原田泰造×コトブキツカサの「深掘り映画トーク」

ホアキン・フェニックスの悲しい笑い声が心に響き続ける 話題作『ジョーカー』

ネプチューンの原田泰造さんと、映画パーソナリティーのコトブキツカサさん。映画が大好きなオトナのお二人が、新作や印象に残る名作について自由にトークする対談企画です。今回は、10月4日に公開され、初週の興行収入ランキングで国内トップとなった話題作『ジョーカー』についてたっぷり語ります。

※劇中のシーンに触れている部分もありますので、事前に情報を入れたくないという方は、ぜひ鑑賞後にお読み下さい。

<ストーリー>

ゴッサム・シティの片隅で、病気の母の世話をしながら道化師として細々と暮らしているアーサー・フレック。コメディアンとして活躍を夢にみながら、不運と不条理な暴力に見舞われ、その運命を狂わせていく……。『バットマン』の悪役として名高いジョーカーの誕生を描き、第79回ベネチア国際映画祭のコンペティション部門で金獅子賞を受賞した。

 

原田 僕はなるべく前情報を入れないで映画を観(み)に行きたいほうなんだけど、『ジョーカー』に関しては無理だった。公開されると、もういろんな人から情報や感想が伝わってきて……。だから、ものすごく期待があったんだけど、実際に作品を観たら、それを超えてくるぐらいの傑作だった。どのシーンも本当に力が入ってたよね。

コトブキ とにかくホアキン・フェニックスの演技に圧倒されますし、「あのシーンはどういう意味だったんだろう」とか、そういうことも含めて、いっぱい語りたくなっちゃう作品ですよね。情報という意味でいえば、僕たちはいままでたくさんの『バットマン』映画を見てきて、歴代のジョーカーを観てきてますから、それとの比較も語りたくなる。

原田 ティム・バートンが監督した『バットマン』で、ジャック・ニコルソンが演じたジョーカーがもう決定版みたいな感じだったよね。でも、その後の『ダークナイト』で、ヒース・レジャーがまたすごいジョーカーを演じて、それも伝説的になった。

コトブキ 『スーサイド・スクワッド』でジャレッド・レトが演じたジョーカーも、斬新なアプローチで僕は大好きです。それぐらい「ジョーカー」という役は、落語でいえば、先代のすごい名演があるっていうことですから、ほんとに覚悟がいると思います。同じことはやれないし、でもいままでを越えるものをやらなきゃいけないっていう。比べてどっちが上とか、優劣つけるもんじゃないんですけど、演じるほうはプレッシャーはすごいでしょうし、みんな命削ってやってる感じがしますよね。

歴代ジョーカーと比べて最も弱く、でも人間らしく魅力的

原田 今回のジョーカーは、よりリアルな設定になってる。あの白塗りの顔も、職業がピエロってことだから、説明がそれで済んじゃっている。それ以外は、アーサーというひとりの人間でしかない。だから、今までのジョーカーの中で一番弱いと思う。少年たちにボコボコのされちゃうぐらいだから。それなのに、やがて悪の象徴として祭り上げられていくところが現代的だし、リアルで面白い。

コトブキ そこに説得力を持たせたのがホアキンの演技でしょうね。24キロも減量したっていいますから。

原田 すごく痩(や)せこけた体で、見てるだけで痛々しかった。命をかけて演じてるのだと伝わるから、ホアキンがこれでつぶれちゃうんじゃないかって心配になったよ。死なないでくれ、というか、この役で燃え尽きないでほしい。それぐらい、どのシーンも鬼気迫ってたし、あの笑い声もすごかった。不気味で、でも悲しくて……。この映画で好きなシーンはどこだった?

