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軽量化で「メタライド」よりタイムが出る? アシックスの新厚底シューズ「グライドライド」の実力

おやじランナーにとってちょっと見逃せないシューズがこの秋、発売された。アシックス の「グライドライド」だ。老舗メーカーである同社の「70年にわたるイノベーションの集大成」と銘打って発表され、今年3月の東京マラソンEXPOでは瞬く間に売り切れる人気を博した「メタライド」の“兄弟モデル”だ。

先行したメタライドについては、私は過去に2回記事にしている。“薄底”で知られたアシックス が、満を持して“厚底”に本格参入してきたと話題だった。

「今までにない体験を提供する」をテーマに開発したという言葉どおり、超新感覚の走りがウリだ。従来のシューズに比べてソールのつま先部分が船底のように反り上がっていて、足を入れるとロッキングチェアに乗っているような感覚だった。走り出してカカトから着地すると、靴がソールのカーブに沿って振り子のような動きを見せ、自然と前に転がるような感じになる。

「ライド」とは、自転車に乗ってコロンコロンと転がっていくというイメージから命名されている。機能の詳細や開発秘話については過去記事を参照して欲しい。

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「グライドライド」は単なる普及版ではない!

グライドライドは、このメタライドのコンセプトとテクノロジーを引き継いだものだ。実は私は、この発売を心待ちにしていた。「秋にはメタライドの普及モデルが出るらしい」という話を耳にしていたからだ。メタライドは発表時に試し履きをして「これは面白い!」と一瞬で気に入ったが、1足2万7000円(税抜き)は趣味で走るおやじランナーにはちょっと手が出せないと思っていた。

普及モデルが出るなら秋まで待とう、というのが結論だった。ところが、実際に発売されたグライドライドを履いてみると「ん?」という感じがした。確かにメタライドと同じコンセプトなのはわかるが、単に“値段が安い”普及モデルではなかったのだ。冒頭に「兄弟モデル」と書いたのは、そういう意味だ。

アシックス「グライドライド」(提供:アシックス)

アシックス「グライドライド」(提供:アシックス)

まず気がつくのが軽いことだ。メタライドはメンズ27cmで310グラムを超えるが、グライドライドは290グラムほどで、これは履いてすぐにわかるほど違う。次に、クッション性が増している。メタライドはソールの硬度が高めでゴロンと進む感覚が強く出ていたが、グライドライドはその部分がかなりマイルドになっている。メタライドで実現した新感覚を引き継ぎながら、普通のランニングシューズに近づけたという印象だ。しかも、価格も1万6000円(税別)とより普通のシューズに近くなっている(笑)。

開発責任者でアシックス スポーツ工学研究所所長の原野健一さんによると、より多くのランナーに新感覚を体験してもらうため、ソールの素材や製法・構造を工夫することでコストダウンをはかったという。メタライドは高価な素材に加えて構造が複雑だったが、グライドライドはその部分を簡素化したということらしい。

でも、走り出すとあの靴が自然に前に進む、乗り物に乗っているような感覚はしっかり維持していた。クッション性が増している分、正直、こっちの方が走りやすいかも(笑)。さら踏み込んで言うと、軽量化した分、こっちの方が速く走れそうだ。うん、これはイイ!

意識的に蹴り出さなくても、足が自然に前に進む

グライドライド、メタライドに共通するコンセプトは「より少ないエネルギーで、より長く走る」というものだ。秘密は、着地から蹴り出しまでの間で足関節の角度(足の甲とスネの角度)をできるだけ一定に保つようにしたソール形状の設計だった。

実際にどれだけ違うのか。アシックスストア東京(銀座)にあるランニングアナライザーで実験してみた。この装置はトレッドミル(マシン)で走るランナーのピッチやストライド、腕の振り幅などのほか、前述の足関節角度の変化も計測できる優れモノだ。

これを使って、アシックスの定番モデルのひとつ「ゲル-ニンバス」を履いた時と、グライドライドを履いた時で数値的な違いがあるかを測定した。私自身が実験台となって、走ってみた。

