ミレニアルズトーク Millennials Talk

「ソーシャルグッドは稼げない」を変えたい 石井リナ×酒向萌実

社会問題からセックスまで、現代社会を生きる女性の選択肢を広げるエンパワーメントメディア「BLAST」。その運営会社であるBLAST Inc.のCEO石井リナが、ミレニアル世代にフォーカス。

特に1990年前後に生まれた人は、インターネット・ネイティブな環境で培った柔軟な感覚で、様々な新しい働き方に取り組んでいる。学生時代にガラケーを持ち、インターネットの普及とともに育ってきた人々は、どんな価値観を持ち、何を思考しているのだろうか。世代の狭間(はざま)に生まれ、時にハブとなり得る「ミレニアル世代」を深掘りする。

今回は、ソーシャルグッド(※)特化型クラウドファンディング事業を展開する株式会社GoodMorning代表・酒向萌実と対談。クラウドファンディングとは、インターネットを経由して不特定多数の人からプロジェクトを実行するための資金調達を行う仕組みのことである。GoodMorningは2016年10月、国内最大のクラウドファンディング・プラットフォームを提供するCAMPFIREのサブブランドとしてスタートし、被災地支援から貧困対策、動物保護から環境保全まで多岐にわたる約1600件のプロジェクトを手がけてきた。2019年4月に分社化されている。

学生の頃に感じた社会構造への違和感がきっかけでソーシャルグッド領域に踏み込んだ酒向は、「怒りを原動力に人々の不自由を解決する仕事が、何より楽しかった」と話す。キャリア形成における出産と育児のリスクや「日本でNPOが就職先として人気がない」理由、「当事者が声をあげにくい」社会構造の歪さといったトピックを掘り下げ、ミレニアルズの視点から社会を前進させる術を探った。

※)編注:社会に対して良い影響を与えることを目指した活動や製品

 

「好きな仕事」よりも、「怒りが原動力の仕事」のほうが楽しかった

石井リナ(以下、石井) 萌実ちゃんはGoodMorningに立ち上げ期から関わり、事業責任者をしていたんだよね。そもそも、社会問題に関心を持ったきっかけは何だったの?

酒向萌実(以下、酒向) 強烈な原体験はありませんが、学生時代から社会の「歪(ひず)み」に敏感でした。たとえば、中学生のときは同級生に色々な経済状況の子がいたのに、高校に進学すると経済的に豊かな人ばかりに囲まれるようになって、「あれ?」と疑問を抱くようになりました。勉強の向き不向きを含めた、経済格差を引き起こす要因について考えを巡らせるなかで、「個人の能力や努力に差があるのではなく、社会構造が問題なのでは?」と思うようになったんです。それから高校や大学で勉強していくうちに、社会課題を解決したい気持ちが膨らんでいきました。

「ソーシャルグッドは稼げない」を変えたい 石井リナ×酒向萌実

石井 萌実ちゃんのファーストキャリアはアパレル企業だよね。ソーシャルグッドよりも、ファッションの道に進もうと思ったのは何でなの?

酒向 社会課題の解決を仕事にしたい想(おも)いはもちろんあったけど、どんな社会課題にも興味が持ててしまうから、解決したい問題をどれか一つに絞ることができなかったんです(笑)。それに、世の中のお金の流れについて学ばないまま、いきなりソーシャルグッドの現場に入ることには少し抵抗感がありました。

だから、「とにかく一度会社に入ってビジネスについて学ぼう」と考え、「服が好きだから」という理由だけでアパレル事業を手がけるベンチャー企業に就職しました。ベンチャーを選んだのは、会社の規模が大きすぎると社長の話を直接聞けないから。その企業では狙い通り社長の話をたくさん聞けて、とても学びになりました。

石井 そこから、転職を決めたきっかけは?

酒向 「好きな仕事」よりも、「怒りが原動力の仕事」のほうが向いていることに気づいちゃったんですよ。洋服を売ること自体はとても楽しかったんですけど、それよりも「すべての人が自由に買い物を楽しめないのはおかしいでしょ」と怒ってるときのほうが楽しかった。

赤ちゃんを連れている人は試着ができないし、耳が聞こえない人は他の人と同じ接客を受けられませんよね。そういった不自由さを抱えた人も買い物を楽しめるようにサービスを充実させていく仕事に、何よりもやりがいを感じたんです。

石井 アパレルの仕事を通じて、ソーシャルグッドに立ち戻ったんだね。自分に合った働き方を知れるのは、すごく良いことだよね。

仕事を受けるかどうか自分で選んでいるからか、私は自由に働いている印象を持たれているみたいで。だから、「好きを仕事にする」がテーマの講演に呼ばれることもあったけど、「好き」を仕事にしたことって実は一回もないんだよね。SNSコンサルタントは相対的に得意なことだったからだし、「BLAST」も勝手な使命感を抱いてはじめたことだった。

酒向 「好き」な仕事じゃなくても思う存分楽しめるのは、一度働いてみて初めて分かったことかもしれないですね。

石井 最近、「好きを仕事にしよう」と煽(あお)るメッセージをよく見かけるよね。萌実ちゃんは、周りに流されずに自分の頭で考えて、「正しいか、間違っているか」を判断している人だと感じるけれど、その思考はどうやって養われたのかな?

