偏愛人語

井浦新「堂々と好きと言えるようになりたくて必死だった」 ものづくりに傾ける並外れた熱意

前回のインタビューで、縄文文化への“偏愛”を熱く語った井浦新さん。遺跡を巡る旅のほとんどは、険しい山を分け入るフィールドワークになる。その旅を支えるひとつが、適切なギアやウェアの選択だ。

自身が手がけるファッションブランド「ELNEST CREATIVE ACTIVITY」では、「旅」を軸に据え、自然を渡り歩くためのアイテムを生み出してきた。井浦さんのものづくりにかける情熱もまた、“偏愛”と呼ぶべきもの――。

>>前編 井浦新、とどまることを知らぬ“縄文愛” 「土偶や土器のレプリカを家でも愛でる」

失敗を通してしか本当の意味で学ぶことができない

――井浦さんは20代でファッションブランドを立ち上げ、服をはじめとするものづくりをされていますよね。実は井浦さん周辺の方々から、ものづくりにかける熱量がすごいとお聞きしているのですが……。

井浦 そう見えるならありがたいですけれど。役者を始めた23歳のときから服はつくっています。当時はまだ今のようには縄文への興味を持っていませんでしたから、“偏愛歴”という意味ではものづくりの方が長いということになりますね(笑)。

でも当時のことを振り返ると、好きという初期衝動でがむしゃらに突っ走っていたけれど、まだまだ表面的なところしか見えてなかったなあと思いますよ。

井浦新「堂々と好きと言えるようになりたくて必死だった」 ものづくりに傾ける並外れた熱意

服づくりも、学校で勉強したわけでも誰かについて学んだわけでもなく、つくりながら学びましたから。基礎がない分、人よりものめり込まなきゃいけない、人と同じことを同じペースでやっていたら僕の場合は成長できない。だから、興味があるならば没頭するしかないんです。周囲から見たら「ちょっとおかしいんじゃないの?」っていうくらいに手間をかけないと、スタートラインにすら立てない気がしていました。

たくさん失敗もしたし、知っている人から見たら笑ってしまうような遠回りをしたとも思うんです。ものづくりを始めた頃は、自分が好きなことを堂々と好きと言えるようになりたくて必死だった。それが、だんだんと経験や時間を重ねて続けてきたことで、自分から「好き」と言わなくても、僕が好きなものを追いかけていることを周りがわかってくれる、そしてある程度信頼もしてくれるところまできたのかなと今は思います。

――今の時代にも、自分の興味だけでがむしゃらに走ったり、遠回りしたりするような生き方を選択しづらいと感じている若い世代は少なからずいそうですよね。

井浦 以前、芝居の恩師である映画監督に、「お前たちはこんな時代に生きなきゃいけないなんて、かわいそうだなあ」って言われたことがあるんです。今はその言葉の意味が痛いほどにわかる。何もかもが簡単に手に入る時代で、与えられることに慣れすぎて、本当に好きなものを自分からは探しづらいよな、と。もちろん、生きづらいからって生きないわけにはいかない。生き抜くためには、“偏愛”というか、執着をもって時間をかけて追い求められることがあるといいのかもしれませんよね。

僕の場合は、それが縄文文化であり、美術やものづくりであり、旅や自然。でもね、若い頃はそんな風に言えなくても当然だと思います。最初の一手で自分にしっくりくるものを選びとれる天才は少ないはず。

井浦新「堂々と好きと言えるようになりたくて必死だった」 ものづくりに傾ける並外れた熱意

僕自身、めちゃくちゃぽんこつで、失敗を通してしか本当の意味で学ぶことができないので、今や失敗は恐れないことにしました(笑)。本当に好きであれば続く。続けていればいつか花が咲き、実になる。土もよくなっていく。

僕の周りの尊敬する表現者たちも、よく観察していると、人一倍努力をしているのが垣間見えるんです。それって自分にとってもすごいモチベーションになりますね。自分ももっともっと頑張らないと、って。

カシオ『PRO TREK』とのコラボは夢だった

――すごく元気づけられる言葉です。“偏愛”がご自分の個性にしっかりと結びついている井浦さんの姿もまた、モチベーションになります。ものづくりでいうと現在はファッションブランド『ELNEST』のディレクターを務められていますね。

井浦 いろいろなことに興味をもって突っ走り、無駄なこともたくさんやって、今は好きなものばかりが残った。“偏愛”と“偏愛”がつながるというか、お互いを深め合うようなところがあります。

縄文文化を知るためにフィールドワークをする。『ELNEST』では、その時にどんなウェアやギアがあると快適だろうか、というようなところがスタート地点になるものづくりも多い。今シーズン発表したアイテムでいうと、カシオのアウトドアウォッチ『PRO TREK』とのコラボモデルと、シューブランド『KEEN』とコラボしたウィンターシューズはまさにそうです。

