小川フミオのモーターカー

フェラーリのファンを増やせるか 新車「F8トリブート」のパワーと電子制御技術をイタリアで体験

フェラーリには大きくいうと、2種類ある。V8とV12だ。それはエンジンによる分類で、8気筒モデルはキャラクターでいうと、ミドシップのスポーツ派、12気筒はフロントエンジンのグランツーリスモとなる。

(TOP写真:エアダクトやスポイラーなどで空気の流れをより緻密にコントロール)

V8ミドシップモデルの歴史は、1973年のディーノ308GT4までさかのぼる。それから現在にいたるまで、さまざまなV8フェラーリが登場した。その“伝統”へのトリビュートとして2019年3月にデビューしたのが、ここで紹介する「フェラーリF8トリブート」なのだ。

フロント下部には空気を採り入れて前輪のダウンフォースを増す「Sダクト」採用

フロント下部には空気を採り入れて前輪のダウンフォースを増す「Sダクト」採用

日本では7月25日に発表された。そして私はその2カ月後に、イタリアで試乗する機会を得た。「フィオラノ」というフェラーリの名物ともいえるテストコースと、フェラーリ本社のあるマラネロ及びモデナ周辺の一般道を走った。

クルマを走らせた感想は、率直にすばらしくいい。従来の「488GTB」というモデルと比べると、出力が670cv(493kW)から720cv(530kW)へと上がっているだけでなく、車体は軽量化されており、操縦安定性も向上している。フェラーリのうたい文句どおりの出来だ。

飛行スポーツカーの機能性を確保したコクピット

飛行機のタービンを模したエアダクトをはじめ、エモーショナルだが、スポーツカーの機能性を確保したコクピット

スポーツカーについての記事では、このように「出力が上昇している」というひと言でもって、いいクルマであることを言外に表現しているところがある。しかし、F8トリブートに関しては、特筆しておきたいのはそれだけではない。

私が乗った日は雨。テストコースではドライブセレクターで「ウェット(濡れた路面)」モードを選ぶ必要があった。しかし、そんな状況だからこそ、「なんて安心して飛ばすことができるのだろう」と、性能に感心してしまった。

ドライブモードセレクターで驚くほどキャラクターが変わる

ドライブモードセレクターで驚くほどキャラクターが変わる(右隣はワイパースイッチ)

720馬力というのは、言うまでもなく、とてつもないパワーだ。同じイタリアのチンクエチェントを例にとると、あのクルマもけっこうよく走るが、69馬力である。どうです、この違い。

F8トリブートは、つまり、超がつくほどパワフルだ。しかし扱いやすい。濡れた路面を走ることで、そのことがよくわかった。ウェットモードは、出力を制御して、挙動を安定方向に持っていく。「アクセルペダルを安心して床まで踏んでください」と、同乗してコースの手ほどきをしてくれたイタリア人テストドライバーは背中を押してくれた。

加速性はそれなりにいい。直線部分ではぐんぐんと速度計の針が上がっていく。いっぽうで、コーナリング時に、クルマの挙動が乱れることがない。運転する私も、滑りがちなコーナー内側の“ゼブラゾーン”にタイヤを載せたりはしなかったけれど、無茶なことを控えて走っているかぎり、ウルトラスムーズだ。

ドライブセレクターを「スポーツ」、さらに「トラック」に切り替えると、比較的簡単にリアが滑るドリフト走行も楽しめる。それでも、コントロール性が高い。ドライバーにはそれと気づかせず、電子制御技術が介入しているのだろう。

スタイリングは、さすがF1レースに参戦しているブランドだけある。F1マシンとの関連性を思わせる空力付加物があらゆる箇所に設けられている。空気の流れを徹底的にコントロールした、とフェラーリの技術者が説明してくれたとおりだ。

720馬力を発生する90度V型エンジン

488シリーズのトップモデル「ピスタ」と同じ720馬力を発生する90度V型エンジンの搭載位置は低い

3902ccV型8気筒ターボエンジンがドライバーが座るコクピット背後に搭載されている。冷却に必要な空気をたっぷり採り入れるとともに、305/30R20という太いタイヤを収めるためフェンダーまわりのボリューム感は圧倒的だ。

「美しさとパフォーマンス(性能)をぎりぎりのところでバランスさせました」。現地で英国出身のデザイナーが説明してくれた。F1っぽい要素を期待するファンは少なくないので、ある種の“けれん味”もボディー各所に採り入れる必要もあるだろうから、デザイナーの仕事は大変そうだ。

Michael Hugo Leiters(ミヒャエル・ヒューゴ・ライターズ)氏

チーフテクニカルオフィサーのMichael Hugo Leiters(ミヒャエル・ヒューゴ・ライターズ)氏

フェラーリ本社では、めったにない機会ということで、半ば強引に頼んで、CEOの下のチーフテクニカルオフィサー、事実上ナンバー2のドイツ人Michael Hugo Leiters(ミヒャエル・ヒューゴ・ライターズ)氏へのインタビューが実現した。

ライターズ氏にF8トリブートの開発目的を問うと、「より広い層にフェラーリの魅力を感じてもらうモデル」ということになるそうだ。「フェラーリにとって、まだまだ市場にはニッチ(すきま)がある」と言う。なるほど、なっとく。

以下、ライターズ氏の説明は続く。

F8トリブートの位置づけは、488GTBより「ドライビングエモーション」(日本語だと“わくわく感”とでも訳せばよいのか)を高めつつ、「パフォーマンス」を強化したところに置いている。

F8トリブートの上位モデルには、「ドライビングエモーション」と「パフォーマンス」、の二つの要素のどちらも思いきり向上させた「SF90ストラダーレ」という、1000馬力のV8プラグインハイブリッドモデルの発売が控えている(まもなく日本でも発表)。

丸形4灯式のテールランプがF8トリブートの特徴

丸形4灯式のテールランプがF8トリブートの特徴

モデルごとのキャラクターをより明確化し、フェラーリに興味を持つ人を増やすという戦略だ。燃費も向上し、欧州の「ユーロ6d」という規制値をクリアしている。フェラーリはいろいろな意味で、アップデート化を進めているということだ。ただしそれでも生産台数は増やさない。

ライターズ氏によると、フェラーリの生産台数はつねに「需要マイナス1台」を目指している。作りすぎによる価値の毀損(きそん)を回避するためだ。

ちなみに以前、アストンマーティンのCEOにインタビューした時には「フェラーリの(生産台数を絞る)やりかたは賢い」とホメていた。

フェラーリは2019年内に、さらにもう1台、新車を発表するそうだ(詳細は「すみません教えられません」とのことだった)。それでも増産はしない。それでビジネスはどう成立するのか。マーケティングのお手並み拝見といこうではないか。

【スペックス】
車名 フェラーリF8トリブート
全長×全幅×全高 4611×1979×1206mm
エンジン形式 3902cc V型8気筒 後輪駆動
最高出力 530kW(720cv)@7000rpm
最大トルク 770Nm@3250rpm
価格 3328万円(10%の消費税込み)

(写真=Ferrari SpA)

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PROFILE

小川フミオ

クルマ雑誌の編集長を経て、フリーランスとして活躍中。新車の試乗記をはじめ、クルマの世界をいろいろな角度から取り上げた記事を、専門誌、一般誌、そしてウェブに寄稿中。趣味としては、どちらかというとクラシックなクルマが好み。1年に1台買い替えても、生きている間に好きなクルマすべてに乗れない……のが悩み(笑)。

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