インタビュー

岩井勇気「芸人の仕事は客商売。テレビと本は客層が違う」 文章で切り開いた新たな表現

お笑いコンビ「ハライチ」の岩井勇気さんが9月末に出版したエッセー『僕の人生には事件が起きない』(新潮社)が発売2週間で4度の重版がかかるなど好評だ。トーク番組でプライベートを面白おかしく話すことを求める風潮を嫌い、本作では自身の日常を静かにつづった。話を“事件化”しなくても受け手を満足させることはできる――そんなメッセージを感じさせる一冊。本書に込めた岩井さんの思いを聞いた。

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岩井勇気さん

――『僕の人生には事件が起きない』、岩井さんの視点が詰まっていて、とてもおもしろかったです。日常のささいな出来事に違和感を持ったり面白がったりする感覚は、子どもの頃からなのでしょうか?

岩井勇気(以下、岩井) いや、そんなことないですよ。たぶんラジオをやり始めてからじゃないですかね。ラジオを始めて最初の頃は、何か出来事をちゃんと話さないといけないと思ってたんです。でもそんなすごいことって毎週1回必ず起きるわけじゃないし、何もないときは思い出話でしのいだりしてたんですけど、それもだんだんなくなってくる。じゃあどうしようかな、ってなったときに、とりとめのない話をおもしろく話してみようかな、ってところに落ち着きました。

このエッセーを書いている途中でも思ったんですけど、人の目を引くような出来事って、本当はそうそうないんですよ。俺もないし、ほかの芸能人も本当はそんなにないんだろうな、と。そういうふうに考え始めてからは、ほかの人を見ても「無理してんな〜」って思うことが多くなりました。

――以前「エピソードをつくるためにどこかに行くのはダサい」とラジオで言っていましたね。

岩井 感情を生み出すことを目的に行動するって、それはもう破綻(はたん)してるんですよ。「感動を求めて走り出す」みたいな。意味わかんなくないですか? 別の目的があってやったことの先に、喜怒哀楽のどれでもいいから感情がついてくれば、人に話せるものになるわけで。

――ラジオを始めてからそうした視点を持つようになったということですが、本書に収録されたエッセーで、ラジオで話された内容と重なるものが結構あると思います。何か理由があるのでしょうか?

岩井 ラジオだと、消費されちゃうんで。エピソードとしてちゃんと話して「今回はわりとうまいこといったな」と思っていても、次の1週間が来たらおしまいじゃないですか。聞いていない人は聞いていないし、アーカイブも残らないから、テキストにしてそれを保存しようと思っている部分は多少なりともあります。

岩井勇気さん

――ただ、同じ出来事でも、微妙に語り口や落とし所を変えているものもありますよね? たとえば、アート展の会場を訪れたときの「ルイ・ヴィトンの7階にいる白いペンギンを見張る人」の話は、ラジオと本書ではオチが違ったと思います。

岩井 文章だとそこはちょっと違いますね。しゃべるときは誰かのセリフで落とすことができるんですけど、文章で「そのときこの人はこう言った。『◯◯◯◯』。」って書くと、めちゃくちゃ決めにいってる感じがするじゃないですか。すごくドヤ顔感が出て、嫌なんですよね。なので、哀愁みたいな感じで終わるようにしてます。

 

――本書のあとがきで「文章は待ってくれるし、すぐに結果を求められない」という一文があって、すごくいいな、と思いました。

岩井 文章って、途中で結果が求められないじゃないですか。テレビやラジオのネタやお笑いだと、要所要所に笑いどころがなかったら最後まで見たり聞いたりしてもらえないけど、文章は読み始めたらとりあえず最後まで読んでくれる確率がたぶん高いですよね。

笑いどころはずっとないけど最後にオチがあるとか、最後まで読んでも笑いどころはないけど考えさせられるとか、いろんな表現ができる。ジャンクフード感がないというか、丸のみにされずにちゃんと咀嚼(そしゃく)してもらえる感じがありますね。

――それはテレビの世界とすごく対照的ですよね。テレビでやるネタはわかりやすさが大事だとされていたり、バラエティー番組では瞬発力が必要だったりすると思います。そういう部分に対して、今のお仕事を始めたときから違和感があったのでしょうか?

