インタビュー

論争となったジャッジも真正面から議論 『Jリーグジャッジリプレイ』の人気に迫る

サッカーのJリーグが自ら制作しDAZN(ダゾーン)で配信中の、主にJ1とJ2の試合でのレフェリーの判定に対する疑問を議論・解説する番組『Jリーグジャッジリプレイ』がサッカーファンの話題を集めている。

Jリーグの原博実・副理事長やJFA審判委員会のメンバーが出演し、“誤審”として報道されたシーンも真正面から取り上げ、どうジャッジすべきだったのか意見をかわしていく。昨季途中にJリーグ制作でスタートし、Jリーグ公式YouTubeチャンネルなどで配信していたが、今季からDAZNで先行配信されるようになり、DAZNの中でも人気コンテンツの一つとなっている。

(TOP画像:左からMCのアナウンサー・桑原学さん、JFA審判委員会の上川徹さん、Jリーグの原博実・副理事長、タレントの平畠啓史さん)

『&M』編集部では9月末に撮影現場を取材。さらに原副理事長にインタビューして、人気の秘密を探った。

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9月30日に行われた撮影は、東京・御茶ノ水駅からほど近いJFAハウス内で行われた。『Jリーグジャッジリプレイ』は、前の週末に行われた試合について翌月曜日の収録で取り上げ、火曜日朝に配信している。なかなかのスピード感だ。

MCのアナウンサー・桑原学さんの進行で、原副理事長とタレントの平畠啓史さん、JFA審判委員会の上川徹さんの3人が、視聴者からTwitterで「#Jリーグジャッジリプレイで取り上げて」とのタグをつけて投稿されたシーンを振り返り、ジャッジが正しかったかを検証していく。

この回で最初に取り上げたのは、J1第27節鳥栖対浦和の70分のシーン。浦和のペナルティーエリア内で鳥栖・豊田陽平選手と浦和・槙野智章選手が交錯したが、主審は反則をとらなかった。しかし、リプレイを見ると、豊田選手のシュートは槙野選手の手に当たっているように見え、さらに槙野選手は、豊田選手のユニホームを引っ張っているようだ。

まず意見を聞かれた平畠さんは「ハンドをとるのは難しいかなと思うけど、そのあと槙野選手の足がからまって豊田選手が倒れているから、いろいろ足してPKかなと思ってしまう」とコメント。もう一度スロー再生を見て、豊田選手のユニホームが引っ張られているのを確認すると、「PKです」と語った。

原副理事長は最初から「PKだね」とばっさり。「立とうとした豊田選手の足にからまっている足を、槙野選手は抜かずにそのままプレーしているし、左手では引っ張っちゃっている」と理由を挙げた。

最後に見解を聞かれた上川さんは「難しい事象だと思います。ただ、まず槙野選手は、シュートブロックにいっていて、ハンドの意図はなかっただろうが、明らかに腕が肩よりも上にある。これは新しい競技規則に照らすとハンドの反則をとられるリスクが高いプレーになります」とルール解説を交えながら説明した。足がからまっている点やユニホームを引っ張っている点で笛を吹くのは「ちょっと難しい」との考えだった。

3人とも、PKをとるべきだったという判断はそろっているが、その理由は異なっている。そして、どの意見にも一理あるように聞こえる。

収録は次のシーンへと進んでいったが、議論を聞きながらずっと考えたのは、スロー映像を繰り返し見ながら判断しても、見る人によってジャッジが分かれるのだから、その場で笛を吹く、吹かないを判断することがどれだけ難しいだろうかということだった。

サッカーは1試合を通じての得点が他の球技より少ない。それだけに、一つのジャッジへの注目が集まりやすい面がある。

今年5月のJ1第12節浦和対湘南では、湘南のシュートがサイドネットを揺らしたにもかかわらず、ゴールと認められなかった。映像を再生すれば湘南の得点であることは明らかなだけに、一般のニュースでも大きく報じられ、SNSでは現役選手ら関係者から「誤審だ」と批判する投稿が相次いだ。

『Jリーグジャッジリプレイ』は、放送の1回分をまるまる割いて、このシーンを真正面から検証した。その際は、上川さんが当日担当した主審・副審から聞いた話も交えながら、詳しく状況を解説。全員で、どこに問題があったか、どうすれば誤審を防ぐことができたかを徹底的に議論した。

筆者は、今回の取材にあたって、この回を改めて視聴してみたが、すでにワールドカップや各国のトップリーグで採用されているビデオ・アシスタント・レフェリー(VAR)を早く導入する必要性を強く感じさせる内容だった。

そして、Jリーグは今年9月、来シーズンからJ1のすべての試合にVARを導入すると発表した。計画よりも1シーズン前倒しになったそうだが、今年、先述のような誤審を指摘される事案が起こり、チームやプレーする選手たちからも早期の導入を求める声が上がったためだろう。

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番組の収録を見学した後で、同番組を企画した1人でもあり、自ら出演する原博実・副理事長に、『Jリーグジャッジリプレイ』を始めた理由や、番組制作の方針についてインタビューした。

――そもそもなぜJリーグとして『Jリーグジャッジリプレイ』を始めたのですか?

