MY KICKS

ポゼスト・シュー スケートボードに「取りつかれた」男が生み出した技ありスリッポン

今や、スニーカーは私たちの生活に欠かすことの出来ない“生活必需品”。どんな人にも愛着ある一足があり、そこには多くのこだわり、思い出、物語が詰まっているはず。本コラムでは、様々なスニーカー好きたちが「MY KICKS(=私の1足)」をテーマに語り尽くす。

若林廣之(わかばやし・ひろゆき)さん
プロフィール:1969年生まれ。80年代後半から、スケードボードとハードコアパンクの世界で活躍。90年代後半には東京・上野を本拠地にウエアブランド「RGOA(Rapid Growth Of Anarog)」、2000年にはシューズブランド「TRANSMIT(トランスミット)」を立ち上げ、ファッション感度の高いスケーターを中心に高い人気を集める。現在は2016年に自ら設立したスケートシューズブランド「Possessed SHOE.CO」代表。

2016年に始動した日本発のフットウエア・ブランド「POSSESSED SHOE(ポゼスト・シュー)」。同社が展開するスケートボード用シューズは、時代に左右されない普遍的なデザインとハードなスケートボード・ライディングに耐えられる機能で、スケーターたちの心をつかんでいる。中でもシーンを選ばず気楽に履けるスリッポンタイプの「SKATE GANG(スケート・ギャング)」は、そのエッジの利いたネーミングとは裏腹に幅広い層からの人気を集めているという。スリッポンの最も大きな弱点である「脱げやすさ」を解消しているからだ。

スケート・ギャング(11000円+税)

スケート・ギャング(11000円+税)

 

日本初のスケーターによるスケートシューズ・ブランドを立ち上げる

現在も現役でスケートボードを続けている。「今はしっかりプロテクターをつけて本当に気をつけて滑っていますよ」と語る若林さん

現在も現役でスケートボードを続けている。「今はしっかりプロテクターをつけて本当に気をつけて滑っていますよ」と語る若林さん

ブランドネームとなっている「POSSESSED」は “取り憑かれた”を意味する。ブランドを主宰する若林廣之さんもまた少年時代よりスケートボードに取り憑かれ、50歳を超えた今も現役でスケートボードに乗り続けるベテランだ。

中学3年からパンクロックにハマり、しばらくして、もっと激しいハードコアパンクにのめり込んだ若林さん。「アメリカのハードコアパンクの連中はスケートボードに乗る」との話を聞き、小学生のころ少しかじっていたスケートボードを再開。高校時代は「ゾーラック」や「スカルスケーツ」といったハードコアパンクにゆかりのあるスケートブランドの服やグッズにも夢中になっていく。並行して高校卒業後の1988年、伝説のスケートパンクバンド「SCUMBAG(スカムバグ)」を結成。その後、海外のリスナーにもその名を知られるバンドへと成長していく。

そんな若林さんにとって大きな転機となったのは、1998年に立ち上げたスケートウエア・ブランド「RGOA(Rapid Growth Of Anarog)」だ

「地元である上野のスケーター仲間と『RGOA』というアパレルブランドを始めたんですが、その流れでシューズメーカーの『PRO-Keds』さんからお話を頂いて、2000年にスケートボードシューズのブランド『TRANSMIT(トランスミット)』を立ち上げたんです。プロスケーターのオリジナルモデル3種類とチームモデルを発売しました」(若林さん)

日本国内のスケーターがスケートシューズ・ブランドを立ち上げたのは初めてのこと。スケーターならではの視点が反映されたデザインや機能性も手伝って、「TRANSMIT」のシューズは、日本のスケートボードシーンに大きなインパクトを与えた。

日本のスケートボード史にその名を刻んだ若林さんだったが、諸事情からいったんスケートボードの世界を離れ、一般アパレル企業へ勤務する。しかし「取り憑かれてしまった」スケートボードカルチャーへの思いは断ち難く、2016年にたった一人で完全インディー系シューズブランド「POSSESSED SHOE(ポゼスト・シュー)」を始動する

今も毎日自分で作ったシューズを履いて、常にテストを行っている

今も毎日自分で作ったシューズを履いて、常にテストを行っている

 