岩井勇気さん

岩井 うーん……すぐ結果が求められるお笑いを否定してるわけじゃないです。そういうジャンルとオチまで読んでくれるジャンル、それぞれでお笑いをやったらどうなるの?と思って後者をやってみているというか。客層が違う感じがして、どっちも楽しいです。

芸人の仕事を、客商売だとずっと思ってる部分もあるんですよね。漫才なんてまさに客商売。客層の違う文章の世界に足を踏み入れたのだから、すぐ結果を求めて無理やり笑いを入れるようなお笑いをここでやるのは違うんじゃないかな、と途中から思い始めました。最初は、要所要所にボケを多少入れて書いてたんですけど、編集者に「そういうのはいらないです」ってすごく冷たくあしらわれて。「じゃ、誰に頼んでんだよ」って思いましたけど(笑)。でもまぁそれでやってみたら、意外と褒(ほ)められたので。実は要領いいんですよ。

正論言ってもひねくれ者扱い「みんなウソで生きている」

――岩井さんはほとんど文章を書いた経験もなく、活字も読まないということですが、執筆を始める前は、「挫折するかも」「続くのかな」というような不安はなかったですか?

岩井 最初に800字くらい書いてみたら、「いけるな」って思いましたね。たぶんあんまりうまくは書けてないけど、「はいはい、だいたいわかりました」ってなったんですよ。俺、この「だいたいわかりました」ってなったときに、あんまり間違ってたことがないんです。

――似たような手応えを感じた経験が過去にもあったと。

岩井 ネタの書き方とかですかね。自分ではすごくトレース能力が高いと思ってるんで、人のネタを見たらだいたいそれっぽいネタが書けますよ。ただ、それっぽいものを書いてもその人たちを超えることはないと思うので、意味ないからやらないだけです。それよりは誰かがやっていないことをやるほうがいいので。

岩井勇気「芸人の仕事は客商売。テレビと本は客層が違う」 文章で切り開いた新たな表現

――本書の中でも「唯一性」「オリジナリティー」という言葉が何度か出てきましたね。

岩井 そうですね。「この発想はなかったな」みたいなものがいちばん気持ちいいですね。

――そう考えるようになったきっかけは何かあるのでしょうか?

岩井 ピアノを17年間やってたんですけど、小学生の頃、「男でピアノやってるの、珍しいね」って言われるのがうれしかったですね。しかも当時は、ばりばりサッカーやってたんですよ。サッカーやってるのにピアノもやってるって、意味わかんないじゃないですか。その感じをすごく楽しんでました。

逆に「普通こうだよね」を押し付けられるのはすごく嫌ですね。そうじゃないこともたくさんあるじゃないですか。「普通オリンピック見るじゃん」って言われても、見てないやつのほうが本当は多くないですか? それはおかしいだろ、って誰も言わないけど。

岩井勇気さん

――でもそういうことを言っていると、「クレージー」とか「腐り」とか言われるわけですよね。

岩井 そうなんですよね。「ひねくれてる」とか言われてますけど、正論しか言ってないんですよ。俺が世の中怖いなって思うのが、そういうことを言ったときに「本当はみんなも、そうじゃないってわかってる」みたいなトーンで「本当のこと言うなよ」って言われることなんですよ。うそで生きてんだ、って思う。しかもそういうときって、「本当のこと言うなよ! すみません、なんかこいつが」ってなだめるやつが絶対いる。そういうやつは信用してないです。

――そういうスタンスで仕事をしていて、良かったこと、悪かったことはありますか?

岩井 良かったのは、疲れないことですね。メディアに出るときの自分と普段の自分の誤差があんまりないので、終わったあとに「あ〜、疲れた」みたいなことがほとんどないです。「そのまま出ちゃってんじゃねぇよ」って思ってる人もいるでしょうね。でもそっちのほうがのちのちしんどいんで、どこかで折れないで良かったです。

――そうした岩井さんの価値観と、テレビの今の「おもしろい」とされる評価基準にはズレがあると思います。そこはどう感じていますか?