論争となったジャッジも真正面から議論 『Jリーグジャッジリプレイ』の人気に迫る

原博実・副理事長(以下、原) 海外では、白熱した好ゲームについては、得点シーンや結果だけでなく、ジャッジもテレビのニュースで取り上げています。「あれはこうだったのか」と本音で語り合っている番組はいくつもあります。

競技規則の変更もあるので、様々な立場から話す番組が必要ではないかと考えて、昨シーズンの途中から始めました。Jリーグを運営している側、審判、それぞれの立場があるので、難しさはあります。特に審判委員会の立場では、昨日、一昨日の試合について、ジャッジしたレフェリー本人に確認する前に番組で語らなければいけない大変さもあります。ただ、審判委員会にも、平畠さんのように一般の人にも参加してもらって、オープンな形で議論したかったのです。

――たくさんの反響がある人気コンテンツになった理由はどこにあると考えますか。

 この番組がうまくいったのは、取り上げるシーンを募集したからだと思います。ファンの人たちとつながることができたことが大きいと思います。自分たちだけで取り上げやすいシーンを決めるのではなく、大変だけれども話題になっているシーンを取り上げることにしました。各クラブのサポーターとつながっているということが大切だと思います。

最初は月1回で始めてみましたが、1カ月も経つとどの試合か忘れてしまいますよね。そこで毎週放送することにしました。覚えている方もいらっしゃるかと思いますが、昨年11月、J1第33節清水対神戸の試合で、アディショナルタイムが18分になった事例がありました。この試合は、ちょうど毎週放送を始めた時だったのですが、審判のどこに問題があったのかを逃げないで取り上げないとこの番組をやる意味がないよね、ということで正面から取り上げました。結果、審判の「ルール適用のミス」だとわかり、みんな驚いたけれども、しっかりと解説できたこともあり多くの方に納得してもらえたと思っています。

今までも、審判委員会内部で議論されたのだと思いますが、内部だけでした。それをオープンに議論して、ぼくらも意見を言いました。すると、その後ほとんどの批判はとどまりました。もしもあの番組がなかったら、「Jリーグは何をやっているんだ」と批判が続いたかもしれません。

――番組では、今年話題になった湘南対浦和のノーゴールの判定についても、まるまる1回使い、率直に議論している点が印象的でした。

論争となったジャッジも真正面から議論 『Jリーグジャッジリプレイ』の人気に迫る

 あのケースは大きな話題にもなったので、ミスはミスとして、なぜそれが起きたかを議論したかったのです。DAZNさんの協力も得て、様々な角度からの映像で、主審からなぜ見えなかったのかを検証しました。「誤審」「誤審ではない」という結果だけではなく、再発防止のために何をすればいいかを番組で議論できたことも大きな意味があったと思っています。J1でのVARの導入を来季からに早めることになりましたが、様々なことがあの番組をきっかけに動いていることも事実ですね。

起きたことからは逃げず、正面から取り上げる。それが一番大事だと思っています。オープンに、違う立場の人が様々な意見を言うことが重要です。平畠さんは、一般のファンの視点から、僕は選手や監督をしていたから、そちらの目線で、指導者や選手に対して、「ここで手を出しちゃったらファウルをとられても仕方ない」というコメントもしています。たまにクラブからは、コメントが厳しいよって言われることもありますけどね(笑)。選手にうまくなってほしいから、「当たってはいるけど、あれで倒れちゃだめだ」なんて言うこともあります。

ただ、すべての前提として、レフェリーとその判定をリスペクトしています。ミスがあったとしても、レフェリーの人格を否定するようなことはしません。あくまで一つのジャッジに対して議論をかわす、それが大事です。

もう一つ、番組で良かったと思う点は、ルールの解説を丁寧にしてきたところです。例えば“DOGSO”(ドグソ)と略される「決定的な得点機会の阻止」(Denial of an Obvious Goal Scoring Opportunity )で一発退場になるケースや、ハンドの新しいルールについては、僕もわかっていたつもりだったのですが、審判委員会の人に説明してもらうことで、より明確に理解できました。この1年、番組を通じて、たくさんのファンの人にルールを知ってもらえたのではないでしょうか。最近は、子どものサポーターからも、「見てます!」と声をかけてもらえるようになりました。

――J1では、VARが来シーズンから導入されることになりました。導入後も、この番組は必要ですか。

論争となったジャッジも真正面から議論 『Jリーグジャッジリプレイ』の人気に迫る

 VARを導入することによって、オフサイドなど客観的にわかるようになる事象もありますが、ファウルであるのか、PKをとるかは、引き続き主審の判断にまかされます。つまり、瞬時に判断しなければいけない難しさはなくなりません。この番組をやってみたからこそ、審判の待遇についてももっと考えてあげないといけないと思うようになりました。これだけのストレスがあるわけですから。

番組で「ナイスジャッジ」を取り上げていますが、ほとんどはナイスジャッジなんです。でも、ちょっと失敗するとそこをクローズアップされてしまいます。これからシーズンの終盤に来て、優勝や残留争いで、どのチームも勝点1を死にものぐるいで争うようになりますから、そうした試合を担当するのは大変ですよね。

VARが導入された後で楽しみにしているのは、導入されたJ1で起きた事象がJ2ではどうジャッジされたか、その違いについてです。むしろ、J2やJ3でも様々な事象が出てくるんだろうと思います。こうした番組は、ラフプレーの抑止力にもなる側面があります。来年以降も、J2についても取り上げるようにしたいです。

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「正面からオープンに議論することが、ファンとのつながりのために一番重要だと思う」という原副理事長の言葉が、番組が人気コンテンツになったポイントであるようだ。

最後に、来年も番組が続くかどうかをたずねてみたら「人気次第だね」と笑顔で答えが返ってきた。サッカーファンとしては、ぜひ来年もこの番組が見たい。

(取材・文/&M編集部 久土地亮、写真/和田咲子)


『Jリーグジャッジリプレイ』は、火曜日午前にDAZN(ダゾーン)で先行配信し、金曜日にJ.LEAGUE.jpの動画コーナーおよびJリーグ公式YouTubeチャンネルで配信されている。

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