小川フミオのモーターカー

セダンの原点は実はここにある フィアット128

クルマを魅力的に感じる感覚は、絶対に人間のDNAに入っている。と、私は勝手に思っている。

(TOP画像:スポーティーなモデルとして企画された128ラリー)

子どもはスポーツカーを「カッコいい」と言うし、私はむかしから、この「フィアット128」を見て、いいかたちだなあと、理屈もみつからず感心しているのだ。

1969年に伊フィアットが発表した大衆的なセダン、128は、全長3855ミリの車体に、2448ミリのホイールベースを持つ。当初は1116ccのエンジン搭載で、前輪駆動だった。

フィアット128

128はフィアットが初めて前輪駆動方式を採用したモデル

設計は、「フィアット600」や「同ヌオーバ500」を手がけたダンテ・ジアコーザだ。パッケージングに秀でた才能を見せるエンジニアだけに、128も比較的小型サイズながら、室内空間の余裕はたっぷりあった。

自動車史のうえで、高い評価を与えられているクルマだ。ひとつは、横置きエンジンと、その隣にギアボックスを配置したレイアウト。ホンダ・シビック(72年)やVWゴルフ(74年)にも影響を与えたという。

もうひとつは、作りだ。部品点数を抑えてコストを節約しながら、操縦性など本来の性能は高いレベルを保っている。性能は高く、コストは低く。これが出来る人が最も有能なエンジニアと呼ばれる。それは今に至るまで変わっていない。

フィアット128

破綻のないボディーには2ドアと4ドアがあった

私が、それと同時に、128をたまらなく好きなのは、スタイリングだ。全体のプロポーションは子どもが絵に描く“クルマ”という感じだが、タイヤとボディーのバランスがよくて、力強く見えるし、リアクオーターピラーの位置も躍動感を生んでいる。

丸いヘッドランプと、ヘッドランプを際立たせるような輪郭を持つグリル(ゴルフも影響を受けているはず)もいい。2ドアでも4ドアでもスタイルに破綻(はたん)はなく、さらに、ここでは紹介できていないが、ステーションワゴンも機能主義的なスタイルで魅力的なのだ。

フィアット128

ボディー全長は初代カローラより短い

1971年にはスポーティーな「128ラリー」が追加された。1.1リッターの標準モデルが55馬力だったのに対して、ラリーは1290ccエンジンで67馬力とだいぶハイパワーだった。

当時のイタリア映画やフランス映画の街中の風景には必ず映っているクルマである。85年までに300万台作られたというから、いたるところを走っていたはずだ。

フィアット128

厚い鉄板で出来ていそうな見かけも魅力のひとつ

私がおぼえているエピソードがひとつある。傑作映画「ジャッカルの日」(1973年)のなかでも128が街中の背景に出てくる。ところが映画の舞台は63年のはずなので、クルマはまだ存在してはいけないのだ。

映画は128が発売されて3年ほどでの撮影だったはずなので、すでに、街中から排除するのは難しいほど、数多くの128が欧州の都市を走りまわっていたのだろう。

日本ではほとんど見かけることのなかったクルマだけれど、現在見ても魅力が薄らいでいない。効率のいい3気筒エンジンとか載せて、もういちど作ったら、欲しいというひとがけっこう出てくるのではないだろうか。

フィアット128

フロントグリルのデザインはゴルフなど後続のクルマに影響を与えた(はず)

なぜ魅力的か。開発した人が、日常生活で愛されるクルマを作ろうとしたからだろう。60年代から70年代なかばにかけてのフィアットのクルマづくりは、いわば自然体で、無理がなく、とてもよかった。

外寸はコンパクトで室内は広いパッケージングは機能的だし、工芸品のように“けれん味”のないスタイリングは、感覚的にすんなり受けいられる。

懐古的になりすぎてもしようがないけれど、コンパクトセダンはここが原点だと、自動車メーカーに見直してもらうのもいいなあ、と私は勝手に思っている。

【スペックス】
車名 フィアット128
全長×全幅×全高 3855×1590×1420mm
1116cc直列4気筒 前輪駆動
最高出力 55ps@6000rpm
最大トルク 7.9kgm@3200rpm

(写真=FCA提供)

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PROFILE

小川フミオ

クルマ雑誌の編集長を経て、フリーランスとして活躍中。新車の試乗記をはじめ、クルマの世界をいろいろな角度から取り上げた記事を、専門誌、一般誌、そしてウェブに寄稿中。趣味としては、どちらかというとクラシックなクルマが好み。1年に1台買い替えても、生きている間に好きなクルマすべてに乗れない……のが悩み(笑)。

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