大御所シェフのいつものごはん

通ったレストランの星の数は合計1300以上 食通の大御所シェフが週に5、6度通う店

卓越した技術・味覚・知識を持つ料理界のトップランナーが、行きつけの飲食店を明かす当連載。今回は荻窪の洋菓子店「ル・クール・ピュー」のオーナー鈴木芳男さんが通うインドファミリーレストラン&バー「ザ・タージ」を紹介します。

今回の大御所シェフ

「ル・クール・ピュー」オーナーシェフの鈴木芳男さん

鈴木芳男さん
1955年福島県生まれ。世界各地の食文化に親しみ、人との出会いを糧に、独自の道を開拓したパティシエ。22歳のときフランス武者修行に出て、帰国後「マキシム・ド・パリ」「ロオジエ」(ともに銀座)で計10年働く。国内外のコンクールに出場し、30回以上の受賞歴を誇る。幕張「ザ・マンハッタン」と恵比寿「ウェスティンホテル東京」の製菓長、お台場「ホテル日航東京」(現「ヒルトン東京お台場」)では総料理長として活躍後、2002年「ル・クール・ピュー」を荻窪に開店。看板商品は野菜のスイーツだが、手作りパンとお総菜も人気。

【大御所シェフが通う店】ザ・タージ(荻窪)

店内は天井が高く、落ち着いた雰囲気。荻窪駅西口から歩いて3、4分の環八沿いにある

店内は天井が高く、落ち着いた雰囲気。荻窪駅西口から歩いて3、4分の環八沿いにある

パティシエとして、鈴木さんの経歴はとてもユニークだ。洋菓子店での修業はせず、フランス料理のレストランだけで経験を積んだ。洋菓子店のケーキよりレストランデザートに魅力を感じたためだが、働くうちに料理にも習熟し、その技術と知識を菓子作りに生かしてきた。

鈴木さんの外食歴も、きわめてユニーク。これまでに行ったミシュランの星つきレストランの星を合計すると、1300以上になる。ただし、店の数はそれほど多くはない。好きな店に何度となく通うのが、鈴木さん流だ。パリの三つ星「アルページュ」では、“天才”の名をほしいままにするシェフのアラン・パッサールを「百回来たのはヨシオがはじめてだ」と感嘆させたという。

気に入ったら通いつめるのは、ふだんの外食でもまったく同じ。「ザ・タージ」はこの2年、1週間に5、6日は食べに行っているインド料理店だ。

シェフで店長のアリアル・シバラルさんがネパール出身なので、メニューにはモモ(小麦粉の皮で肉を包んで蒸したもの)などのネパール料理も混じり、トムヤムクンなど代表的タイ料理もたくさん並んでいる。定番のカレーとナン以外にも豊富な選択肢があり、その日の気分に合わせて料理を選べる。

アリアルさんは、ネパール南部のルンビニ出身。インドで14年経験を積んだ。滞日は4年で日本語が上手

アリアルさんは、ネパール南部のルンビニ出身。インドで14年経験を積んだ。滞日は4年で日本語が上手

今回は紹介しなかったが、カレーとナンも豊富。ナンだけで10種類ある

今回は紹介しなかったが、カレーとナンも豊富。ナンだけで10種類ある

深夜の2時半から仕事をはじめる鈴木さんにとって、ランチはディナータイムにあたる。昼の仕事を終えたら、ワインを飲みながら、ゆっくりと一品料理を楽しむのが日課だ。

オードブルは“スパイシーな焼き鳥”とエキゾチックなエビ料理

フランス的な食べ方が身についている鈴木さんは、食事はコース的にオードブルからスタートしてメインの順に、味は軽いものから重いものへ進むよう、メニュー選びをする。

最近、お気に入りのオードブルが「チキンセクア」。小さめに切った鶏のもも肉を調味料でマリネし、串に刺してタンドール窯で焼く。スパイスの使い方に、ネパール風のテイストがある。レモンの酸味が隠し味だ。

裏メニューの「チキンセクア」。ネパールではヤギや羊、水牛で作ることもあるそう

裏メニューの「チキンセクア」。ネパールではヤギや羊、水牛で作ることもあるそう

「濃厚なタンドーリチキンにくらべて、ずっとすっきりしていて、ワインにも合う。スパイシーな焼き鳥という感じですね」と鈴木さん。

タンドール窯は、インドやアフガニスタン、イランなどで広く利用されるつぼ型オーブン。熱源には、炭、ガス、電気の3タイプがあり、ザ・タージでは炭を使っているので、香ばしさが違う。遠赤外線効果で、よりふっくらと焼き上がる。

チキンセクア、実は裏メニューだが、「いってくれれば、いつでも作ります」と、アリアルさん。

オードブルのふた皿めは、「エビとアスパラ炒め」。アスパラ、玉ネギ、3色のパプリカを香ばしく炒め、エビを入れたら火を入れすぎないよう、さっと仕上げる。この料理の隠し味は、しょうゆ。アリアルさんが、エビの持ち味を引き出すよう、アレンジした。スパイスは控えめ。しかし、しっかりエキゾチックな味だ。

「エビとアスパラ炒め」690円。ターメリックをきかせ、最後にしょうゆで味をしめる

「エビとアスパラ炒め」690円。ターメリックをきかせ、最後にしょうゆで味をしめる

「栄養バランス的にも、うれしい炒め物」という鈴木さんは、ちょうどザ・タージに通いはじめてからの2年で大幅な体重削減に成功した。健康診断の数値も絶好調。食事量を減らし、運動量を増やした成果だが、もしかしたら毎日スパイシーな料理を食べていることも、よい影響を与えているのかもしれない。

メインは迫力の肉塊!

