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『バジリスク』の木﨑文智、6年ぶり監督作品『HUMAN LOST 人間失格』で見せた表現のこだわり

©2019 HUMAN LOST Project

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作家・太宰治が書いた最後の作品『人間失格』。

この作品を“SFエンターテインメント”として再構築した映画『HUMAN LOST 人間失格』が誕生した。


動画:【全人間、失格】11月29日公開 劇場アニメ「HUMAN LOST 人間失格」Official Main Trailer 主演:宮野真守

監督を務めるのは、木﨑文智さん。国内外から高い評価を受けた『バジリスク~甲賀忍法帖~』や『アフロサムライ』などのアニメ作品を手掛けている。『BAYONETTA BLOODYFATE』から、6年ぶりとなる作品が『HUMAN LOST 人間失格』だ。

本作もまた、「日本国内だけでなく、世界を意識した作品」だという。

6年ぶりの新作は全く新しい『人間失格』

木﨑監督のもとに本作の企画が舞い込んできたのは、2015年頃。「SFアクションとダークヒーローの要素をミックスさせて、人間失格を新しく生まれ変わらせたい」というプロデューサーの尾畑聡明さん(スロウカーブ)からの提案が始まりだった。

「お話をいただいたとき、簡単なコンセプトと複数のコンセプトアートが記載された企画書がすでにありました。そこには、クリーチャーが街を徘徊しているイラストが描かれていたんです。それを見て『え?これが人間失格?』って。最初は、『人間失格』という作品とSFの世界観がつながりませんでした」

『人間失格』は映画、アニメ、漫画など、さまざまな時代にさまざまな形で世に出ており、どの時代にも通じるテーマ性を持っているに違いない。しかし、これまで“SF”の世界観で描かれたことはなかっただろう。一見無謀だと感じるこの挑戦だが、木﨑監督は「チャレンジしがいのある企画だと思った」と話す。

木﨑文智監督

木﨑文智監督

「世界に通用する日本の名作『AKIRA』や『攻殻機動隊』に匹敵(ひってき)する作品になるのではないかと感じたんです。日本の傑作文学を、今の時代に、SFアクションとしてよみがえらせる。誰もやっていないことだと思います。また、制作陣もそうそうたるメンバーを迎えることが決まっていました」

本作のスーパーバイザーには『踊る大捜査線』監督、『PSYCHO-PASS サイコパス』総監督の本広克行さん、脚本家には『マルドゥック・スクランブル』『天地明察』の作家・冲方丁さん、アニメーション制作には『GODZILLA』『BLAME!』のポリゴン・ピクチュアズを起用している。各ジャンルでSF作品を制作し、高い評価を得ているメンバーがそろう。

「制作が大変になると予想はしていたけど、この制作陣であれば何とかなる、だから、挑戦してみよう!と」

ストーリーを盛り上げるためのアクション表現

木﨑監督は監督になる前、アニメーターや作画監督として数多くの作品で活躍していた。『HUMAN LOST 人間失格』では、アニメーションのアイデアやアクションシーンを絵コンテとして詰める作業にも携わったそうだ。

アクションシーンに定評のある木﨑監督。本作にも満載なのだが、当初の予定ではここまでアクションを入れるつもりはなかったという。

「『HUMAN LOST 人間失格』は3Dアニメーションとして制作するので、工数がかかるアクションシーンはあまり入れないようにしようと心がけた。しかし、蓋(ふた)を開けてみたら、かなりのアクションものになっていました(笑)」

©2019 HUMAN LOST Project

©2019 HUMAN LOST Project

「今回は元ポリゴン・ピクチュアズのCGアニメーターで、現在は絵コンテアーティストとして活躍されている大串映二さんにアクションシーンの絵コンテをお任せしたんです。僕はこれまで2Dのアニメーションしか手掛けていなかった。であれば、僕からはイメージだけ伝えて、あとはCGの見せ方をよく知っている人に描いていただく方がよいと考えました。そうしたら、僕の想定していた以上のボリュームで素晴らしい絵コンテが上がってきました。さすがに、すべて再現するのは困難だと現場から言われ、削ったのですが……。それでも、想定の倍以上のアクションシーンを入れることになりました。そこはポリゴン・ピクチュアズさんが本当に頑張ってくれましたね」