酒向 通っていた高校と大学がとてもリベラルな教育をしていて、日々の学校生活のなかで養われたのだと思います。性別や趣味、外見を理由に正当に評価されなかったり、話を聞いてもらえなかったりすることが一度もなく、疑問に思ったことを質問すれば、先生たちはこちらが納得するまで話に付き合ってくれました。

髪形や服装に関する厳しいルールがあって、抗議しても「ルールだから」の一点張りで跳ね除けられる学校も多いのに、私が通っていた高校は校則もほとんどなく、唯一あったルールといえば「下駄(げた)を履くな」くらい(笑)。それも、「下駄は靴裏にゴムが付いておらず、学校の床に傷がついてしまうからダメ」という風に、納得できる理由をきちんと説明してくれるんですよ。

「ソーシャルグッドは稼げない」を変えたい 石井リナ×酒向萌実

授業でも社会問題について考える内容のものが多くて、先生が持ってきたテーマについてよくディスカッションしました。すごく記憶に残っているのが、「配られた国勢調査のアンケート用紙のなかで、ジェンダーバイアスがかかっている部分を見つけて議論しなさい」っていうテーマ。

石井 素敵な学校だね、生徒がのびのびと育ちそう。

酒向 そうなんですよ(笑)。物事を自分の頭で考え、疑問は素直にぶつけるように教育されたから、「変だな」と思ったらまずは声をあげる姿勢が身につきました。これって、先生が「自分の話を聞いてくれる」と分かっていたから生まれた姿勢で、一回でも先生たちから「口答えするな」と怒鳴られたりしていたら、今のような姿勢は生まれなかったと思うんです。生徒をひとりの人間として認め、正面から向き合ってくれる大人に囲まれて育つことができて、本当にありがたい環境でした。

 

妊娠をリスクと感じてしまった

石井 経営に携わるなかで、女性だからこそ感じる苦悩についても聞いてみたいな。たとえば、妊娠出産の話。「子どもを産んじゃいけない」と思う必要はないんだろうと分かっているけれど、どうしても思いとどまってしまう。私の会社には株主がいるから、怒られはしないだろうけど、私に期待して投資してくれた人たちをがっかりさせてしまいそうで。

酒向 すごくよく分かります。私もCAMPFIRE代表の家入から「GoodMorningの代表をやるかどうか」の話を持ちかけられたとき、「しばらく子どもを産めないかもしれない」と不安に思いました。

家入は「会社を任されたなら、妊娠するべきではない」なんて思わないはずだけど、「子どもを産むつもりはないから、仕事に集中できます」と言わないと、代表を任せてもらえないと思ってしまったんです。「産まない」と決めたら、気が楽になって仕事に集中できるだろうと考えて、少なくとも3年は出産しないことを決めました。というより、決めざるを得なかった。そのときに、「妊娠は、ビジネスパーソンにとってリスクだ」と自分が思い込んでしまっていると痛感しました。

石井 子どもを産んで育てたい気持ちも大きいけれど、「せっかくのチャンスを逃したくない」と思ってしまうよね。この前、BLAST編集部にいる20歳の女の子から、「結婚は考えてません」と言われたの。「子どもを持つことはキャリアの障害になる」と。話を聞いてとても悲しくなったな。

酒向 以前Twitterで「男性の産休と育休の取得を必須化すればいいんじゃないか」というアイデアを見つけて、すごく良いなと思いました。現状だと、出産の際に必ず休まなきゃいけないのは、女性だけですよね。だけど、子どもができるタイミングですべての人が仕事をしない期間を持つようになれば、男性も出産のリスクを深く理解してくれるようになり、問題解決につながると思うんです。

石井 すごく良い案だと思う。アイスランドで、そういう事例があるって聞いたことがあるな。アイスランドは「世界で最も男女平等な国」と言われている(参照:ジェンダー・ギャップ指数(2018)上位国及び主な国の順位)けれど、ジェンダーギャップが縮まったきっかけは1975年に起こったストライキ。国民の女性の約9割が男女平等を訴えるため、仕事だけでなく家事や子育てを放棄したの。その結果、女性の産休・育休取得が法律で認められたけど、その代わり「子育ては女性がやるもの」という文化も生まれてしまった。今では「男性も子育てすべき」という考えを浸透させるために、男性と女性で同じ長さの育休取得期間を定めた法律ができたんだって。

