インタビュー

孤独がもたらした表現への愛と思い――表現者・津田健次郎

声優、俳優、演出、脚本、監督、クリエイティブプロデューサー……これほどまで枠にとらわれない表現者がどれだけいるだろうか。

多くのアニメやゲームに出演する人気声優・津田健次郎さんは、複数の表現者としての顔を持つ。1995年に俳優、そして声優として活動を開始。『遊戯王』の海馬瀬人役や、小島秀夫監督新作ゲーム『DEATH STRANDING (デス・ストランディング)』のサム・ポーター・ブリッジズ役を務める。2012年には役者の枠を飛び越え、演出やプロデュースなど活動の幅を広げ始める。さらに、2019年には映画監督、クリエイティブプロデューサーの道も進み始めた。声優とは一見かけ離れた表現の活動をしているのは珍しいかもしれない。

なぜ、さまざまな表現に手を伸ばすのだろうか。
そこには、津田さんがこれまで出会ってきた表現と、自身が抱えていた“ある感情”が関係していた。

学生時代の孤独を埋めた前衛映画との出会い

津田さんは幼少時代をインドネシアのジャカルタで過ごしている。当時、ジャカルタには娯楽が少なく、VHSもあまり普及していない時代。そんな環境の中で、津田さんにとっての最大の娯楽は「映画」だった。日本のヒーロー映画やハリウッド映画に触れていたという。

ジャカルタから帰国後も映画館へ足を運び続けた。というのも、映画館へのアクセスが良く、津田さんの伯父が映画の株主優待チケットを持っていたから。映画に触れる環境が整っていたのだ。そして、中学生になると古い映画に興味を示し始めた。

「アクセスの良い場所に名画座があって、50年代の映画やチャップリン特集なんかを好んで見てました。高校生の時ぐらいに、ミニシアターが周りに出来始めて。人と違うものを見たいという気持ちから、実際に触れてみたら強烈だった。それまで見てきた映画と全く異なる表現に強く惹(ひ)かれてしまったんです」

特に、ヨーロッパやアメリカのアート系映画に傾倒し始めた。抽象的な表現が多いアート系の映画は、セリフがあまりなく淡々とした芸術表現をしている。邦画やハリウッド映画と比較すると、より感覚や本能へダイレクトに訴えかけてくる。一方で、万人受けしない作品も多いのが特徴だ。津田さんがここまで前衛映画に惹かれたのには、当時抱えていた“孤独”が関係していた。

「学生時代、ずっと空虚な感覚があって。友達が好きな作品、世の中で流行っている作品がいいと思えなかったんです。周りに馴染(なじ)めれば楽しいだろうという感覚はあった。だから、馴染もうとして流行りものに触れはするけど、全く受け入れられない(笑)」

孤独がもたらした表現への愛と思い――表現者・津田健次郎

「例えば、学生時代にバンドブームが起きて、周りはみんなバンドを組んでいて。僕も楽しそうだからバンドを組んでみたいと、バンド音楽を聞いてみる。でも、ちっとも好きになれなかった。そんな僕が当時好きだと思って聞いていたのは、ボブ・ディランで……バンド組めない!って(笑)。感覚や感性が周りの人と違うと思っていました」

万人受けしない、つまり“社会から逸脱した”ような表現を映画としてフルスイングで打ち出し、世の中に認知されているのを目の当たりにした。これが本格的に表現者への道に突き動かす起爆剤となる。

表現の幅を広げた“役者”の道

高校卒業後、明治大学で演劇学を学び始めた。映画を撮りたい衝動が募る一方で、具体的に何を撮りたいのか分からなかった。そこで、津田さんは新しい表現の道と出会う。撮るのではなく、出演する側だ。

「映画なのに、台本が全く書けなくて。書けないから撮れない。そんな時、気の迷いですよね、撮れないなら出てみる?という感じで劇団の養成所を受けました。そしたら、受かってしまって。受かったからには舞台の稽古に参加しようと。その稽古がすごかった。とても面白かったんですね」

大学在学中、演劇養成所に入所。そこで、“演じる”面白さに気づくこととなる。

「人と合わないというネガティブな衝動を抱えて生きていました。それゆえに、自分の本当の感性を表に出せなかった。でも、演劇の中で人の言葉、役の言葉を借りれば、いくらでも自分の持つネガティブな衝動や感性も表に出せたんです」

