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「見せるのではなく、感じさせる」元CGアニメーターの柏倉晴樹がVRで見せた新しい表現の形


【動画】「東京クロノス」第2弾トレイラーshort ver / 藍井エイル「UNLIMITED」

注目のクリエーター、アーティストにインタビューする企画『クリエーターズ・ブック』を始めます。初回は、VRゲームのヒット作を手がけた柏倉晴樹さんです。

       ◇

2019年3月、VR(仮想現実)ゲームの世界に新鋭が現れた。

総プレイ時間は20時間にのぼる、VRゲームでは世界最長クラスのミステリーアドベンチャーゲーム『東京クロノス』。これまでのVRゲームの常識をくつがえすタイトルだ。

『東京クロノス』は、PCゲームのストリーミング販売プラットフォーム「Steam」で、VR部門の売り上げランキング世界1位を記録。ヘッドセットメーカー大手Oculusのオススメ作品であることを示す“Oculus Essentials”にも選出された。2019年8月にはPlayStation VRでの発売も始まり、こちらもタイトルランキングで1位を獲得した。VRゲームでは野心的といえる作品が、世界中で高い評価を受けたのだ。

本作のディレクターを務めたのは、MyDearest株式会社の柏倉晴樹さん。柏倉さんは、フルCGアニメ映画『楽園追放』でモーション監督を務めたCGアニメーターだ。そんな彼が、アニメーターとしての経験をVRゲームの中で存分に発揮して、新しい作品が誕生した。

柏倉晴樹さん

VRの可能性を引き出し、新しい表現を生む

「これまで、物語がメインのVRゲームはなかった。瞬間的に楽しめるシューティングゲームやアクションゲーム、世界観を楽しむシミュレーションゲームなど、短時間で“体験”して終わるものばかり。
“VRを使って長編の物語をどう表現するか”を考えることが、僕の役割でした」

MyDearestは2016年の創業から、VRを活用したオリジナルライトノベルや漫画を手掛けてきた。“物語を見せる”VR作品にこだわりを持っている。そんな同社が、初めてVRゲームとして制作したのが『東京クロノス』だった。

シナリオにはミステリー作家の瀬川コウさんや小山恭平さん、落合祐輔さんを起用。時間・人・お金が限られた状態で、長編の物語をVRゲームの中で表現する挑戦が始まった。

課題を解決するため、柏倉さんが選んだのは、多くのVRコンテンツが目指す方向性を思い切って捨てることだった。

「従来のVRゲームの“体験する”スタイルではなく、新しいスタイルとして“鑑賞する”ことを提案しました。VRは360度の体験ができるので、従来のゲームと比較すると現実感が増します。だからといって、現実と間違えるほどでもない。そこまで技術が発達してはいないし、何よりヘッドマウントディスプレイをかぶる時点で非現実的です。であれば、そもそもVRの中で物語をどう表現するか、ではなく、ヘッドマウントディスプレイの中で物語をどう表現するか、に振り切ろうと思いました」

柏倉晴樹さん

「長編の物語はプレイ時間が長くなります。体験をメインに置き、長時間身体を動かし続けながらプレイするのは非常にきつい。しかし、鑑賞がメインであれば楽に長時間プレイすることが可能です。また、“体験する”スタイルのゲームはすでにたくさんある。その中で戦うには、リッチなモーション体験を提供することが重要ですが、それは潤沢な資金や時間がないとなかなか難しい。“鑑賞する”スタイルであれば、質の高いCGを作り込む必要もないので、新しい価値を創造できると考えました」

VRでできることから発想するのではない。「VRでも、こういう表現ができるのでは?」という仮説を立てたことが、VRの新しい形を生み出したのだ。

過去のインプットとアウトプットが発想力を引き上げる

VRゲームは、“仮想の現実を体験できるコンテンツ”というイメージが定着している。柏倉さんが、そんなイメージにとらわれない発想ができた理由のひとつに、それまで取り組んできた自主制作の活動がある。

