インタビュー

「若い頃はバカみたいに恋愛してきましたけど、今は……」 希代のラブソングメーカー平井堅と恋愛の話をしてみよう

1995年のデビュー以来、たくさんのラブソングを生み出し、歌い続けてきた平井堅さん。12月4日(水)にリリースする新曲「#302」(読み:サンマルニ)もまた、 “密室第三者あり片思い系”と本人が語る切ないラブソングだ。47歳。アラフィフとなった今でも、恋や愛の曲を歌う理由とは? 今回の新曲に込めた思いや、恋愛観について聞いた。

カラオケ好きが高じて珠玉のラブソングが誕生

自分ではない「彼」に思いを寄せる相手とカラオケボックス内で繰り広げられる様子が、実に鮮明に描かれている「#302」。情景描写や男女の心の揺れ動きまでもが、目に浮かぶようなリアルな表現。まるで平井さん自身の実体験に基づいているかのよう。

「そうそう実は……って違うんですよ(笑)。実体験ではなく、ほとんど妄想です。バーのカウンターに男女が座ってお酒が二つ置いてあることを想像して書いた『even if』と同じような、“密室第三者あり片思い系”ソングですね。僕は曲を作る時、頭の中で絵を思い浮かべないと書けないタイプなので、いつも脳内で映像を投影するんです。この曲とか、『even if』もそう。特に今回の曲は、その脳内映像を見ながら一筆書きのように一気に書き上げました」

夜が始まる夕景の中、ガードレールにもたれている男女が、これからなし崩し的にカラオケに行く。そんな様子を思い浮かべて作り上げたという。今作の“頭の中での映像”は、完全な妄想ではなく、実体験のカケラをつなぎ合わせたものだとか。

「元々僕はカラオケが大好きだし、モデルとなったカラオケボックスも実際にあります。これまでのラブソングもそうですが、基本的にはフィクションの世界を描いているんですよ。だけど、歌詞に出てくる“公園通り”“ぶっきらぼうな声”“防犯カメラ”とか、これって現実にあるものだったり、体験した出来事でもあったりするんですよね」

たとえば歌詞にはこんな一節がある。

 「ゴメン」と言う君の 震える肩を抱き 防犯カメラに背を向け 濡れた頬を指で拭って そっとキスをした

「ある日、友人といつもどおりカラオケボックスに行って普通に楽しんでいた時に、防犯カメラの存在に気づいたんです。ああ、こうやって防犯カメラで見られているんだなって何げなく思ったんですけど、もし恋人同士で来て、キスしたらそれも他人に見られるわけじゃないですか。それを避けるために、防犯カメラに背を向けて“死角”をつくってキスしたりするのかなって妄想したんですよ……。50手前のおっさんがそんなこと妄想してるなんて、普通に考えたらちょっと気持ち悪いですけどね(苦笑)」

この曲に限らず、平井さん自身はラブソングを書く時、あくまで傍観者として言葉を紡いでいるという。その中でも成就しない恋を描くことが多いのは、「そこにドラマ性を感じられるから」。

「片思いって息をするのも苦しいし、とにかく辛い。もちろん自分も片思いしたことはたくさんありますし、その最中は恋に酔う余裕もなくて、ただただ溺れているような感じ。だからこういう曲を書く時って、むしろ自分自身が主人公にはならないんです。冷静だから、傍観者だから、恋にしっかり酔えるというか。書き手としてそこのドラマ性は描きたいし、歌い手としては、その気持ちに寄り添いたいと思っています」

 

平井堅

恋愛はコスパが悪い。だから「楽しい」

ここからは平井さんと恋の話をしたい。もっとも平井さんにその話を振ると、「自分の恋愛観について語るのはとっても苦手」と苦笑いするばかり。でも、聞いてみたい。こんなすてきな曲を作り、歌う47歳が、どんな恋愛を経験してきたのかを。