定番モデルのゲル-ニンバス(右)と比べて、グライドライド(左)はソールのつま先部分がこんなに反り上がっている/筆者提供

定番モデルのゲル-ニンバス(右)と比べて、グライドライド(左)はソールのつま先部分がこんなに反り上がっている/筆者撮影

グランドライド(右)とゲル-ニンバス(左)を着用して試走。足関節角度の違いに注目してほしい/筆者提供

グライドライド(左)とゲル-ニンバス(右)を着用して試走。足関節角度の違いに注目してほしい/筆者撮影

写真の左(0007)がグライドライドで、右(0006)は同じアシックスのゲル-ニンバスを履いた時のもの。下の数字が足関節角度の変化を表している。左が41°、右が44°と、グライドライドを履いた時の方が角度の変化が少ないことがわかる。わずか3°の違いと思うかもしれないが、実際に走った感覚はまったく違う。靴を履き替えることで、違いがさらにはっきり体感できた。

ゲル-ニンバスは一般的なシューズと同じで脚の筋力を使って地面を蹴り進むイメージだが、グライドライドは足を接地しただけで、意識的に蹴り出さなくても自然に前に進む感じで、明らかに楽なのだ。

10月最初の週末にグライドライドを履いて30km近く走ってみた。本当は30km走をやるつもりだったが、アップダウンがきつかったのと、気温が高かったので30km手前で諦めた。だが、長い距離を走ってますますグライドライドのすごさがわかってきた。「エコカーのようなシューズ」(原野所長)という言葉が身に染みたのだ。ダメージが少なく、リカバリーも早かった。そこで私は考えた。このシューズをいったい何と表現したらいいのだろう、と。

この種の商品は通常、上級者向けの高価なフルスペックモデルがあって、その機能や素材のグレードを若干落とした普及モデルがあるというのが一般的だ。上級者向けは当然、“速く走れる”ということになっている。だからランナーは「お金でタイムが買えるなら」と一縷(いちる)の望みをかけて高くても買う。

ところが、グライドライドもメタライドも“速く走れる”ことをうたっていない。あくまでも“もっと楽に、もっと長く”が目的で、実際にそれは成功している。メタライドは高価な素材と持てる技術のすべてを注いで完成させた上級モデルといえるが、“速く走れる”という点ではグライドライドの方が上だと思う。グライドライドはサブ4(フルマラソン4時間切り)から4時間半が目安で、メタライドはそれより遅い(4時間半〜5時間超)ランナーが適しているとされている。

そこでひらめいたのが「フォーエバーサブ4シューズ」という言葉だった。

まなじりをつり上げて自己ベスト更新をめざすよりも、少しでも長く(できれば永遠に)、楽に走り続けたいと願うランナー向けのシューズという意味だ。

私のように、年齢とともに自己ベスト更新が難しくなってきたが、フルマラソンのサブ4だけはなんとしても維持したいと考えるおっさんランナーにとっての福音ではないかと。カカト着地(ヒールストライク)を前提に設計されているため、無理してフォアフット走法を体得する必要もない。値段も安くはないが、そこそこで耐久性もあるから練習で履いてももったいなくない……。

なんてことを書くと、若いランナーにも買ってもらいたいであろうアシックスに怒られるかもしれないが(笑)。いずれにせよ、次のフルマラソンはこのグライドライドを履いて出てみようと思う。

(トップ画像:アシックス)

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PROFILE

山口一臣

1961年東京生まれ。ゴルフダイジェスト社を経て89年に朝日新聞社入社。週刊誌歴3誌27年。2005年11月から11年3月まで『週刊朝日』編集長。この間、テレビやラジオのコメンテーターなども務める。16年11月30日に朝日新聞社を退社。株式会社POWER NEWSを設立し、代表取締役。2010年のJALホノルルマラソン以来、フルマラソン20回完走! 自己ベストは3時間41分19秒(ネット)。

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