「誰かに指示されてつくるのではなく、自分で発想してつくる経験が、いまの自分が持っている“発想力”の原点になっているのかもしれません」

柏倉晴樹さん

「学生時代から自分にできることを探すために色々取り組んできました。芸術系の大学に通っていたのですが、成績が悪くて転科したら、周りに知り合いが全然いなくなってしまった。だから、自分を認識してもらう方法をずっと考えていて(笑)。表現で自分をアピールしようと、自分に何の表現が適しているか探し始めました。音楽、手描きアニメ、実写映像……本当に色々な表現に手を出して、やっとこれだ! と思ったのがCGでした。“CGができる人”と宣伝するために、クリスマスにCGで作ったカードを学科の全員に一斉送信しました。正月も同様にそんなことをして。
CGアニメーターとして会社に所属するようになっても自主制作はずっと続けました。今は時間がなくて自主制作はできてないのですが、過去の経験が今に生きていると思います」

積極的にアウトプットしていた学生時代は、色々なことをインプットしていた時期でもあるという。

「自主制作をしていたときにインプットしたものを、最近、改めてインプットしています。当時見ていたアニメを見返したり、影響を受けていた音楽を聞いたり。そうすると、発想力を思い起こすことができます。当時、自分の頭の中で思い描いてきた妄想が役に立つこともありますよ」

想像力を加速させるVR表現

柏倉さんは「誰にでも想像できるものは面白くない」と語る。“鑑賞する”VRゲームという新しいスタイルは、色々な工夫のうえに成り立っている。

その中でも注目したいのが、“VRなのにリアルさだけを目指さない”という点だ。例えば、キャラクターのセリフやモノローグなどの文字がプレイ画面内に表示されること、キャラクターが2Dの表現に寄っていることだ。

「物語の世界に入り込んでもらうため、そして“鑑賞する”スタイルのブレイクスルーとしてあえて文字を出しました。これは従来の日本式アドベンチャーゲームの要素です。とはいえ、VRで文字を長時間読み続ける行為は決して楽なことではない。そこで、文字のサイズにこだわったり、視差がないようにしたり、次の文字を出すときにクリックした音を気持ちよくしたりしました。あとは、登場人物が多かったので、誰が話したか分かるように各キャラクターのイメージカラーをセリフと共に表示させるといった工夫もしています」


【動画】「東京クロノス」デモプレイ動画@AX2018

「キャラクターデザインは、あえてアニメキャラクターのような色とデザインにしました。資源が限られていて、ハイエンドのシステムを使った、リアルさを追求したVRの構築はできない。それなら、いかに印象に残るキャラクターを作れるかに振り切った方が良いという判断です。目を合わせる場面も多く発生するゲームなので、印象的な目は絶対必要だと。そこでイラストレーターのLAMさんを起用しました」

『東京クロノス』はキャラクターの動きも特徴的だ。従来のVRゲームであれば、右から左に移動するモーションを作成するとき、実際に人の動きを再現してCGをはめ込んでいく。しかし、東京クロノスでは、右から左への移動を全てワープで表現している。動くモーションを作る必要がないため、小コストで収まる工夫にもつながった。

これらの表現もVRでは新しいと言えるだろうが、違和感を覚える人も少なからずいるかもしれない。しかし、柏倉さんは「人には行間を補正する能力が備わっている」と話す。

「例えば、スーパーファミコン時代のFFⅥはメニューバーを出したとき、天野喜孝さんが描いたパーティーメンバーの絵を見ている。プレイ画面では、ドット絵で表示されますが、プレイヤーは、みんな、『このキャラはあんな顔をしているんだ』と思いながら遊んでいるわけですよ。大事なのは、想像力を加速させる表現だと思っています。目に焼き付けるのではなく、脳みそに訴えかけるような表現ができれば、物語も伝えられます」

CGアニメーター時代の学びが糧となる

想像力を加速させるために、「表現は見せることじゃなくて感じさせること」を常に意識しているという。この考えは、柏倉さんがCGアニメーター時代に師匠としてきた、アニメーション監督の板野一郎さんや京田知己さんからの教えに基づいている。

「見せ過ぎてしまうことで感動が損なわれることがあります。例えば、何の変哲もない誰かの一日をただただ見せられる作品に感動を覚えることは難しい。でも、見る人の心が動くような場面だけを抽出することで、感動的な作品になるかもしれません」