スケーターの定番アイテムだったスリッポンの弱点を見事解消

80年代にスケートボードをやっていた不良少年(スケート・ギャング)をイメージしたデザイン。14ozの分厚いキャンバス地とピッグスエードを採用

80年代にスケートボードをやっていた不良少年(スケート・ギャング)をイメージしたデザイン。14ozの分厚いキャンバス地とピッグスエードを採用

ポゼスト・シューのラインナップで幅広い層からの人気を誇っているのが、スリッポンタイプの「スケート・ギャング」だ。ひものないスリッポンスタイルのシューズは、古くからスケートボーダーに愛されてきた。しかし容易に脱ぎ履き出来るという利点は、脱げやすくホールド感に欠けるという弱点にもつながる。スケートボーダーの定番は、決してスケートボードに適したシューズではなかったのだ。

既存のスリッポンはつま先を踏み込むとヒール(かかと)が浮き上がってしまう。これは地面を蹴って進むスケートボードにとっては致命的な欠陥。見ての通り「スケート・ギャング」では解決されている

既存のスリッポンはつま先を踏み込むとヒール(かかと)が浮き上がってしまう。これは地面を蹴って進むスケートボードにとっては致命的な欠陥。見ての通り「スケート・ギャング」では解決されている

この靴は、“脱げやすい”というスリッポンの短所をしっかりと解決している。とはいえ単に足首周りのゴムを強くするだけでは、気軽に履けるというスリッポンの利点や履き心地を損なってしまう。そこで若林さんは、履き口のカッティングを工夫することで足首のホールド感とかかとの浮き上がりを防いだ

履き口の前と後ろの部分を高めにとってあります。タンの部分(甲中央の部分)のカットも深くなっていますから、つま先を踏み込んだ状態でも足の甲とヒール(かかと)部分のフィット感が保たれるんです」(若林さん)

サイドから見ると通常のスリッポンよりも1cm前後高めに作られている。タンとサイドをゴムでつなぐスリットもやや深め

サイドから見ると通常のスリッポンよりも1cm前後高めに作られている。タンとサイドをゴムでつなぐスリットもやや深め

 

スケートボードに耐えうる耐久性を持ちながら、見た目はスマート

半円状のステッチの部分のスエードは2枚重ね。「オーリーを練習する時の目印になる」との声も

半円状のステッチの部分のスエードは2枚重ね。「オーリーを練習する時の目印になる」との声も

スケートボードは、ヤスリ状のシートが貼られたデッキ(板)を足でコントロールする。そのため、スポーツの中で最もシューズの消耗が激しいと言われている。中でも基本技であるオーリー(スケートボードと一緒にジャンプする技)で使う足の小指周辺には、あっという間に穴が開いてしまう。そこで若林さんは消耗しやすい箇所のレザーを2枚重ねにした

「正直言って昔から足の小指周辺を強化したスケートシューズはありましたが、レザーのアッパーに樹脂やプラスチックで作ったパーツを載せたものばかり。僕はそういうデザインが苦手だったので、レザーの下にもう1枚レザーを重ねて耐久性を高めることにしました。だって、その方がかっこいいでしょ? スケートボードは見た目も重要ですから(笑)」(若林さん)

ハードに使い込まれた後のポゼスト・シュー(※別モデル)。「スケート・ギャング」と構造は同一で、内側にスエードが入った二重構造

ハードに使い込まれた後のポゼスト・シュー(※別モデル)。「スケート・ギャング」と構造は同一で、内側にスエードが入った二重構造

 

インソールのショック吸収機能は日常生活でも活躍

インソールは金属とプラスチックを組み合わせた特殊な金型で成形している。素材であるウレタンの密度が安定するだけでなく、インソール表面の仕上がりがきめ細かになるという

インソールは金属とプラスチックを組み合わせた特殊な金型で成形している。素材であるウレタンの密度が安定するだけでなく、インソール表面の仕上がりがきめ細かになるという

スケート・ギャングはソールとアッパーを接着し、周囲をゴム製のテープで巻いて強化する「ヴァルカナイズド製法」を採用。デッキの感覚をつかむために比較的ソールは薄めだが、その分、オリジナルのインソールに細やかな工夫を加えている。たとえば土踏まずからかかとにかけて六角形のホールを開けることで、ソールを軟らかく、もっとも体重がかかるヒール部には穴を開けずショック吸収を優先するなど、インソールの場所によって硬度が異なるように設計されているのだ

