インタビュー

是枝裕和×宮本信子×宮﨑あおい 3人が語る人と人との間にある“真実” 「大切なのは距離感」

親と子。血のつながった家族とはいえ、友達のように仲が良い親子もいれば、あまり連絡を取らない親子もいて、その関係性は様々だ。映画『真実』では、大女優の母と、女優になれなかった娘が、長年抱いていたお互いへのわだかまりを少しずつ溶かしていく物語だ。

『万引き家族』『三度目の殺人』の是枝裕和さんが監督を務め、カトリーヌ・ドヌーヴ、ジュリエット・ビノシュというフランスの2大俳優が共演した本作は、是枝監督が手がけた作品で初めて日本語吹き替え版が作られた。吹き替え版では宮本信子さんと宮﨑あおいさんがそれぞれの声を担当している。

&Mでは、公開を前に、是枝監督と宮本さん宮﨑さんの3人にインタビュー。親子の関係性、キャスティングのエピソード、さらには本作のタイトルにちなんだ“真実”についてどう考えるかなどについて、聞いた。

是枝裕和×宮本信子×宮﨑あおい 3人が語る人と人との間にある“真実” 「大切なのは距離感」

『真実』10月11日(土)より全国公開 ©2019 3B-分福-MI MOVIES-FRANCE 3 CINEMA【もっと写真を見る】

母に気持ちを伝えるために、手紙を書くことも(宮﨑)

物語は、主人公である国民的大女優ファビエンヌが「真実」という名の自伝を出版したことから始まる。「いったい母は何をつづったのか?」。出版祝いを口実に、娘リュミールは家族を連れてファビエンヌの元に訪ねてくる。自伝につづられた“噓”とつづられなかった“真実”。母と娘それぞれがお互いに対して抱く感情に改めて向き合うことになる。

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女優であることを最優先にしてきた母は、ある作品で母親役を演じたことで、自分が本当に求めているものに気づき始める。一方の娘は、ただ母に愛して欲しかったことに気づく。作品の大きなテーマである親子の関係について、宮本さんと宮﨑さんは、ご自身の経験も踏まえてどう考えているだろうか。

宮本 なんだかちょっと苦手な質問(笑)。だって、正解がないですから。いろいろな親子がいるし、どういう育てられ方をしてきたか、どういろいろなことを乗り越えてきたかもそれぞれ違うし。難しいですよね。でも親からもらったものは、何かしら受け継いでいるはず。小さい頃から親の姿を見ていれば、親が思っていることや感じていることが伝わっていきますよね。世代によっても、感じることは違うでしょうけれど。

やっぱりいい親子関係っていうのは、ある程度の距離感があって、お互いが認め合える存在であること。それができれば、すごく穏やかで笑いのある毎日が過ごせるんじゃないかしら。私の母は、「こんなに苦労したのよ」とか、一切言いませんでしたからね。それを聞くと、重荷になっちゃうから。だから、ありのままに受け入れる。わがままばかり言わず、人を見て優しくしましょうね、ということだと思います。

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宮﨑 私は母との仲が良い方だと思いますけど、たまに母に手紙を書きます。人生で一度だけ、なんでこんなことを言っちゃったんだろうと思った瞬間があって……。母に対して、自分ではないようなひどい言葉がぽろっと出てしまいました。そのことがすごく忘れられなくて……。今、話していても泣いてしまうくらいショックな出来事だったんです。その後、1カ月くらい悩んでから母に手紙を書きました。「あんなこと言っちゃって、ごめんなさい」って。

何かあったら、手紙を書いて自分が思っていることを伝えるようにしています。普段から気持ちを伝え合うことは大事だと思います。自分が母になって、母の影響を受けていたことを改めて感じます。日々それを感じながら生活していかなくてはならないと思っていますが、変なプレッシャーではなく、楽しみという実感はありますね。

