豊富なバリエーションが用意されたミニバン 三菱・デリカスペースギア
文: 小川フミオ

1990年代はミニバンの時代でもあった。セダンが大型で豪華になり、スポーツカーが数多く発表されるという元気のあった時代。ミニバンも隆盛を極めた。94年発表の「三菱デリカスペースギア」は象徴的なモデルだ。
(TOP画像:まとまりの良いプロポーションと面構成が品よくまとめられている)
2019年は、キャンプが流行(はや)った。80年代から90年代にかけてもアウトドアブームがあって、「RV」(リクリエーショナルビークル)なるジャンルが誕生した。米国で生まれた「ミニバン」を日本ふうに解釈し、それまでワンボックスワゴンと呼ばれていた実用性重視の箱形の車両をさまざまにアレンジしたものが登場したのだ。

ディーゼルターボ搭載で走りのよさも訴求したモデル
三菱自動車はなかでもかなり気合が入っていたので、記憶に強く残っている。「デリカスペースギア」は、モノボリュウムの車両で作れるバリエーションがどれだけあるか、お手本のようだった。あらゆる組み合わせが用意された。
車体は「標準」と「ロング」とがあり、乗車定員は7人から最大10人まで。ルーフの多様性はこの手のクルマにはとても重要なので、「デリカスペースギア」でも、(「エアロルーフ」と呼ばれた)標準とハイルーフが用意され、標準ルーフには「ツインサンルーフ」、ハイルーフには「クリスタルライトルーフ」と、四つもの仕様があった。

シートのアレンジは多様で2列めシートがこんなふうになる仕様もあった
パワートレインも豊富で、3リッターV型6気筒ガソリンエンジンを筆頭に、2.4リッター4気筒ガソリン、2.8リッター4気筒インタークーラー付きディーゼルターボ、2.5リッター4気筒ディーゼルから選べた。
当時はオフロードに行けるというのがとても重要視されたので、駆動方式は4WDが中心。後輪駆動の設定もあった。大ヒットしていたパジェロの技術を4WDに応用していたのも、宣伝上の大きな強みだったのだ。

ダッシュボードまわりはきれいにまとめられている
デリカスペースギアはスタイリングも良かった。82年のトヨタ・タウンエースワゴンが先鞭(せんべん)を付けた卵形シェイプの流れを意識しながら、うまく洗練性を高めていた。広い室内など合理性が求められるパッケージングでありながら、フロントマスクから全体のシルエットに至るまで、乗用車とは違う分野で独自のデザインを確立していたと思う。

ガラス面積が多いクリスタルライトルーフ仕様
商用車感の強かったこのジャンルに、トヨタは「エスティマ」や「グランビア」、日産は「ラルゴ」や「キャラバン・エルグランド」を投入したのも90年代。ここから今の「アルファード」「ヴェルファイア」へと至るLLサイズのミニバンの市場が確立するのである。(大型のミニバンとは形容矛盾だが……)
私は、クロムの加飾を多用した昨今のミニバンの“オラオラ感”がまったく好きではないので、当時のデリカスペースギアで見られる、プロポーションと“線と面”で魅力を訴求するという、まっとうなデザインアプローチこそ王道だと思っている。

スライドドアを備えた4WDスーパーエクシード仕様
【スペック】
車名 三菱デリカスペースギア 4WDスーパーエクシード
全長×全幅×全高 4685×1695×2060mm
2972ccV型6気筒 全輪駆動
最高出力 185ps@5500rpm
最大トルク 27.0kgm@4500rpm
(写真=三菱自動車提供)