原田泰造×コトブキツカサの「深掘り映画トーク」

キューブリックとキング “トラウマ”を回収 『シャイニング』の続編『ドクター・スリープ』

ネプチューンの原田泰造さんと、映画パーソナリティーのコトブキツカサさん。映画好きなオトナのお二人が、封切りが迫った新作や、印象の残る名作について自由に語る対談企画です。今回は傑作ホラー『シャイニング』の続編で、11月29日公開の『ドクター・スリープ』について語ってもらいました。

(TOP画像:©2019 Warner Bros. Ent. All Right Reserved)

<ストーリー> 
雪に閉ざされたホテルでの惨劇から40年。壮絶な体験を生き延びたダニーは、トラウマを抱えながら、人を避けるように孤独に生きていた。一方、謎の集団による、児童ばかりを狙った連続殺人事件が発生し、その行為に気づいた謎の少女アブラとダニーは“交信”をはじめる……。
スタンリー・キューブリック監督がスティーブン・キングの小説を原作に描いた傑作ホラー『シャイニング』の40年後を描いた続編。

 

コトブキ スタンリー・キューブリック監督の『シャイニング』から数えて、40年ぶりに公開される続編という、映画史的にもなかなかの作品ですけど、泰造さんはいかがでしたか?

原田 面白かった! 『シャイニング』に対する“アンサームービー”のような要素もあるけど、ホラー映画として怖かったし、感動的なシーンもあるし、観(み)てる間にいろんな感情が湧き起こってきたよ。『シャイニング』的な恐怖もあれば、『シックスセンス』みたいな雰囲気もあるし、モンスターものみたいな要素もあって……。

原田泰造さん

原田泰造さん

コトブキ 盛りだくさんでしたよね。僕は『シャイニング』だけでなく、キューブリックの映画はぜんぶ好きなんですけど、その続編であるということを抜きにしてもちゃんと面白かった。

原田 キューブリックの映画は、すごくて面白いんだけど、観た後に感想を人に伝えるのが難しいじゃない。俺はもう『シャイニング』は怖かったっていうイメージが強くて。

 『ドクター・スリープ』はトラウマを克服してくれる映画

コトブキ 泰造さんは、『シャイニング』はいつ観たんですか?

原田 いつ観たのかさえも覚えてないな……。ただ、自分一人で観たことは覚えてて、観ながら『一人で観るんじゃなかった』って思った。もうイラつくくらい怖いというか、「なんだよ怖いよ!もう見るんじゃなかった!」って一人でブツブツ言ってたくらい(笑)。

コトブキ 『シャイニング』はやっぱりビジュアルが強烈ですよね。僕が覚えてるのは、『シャイニング』が劇場公開された1980年ころに、テレビで特集を組んでて、当時の最新技術だったステディカムでダニーが雪道を逃げるところを紹介していたんです。そのビジュアルに興奮した覚えがありますね。

原田 それぐらい『シャイニング』のイメージは強くて、いろんなところでオマージュされてるから、ヘンに真似(まね)すると単なるパロディーになっちゃうところを、『ドクター・スリープ』は、ちゃんとリスペクトしているから、軽くならないし、息をのむし、続編としてちゃんとしてるなと思う。

コトブキ 冒頭のホテルに向かうシーンの空撮も完コピでしたよ。森の上からゆっくり撮っていく、あの感じね。

コトブキツカサさん

コトブキツカサさん

原田 『シャイニング』はずいぶん前に観たはずなのに、イメージを覚えてるんだよね。バスタブのカーテンが引かれていくシーンとか、「こんなシーンあったな」って思いながら、何十年ぶりに見返してる感覚なんだけど、ちゃんと怖いんだよ。でも見終わると、あれが怖くなくなった。『ドクター・スリープ』はトラウマを克服してくれる映画だよね。

コトブキ 泰造さん、それはこの映画をひとことで表してますよ。もうそれで答え出ちゃいましたよ。

原田 え、本当? 同じ気持ちになった?

コトブキ この映画のテーマって、あらゆる意味で「トラウマ克服」だと思うんですよ。まずはこの『ドクター・スリープ』という作品が生まれた経緯ですよね。そこには『シャイニング』という映画に対して、原作者のスティーブン・キングと、監督のスタンリー・キューブリックの対立があるんですよ。つまり、映画版の『シャイニング』を、公開当時からキングは認めていないんですよ。「俺の『シャイニング』はこんなんじゃねぇ」と。

原田 へぇー、そうなんだ。映画ファンの間では『シャイニング』は傑作という扱いになってるよね。

コトブキ 僕は、キューブリックに対してキングが激怒してるインタビューのビデオを何度も見ましたよ(笑)。それで、スタジオ側が「わかった。じゃああなたが思う通りの『シャイニング』を撮ってみたら」ということで、キングが監修した『シャイニング』のテレビシリーズが製作されるんですよ。

原田 それも面白そう。内容はけっこう違うの?

