インタビュー

『M:I- 2』プロデューサーが役所広司を指名した理由 映画『オーバー・エベレスト』対談

世界で活躍する役者の共通点とは

世界最高峰のエベレストを舞台にした日中合作映画『オーバー・エベレスト 陰謀の氷壁』(原題:『Wings Over Everest』)で、主人公の一人、ヒマラヤ救助隊「チーム・ウィングス」を率いる隊長・ジアンを役所広司さんが演じている。

『M:I- 2』プロデューサーが役所広司を指名した理由 映画『オーバー・エベレスト』対談

60歳前後で、多言語を操り、我慢強く、哀愁漂う人柄、登山も可能な体格……。ユー・フェイ監督が役者選びに苦労していたなか、プロデューサーのテレンス・チャンさんが役所さんを指名した。

「いつか役所さんと仕事をしたかった」。公開を前に、『M:I- 2』『レッドクリフ』などの世界的ヒット作を手掛ける名プロデューサーと役所さんにインタビュー。プロデューサーからみた俳優・役所広司の魅力と、役所さんが今作にかけた思いを聞いた。

優秀な役者は脚本以上の演技ができる(テレンス)

「脚本以上の演技ができるんですよ」。世界的な俳優を間近で見続けてきたテレンスさんは、優れた役者の共通点をこう語る。

『M:I- 2』プロデューサーが役所広司を指名した理由 映画『オーバー・エベレスト』対談

『十三人の刺客』『失楽園』『うなぎ』……さまざまな作品で役所さんを見たときも同様の感想を抱いた。

テレンス ユー・フェイ監督から脚本をもらったとき、主人公のジアンは何か突出しているわけでなく、いたって普通のキャラクターだと思いました。けれども、役所さんが演じれば、そのたたずまいから、脚本に描かれていないジアンの人間的な深みがにじみ出ると感じました。

役所 以前からアジア各国の映画人と作品をつくりたいと思っていましたが、なかなか実現しませんでした。テレンスさんからお声がかかるとは思ってもいませんでした。 若い時からテレンスさんの作品に触れていましたし、今回そのチャンスをいただき感激でした。脚本が送られてきたとき、“今までにないアジア映画ができるのではないか”と感じました。

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崩れ落ちる雪山から隣の崖に飛び移るシーン ©Mirage Ltd.

撮影が行われたのは、氷点下の雪山という過酷な現場。セリフは全編、英語と中国語のみ。さらに、過去に経験のないワイヤーアクションもこなさなくてはならない。

撮影時、役所さんは60歳を超えていた。一般に、年を重ねるごとに失敗への恐怖を感じるものだが、役所さんは「期待が不安を上回った」という。

役所 海外の現場には、自分から飛び込んで行かなければ巡りあうことのできない出会いがあります。 テレンスさんや監督とお会いしたとき、包容力や誠実さを感じました。役づくりに向けてトレーニングしなければならないことがたくさんある僕を、彼らなら受け止めてくれるのではないか。そう感じて、思い切って飛び込もうと思いました。

この年になっても正直、苦しいことやうまくいかないことはある(役所)

本作では標高8000m以上、酸素濃度が地上の約3分の1となるデス・ゾーン(死の地帯)と呼ばれるエリアでの登山シーンがある。撮影はカナダやヒマラヤの山地で行われ、雪山の登り方や荷物の持ち方は現場で教わった。

役所 カナダの山は、そんなに高地ではありませんでした。それでも雪に足跡をつけるわけにはいかないので、ヘリコプターで山まで行って、僕たち俳優だけ置いていかれて撮影をするわけです。ヘリコプターが落ちたら僕たちは遭難していました(笑)。

役所さんは作中で、初めてとは思えないほど迫力のあるアクションを披露している。クルー全員で標高5000メートル以上の場所で撮影を行うことが難しく、ハードルが高いアクションシーンは中国に撮影スタジオを設営。一日中ワイヤーにつられる過酷な撮影にも耐えた。

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メイキング写真 人生初のワイヤーにつられた役所さん ©Mirage Ltd.

役所 ワイヤーだから楽だろうと思ったら、とんでもなかった(笑)。想像以上に体幹の強さが求められる。体中あざだらけになりましたね。

困難はまだ続く。役所さんは過去に雪山での登山経験があったというが、今作の撮影では雪山を駆け登るシーンで肉離れを起こしてしまった。撮影の順番を変更したり、動きを変えたりしながら少しづつ回復していった。アクションシーンの撮影の頃にはほぼ回復し、代役を立てることなく演じきった。

テレンス 歩くのも難しいような怪我だったので、僕は現場を止めて療養した方がいいと考えました。ところが、役所さんは撮影を続けたい、と。そのプロ意識に感動しました。

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メイキング写真 体を張ったシーンは数多い ©Mirage Ltd.