メインディッシュは、「ポークスペアリブ」だ。熱々の鉄板に大きな肉塊がゴロゴロと盛られた迫力のひと皿である。

「ポークスペアリブ」1080円。肉が鉄板に焦げつかないよう、下に玉ネギのスパイスサラダが敷きつめられている

「ポークスペアリブ」1080円。肉が鉄板に焦げつかないよう、下に玉ネギのスパイスサラダが敷きつめられている

さわやかな清涼感があるミントソースとの相性は最高

さわやかな清涼感があるミントソースとの相性は最高

見た目は豪快だが、香りはインド料理らしく、複雑でデリケート。豚の骨つきあばら肉を、ジンジャーガーリックペースト、マサラ(ミックススパイス)、ヒヨコ豆のパウダー、ターメリック(うこん)、生クリーム、バターを混ぜ合わせたペーストでマリネする。

ペーストがよくしみたら、タンドール窯で7分焼き、窯の脇の温かい場所に8分つるす。最初に7割がた焼き固め、そのあと余熱で火を入れることによって、肉汁を逃すことがない。

底で炭が燃やされ、500度近い高温まで上がるタンドール窯

底で炭が燃やされ、500度近い高温まで上がるタンドール窯

「表面はカリッと香ばしく、肉はジューシー、脂身には甘みがある。ボリューム満点ですが、ソースが爽やかなので、驚くほどさっぱり食べられます」と鈴木さんが褒めるソースは、ホウレンソウ、トマト入りのミントソース。インド料理では定番の薬味的なソースだ。瓶詰の市販品もあるが、もちろん手作り。

「ぜんぶ、ちゃんと自分で作る。ぜんぶ、自分の味」が、アリアルさんのポリシーだ。

ヨーグルトサラダと相性抜群のビリヤニ

しめは、「マトンビリヤニ」。ビリヤニは炊き込みご飯の一種で、もとはイスラム教徒の料理だったが、いまではインド全土で食べられている。あらかじめ炊いておいた米と、別に作っておいたソースを鍋のなかで層に重ね、再び炊き上げるのが特徴だ。

なかから肉がゴロゴロと現れる「マトンビリヤニ」1090円

なかから肉がゴロゴロと現れる「マトンビリヤニ」1090円

 

アリアルさんのこだわりは、米はバスマティライスを使うこと。長細く独特のよい香りのするインドの高級米だ。粘りけがなく、さらさらしており、「野菜感覚で食べられて、もたれません」と鈴木さん。炊くとき本物のサフランを使うことも、もうひとつのこだわりである。

米を土鍋に敷き、マトンソースをのせ、ざっと混ぜ合わせる。バラの香り水をふり、残りの米をのせてゆで卵とナッツ、フライドオニオンをトッピング。火にかけて熱々になったら完成だ。

米が340グラム、マトンソースが160グラム、合計500グラム以上。そうとうのボリュームだが、ライタ(ヨーグルトサラダ)をソースがわりにかけると、不思議といくらでも食べられる。

きゅうり、玉ネギ入りのヨーグルトサラダ「ライタ」をかけて食べる

きゅうり、玉ネギ入りのヨーグルトサラダ「ライタ」をかけて食べる

ここは最高のサード・プレイス

鈴木さんが星つきレストランに行くのは、つねに世界最高峰の料理にふれ、味覚の引き出しを広げるためだが、日常の外食では、できるだけ仕事から離れてくつろぎたい。だが、地元の店は、どうしても気を使って逆に疲れてしまうという。

そのなかでザ・タージは、いるだけでリラックスできる唯一の場所。アリアルさんと話をしていると、毎日小さな外国旅行をしたような楽しみも味わえる。

都市社会学には、「サード・プレイス」という概念がある。自宅からも職場からも離れ、心地よくすごせる第三の居場所を指す。鈴木さんにとってザ・タージは、日常から解放されて、しかもアットホームな気分になれる、最高のサード・プレイスなのである。

毎日ザ・タージで小さな外国旅行気分を楽しんでいる鈴木さん

毎日ザ・タージで小さな外国旅行気分を楽しんでいる鈴木さん

(撮影/森カズシゲ)

店舗情報

ザ・タージ
東京都杉並区南荻窪4-29-10 田丸ビル1F
地下鉄丸ノ内線、JR「荻窪」駅より徒歩6分
03-5941-3404
営業時間:11:00~15:00/17:00~23:00
定休日:無休

大御所シェフのお店

ル・クール・ピュー
東京都杉並区荻窪5-18-9 伊藤 ビル1F
地下鉄丸ノ内線、JR「荻窪」駅より徒歩2分
03-5335-5351
営業時間:7:30~21:00(月~土)/8:00~20:00(日・祝)
モーニング:オープン~10:00、ランチ:11:00~14:30(L.O)、アフタヌーン:14:30~18:00、ディナー17:30~20:30(L.O)*日・祝は19:30L.O
定休日:無休
公式サイト:http://www.lecoeurpur.co.jp/

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PROFILE

畑中三応子

編集者、ライター、フードジャーナリスト。『シェフ・シリーズ』『暮しの設計』(ともに中央公論社)の元編集長。料理本を幅広く手がけるかたわら、流行食関連の研究や執筆も行う。著書に『ファッションフード、あります。——はやりの食べ物クロニクル』(紀伊國屋書店、ちくま文庫)、『カリスマフード 肉・乳・米と日本人』(春秋社)など。第3回「食生活ジャーナリスト大賞」では「ジャーナリズム」部門の大賞を受賞。

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