コトブキ これは僕の解釈ですけど、キューブリック版(映画版)『シャイニング』は、主人公のジャック・トランスが、自分自身の内から狂気が湧き出てきて、やがておかしくなっていく。キング版(テレビ版)のシャイニングは、もっと魔物の存在がハッキリしているというか、ホテルという魔物がジャックを蝕(むしば)んでいくんですよ。だからすごく単純にいうと、内から外か、外から内かって違いがある。

 ©2019 Warner Bros. Ent. All Right Reserved

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原田 『ドクター・スリープ』にも、そういう要素があるよね。超能力や、人間ではない存在を、妄想と捉えるのか、それとも実在する何かと捉えるのか。

コトブキ まさにそうなんですよ。で、『ドクター・スリープ』の監督のインタビューを読んでみると、監督は、どちらも取り入れてるんですよ! スティーブン・キングのテレビ版も、キューブリックの映画版もリスペクトして、間を取ったって言ってるんですよ。

原田 それは正解だよ。映画ファンは、どうしてもキューブリックの『シャイニング』の続編だって思うから、テレビ版のように原作通りにつくったら、期待とは違うものになってしまったかもしれないからね。

コトブキ そもそも、キングが『ドクター・スリープ』を書いたのも、キューブリック版の『シャイニング』に対して物申すというところから始まっているのだと思います。だから、あの映画がなかったら続編は書かれなかったはずなんで、そういう意味では、原作も映画の影響を受けてるんですよ。

原田 映画版『シャイニング』が、キングの思ってたのと違ってしまったのには、ジャック・ニコルソンの演技もあると思うよ。あの狂気は、もういろいろ超えちゃってるじゃない。髪形も怖いし、歩き方も不気味だし、それにあの顔でしょ? スティーブン・キングからすると『こいつちょっと強すぎねぇか?』って思うよ(笑)。

原田泰造さん

コトブキ 『シャイニング』といえば、あのジャック・ニコルソンの狂気と、シェリー・デュバルの恐怖の顔っていうイメージになっちゃいましたからね。前回の対談でも話しましたけど、ジャック・ニコルソンは『バットマン』でジョーカーを演じて、その後のジョーカー俳優の人生を変えてしまったじゃないですか。確かにあんな演技をされたら、幽霊やホテルよりも、ジャック・ニコルソンが怖いってことになっちゃう。

原田 だから、ダニーを演じたユアン・マクレガーもすごいと思う。あのジャック・ニコルソンの演技を、時空を超えて受けるというか、その前提でやらなきゃいけないんだから。

 ダニーが「ドクター」と呼ばれることになる「運命」

コトブキ ダニーがあの父親の息子である、というのも今作のテーマですよね。そのトラウマも本当によくわかるし、どう受け入れて、克服していくのかという話でもありますから。

原田 こっちは、あの惨劇の現場を見てるからね。ダニーにあの父親の血が流れてるということを、見てるこっちはフックにしちゃうから。でも、ダニーはあんな事件を受けて、その後は隠れるように静かに生きてきたっていうお話なんだけど、銃撃戦になるとけっこう強いんだよね(笑)。命中率もすごくて、次々と敵を倒していく。「あれ、この人普通に生きてきたんじゃなかった?」って。

コトブキ 大人になるまでにいろいろあったんでしょうね。語られない40年の間に(笑)。

原田 『ドクター・スリープ』というタイトルも、ダニー自身のことで、彼の能力のひとつなんだよね。

コトブキ それでいうと、ハロランっていうキャラクターがでてくるじゃないですか。ダニーを導いてくれる霊的な存在なんですけど、これ、前作ではキッチンでダニーの能力の説明をしてくれた人ですよね。

原田 最初にホテルの案内をしてくれて、後で助けに来てくれる人だよね。

コトブキ ハロランも「シャイニング」の持ち主で、ダニーが家族から「ドク」って呼ばれてることを、聞かずに当てるっていうシーンがあるんですよ。「ドク」って、ドクターのことですからね。 

原田 そうか。子供のころからダニーは“ドクター”だったんだ。

コトブキ 単なる愛称なのかもしれないですけど、それから大人になって、酒飲んでやさぐれたりして、いろいろあって、ダニーが「ドクター」と呼ばれることになるっていうのは、すごい運命的ですよね。もしかしたらハロランは、ダニーが将来的に「ドクター・スリープ」になるとわかってたのかもしれないですよね。映画ファンの勝手な妄想ですけど。

