劇団☆新感線『偽義経冥界歌』で舞台初挑戦 藤原さくらが米語学留学で得たもの
文: 髙橋晃浩

今年の5月、出演している劇団☆新感線39興行・春公演 いのうえ歌舞伎『偽義経冥界歌(にせよしつねめいかいにうたう)』の松本公演が終わった後にお休みをいただき、ロサンゼルスに語学の短期留学に行きました。その時に現地で知り合った友達とグランドキャニオンへ行って撮った一枚です。
私にとって初めてのアメリカ。グランドキャニオンの雄大さはもちろんすごかったけれど、そこ一カ所だけでなく、アメリカで経験したすべてが自分の中で大きな経験になりました。
タクシー運転手のおじさんが「あんた歌手になれるよ」って(笑)
憧れて聴いてきた音楽の多くは英語圏の音楽でしたし、自分でも英語で歌いたくて英語の歌詞を書いてきました。でも、学生時代に英語の成績が良かったかと言えば全然そんなことはなかったですし、英語の先生に歌詞を添削してもらうと「こういう表現は使わないよ」って言われることが多かったです。外国人向けの日本語のテキストとかで、「普通こんなふうには言わないよね」みたいな例文を見ることがありますよね、私の英語もたぶんそんな感じだったかもしれないです。
生きた英語は、日本にいるだけじゃ身につかないですよね。自分が歌いたいことをちゃんと英語で表現できるようになりたいという気持ちがどんどん高まって、留学を決めました。わずか3週間の留学だったので正直まだまだですけど、実際に向こうで生活して、新しい友達ができて、みんなと日常のやりとりをする中で、少しずつ表現に自信が持てるようになりました。
音楽でもいろんな経験がありました。ギターのレッスンを受けたり、ホームステイ先のお母さんが好きな曲を練習して歌ってあげたり。レッスンに向かう時に乗ったタクシーのおじさんとすごく仲良くなって、タクシーの中で、弾き語りでおじさんに歌ってあげたこともありました。「あんた歌手になれるよ」って言ってくれました(笑)。
カッコいいライブを観ると「なにくそ」と思います
3週間の短期留学の後は一週間ニューヨークへ。現地で活動しているジャズやカントリーのミュージシャンのライブに出かけたり、ブロードウェイにミュージカルを観(み)に行ったりして過ごしました。
私にとって、ライブを観ることは音楽を続ける上で大きな糧になっています。素晴らしいパフォーマンスやカッコいい演奏を観ると「なにくそ」って思います(笑)。ただ、東京に出てくるまでは、ライブよりも作品づくりが大事だとずっと思っていました。好きなアーティストがなかなか地元の福岡でライブをしてくれず、観る機会がなかったからかもしれません。いい作品を生み出して、それが何年も先までずっと語り継がれることにロマンを感じていました。
でも東京に出て、ライブに行く機会が増えると、ライブの持つ力の大きさを知るようになって。アルバムで聴いた時には正直ピンとこなかった曲がライブだとすごくカッコよくなっていることもありました。そんな時は、「私も曲を作らないと。帰って曲を書こう!」って思いますね。
だから、ニューヨークでもたくさんライブや舞台を観ましたし、実際に向こうでもかなり曲を作って帰ってきました。今、ライブツアーの真っ最中ですが、このツアーでもアメリカで作ってきた曲を演奏しています。
「できない」と決めつけず、実現する道を考えたい
デビュー以来、音楽を作る環境にはすごく恵まれていて、事務所の人達もレコード会社の担当の方も、私がやりたい音楽をやらせてくれています。ただ、憧れてきたロックやルーツミュージックなどを自分の音楽にどう落とし込んだらいいのかわからなくて、模索していた時期もありました。
例えば、それらの音楽が生まれた国でレコーディングするのも一つの方法ですよね。音の空気感とかが日本で録音するのとはぜんぜん違うことがありますから。でも、「海外レコーディングはお金がかかりそうだな」とか、音楽以外のことまでいろいろ考えてできずにいました。
でも実際にアメリカに行ったことで、自分が思っていたより近い世界なんだと気づくことができましたし、「どうせできないから」とあきらめず、実現する方法を考えようと、発想も変わりました。いつか海外でライブをしたいという気持ちも強くなりました。
自分に求められるものがあるならどんどん挑戦したい
『偽義経冥界歌』は私にとって初舞台作品なので、緊張も大きいですし、ダメなところだらけなんですけど、「ちょっとずつ成長するのでよろしくお願いします」っていう気持ちで演じています。生田斗真さんはじめ共演のみなさんも「楽しめばいいよ。まず楽しむことが一番だから」と言ってくれて、助けてもらっています。
でも、どんなに開演前に不安でも、劇場にお客さんが入ると不思議と気持ちがのるんですよね。お客さんの存在ってほんとに心強いです。来年は東京と福岡でまた『偽義経冥界歌』の公演があるので、ロスやニューヨークで観たものを何かの形で生かしたいですし、前よりうまくなってないとダメだなとも思っています。
音楽を軸にしつつ、ドラマや演技も経験して、失敗や至らない点もたくさんあったんですけど、じゃあそれがトラウマになったかと言えばそんなことはなくて、いい経験をさせてもらっていて、やってよかったと心から思っています。その経験が音楽に生きるところもあると思うので、自分が求められる何かがあるのであれば、これからも挑戦してみたいですね。例えば歌う殺人鬼の役とか(笑)。
(聞き手・髙橋晃浩 写真・小山昭人)
劇団☆新感線39興行・春公演 いのうえ歌舞伎『偽義経冥界歌(にせよしつねめいかいにうたう)』は2020年2月、東京と4月、福岡で上演予定
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ふじわら・さくら 1995年、福岡県生まれのシンガー・ソングライター。2015年、『a la carte』でメジャーデビュー。2016年、月9ドラマ『ラヴソング』でドラマ初出演。吃音を抱えるヒロインを演じると同時にドラマの主題歌「Soup」を歌い注目を集める。自身のライブや音楽フェスへの出演などの他、ラジオパーソナリティーなど幅広く活動。現在、全国ライブツアー「Twilight Tour 2019」を開催中。2020年2月15日(土)から3月24日(火)まで東京・TBS赤坂ACTシアターにて、4月4日(土)から28日(火)まで福岡・博多座にて、劇団☆新感線39興行・春公演 いのうえ歌舞伎『偽義経冥界歌』に出演予定。
■『偽義経冥界歌』公式サイト
http://www.vi-shinkansen.co.jp/niseyoshitsune/
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