コトブキ どれも印象深いですけど、いまパっと浮かんだのは、地下鉄の車内でアーサーが襲われて、思わず持っていた拳銃で反撃をしてしまうシーンですね。それまで溜めてたモノというか、グーっと引かれてた弓矢がパっと放たれる瞬間が鮮烈で。

原田 わかるわかる。やっぱり、この映画で印象に残るところって、アーサーがジョーカーになる瞬間なんだと思う。僕が好きなシーンは、最後にアーサーが口の端まで化粧をして、ジョーカースマイルを作るところ。あの瞬間、ジョーカーが誕生したって思ったんだよ。コメントとかを見てると、クライマックスの直前に、赤いスーツを着て、踊りながら階段を降りてくるところがジョーカーの誕生シーンだっていう意見をよく聞くんだけど、僕の中ではあの笑ったメイクをしたところなんだよね。

コトブキ どのシーンも、ハッキリと「ここからジョーカーです」という演出や演技はしてないんですよね。ずっとジョーカーの影がチラついているというか、アーサーはそれぐらいいろんな方面から追い込まれてるわけですよ。それに、アーサー自身も頼りないというか、病院で子どもたちの慰問してるときに拳銃を落としたりするじゃないですか。もう見てるこっちがずっとハラハラするというか。

原田 あれは拳銃持っていったアーサーが悪いよね(笑)。序盤に出てくる妄想的なシーンなんだけど、アーサーが憧れのテレビ番組を観覧してて、妙にスポットライトを浴びちゃうシーンあるじゃないですか。お母さんと暮らしてるとか、大して面白くない話をして、あそこもハラハラするというか、もう見てられなかった。

原田泰造

コトブキ 何かしでかすんじゃないかって気持ちですよね。身内が結婚式でスピーチするのを見てるような(笑)。頼むから、そこでヘンに笑いとか取りに行かないでくれ、みたいなハラハラ感があった。

原田 そのあとの、スタンダップコメディのシーンで、アーサーが出てきたときの空気もイヤだったよね。発作の笑いが出ちゃうし、ネタもつまんなくて……。あの滑り倒してる感じは身につまされるというか、見てて吐きそうになったよ(笑)。この映画は、笑っていいのか、それとも同情するべきなのか、みたいなすごく微妙な所をついてくる場面が多いよね。

コトブキ 監督のトッド・フィリップスは『ハングオーバー』シリーズを撮った人ですからね。あの映画の笑いも、ちょっとブラックというか、ほんとに笑っていいのかな、みたいな感じのギャグが多かったじゃないですか。

原田 あぁ、キリンの首切っちゃったりするもんね。ああいうことができる監督だから、こういう作品が撮れたのかもしれない。

ロバート・デ・ニーロの出演は必然だった

コトブキ そして、あのテレビ番組の司会者をロバート・デ・ニーロが演じてるじゃないですか。この『ジョーカー』がそもそもデ・ニーロが主演した『タクシードライバー』や『キング・オブ・コメディ』にオマージュを捧げてるから、パロディ的にも思えるし、逆にすごく意味あるキャスティングだと構えちゃうわけですよ。

原田 デ・ニーロが、よくこの役を受けたなって思うよね。でもデ・ニーロもプロだから、『あぁ、やりますよ』っていう感じで、普通に受けたのかもしれない。

映画『ジョーカー』

(C)2019 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved   TM & (C) DC

コトブキ 泰造さん、それは鋭いです。このデ・ニーロのキャスティングには、見方がふたつできて、ひとつは、これはもうデ・ニーロしかできない役だし、デ・ニーロ自身もアクターズ・スタジオ出身で、若手や後進の俳優たちに対してバックアップしたいという意識が強いからオファーを受けたのだろうと思う。

そして、もうひとつはリアルな話で、最近のデ・ニーロはあまり仕事を断らないんですよね(笑)。トライベッカという映画制作会社を作ったまではよかったのですが、その後経営に行き詰まり借金を抱えた辺りから、昔なら断っていたであろう作品にも出演するようになりましたし。

 

原田 そうなんだ(笑)。でも、この『ジョーカー』のデ・ニーロはすごかったし、彼以外は考えられない役だった。最期のシーンの表情なんて、本当にショッキングだったよ。ホアキンも、デ・ニーロと共演ということで力が入って、極端な減量をしたのかもしれない。

コトブキ デ・ニーロ・アプローチですね。これはデ・ニーロ本人が言ってたんですけど、本人的には自分の演技力に慢心していないんですね。だからすごく練習するし、『タクシードライバー』だったら実際にタクシーの運転手をやってみるとか、そういうアプローチをする。

原田 俳優の北村一輝くんとデ・ニーロはどんな演技の練習をするんだろうという話をしたことがある。アクターズ・スタジオのドキュメンタリー映像をみると、デ・ニーロは同じセリフを700通りのパターンで言ってみるんだって。じゃあ俺もやってみようと思ったんだけど、700通りなんて不可能で、100もいかないうちに限界が来たって言ってたよ。