「ソーシャルグッドは稼げない」を変えたい 石井リナ×酒向萌実

酒向 文化や慣習をつくり変えるには、ルールで縛ることは、ある程度避けられないですよね。そのために政府があるはずだけど、いきなり国の制度を変えることは難しいから、まずは自分の会社にジェンダーフリーな文化を根付かせることからはじめようと思っています。

社会に対する不満を「仕方ない」と諦めている人をよく見かけるけれど、それって若者の賃金が低くて、自分以外のことを考える余裕を持てていないからだと思うんです。少し先の生活すら不安な人は、社会構造についてゆっくり考える時間を持てないですよね。

石井 そうだよね。若者以外にも、シングルマザーのように一人で子育てをしている人たちは、補助制度が少なくて苦しんでいるよね。貧困が彼女たちの負荷になって、社会を変えようとする余力が失われていく構造ができちゃってる。

酒向 経済的に余裕がない生活を送っているシングルマザーの人たちに、「時間をつくって、社会に物申そう」なんて、とてもじゃないけど言えませんよね。一部の人に負担をかけ過ぎないためにも、動ける人が社会を変えていくべきだと思うんです。

ソーシャルグッドに関わる仕事をしていると、「社会課題の当事者ですか?」と聞かれることがたくさんありますが、社会構造に強く苦しめられた経験は、特にないんです。でも、必ずしも当事者が立ち上がらなくてもいいはずで、社会に対して声を上げる余裕を持った人が代わりに声をあげればいい。社会課題について考える人たちが増えていくはずですしね。

 

クラウドファンディングを通じ、個人が社会に与える力の強さを証明する

「ソーシャルグッドは稼げない」を変えたい 石井リナ×酒向萌実

石井 日本の若者たちにとって、ソーシャルグッドはあまり身近に感じられない領域だよね。だから、NPOは就職先として人気が薄い。

酒向 「NPOはよく分からないもの」という風潮がありますよね。

石井 でも今思うと、大学生のときに本来のNPOの在り方を知っていたら、仕事として選んでいた可能性もあったかもしれないな。NPOに近い領域で事業を行うGoodMorningでは、若い人たちに「働きたい」と思ってもらうための工夫はしている?

酒向 一定以上の賃金を保障することをすごく大事にしています。「ソーシャルグッドな仕事をするには、給料のことは諦めなきゃいけない」と思われるのは悔しいです。NPOの平均給与は年々上がっていて、年収700万円くらい稼いでいる人も実はいるけれど、どうしても一般企業よりは給料が低い現状がある。

長年NPOで働いていた男性が、「子どもが産まれるから」と一般企業に転職するケースが少なくなくて、子どもを育てるための十分な給料がもらえていないんです。NPOだと、高い給料を支払いにくい事業モデルの場合もあり、難しい問題だと思います。現状では「ソーシャルグッドの仕事をしたいけど、金銭面が不安」な人もたくさんいるはずなので、GoodMorningは株式会社として「ソーシャルグッドでお金を稼げる」を体現するため、頑張っていきたいです。

石井 会社で働く人たちの給料を上げるために、何に力を入れていくのかな?

酒向 事業を拡大させるために、発信を通じて社会課題に立ち向かう人たちの連帯の輪を大きくしていくことが大事だと思っています。まだ手付かずの課題も、解決に向かいはじめた課題も、世の人たちに伝えていくことで、興味を持ってくれる人を少しでも増やしていきたい。輪が広がれば、プロジェクトに参加するハードルはどんどん下がっていくはずですから。

石井 そうだよね。プロジェクトの賛同者を増やしたいとき、参加のハードルを下げることって、本当に大切。私も、自分の活動を通してすごい実感しているな。

酒向 「社会課題」という言葉からは「個人の力では太刀打ちできない」ような印象を受けますよね。けれど、一人ひとりが地道に活動を積み上げていくことでしか、社会を変えることはできない。だから、GoodMorningのプロジェクトを通じて、少しでも多くの人たちに「こういうアクションなら、自分でもできるかも」と思ってもらい、「個人のコミットが社会に与える影響の強さ」を証明していきたいです。

「ソーシャルグッドは稼げない」を変えたい 石井リナ×酒向萌実

 

「対談を終えて」

SNSやクラウドファンディングの登場で、これまで痛みを我慢してきた人たちの声が社会に届きやすくなった。遠く離れた人たちの問題を誰もが身近に感じられるようになった今、社会によって「こうあるべき」と押し付けられてきた“当たり前”は、きっとこれからの当たり前ではなくなっていく。

本記事で語られた、キャリア形成と出産・育児が天秤(てんびん)にかけられている問題もまさにそのひとつだろう。これからは男女を問わず、誰もが考えるべきトピックとなっていくことを願うばかりだ。

(文:ハルノ、編集:岡島たくみ、写真:三澤亮介)

 

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