さらに、冲方さんから上がってきた脚本もかなりの分量だったそうだ。「作品の根幹となる脚本だからこそ、削る作業に苦戦した」と木﨑監督は振り返る。

「SF作品は、その世界でしか通用しない言葉や設定が多いんです。そのため、最初の脚本では、それらの説明シーンがたくさんありました。そうしないと見た人が理解できず、置いてきぼりになるからです。しかし、最終的には説明はあまり入れないで、SFの要素より人間ドラマを主体に、つまり、太宰治の表現した『人間失格』の持つエモーショナルな部分に重きを置いた脚本へと組みかえました」

あえてキャラクターの感情を表現することに重きを置いた点に、原案へのリスペクトが感じられる。

木﨑文智監督

「アクションシーンはドラマを盛り上げる要素の一つ」

木﨑監督が最初に監督として携わった『バジリスク』から一貫して、こう考えているという。

「格好いいからという理由でアクションを入れたくはありません。ストーリーあっての殺陣(アクション)じゃないと僕自身つくることに乗れない。物語の流れに必要なアクションを入れることを常に意識しています。『人間失格』という作品は、一人の男が葛藤の末に落ちていく話で、多くの人の心に刺さる作品です。そのドラマ性を入れることはマストだと思いました」

この軸をブラすことはせず、世界観や映像表現で新しい要素が組み込まれている。作品を構成するさまざまな要素に適切な表現を組み込む才を感じる。

リアリティー × ジャパニーズクレイジーな世界観

『HUMAN LOST 人間失格』は、近未来という設定でありながら、昭和レトロな雰囲気を感じる世界観が印象的だ。作中に出てくる年号も「昭和111年」。太宰治の没した“昭和”という時代の延長線上にある世界である。

「当初のコンセプトから、昭和の空気感に近未来的な要素をミックスさせることは決まっていました。ただ、絶対にあり得ない、突飛(とっぴ)な世界観にはしたくないと思っていたんです。あくまでも自分たちが過ごした世界の行く末を表現したかった。そこがSFでありながら作品にリアリティーを与えている部分だと思います」

そして、さまざまな場面で“日本ならではの表現”が取り入れられている。主人公の大庭葉藏が自分の腹に剣を刺すシーン。これは”切腹”だ。ほかにも、神社やお寺のような建物が登場したり、霊柩(れいきゅう)車が暴走したりする。登場人物が正座や土下座をする場面もある。そして、キャラクターの服にも和の要素が入っている。

これらの表現は、本作を世界で見てもらうことが前提に進められた企画でもあったからだ。

服の襟の合わせが着物と同じになっている。また、大庭葉藏(右)の襟には菊模様があしらわれている。©2019 HUMAN LOST Project

服の襟の合わせが着物と同じになっている。また、大庭葉藏(右)の襟には菊模様があしらわれている ©2019 HUMAN LOST Project

「ジャパニーズクレイジーな表現を入れることを意識しましたね。『アフロサムライ』は、日本人っていい意味で狂ってると海外の方に喜ばれた作品でした。僕がこの話に呼ばれたのも、そういう期待があったのかなと(笑)。なので、海外の人が不思議に感じるような日本の伝統的な風習をなるべく多く入れました」

日本で評価される作品が世界でも評価される

2019年11月29日に公開となる本作は、すでに海外のアニメイベントや映画祭で上映されている。6月にはフランスで開催された世界最大の国際アニメーション映画祭『アヌシー国際アニメーション映画祭』で公式上映、7月にはアメリカ開催の世界最大級のアニメイベント『Anime Expo 2019』でスクリーニング、同月カナダ開催の『第23回ファンタジア国際映画祭』でアニメ部門・今敏アワードの特別賞を受賞した。

木﨑監督は『Anime Expo 2019』に参加し、実際に海外のファンの反応に触れてきたそうだ。

「主人公・大庭葉藏の声を担当してくださった宮野真守さんも一緒に参加してくれたので、おそらく宮野さんのファンの方が多かったと思います。上映前のトークショーでは、とてつもない黄色い声援でした(笑)。しかし、上映終了後には大拍手。海外の人が喜ぶエンターテインメント、SFアクション作品にするという命題がクリアできていると実感しました」

