小川フミオのモーターカー

“空力”デザインで技術革新を果たした「アウディ100」

クルマのなかにエポックメイキングなデザインがあるとしたら、1982年発表の「アウディ100」をリストに入れたい。理由は「科学」を商品化したからだ。

(TOP画像:空気抵抗の大きさを表すCD値0.30は当時画期的だった)

アウディ100は、それまで量産車の世界ではほとんど語られなかった「空力」がいかに大事かを謳(うた)った。

車体はなめらかさを意識。空気の流れを考えてデザインしたと強調された。空気抵抗値を減らしたことのメリットは、高速道路での速度の伸び、そして燃費といわれた。

アウディ100

サイドウィンドーを含めてキャビンを上ですぼまったような形状(タンブルフォーム)とし空力を追究した

実際、ボディーデザインには画期的な新しさが感じられた。車体からは凹凸や飾りを極力廃し、なめらかさを追求。たとえばヘッドランプとグリルや、サイドウィンドーと、車体との段差をなくすフラッシュサーフェス化がはかられたのだ。

自動車メーカーは1930年代から空気抵抗値を下げることに熱心に取り組んできた。流体力学を学んだ航空エンジニアなどがかかわり、空力実験車と呼ばれるものが多く作られてきた。アウディ100はその流れの一つの集大成とされたのである。

実はアウディはこの頃、課題を持っていた。フォルクスワーゲングループにあって、メルセデス・ベンツやBMWと対抗できるブランドに成長することだ。

アウディ100アバント

83年に追加されたステーションワゴン版「100アバント」も当時はスタイリッシュさで人気を博した

そんな中、“ポルシェの生みの親”フェルディナント・ポルシェの孫にあたるフェルディナント・ピエヒが70年代初頭にアウディの開発担当重役に就任。アウディのポジショニングを真剣に考えた。そして出した結論が“技術的革新性(イノベーション)”だったといわれる。

その頃は、メルセデス・ベンツが歯牙(しが)にもかけなかったアウディのブランド力をひきあげるため、ピエヒをはじめとするアウディの戦略チームが出した結論がおもしろい。

メルセデス・ベンツの製品を定義するなら「クオリティーエンジニアリング(高品質を求めた製品づくり)」、BMWは「ドライビングエンジニアリング(運転して楽しい製品づくり)」。ならばアウディは、「イノベーティブエンジニアリング」でいこう、というのだ。

アウディ100

リアウィンドーを大きく傾斜させてスポーティーさを狙った独特のスタイルは以降アウディのトレードマークのようになった

アウディ100に先んじること1980年に、ピエヒのチームは、道路の状況にかかわらず高速で走れるためのフルタイム4WDシステム搭載の「アウディ・クワトロ」で、世界に衝撃を与えていた。

次に100が空力で世界を驚かせたのである。じつは79年発表のメルセデス・ベンツSクラスが、空気抵抗を表すCD値が0.36という低い値であることをアピール。まだ石油ショックの悪夢から立ち直れない世のなかのひとに強い印象を植え付けていた。

アウディはその流れにうまく乗り、悪い言葉でいえば、まんまと本歌どりをしたことになる。しかも当時、1.8リッター4気筒と2.2リッター5気筒で、それ以上大きな排気量のエンジンを持っていなかったが、小さなエンジンをアウディは逆に利用した。

アウディ200アバントクワトロ

85年に追加された182馬力の200アバントクワトロのリアビュー

100では、コンパクトなエンジンでも、ターボ化と、空力特性にすぐれる車体を使えば、時速200キロになんなんとする高速ドライビングを可能にしたことを喧伝(けんでん)。「4気筒のように飲み、8気筒のように走る」と、燃費(“飲む”はガソリンの消費を指す)とパワーの両立を主張したのだった。

白状すると、当時は本当にカッコいいなあと感心したアウディ100だが、いまはボディー幅に対してトレッド(左右の車輪の距離)がやや狭すぎて、ちょっと頼りない。

そのあとアウディは、パワフルな感じもうまくボディースタイルに盛り込み、多気筒エンジンも作るようになり、いってみれば、科学から官能性へと商品性をうまくスライドさせた。本当にマーケティングがうまい。これがアウディの真骨頂である。

【スペックス】
車名 アウディ100CD5E
全長×全幅×全高 4795×1815×1420mm
2144cc直列5気筒 前輪駆動
最高出力 100kW@5500rpm
最大トルク 15.5kgm@3000rpm

(写真=Audi AG)

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PROFILE

小川フミオ

クルマ雑誌の編集長を経て、フリーランスとして活躍中。新車の試乗記をはじめ、クルマの世界をいろいろな角度から取り上げた記事を、専門誌、一般誌、そしてウェブに寄稿中。趣味としては、どちらかというとクラシックなクルマが好み。1年に1台買い替えても、生きている間に好きなクルマすべてに乗れない……のが悩み(笑)。

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