コトブキ そりゃそうですよ。でも、ホアキンなら700通りやりそうですよね……。ただ、ホアキンのジョーカーは、この一作で見納めでしょうね。だけど『バットマン』映画は続いていくでしょうから、今後誰かがジョーカーを演じるときがくるわけじゃないですか。それもキツいですよね。

原田 ハードル高いよね。もう、バットマンをやってたクリスチャン・ベールがジョーカーやるとか、そのぐらいのインパクトがないと難しいかもね。

コトブキツカサ

コトブキ DCコミックスの世界観で考えると、この作品でジョーカーのイメージがちょっと変わってしまったとも言えるじゃないですか。ジョーカーは、正体も不明だし、動機も不明だし、とにかく何を考えてるかわからないっていうところが、恐ろしいんですよ。カネも名誉も目的じゃないから、『ダークナイト』のジョーカーは、盗んだカネを燃やしたりしてたじゃないですか。でもこの映画は、アーサーが悪になっていく理由を描いてしまっているから、観客の間にはシンパシーが湧くけど、悪としてカリスマ性が無くなってしまう。

原田 人間の弱さを感じてしまうよね。観客としては応援したくなるけど、悪いこともするから、肯定もできないというか。

コトブキ エレベーターですれ違っただけの女性に恋しちゃうとかね。そして、アーサーはいろいろ妄想もするから、なにが本当かわからないじゃないですか。

原田 その辺はわざとあいまいにしてるんだろうね。大量の薬を飲んでたのが、打ち切られて飲まなくなったりする描写とかもあるし。

コトブキ コミック映画でありながら、リアルとファンタジーの境界線をふらふらするというか。

原田 でも、この映画で大事なのは、舞台が「ゴッサムシティ」ということだよね。コミックものだけど、スーパーパワーを持つ人物はひとりも出てこないから、すごくリアルで、これが「ニューヨークで起こった実話です」と言われても信じちゃうくらいだけど、これがゴッサムシティで起こったというだけで、ファンタジーになるというか、寓話性が出てくる。バットマンの世界観で一番の発明ってゴッサムシティじゃないかって思った。

映画『ジョーカー』

(C)2019 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved   TM & (C) DC

コトブキ 『ジョーカー』は、アメリカでは子供に見せてはいけないとか、何か起こるかもしれないから映画館に警備員がついていたりとかが話題になってるじゃないですか。その賛否は置いといて、そういう暴動を引き起こしかねないっていう映画のパワー自体がすごいですよね。あえて言ってしまえば、ただの映画じゃないですか。しかもアメコミが原作の。それが社会現象になってしまうのは、いまこのタイミングで公開されたということも大きいかもしれないですよね。

原田 アーサーの、あの笑い声とかすごい耳に残るじゃない? 最近の映画でこんなふうに観終わった後までズンと残る作品ってなかなかないよね。そして、タイトルが「ジョーカー」でなくても、別のタイトルであっても、十分成立していると思えた。それだけの出来栄えだと思う。

コトブキ 劇場を出てからが「ジョーカー」の面白さですよね。家に帰って寝て、ひと晩経っても何かじっとり心の中に残る作品だと思います。

(文・大谷弦 写真・稲垣純也)

作品情報:『ジョーカー』

監督:トッド・フィリップス
出演:ホアキン・フェニックス
   ロバート・デ・ニーロ
10月4日(金) 全国ロードショー
配給:ワーナー・ブラザース映画
(C)2019 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved   TM & (C) DC

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PROFILE

  • 原田泰造

    1970年、東京都出身。主な出演作に、WOWOW「パンドラⅣ AI戦争」(18)、映画「スマホを落としただけなのに」(18)、NHK「そろばん侍 風の市兵衛」(18)、映画「ミッドナイト・バス」(18)、NHK連続テレビ小説「ごちそうさん」(13-14)、NHK大河ドラマ「龍馬伝」(10)など。

  • コトブキツカサ

    1973年、静岡県出身。映画パーソナリティとしてTV、ラジオ、雑誌などで活躍中。年間映画鑑賞数は約500本。その豊富な知識を活かし日本工学院専門学校 放送・映画科非常勤講師を務める。

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