「スケートボードに使うわけですから、ショック吸収にはこだわりました。もちろん長時間のジョギングなどには、もっと適したシューズがあると思いますが、日常生活であれば1日履いていても疲れることなく、快適だと思いますよ」(若林さん)

ソールが減るスピードを軽減するために、少ない接地面積でも高いグリップ力を発揮するワッフルソールを採用している

ソールが減るスピードを軽減するために、少ない接地面積でも高いグリップ力を発揮するワッフルソールを採用している

アウトソールとアッパーの接着面をガードするゴム製のテープ「フォクシングテープ」は硬め。こちらも減りが遅く、スケートボードの上で足をずらしやすいのがポイント

アウトソールとアッパーの接着面をガードするゴム製のテープ「フォクシングテープ」は硬め。こちらも減りが遅く、スケートボードの上で足をずらしやすいのがポイント

 

自分自身で、いつでもスケートボードが出来る、なんでもない靴を作りたかった

通常のスリッポンよりスッキリとしたシルエットだが、日本人の幅広な足を意識している

通常のスリッポンよりスッキリとしたシルエットだが、日本人の幅広な足を意識している

ポゼスト・シューは、すでに国内スケーターから評価を集め、海外でも着実に認知を広げている。とはいえシューズの独自生産を個人で行うのは簡単なことではない。なぜ若林さんは、あえて困難な道を選んだのだろう。そんな疑問を投げかけると、こんな答えが返ってきた。

「簡単なことではなかったけど、そもそも僕たちスケーターにとってDIYって当たり前のこと。『こういう形の板が乗りやすいんじゃないか』と思えば、自分たちで削る。『こんな場所があったらいい』と思ったら、仲間たちとスケートパークを作ってきた。そうやって世界中のスケーターが、自分たちが欲しいものを自分たちで作り、結果としてスケードボードの歴史を更新してきたんです。ポゼスト・シューを立ち上げたのも、その一部ですね。結局は自分が履きたいシューズを作りたかっただけ。僕自身が、どんな格好にも合わせられて、どんなシーンでも快適に履いていられて、どんな時でもスケートボードに乗れるスケートシューズを欲していた。動機としてはすごくシンプルなんですよ」(若林さん)

お気に入りアングルは真横。「履き口の角度を見てほしいですね。わかる人が見れば、カットの深さや、高さがあることに気づくはずです」(若林さん)

お気に入りアングルは真横。「履き口の角度を見てほしいですね。わかる人が見れば、カットの深さや、高さがあることに気づくはずです」(若林さん)

若林さんは「自分の日常に溶け込むような、なんでもないシューズが作りたかった」と笑顔で語る。その日常にスケートボードが入っていることは言うまでもないが、スケート・ギャングは様々なストリートスポーツの世界でも愛され、さらにファッションブランドである「ロンハーマン」とのコラボレーションも果たしている。スケートボードというハードなアクティビティーに特化したシューズを作った結果、ワンアンドオンリーのスリッポンが誕生したとも言えるだろう。スケートボードに「取り憑かれた」男が作り上げた、なんでもないようで、決してなんでもなくはない逸品をお試しあれ。

POSSESSED SHOE.CO公式Facebookページ
https://www.facebook.com/possessedshoe

 

取材・文/吉田大
撮影/今井 裕治

関連記事

ピンクの厚底シューズ 「ヴェイパーフライ ネクスト%」は何がすごいのか?

アシックスブームは次の段階へ ハイパフォーマンス&ハイファッションを両立した一足

スニーカーでありサンダルでもあるKEENのUNEEK、足元のクールビズに

PROFILE

吉田大

ライター・編集者。大学卒業後、児童書出版社勤務を経て、フリーランスに。ファッション、アート、音楽、ストリートカルチャーから、政治経済、社会問題、テクノロジー、グルメに至るまで、多岐にわたるジャンルにおいて、長年にわたり執筆活動を続けている。趣味は自転車と立ち食いそば店めぐり。お酒や煙草を嗜まないストレート・エッジな生活を送っている。

アシックスブームは次の段階へ ハイパフォーマンス&ハイファッションを両立した一足

トップへ戻る

RECOMMENDおすすめの記事