岩井 今のテレビは煮詰まりすぎてるなって思います。番組の裏側を見せすぎて、それが当たり前になっちゃってる。たとえばみんな普通にテレビで「プロレス」って言うじゃないですか。「わかった上でケンカしてる」って意味の、芸人用語として。それは保険かけすぎじゃないか?って思います。本当のケンカに見せてたほうがいいんじゃないの、って。全部うそっぽいんですよね。

極論、一回全部生放送でドキュメントにしたほうがいいんじゃないですかね。どこまでがうそでどこからが本当なのか、わからないようにしないと面白くないじゃないですか。

岩井勇気さん

――本の話に戻りますが、ひとつ気になったのが本書のまえがきです。エッセーの執筆を依頼してきた編集担当の女性に初めて会ったとき、「この手の文系女子は、コンビの陰に隠れがちな方で、 ネタを書いていてラジオでは目立ちがちな、いかにも文章が書けそうな芸人にすぐ焦点を当てたがる」と分析されていました。

岩井 実際にそうじゃないですか? ネタはつくってるけど“陰”と思われてるほう、テレビではそんなに目立たないほうに文章を書かせて、それをサブカル女子が持ち上げて、ちょっと人気出るみたいな……その思惑通りにいきたくねぇなって部分もありますよね(笑)。「日常的に何か書いていそう」って思われてるんでしょうけど、全然ですからね。麻雀(マージャン)打ってマンガ読んでアニメ見てただけですから。

――でも、「そう思われてるんだろうな」と思った依頼に乗ることは、まさにその求められているキャラを受け入れることにもなりますよね。そこに応じた理由はなんだったんでしょう?

岩井 なんか、そういう心意気みたいなものが好きなんですよ。ギャンブル好きとして、その心意気に乗っかってベットしてやろう、っていう気持ちがあります。「お前は書けると思ってるかもしれないけど、俺は書けないかもしれないよ? それでもいいですか?」ってリスクを説明して「それでもいいです!」って言われたら、「オーケー、よく言った」って。人の賭け事を見るの、楽しくないですか?

岩井勇気さん

――相手の覚悟に乗っかるのが楽しいんですね。

岩井 そうですね。麻雀にたとえると、めちゃめちゃ危険な牌(ハイ)を切るとするじゃないですか。「この人に当たるかもしれないけど、絶対ここでこの牌を通したほうがいい、絶対正しい」っていう状況があったとして、それが命を懸けた麻雀であっても、遊びで打ってるときと同じように危険な牌を切れるのか?……ってことを俺は問うてるんですよ。「正しいと思ってるんなら、もちろんできるよな?」って。そこで「これが正しい考えだから、そうする」って言うなら、「じゃあ、俺もやるよ」って乗っかろうと思うんです。

(文/斎藤岬 写真/小島マサヒロ)

岩井勇気さん

岩井勇気
1986年生まれ。お笑いコンビ、ハライチのボケ、ネタづくり担当。芸能界きってのアニメ好きとして、『ハライチ岩井勇気のアニニャン!』(TBSラジオ)パーソナリティーの他、『ハライチのターン!』(TBSラジオ)、『自慢したい人がいます』(テレビ東京)、『おはスタ』(テレビ東京系)、『ハライチ岩井勇気のアニ番』(ニコ生)、『オーラル・ジョブズ』(スペースシャワーTV)、『Doki Doki! NHKワールド JAPAN』(NHK)などのレギュラー番組を抱える。「TVBros」(東京ニュース通信社)でコラム連載中。

書籍情報

僕の人生には事件が起きない
岩井勇気/新潮社/1320円(税込み)

段ボール箱をカッターで一心不乱に切り刻んだかと思えば、組み立て式の棚は完成できぬまま放置。「食べログ」低評価店の惨状に驚愕しつつ、歯医者の予約はことごとく忘れ、野球場で予想外のアクシデントに遭遇する……事件が起きないはずの「ありふれた人生」に何かが起こる、ハライチ岩井勇気による人気エッセーが単行本化。
https://www.shinchosha.co.jp/book/352881/

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