カシオのアウトドアウォッチ『PRO TREK』のELNESTとのコラボモデル

カシオのアウトドアウォッチ『PRO TREK』のELNESTとのコラボモデル

ELENESTとコラボモデルしたKEENの「ウィンターポート II」

ELENESTとコラボモデルしたKEENの「ウィンターポート II」

――『PRO TREK』のウォッチは今つけられてるものですよね? どんなこだわりがあるのでしょうか。

井浦 まず! 『PRO TREK』とのコラボって僕にとっては夢のようなことなんです!(笑)。旅や登山に欠かせないアウトドアウォッチは自分でも何本か持っていて、『PRO TREK』のものも3本使っているのですが、標高や気温などの精度が高いんです。かつモデルの選択肢も多いので、とても頼りにしていて。

フェース(文字盤)の大きさも幅があり、ギアとしては大きいものも心をくすぐるのですが、僕としては実際に使い続けやすいのは小ぶりのもの。かつデイリーユースも考えて小さめのフェースにしています。フェースは真っ黒に縁が深緑。アウトドア用の時計は見やすいものばかりなので、どうしても見づらい時計をつくりたくなってしまって(笑)。

井浦新「堂々と好きと言えるようになりたくて必死だった」 ものづくりに傾ける並外れた熱意

『KEEN』のアイテムにもつながるのですが、古代からのブナの原生林が残る白神山地にインスピレーションを受けたモデルです。この時計は、森林の夜の闇。秒針の澄んだ蛍光の青は、白神山地の青池をイメージしています。汚れのつきにくい、シリコンのデュラソフトバンドは、裏面に特殊な蓄光素材を一体成形してあるので、暗闇で外してもぼーっと月の光を受けたように光ります。

――機能面とデザイン面を両立しているのが井浦さんらしいところですね。

井浦 それはすごく意識するところです。都市生活でも使えるサイズ感と表情と、富士山にも登れる機能を兼ね備えた一本になったなあと思ってすごくうれしいアイテムです。

――『KEEN』とのコラボはもう長く続いていますね。

井浦 2011年からで、今シーズンの「ウィンターポート II」で8足目になります。『KEEN』もまた、元々とても好きだったブランドです。日本に入ってきたばかりの頃は、まだ今ほどにアウトドアが浸透していなくて、登山靴といったらゴツいプロ仕様のものしかなかった。けれどもKEENのアウトドア靴は、カジュアルで値段も高すぎず、街歩きにも使える、それこそ機能とデザインを兼ね備えた製品で、すぐに自分でも使うようになりましたね。

なかでも「ウィンターポート II」は特別思い入れのあるモデルです。僕も長く使っているのですが、雪の中はもちろん、芝居の仕事で外ロケの時に履いてみたら全く足が冷えないのに驚いてしまって。当然ながら雨にも強いので、今は一般的になったフェスにもよかったりと、フィールド以外のところでも、驚くほどに使い道が広いんです。

自分のブランドで「ウィンターポート II」とコラボするのは恐れ多いような気がして(笑)、大事にとっておいたんですが、少しずつドアを開き始めました。今回の「BOOKTREE MIDNIGHT CAMO」と呼んでいるテキスタイルは、白神山地でブナやクマザサなどの植物を写真で撮って、コラージュしてデザインした、8000年前の原生林の夜の姿。こちらもパーツは蓄光です。

井浦新「堂々と好きと言えるようになりたくて必死だった」 ものづくりに傾ける並外れた熱意

井浦新「堂々と好きと言えるようになりたくて必死だった」 ものづくりに傾ける並外れた熱意

――それぞれのアイテムについて話し出すと、やはり井浦さんの情熱の深さが伝わってきますね(笑)!

井浦 また縄文の話に戻りますけど、縄文文化への愛が深まれば深まるほど、僕のなかでは未来が見えてくる。より深く知るためには机の上だけでは無理だから、体を動かさなくてはいけない。そこへたどり着くために自分のつくった服で旅をしたり、フィールドワークをしたりする。だから服をつくり続けているところもあると思います。

僕の場合、“偏愛”は全部細い糸でつながっているんですよね。ひとつの偏愛を突き詰めていくうち、ふと横に見えた次の偏愛の入り口に出会う。そっちへ行ってみたからこそ、最初の“偏愛”がまた違って見えたり、理解が深まったりする。底なしだし、底のないところに漂うのもまた、偏愛の醍醐(だいご)味かもしれませんね。

(文/阿久根佐和子 撮影/上西由華)

あわせて読みたい

【前編】井浦新、とどまることを知らぬ“縄文愛” 「土偶や土器のレプリカを家でも愛でる」

井浦新「堂々と好きと言えるようになりたくて必死だった」 ものづくりに傾ける並外れた熱意

偏愛人語:連載一覧はこちら

\ FOLLOW US /

井浦新「堂々と好きと言えるようになりたくて必死だった」 ものづくりに傾ける並外れた熱意

&M公式SNSアカウント

TwitterInstagramFacebook

「&M(アンド・エム)」はオトナの好奇心を満たすwebマガジン。編集部がカッコいいと思う人のインタビューやモノにまつわるストーリーをお届けしています。

井浦新、とどまることを知らぬ“縄文愛” 「土偶や土器のレプリカを家でも愛でる」

一覧へ戻る

RECOMMENDおすすめの記事