孤独がもたらした表現への愛と思い――表現者・津田健次郎

「僕の演劇の恩師は『演技をする上で嘘をつくな』と言う人でした。日常で自分の本当の感性を表に出してばかりいると、周囲の人はひいてしまう。だから、多少なりとも嘘やごまかしが混ざってきます。でも、舞台では自分の感性に嘘をつかず、フルスイングで表に出していい。しかも、出せば出すだけほめられる。僕にはとても刺さりました」

この経験が、俳優・津田健次郎の輪郭を形成する。養成所卒業後は本格的に舞台や映像作品で俳優として活動を開始。そして、テレビアニメ『H2』の野田敦役で声優デビューを果たす。

俳優と声優は、似て非なるもののように思える。しかし、津田さんの中で、この二つのジャンルに区別はないというのだ。なぜなら、“演じる”という根底は変わらないからだ。

「映像、舞台、アニメ、それぞれ必要な技術に違う部分はあります。でも、どれも根本は同じ。演技をするということは同じです。たとえると絵を描く行為に近いかもしれません。水彩画、油絵、CGデザインなどどれも完成した作品の印象は違う。道具の使い方を覚えなければ、表現したいことを完成させることはできません。でも、“描く”という部分は共通している。役者も同じで、ジャンルごとに使う技術の違いはあるけど、演じるということは共通している」

「あと一つ言えるのは、僕自身、声優としてデビューするまでアフレコをしたことなんてなかったので、アフレコに関しての技術もなかったわけです。だから、舞台や映像でやってきたことをやるしかなかった。とにかく演じることを一生懸命やるだけでした。そこから始まっているので、今でもその感覚は変わってないですね」

声優としてデビュー後、数多くのアニメに出演し、一躍人気声優となった。同時に、舞台や映像などの俳優としての道も歩み続けてきた。

表現は世の中と自分を繋ぐツール

舞台・映像・アニメで演技することはベースに持ちつつ、“作り手”として表現したいという思いも持ち続けていた。演じる実績を積み上げつつ、作り手の活動にも徐々に取り組んでいく。

2012年からオリジナル映像&ドラマCD作品(『925』)の企画・脚本・プロデュース、雑誌(EDGE)の責任編集者、舞台の脚本・プロデュースなどを手掛ける。そして2019年2月、『ドキュメンターテイメント AD-LIVE』で念願の映画監督デビューを果たす。さらに、同年3月、声優の浪川大輔さんと共にクリエイティブプロデューサーとして『超電導dB(デシベルズ)』というクリエイティブユニットを結成した。

津田さんの表現の根底には“世の中とつながりたい”という思いがあった。

「学生時代から人とのつながり方、自分を取り巻く世界とのつながり方がよく分からなかった。世の中と距離をとりたいと思う反面、つながりたいと思う部分も強くありました」

孤独がもたらした表現への愛と思い――表現者・津田健次郎

「傾倒していたアート系の映画監督たちも、世間とズレた感性を持っていたけど、映画という表現を通して世間とつながっていたのではないか。僕自身も、演技という表現を通して自分の思いを伝えられた。この経験から、表現というフィルターを通せば、世の中とのつながりを得ることができる。だからこそ、自分の感情や感覚をダイレクトに衝動的に表現していければいいなと思っています。そして、演技だけでは伝えられないこともある。だから別の表現もしたいと思っています」

誰かと表現することの面白さに気づく

『超電導dB』でユニットを組んだ浪川さんも、津田さん同様に声優だが、映画監督の経験がある。2019年3月からテレビ番組『今宵、アフレコブースで。』の放映を皮切りに、2019年9月には舞台『SHOW MUST GO ON』を開催。アフレコブースをテーマにテレビ番組と舞台を連動させた企画で、津田さんと浪川さんはクリエイティブプロデューサーとして企画の中心にいる。

津田さんは、今回ユニットという形で挑戦した理由を次のように語る。

「一人で戦っていると自分の範疇を超えていかないと、ある時から感じていて。自分色の濃い作品はつくれても、広がりが生まれない可能性もある。今までも誰かと何かつくりたいと思っていたことはあったんですけど(笑)」