是枝 映画『真実』では、母と娘の新しい関係が始まるような終わりにしたいと思いました。メッセージというと強くて嫌なんだけど、親子の関係が少しずつ修復されていく可能性を自分なりに模索してみました。

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劇中で、ファビエンヌが持ち歩いていた三角の小物について。「あると安心するものとして、なんだか分からないものを用意してもらいました。あれが何かは……内緒です」(是枝監督)【もっと写真を見る】

脚本のニュアンスに近くなった吹き替え版。是枝監督の伝えたいことがより鮮明に届く

カトリーヌ・ドヌーヴ演じる主人公の大女優ファビエンヌの声を宮本信子さん、ジュリエット・ビノシュ演じる娘リュミールの声を宮﨑あおいさんが務める。吹き替え版のキャスティングには、監督の強いこだわりがあった。

是枝 完全に自分を消して成り切る声優さんではなく、女優さんに吹き替えをお願いすることにしたので、尊敬するお二人に、と。ファンというだけでなく、お二人の声質の組み合わせがすごくいいんじゃないかと思いました。この2人に加えて(登場人物の)マノン、子役の声が入って、音としてのアンサンブルがうまくいくという直感はありましたね。お二人の声が好きという個人的な理由もあります(笑)。

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是枝監督が手掛ける初の海外作品であり、日本語吹き替え版が制作された初めての作品となる。日本語の原作からフランス語へ、そして日本語の吹き替えへと書き戻されていく中で、新たな気づきもあったという。

是枝 日本語で書いたセリフを、いったん文法から全てフランス語に変えて、それを日本語に戻していく。字幕は文字数が限られるので、すごく省略されるじゃないですか? もちろん僕は字幕で見るんだけど、自分のオリジナルで書いた話だからか、吹き替えの方が脚本のニュアンスには近いんですよね。語尾のニュアンスとか、言葉が持つ裏の意味とか。お二人がすごく上手だったというのもあって、吹き替えていただいたものの方が、よりちゃんと伝えたいことが届く。これは面白いなと思いましたね。

是枝裕和×宮本信子×宮﨑あおい 3人が語る人と人との間にある“真実” 「大切なのは距離感」

宮本さんも宮﨑さんも、外国映画の吹き替えは初挑戦。オファーをもらった時に不安や葛藤があったと明かしてくれた。

宮本 お話をいただいた時、正直悩みました。3年前、是枝監督に伊丹十三賞を受賞いただいて、贈呈式とその後の食事会でお会いしたきりでした。この時のご縁から「宮本信子、受けて立たなくちゃいけない!」とお侍さんのように思って。どうなるか分からないけれど、一生懸命やろうと、それしか考えませんでしたね。もし前にお会いしていなかったら、申し訳ないけどお断りしていたと思います。

宮﨑 マネジャーさんから電話をいただいて、是枝監督が声をかけてくださったことがうれしくて「やりたいです!」とすぐにお返事しました。でも電話を切った後に、やったことのない未知の世界のことで「私にできるのだろうか」と不安になりました。吹き替えをさせていただくにあたり、(ジュリエット・)ビノシュさんの過去の作品はもちろん、この作品のビノシュさんの表情や気持ちをなるべく多く入れておきたくて、時間が許す限り何度も見ました。

是枝裕和×宮本信子×宮﨑あおい 3人が語る人と人との間にある“真実” 「大切なのは距離感」

宮本 とにかく時間がなかったんですよね。私もあおいさんと同じように、何度も見直して、『シェルブールの雨傘』『昼顔』とかドヌーヴさんの若い頃の作品から『8人の女たち』を見たりしました。そうしたら頭の中がフランス語になっちゃって、だんだんドヌーヴさんみたいになってきて……(笑)。周りは大変ですよね。

驚くべきフランスの働き方 日本での撮影との一番の違いは?