コトブキツカサさん

原田 そのダニーの「ドクター・スリープ」的な能力が、やがて戦いのなかでいきてくるんだと思ったんだよね。まぁ、そんなこといってられない展開になるんだけど。

コトブキ ダニーが、あのオーバールック・ホテルに戻るっていうのは、予告編にも出てるし、もうみんなわかっている。だから、ずっとこの話がどうやってあのホテルにつながるんだと思いながら映画を観ているし、いよいよホテルが出てきたときはもうワクワクしちゃいますよね。

原田 ただね、個人的にこれいらないなって思った演出があって……。ダニーが最初にあのホテルに入ったときに、歩くと勝手に電気がついていくシーンがあったじゃない? 霊的な存在を示してると思うんだけど、いまウチのトイレって、ああいう感じでセンサーで勝手に電気がつくんだよ。だからもうそれに見えてしょうがなくて(笑)。

コトブキ 確かに、昔からホラー映画でよく使われる演出ですけど、現代では勝手に電灯が点灯するなんて、当たり前すぎて怖くないですね。

原田 バン!って一気につくほうがまだ怖かったと思うよ。あと、これはネタバレになるかもだけど、ホテルで「あのひと」が出てくるじゃない? この前『イエスタデイ』を観たばっかりだからさ、この作品も出ちゃうんだって思った。

コトブキ あれは絶対に賛否両論出るとこですから。そこに踏み込んだのはすごいなと思うし、「あのひと」を演じてる役者も、よく受けましたよ。映画の『シャイニング』でいろいろな解釈がされている、あの有名なバーのシーンも再現してるし、前作のフッテージ(素材)もそのまま使ってたりするし、演出としても大胆な試みをしてますよね。

原田 双子のビジュアルとかも、うまく使ってるよね。改めて、あのイメージというか、画角は発明なんだなって思った。あれぐらいの遠さで、表情が見えないくらいの距離で立ってるっていうのが怖いんだよね。シャワールームのカーテンに映る影とか、動くスピードとか……。キューブリックの演出力のすごさを思い知らされたよ。

 ©2019 Warner Bros. Ent. All Right Reserved

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コトブキ ショックシーンでは、Jホラーに影響を受けたような場面もありますけど、それもたどればキューブリックの『シャイニング』が元祖ですからね。そういうホラー的な演出でも、オールドスタイルと現代的なセンスのバランスがとれてる。

難しい続編を引き受けた新人監督マイク・フラナガンは要注目

原田 いや、そう思うと、このマイク・フラナガン監督って、すごく力がある人だね。

コトブキ さっき言った「間をとる」っていうのは、映画作家としては本当はNGワードだと思うんですよ。職人に徹したってことですから。でもそれは潔いし、難しいことだし、本当に『シャイニング』が好きじゃなかったらできない。マイク・フラナガンは、映画の世界ではまだ新人ですけど、要注目ですよね。

原田 新人だから、やれたのかもしれないね。自分を確立してたら、過去のオマージュシーンとか、それこそフッテージをそのまま使う、みたいなことも躊躇(ちゅうちょ)するじゃない。もう夢に双子が出てきてうなされるくらい、すごい苦労して作り上げたと思うよ(笑)。だって、これで『シャイニング』のトラブルも回収したってことでしょ。キング版もキューブリック版も救ったんだから、この監督がドクターだよ。

コトブキ 製作トラブルの因縁、ダニーの能力や、事件。そして観客も、あの恐怖に対してのトラウマがぜんぶ回収される。だから、泰造さんが言った「トラウマ回収」ですべて説明がつくんですよ。

原田 話してると、『シャイニング』が観たくなってくるね。で、観たらもう一回『ドクター・スリープ』観ようってなるだろうから、この答え合わせが永遠に続く感じが楽しいし、映画ファンとして、40年待ってて良かったって思える作品だね。

原田泰造さんとコトブキツカサさん

(文・大谷弦 写真・林紗記)

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作品情報:『ドクター・スリープ』

監督:マイク・フラナガン
出演:ユアン・マクレガー

11月29日(金)全国ロードショー
配給:ワーナー・ブラザース映画
©2019 Warner Bros. Ent. All Right Reserved 

 

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PROFILE

  • 原田泰造

    1970年、東京都出身。主な出演作に、WOWOW「パンドラⅣ AI戦争」(18)、映画「スマホを落としただけなのに」(18)、NHK「そろばん侍 風の市兵衛」(18)、映画「ミッドナイト・バス」(18)、NHK連続テレビ小説「ごちそうさん」(13-14)、NHK大河ドラマ「龍馬伝」(10)など。

  • コトブキツカサ

    1973年、静岡県出身。映画パーソナリティとしてTV、ラジオ、雑誌などで活躍中。年間映画鑑賞数は約500本。その豊富な知識を活かし日本工学院専門学校 放送・映画科非常勤講師を務める。

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