だからまずは、そこをちゃんと表現していきたいと思ったんです。でも、自分の子ども時代の苛立ちはいくらでも描けるけど、今回は今の子どもたちの苛立ちを描きたかった。僕が育ってきた時代より、今の時代はもっと子どもが置かれた環境は複雑になりつつある。そこで生きている子どもたちをアニメで描きたかった」

星合の空

©赤根和樹・エイトビット/星合の空製作委員会

 

「ですから、まずは自分でインタビューをしました。そのインタビューで、時代の変化と共に、大人が感じられないことを、今の若い子たちは感じていました。にもかかわらず、そのことを理解できない大人たちは、頭ごなしに若い子を否定していることも多いのではないか、という気づきがあった。そういう部分まで描ければ、若い子たちも自分の事として、真剣にアニメを見てくれるかもしれないと思いました」

この作り込まれた物語を引き立たせるのが、柔らかい印象を持つ“絵柄”だ。現実的な物語とは対をなす、アニメらしく可愛らしいイラストの採用は、プロデューサーの提案だという。

原作のないオリジナルアニメは、観るまでどんな物語か分からないので、絵でアニメへ引き込み、徐々に物語の中へ引き込んでいく、というアイデアを採用したのだ。非現実的な要素から現実的な物語へと誘導する、アニメだからこそできる表現の可能性の一つと捉えることもできるだろう。

2005年の『ノエイン もうひとりの君へ』でも、当時珍しかったアニメでのCGの多用や毎回作画を変えるといった“新しい”手法が取り入れられていた。このように、アニメを通して赤根監督は常に新しい“何か”を私たち視聴者へ見せてくれる。『星合の空』もきっと新しい“何か”を見せてくれると、期待が膨らむ。

赤根和樹監督

 

「作品を見ると、男子中学生の軟式テニス部活もの、青春もの、という印象をまずは受けるかもしれません。しかし、それだけではなく、今の中学生が抱える苛立ちや悩み、それを与えてしまっている大人たちも含めてドラマを描いています。今の時代性を映して、疑問を提示しているので、若い子も大人も関係なく、考えてもらえるような仕掛けをいろいろと試させてもらいました。今まで見たアニメと少しパターンが違うので、戸惑う視聴者の方もいるかもしれません。どう話が転がっていくか予想がつかないと思います(笑)。そこも含めて、楽しんで見てほしいです」

(取材・文=阿部裕華、撮影=&M編集部)

 

赤根和樹(あかね・かずき)
1962年3月24日、大阪府生まれ。サンライズで制作進行や演出を務め、その後フリーに。1996年に『天空のエスカフローネ』で監督デビューを果たす。2001年の『ジーンシャフト』、2002年の『ヒートガイジェイ』、2005年の『ノエイン もうひとりの君へ』では監督だけでなく、原作・シリーズ構成も担当。2012年より『コードギアス 亡国のアキト』の監督・脚本を手掛ける。2019年放映のオリジナルアニメ『星合の空』で監督・原作・脚本を務める。

赤根和樹監督

 

■『星合の空』作品情報

放送スケジュール
TBS:2019年10月10日(木)深夜1:58~
SBS:2019年10月22日(火)深夜2:25~
BS-TBS:2019年10月12日(土)深夜2:00~
※都合により放送曜日、時間、開始日が変更になる可能性があります。

【スタッフ】
原作・脚本・監督:赤根和樹
キャラクター原案:いつか
アニメーションキャラクターデザイン・アニメーションディレクター:高橋裕一
副監督:三宅和男
場面設計:竹下美紀
色彩設計:中山久美子
美術監督:志和史織
美術設定:藤井一志
動画検査:又野貴菜
CGディレクター:生原雄次
撮影監督:頓所信二
編集:木村佳史子
音響監督:明田川仁
音響制作:マジックカプセル
音楽:jizue
音楽制作:フライングドッグ
アニメーション制作:エイトビット

【OPEDテーマ】
オープニングテーマ:「水槽」(歌:中島 愛)
エンディングテーマ:「籠の中の僕らは」(歌:AIKI from bless4)

【キャスト】
桂木眞己:花江夏樹
新城柊真:畠中 祐
雨野 樹:松岡禎丞
布津凜太朗:佐藤 元
曽我 翅:豊永利行
竹ノ内晋吾:佐藤圭輔
月ノ瀬直央:小林裕介
石上太洋:天﨑滉平
飛鳥悠汰:山谷祥生
御杖夏南子:峯田茉優
ほか

TVアニメ『星合の空』公式サイト

公式Twitter @hoshiaino_sora

©赤根和樹・エイトビット/星合の空製作委員会

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