「そこは普通ですよ(笑)。若い頃はみなさんと同じように、バカみたいに恋愛してきました。自分の人生を振り返ると……まぁ遠い昔の話ですけど、片思いしていた時なんて、好きで好きで仕方なくてずっと近くにいたい、もうこの人以外考えられないなんて思ったことだってありました……。でも結局は自分が一番かわいいから、ある日突然、すごい口角上げてどこかへ走って逃げていくような人生でしたね。たとえると、『東京ラブストーリー』の赤名リカみたいに、キレイな思い出を残したまま、どこかに行っちゃう感じ。その後しばらくはユーミンの『翳(かげ)りゆく部屋』を聴いて過ごして、半年くらい経った頃に復活してあっけらかんと婚活するような。……ってわかりますか(苦笑)。おそらく僕は、こうやって失恋を乗り越えてきたというか、記憶を塗り替えてきたような気がします」

記憶を塗り替えてきた――たしかに平井さんはそう言った。それが忘れたい恋だったのか、忘れがたいけど忘れなければならない恋だったのかはわからない。多くを語りたがらない希代のラブソングメーカーの恋愛の話をもう少し聞いてみたい。

「こんなに恋愛の話を聞かれるのなんて久しぶりですよ(苦笑)。う〜ん、そうですね……たとえば自分の手中に入らないからこそ、思いが届かないからこそ、エクストリームな感情が芽生えたり、行動をとったりしたこともあります。特に片思いって、一方通行のひとり遊びになっちゃいますよね。そう考えると、恋愛ってかなりコスパが悪い。感情に振り回されたり、余計な心配をしたり、とにかく無駄が多い。それでも無駄なことをすることが恋でもある。だって簡単にうまくいったらつまらないですし、コスパが悪いからこそ楽しいじゃないですか。まぁ、でも僕、47ですからね。もう、いろんなことを忘れちゃった(苦笑)。ひょっとしたらそういう感情を思い出したいがために、今でもラブソングを書いて歌っているのかもしれないですね」

本人が認めるように、平井さんが歌うラブソングは、決して「47歳の等身大の恋愛」ではない。しかし彼が歌うと、それは自然と聴くものの心の中にスッと入ってくる。一体、なぜなのだろうか。

「ありがとうございます(笑)。理由はわかりませんが、僕自身、ラブソングを歌うのも、聞くのも大好きです。素晴らしいラブソング、たとえば中島みゆきさんの『糸』やAimerさんの『蝶々結び』、それに(草野)マサムネさんやBUMP OF CHICKENの世界観も好き。そういう人たちの歌を聴くと、参りましたという感情になりますね」

「でもやっぱりそこで思うのは、ラブソングって共感性のパワーが半端ないということ。恋をしたことがある人なら誰しも恋や愛について考え悩むし、自分とはなんぞやってところまでたどり着く。そんな“コンテンツ”、ほかにはないですよ。今の僕は、正直、恋愛とはちょっと距離があるかもしれない。でも47歳の歌い手としてラブソングを歌っているわけです。桑田佳祐さんや松任谷由実さんのような僕よりも上の先輩たちが、今でも素晴らしいラブソングを歌い続けています。自分がそうなれるかはわからないけど、いくつになっても違和感なく恋の歌を届けられる歌手でありたいと思っています」

たとえ恋や愛に思い悩み、立ち止まったとしても平井さんの曲が近くにあれば、この先も日常を続ける勇気が湧いてくる。それは平井さんがラブソング自体に愛を向け、敬意を払い、誰かの心に寄り添うように曲をつづっているからだろう。

(取材・文=船橋麻貴)

インフォメーション

<ニューシングル情報>
「#302」
12月4日(水)リリース

 

ニューシングル「#302」

【初回生産限定盤】CD+DVD
価格:1,650円(税込み) 品番:BVCL-1025 / 1026

■CD収録内容:
M1. #302
M2. #302 -less vocal-

■DVD収録内容:
#302 MUSIC VIDEO
いてもたっても MUSIC VIDEO

 

#302 MUSIC VIDEO

【通常盤】CD
価格:1,250円(税込み) 品番:BVCL-1027

■CD収録内容:
M1. #302
M2. かわいそうだよね
M3. トドカナイカラ (Kan Sano Remix)

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