孤独がもたらした表現への愛と思い――表現者・津田健次郎

「浪川くんは自分で会社(ステイラック)を立ち上げたり、映画監督をしたり、やりたいことに挑戦している。そして感性が全然違う。だから一緒に何かできたら面白いんじゃないかと思いました。その頃キングレコードさんともご縁があって、何か一緒にやりましょうということになりました。最初は浪川くんとキングレコードのプロデューサーさんとで舞台をやることになりました。そこにWOWOWさんも参加してくれて、舞台と連動したバラエティ番組も作ることに。この異色のコラボであえてケミストリーを起こしてみたかったんです」

『今宵、アフレコブースで。』はアフレコブースを舞台にしたバラエティ番組で、WOWOWのバラエティ制作チームを中心に番組制作を行った。津田さんも企画を一緒に進めることとなるが、これまで一人で作っているだけでは感じなかった新しい感覚に触れたという。

「アフレコブースでよくある出来事は、僕ら声優にとっては当たり前のことだから、特に面白さを感じていなかったんです。でも、打ち合わせの中でバラエティチームのスタッフの人たちからとても面白がってもらえて。そういう気づきがとても多くて、人とつくることで自分の範疇を飛び越える感覚がありましたね。いい刺激でした」

喜劇と悲劇は紙一重

舞台『SHOW MUST GO ON』には、自身がやりたい表現も多く組み込んだそうだ。前半のアフレコブースで起こるドタバタには即興を取り入れ、舞台転換の黒子も演者として取り込んだ。舞台演劇を経験しているからこその表現といえるだろう。また、コメディがベースの企画だったが、舞台ではコメディの中にあえて“シリアス”な要素も盛り込んでいる。

「悲劇も喜劇も一枚のコインの裏と表でしかない。チャップリン作品などを見てると、観客の目線に立てば喜劇だけど、チャップリン演じる浮浪者の目線に立つと悲劇なんですよ。見る角度によって違うだけで、悲劇も喜劇も同居している。だからこそ、どっちも見えた方が面白いと思うんですよね」

孤独がもたらした表現への愛と思い――表現者・津田健次郎

「あえてコメディだけとか、シリアスだけとか、そんな境界をつくらずごちゃまぜにしました。『SHOW MUST GO ON』に来るお客さんはきっと『今宵、アフレコブースで。』を見た人たちで、軽いノリで舞台も進んでいくんだろうと想像して見に来てくださるはずだと考えました。そのノリで見に来たのに、いつの間にかシリアスになっている。さっきまで笑ってたのに、気づいたら泣いてたみたいな」

実際に舞台を鑑賞したが、いい意味で“感情が迷子になる”体験をさせてもらった。狙い通り、笑っていたのに気づいたらグッときていたのだ。構成や世界観が作り込まれていなければ作ることのできない流れだと強く感じる作品だ。

「今は撮りたいものがたくさんある」

津田さんは、やはり『映画』を撮りたいという。

「演技以外では、今後、実写映画を撮っていきたいと思っています。自分にとって表現への道の原点なので。
学生時代、ずっと何を撮りたいか悩み続けていました。今は撮りたいものが沢山あります。これからもジャンルをあまり限定せず、演技も含めて色んな表現ができたらなと思ってます」

津田さんのありのままを映し出した表現はどのような形になるのか、今後も目が離せない。

孤独がもたらした表現への愛と思い――表現者・津田健次郎

(取材・文=阿部裕華、写真=野呂美帆、ヘアメイク=仲田須加)

インフォメーション

〈『超電導dB』情報

Blu-ray&DVD「今宵、アフレコブースで。」
Blu-ray&DVD「SHOW MUST GO ON」
2020年2月26日(水) 発売

企画:超電導dB
クリエイティブプロデューサー:津田健次郎、浪川大輔

公式HP:http://king-cr.jp/chodendo_dB/

プロフィール

孤独がもたらした表現への愛と思い――表現者・津田健次郎

津田健次郎(つだ・けんじろう)
アニメ、吹き替え、CMナレーション、ラジオパーソナリティーなど声優業を中心に、他にも舞台や監督など多方面で活動している。
代表作:『遊☆戯☆王デュエルモンスターズ』(海馬瀬人)、『無限の住人-IMMORTAL』(万次)、吹き替え『スター・ウォーズ』シリーズ(カイロ・レン)など。

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