柏倉晴樹さん

「物語を伝えるときも同様です。“愛は素晴らしい”と伝えたい映像作品があるとします。一つは“愛は素晴らしい”というセリフだけが映される作品。もう一つは“愛は素晴らしい”というセリフはないけど、愛をテーマに物語を映した作品。どちらが伝わるかと聞かれたら後者だと思うんです」

見せびらかすのではなく、心に染みわたる表現こそが、物語を伝える上で重要。CGアニメーター時代の学びだ。ところが、VRでは世界が見え過ぎてしまうという逆の特徴があった。だからこそ、その中でユーザーの想像力を加速させる表現に挑んだ。

「VRはカメラを固定して映すことができないため、全てが見えてしまいます。クリエーターたちは、その中で想像力を加速させる表現をしなければなりませんでした。リアルではないキャラクター、文字を表示する手法、世界をオープンワールドにしないといった表現。まさに想像力を加速させる表現です。リリース前は受け入れてもらえないんじゃないかと思いました。しかも、時間がなかったのでテストもままならず、決め打ちで作っていましたし……でも、結果的には『体験しやすい』『文字があることで物語が分かりやすい』という意見がかなり多くて。自分の表現の方向性が間違ってなかったなと思いましたね」

新しい形で表現を提供し続けたい

2019年9月、東京ゲームショウで『東京クロノス』の続編『PROJECT MEGALiTH(仮)』が発表された。『東京クロノス』のはるか未来の世界を舞台にした新しい物語として展開される。この新プロジェクトの監督・原案は柏倉さんが務め、シナリオにも関わるという。全貌はまだ明かされていないが、新しい物語表現への期待が募る。

柏倉さんは、『東京クロノス』の映像展開や、CGアニメーター時代にモーション監督を務めた『楽園追放』を超える新しいアニメーション作品づくりにも意欲を見せる。

「『楽園追放』を超える、自分が思い描くアニメ作品をつくりたいという夢があります。僕は、アニメを嫌いになってVRの世界に飛び込んだわけではありません。アニメの製作現場は非効率なワークフローが多かったので、もっと効率的に作業ができないかと考えて着目したのが“ゲームエンジン”でした。ゲームエンジンを利用して試しに僕の自主アニメ作品を一部再現してみたら想像以上に効率的に、しかもいい表現ができた。だから、ゲームエンジンを取り入れて“アニメエンジン”を作れないかと思ったのですが、アニメ制作現場の環境をすぐに変えるのは難しかった。そこで思い切ってアニメ業界から離れて、ゲーム業界に飛び込びました。

MyDearestで働くようになってからVRディレクターとして色々経験を積ませてもらって。最近では、株式会社エクシヴィさんとソフトウェア提携し『AniCast Maker』というVRアニメ制作ツールを使ったアニメーション制作もしています。使ってみると、従来のアニメ制作と比べて短時間で作業ができるということが分かりました。まだできないことも多いのですが、アニメエンジンでアニメを作る未来が現実味を帯びてきました」

「また、『東京クロノス』の知的財産(IP:Intellectual Property)をもっと大きくしていきたい。そのために、新しいプロジェクトも自分なりの表現を取り入れて展開していこうと思ってます。やりたいことがあり過ぎて、僕の体一つじゃできないかもしれないけど(笑)、仲間たちと協力して引き続き新しいことに挑戦していく予定です」

(取材・文=阿部裕華、撮影=&M編集部)

プロフィール

柏倉晴樹(かしわくら・はるき)
1982年生まれ。2006年3月に東京工芸大学芸術学部を卒業後、ゴンゾ デジタル部(現グラフィニカ)へ入社。板野一郎氏に師事し、アニメCGのワークフロー改革を探求する過程でVRと出会い、現在はMyDearestにてVR演出ディレクターとして活躍中。

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PROFILE

阿部裕華

1992年生まれ、神奈川県出身。 WEBメディアのライター/編集/ディレクター/マーケッターを約2年間経験。2018年12月からフリーランスとして活動開始。ビジネスからエンタメまで幅広いジャンルでインタビュー中心に記事を執筆中。アニメ/映画/音楽/コンテンツビジネス/クリエイターにお熱。

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