木﨑文智監督

「ストーリーがちゃんと受け入れてもらえたのかという不安もありましたが、作品を見終わって感動で泣いてる方や、原案を読んでみたいと話す方もいました。『人間失格』という原案は、日本の小説の中でもかなり有名な作品で、世界中で翻訳されています。だからこそ、原案の精神や魅力が伝わったのかなと思いました」

世界に通用することを目標にしつつ、「日本で評価される作品をつくりたい」という思いも木﨑監督は持っていた。

「僕がこれまで監督した『アフロサムライ』や『バジリスク』は日本以上に海外でヒットしました。だからこそ、今回は日本でも評価される作品づくりを実は意識していました。世界でも人気の『ドラゴンボール』や『NARUTO』などは、日本でしっかり評価されている作品です。日本でちゃんと楽しんでもらえるようなエンターテインメントは、海外に持って行っても評価されます。なので、世界での評価はもちろんですが、日本でもちゃんと結果が出てほしいと思っています」

関わった全員が代表作と誇れる作品を生み出したい

『HUMAN LOST 人間失格』は、原案の『人間失格』同様に、かなりダークな作品だ。「つくっている方もしんどくなった」。こう語る木﨑監督は、次はもっと楽しい作品を手掛けたいそうだ。

「重いテーマの作品づくりが続いていたので、次は全く違うテイストの作品に挑戦したいですね。笑えて泣けて、楽しくなるような作品をつくりたい(笑)。そして、今回初めて3Dアニメーションをやらせていただいて、3Dの可能性をとても感じました。つくり手の技術も、3D制作におけるマシンのスペックも向上していくことは間違いないので、今以上にできることが増えていくと思います。そんな技術を使って、誰も見たことのない映像表現を実現していきたいです」

『バジリスク』の木﨑文智、6年ぶり監督作品『HUMAN LOST 人間失格』で見せた表現のこだわり

「原作がある作品は難しいですが、どんな作品に携わるにしても、僕にしかできないような何かを取り入れていきたい。そんな作品を僕一人ではなく、スタッフの皆さんと一緒につくり上げる。スタッフのみんなが関わってよかったと、代表作だと誇れるような作品を生み出したいと思います」

(文・阿部裕華 写真・林紗記)

 

『バジリスク』の木﨑文智、6年ぶり監督作品『HUMAN LOST 人間失格』で見せた表現のこだわり

プロフィール

木﨑 文智(きざき・ふみのり)
1969年生まれ。福岡県出身。1980年代末よりアニメーターとして活躍し『バジリスク~甲賀忍法帖~』で初監督。切れ味の鋭いアクション演出は海外からの評価も高く、『アフロサムライ:レザレクション』はエミー賞へのノミネートを果たす。2019年11月公開の『HUMAN LOST 人間失格』で6年振りとなる監督を務める。

映画『HUMAN LOST 人間失格』作品情報

映画『人間失格 HUMAN LOST』

©2019 HUMAN LOST Project

<STAFF>
原案:太宰 治「人間失格」より
監督:木﨑文智/スーパーバイザー:本広克行/ストーリー原案・脚本:冲方 丁
キャラクターデザイン:コザキユースケ/コンセプトアート:富安健一郎(INEI)/グラフィックデザイン:桑原竜也
CGスーパーバイザー:石橋拓馬/アニメーションディレクター:大竹広志/美術監督:池田繁美、丸山由紀子
色彩設計:野地弘納/撮影監督:平林 章/音響監督:岩浪美和/音楽:菅野祐悟
アニメーション制作:ポリゴン・ピクチュアズ
企画・プロデュース:MAGNET/スロウカーブ
主題歌:m-flo「HUMAN LOST feat. J. Balvin」(rhythm zone/LDH MUSIC)

<CAST>
大庭葉藏:宮野真守
柊 美子:花澤香菜
堀木正雄:櫻井孝宏
竹一:福山 潤
澁田:松田健一郎
厚木:小山力也
マダム:沢城みゆき
恒子:千菅春香

<WEB>
Official Site:human-lost.jp

Official Twitter:@HUMANLOST_PR

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PROFILE

阿部裕華

1992年生まれ、神奈川県出身。 WEBメディアのライター/編集/ディレクター/マーケッターを約2年間経験。2018年12月からフリーランスとして活動開始。ビジネスからエンタメまで幅広いジャンルでインタビュー中心に記事を執筆中。アニメ/映画/音楽/コンテンツビジネス/クリエイターにお熱。

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