撮影は、フランス・パリで10週間にわたって行われた。「日本での撮影との一番の違いは?」と是枝監督に聞くと、こんな答えが返ってきた。

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©2019 3B-分福-MI MOVIES-FRANCE 3 CINEMA【もっと写真を見る】

是枝 1日の労働時間が最大8時間、土日は必ず休みということに驚きましたね。土曜に撮影したいなら、雇われている人はギャランティーが200%に、日曜なら300%になる。だから雇っている側は、土日は絶対撮らないんです。夜8時前には撮影が終わり、夜の撮影がある時は夕方からスタートする。8時前に終われば、親が子供を迎えに行って、夕ご飯を一緒に食べられるという環境なんです。現場のスタッフにもそういう人が何人かいました。

最初は「マジか……」と思いました。これまでは晩ご飯を食べてからが、もうひと勝負だと思っていたので、それに自分を慣らすのも時間がかかりましたけど、実はその方が人間らしいんですよね。僕個人を基準にすれば、もっと撮りたいし苦にもならないけど、それでは家族との生活が成り立たない人、仕事として映画を選べなくなっている人がたくさんいる。その状況を考えると、日本もそうするべきだし、変えていかないといけないと思いました。

「ネットにあふれる暴力的な本音より、建前や慮(おもんぱか)ることに“真実”があると思う」(是枝)

今回の映画公開に合わせた取材では、本作のタイトル“真実”にからめて、「フェイクニュースにあふれている現代において、“真実”をどう考えているか?」という問いが、是枝監督に相次いでいるそうだ。

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是枝 真実は人には分からないものですからね。今、ネットでは、「本音」と呼ばれる暴力的な言葉があふれている。逆に建前って噓だと思われているけど、人間関係や社会を成り立たせているのは本来他人を慮(おもんぱか)る態度や言葉じゃないですか。建前や慮ることが、ないがしろにされすぎている気がしています。むしろ、そちらの方に求められる真実があると思っています。

宮本 あまり真実を知りたがらない方がいいんじゃない? その真実だって、本当かどうか分からないじゃないですか。この映画の中でもそうですけれどね。「真実だ、絶対だ!」ということを知るより、相手を信じるとか、信じるまでの関係を良くしておくとか。言葉だけではなくて、そういうことが大事なんじゃないでしょうか。

宮﨑 私も、宮本さんがおっしゃったことがそうだなと思いました。信頼とか、それまでの関係性が大事だと思います。別になんでもかんでも知る必要はないし、知りたくないこともあるし。自分が信じられれば、それが自分にとっての真実になると思います。

是枝裕和×宮本信子×宮﨑あおい 3人が語る人と人との間にある“真実” 「大切なのは距離感」

宮本信子さん(スタイリスト:Junko Ishida/ヘアメイク:Mitsukura Kaoru)、宮﨑あおいさん(スタイリスト:MAKIKO FUJII/ヘアメイク:AKEMI NAKANO) 【もっと写真を見る】

「宮本さん&宮﨑さんで映画を撮るならどんな作品?」という質問には、「言うと実現しなくなるので言いません。話すと遠のく、ジンクスみたいですけどね(笑)。“真実”は胸の中にしまっておきたいのです」と答えた是枝監督。監督自身も大切にしている言葉をタイトルにした新作が、いよいよ公開される。

親子の関係でつまずいたことがある人、今問題をかかえている人、そして良好な関係を築いている人も、本作を見ることで何かしら家族に思いを巡らし、あたたかな時間を共有できるはずだ。

(文・武田由紀子 写真・和田咲子)

映画『真実』作品情報

キャスト:カトリーヌ・ドヌーヴ、ジュリエット・ビノシュ、イーサン・ホーク、リュディヴィーヌ・サニエ
原案・監督・脚本・編集:是枝裕和
原題:La Verite/2019/日仏合作/カラー/ビスタ/5.1chデジタル/108分/ 字幕翻訳:丸山垂穂
配給:ギャガ    
©2019 3B-分福-MI MOVIES-FRANCE 3 CINEMA
10月11日(土)全国ロードショー
公式サイト:gaga.ne.jp/shinjitsu/

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