役所さんは、「途中で降りることは全く考えてなかった」と話す。自身の離脱で撮影クルーに迷惑をかけてしまうことを何よりも嫌った。

役所 話す言葉は違っても、映画づくりという共通の言語が僕たちにはありました。撮影をこなすごとに、どんどん結束力が高まっていきましたね。もちろん言葉が違う分、日本の現場よりやり取りが難しい場面もあります。それでも、常にスマイルを心掛けてコミュニケーションを取っていました(笑)。

撮影中に役所さん含め、キャストの誕生日を祝い合うほど、和気あいあいとしたチームが生まれた。それは役所さんのモチベーションにもなっていた。

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役所 作品をつくるのは僕一人じゃない。今回も、みんなでつくり上げるからこそ楽しんでやろうと思って撮影に挑みました。この年になっても正直、苦しいことやうまくいかないことはあります。ただ、どんな状況でも、好きでやっているのだから、仕事を楽しもう。いつも、自分にそう言い聞かせて仕事をしています。

言語の壁を飛び超える表現力が世界を魅了する

今作を通じて、テレンスさんは役所さんの言語の壁を飛び超える表現力を再認識した。

テレンス 役者の中には、自分の国で評価されていても、他国の人が見たら違和感を覚えてしまうような芝居をする人もいます。世界で通用するためには、最初にお伝えしたように、脚本以上のことを表現することが大切。役所さんはまさにそういう人だと思います。

テレンスさんの指摘に、役所さんは照れ笑いを浮かべながら、大きく頷く。

役所 語学ができたら言葉での表現の幅は広がるでしょう。でも、言葉とは別に、キャラクターの空気や風格で伝わるものがあります。それをシチュエーションに合わせて表現できれば、世界中の人たちに伝わる。最終的には言葉ではない部分を表現できることが一番大事だと感じます。

『M:I- 2』プロデューサーが役所広司を指名した理由 映画『オーバー・エベレスト』対談

これまで数多くの作品に出演し、幅広い役柄を演じてきた役所さん。世界的な作品をつくり上げてきたテレンスさん。これから2人が目指す先は——。

役所 今回のように多国籍のチームで技術を持ち寄ることで、より大きな作品がつくれると思いました。まずはアジアの中で互いを高め合える映画に参加していきたいですね。

テレンス 最近は“リアル”な作品をつくりたいと思うようになりました。現実的な表現ほどヒューマニズムを引き出すことができます。それこそが今の時代に世界中の人たちから共感を得られるテーマだと思います。だからこそ、悲劇にせよ喜劇にせよ、ヒューマニズムを引き出せるような作品をつくっていきたいですね。

『オーバー・エベレスト 陰謀の氷壁』も、このヒューマニズムが描かれている。「愛する者のために、どこまで本気になれるか?」が本作最大のテーマだ。そして、雪山という過酷な場所でありながら、特有の神秘的で美しい景色も見どころの一つだ。

最後に、このようにさまざまな美しさが織り成す作品に参加していきたいと役所さんは語ってくれた。

役所 人間の心の美しさを表現したい。これからの俳優人生の中で、人間模様も画も美しい作品に1本でも多く参加していきたいです。

『M:I- 2』プロデューサーが役所広司を指名した理由 映画『オーバー・エベレスト』対談

ヘアメイク:勇見勝彦(THYMON) スタイリスト:案野ともこ(CORAZON)

(文・阿部裕華 写真・花田龍之介)

映画『オーバー・エベレスト 陰謀の氷壁』作品情報

キャスト:役所広司 チャン・ジンチュー リン・ボーホン
ビクター・ウェブスター ノア・ダンビー グラハム・シールズ ババック・ハーキー プブツニン
監督・脚本:ユー・フェイ プロデューサー:テレンス・チャン
原題:『Wings Over Everest』(中国題:冰峰暴)
日本語吹替版主題歌:GLAY「氷の翼」(LSG)
2019/中国・日本/110分/5.1ch/シネスコサイズ/カラー/デジタル/日本語字幕:半田典子 日本語吹替:池田美紀
提供:VAP 配給:アスミック・エース
©Mirage Ltd.
11月15日(金)全国ロードショー
公式サイト:over-everest.asmik-ace.co.jp/

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