ファッションは語る

スタッフは全員、野球好き。アメリカン・ベースボールをこよなく愛するブランド「Jackman」

東京・恵比寿の住宅街を歩いていると、緑に囲まれた中庭付きの、いっぷう変わった建物が見えてきます。ファクトリーブランド「Jackman」の直営店があるのは、恵比寿駅から徒歩約7分、喧噪(けんそう)から少し離れた静かな場所。このショップを訪れたのは昨年、もう日の暮れかかった、初冬でした。

閉店間際に駆け込み、「雑誌に載っていたのを読んで」と伝えると、「このモデルですよね」とジャージー素材のフーデッドコートを見せてもらいます。

Jersey Coat。伸縮性のある素材でありながら、発熱効果があり、実際に着用すると薄手の素材にもかかわらず風を通しません。

Jersey Coat。伸縮性のある素材でありながら、発熱効果があり、実際に着用すると薄手の素材にもかかわらず風を通しません。

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続けてブランドのコンセプトについて聞いてみると、「ベースボールにルーツを持つ」とのこと。そういえば、お店のいたるところにグローブや、ボブルヘッド、ベースボールシャツが。

福井県武生市(現在の越前市)の縫製工場・田辺莫大小製作所(後のタナベメリヤス)の創業者で、大の野球好きであった田辺貢さんの思いを受け継いで生まれたJackman、はたしてどんなブランドなのでしょうか。

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ブランド立ち上げに携わった、ダイレクターの田後健一さんと、デザイナーの鈴木靖さんに、Jackmanについて教えていただきました。

「まず、野球との関わりについて話しましょう。戦後まもなく、GHQのマッカーサーは日本に駐留しているアメリカ人のために、サンフランシスコ・シールズというチームを呼んで日本チームと対戦させたのですね。創業者の田辺貢はこの試合をたまたま見に行っていて、ストッキングに注目しました」(田後さん)

「シールズが着用していたストッキングは日本のモノとは違う、一体型の足掛け式。アメリカはすでに、現在流通しているようなモノを使っていました。田辺は、自分たちの技術があれば同じようなストッキングを作れると思い、1950年、創業の翌年から製造を始めます」(田後さん)

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Jackmanダイレクターの田後さん

戦後には、甲子園に出場する高校球児に、10年間に渡って無償でストッキングを提供。さらに専門的な縫製で、タナベメリヤスは、学校で使われる体操服やスポーツウエアを製造するようになります。

「戦後はどこもお金がない。そこで、1959年から10年間、甲子園に出場する各学校へ、無償でストッキングを提供していました。すると、それが契機となって名前が広まり、全国で7割のシェアを得るようになりました」(田後さん)

「『日本で一番初めに足掛け式野球用ストッキングを作った』ことは、今でも誇りです。高校野球の強豪校は伝統を大切にされるので、いまだに当時デザインされたものを使っている学校もあります」(田後さん)

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「僕は小中高とこの会社の体操服を着ていて、入社して初めて『これだったんだ……!』と、驚きました。それくらい、シェアは大きいですよ。当時は『ヒットユニオン』というブランド名でやっていて、名前が認知されてきたので、会社名もヒットユニオンに統一しました」(鈴木さん)

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Jackmanデザイナーの鈴木さん

「ヒットユニオンは、スポーツウエアの製造販売会社でした。前回の東京オリンピックでは、選手団にトレーニングウエアを提供しています。表彰もされましたし、昭和天皇が福井の工場を見学されたこともありました」(鈴木さん)

その後、約50年前に「Jackman」というブランドが誕生します。意味は、「ホームランバッター」。そして2011年、リブランドをして、ファッション市場へ参入します。

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「勇気も必要でしたが、職人の技術で十分に戦える自信がありました。工場としては70年の歴史があって、専門的な技術もある。スポーツウエアだけ製造しているのはもったいないとずっと思っていましたから。もしすべてがゼロの環境にいたら、始めていなかったと思います」(鈴木さん)

近年、新規立ち上げのブランドは、展示会、そしてオンラインショップを軸に販売することが多い印象がありますが、彼らは別のアプローチを選びます。そこには、歴史的な背景もありました。

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「我々は、卸売りから始めています。もともと、直営店を持たずに卸売りをしていた会社だったので、情報も入ってくるし、心配はあまりなかったですね。卸先は国内では100社、海外で30社です。海外では、歴史あるファクトリーブランドということで、非常に信頼してもらっています」(田後さん)

ここで、デザインについて質問してみました。Jackmanがシンプルなデザインに徹しているのはなぜでしょう。たとえば、ブランドロゴや、ブランド名の入ったアイテムのほうが、(特に海外では)受けやすいのではないでしょうか。

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「基本は、ブランドのDNAに沿って、アーカイブから得られたものを落とし込んでいます。ベースボールシャツなどですね。だからシンプルに見えるのでしょう。加えて、僕のイマジネーションで服を作っています。たとえば服って、シーズンが半年ごとにあるじゃないですか。そのうちの2カ月は、実はネタ探しなんですよ」(鈴木さん)

「昔の日米野球のとき、選手は何を着ていたか、ベーブ・ルースは何を着ていたか、とか。食生活まで調べてみると、ルースは一日六食くらい食べていたらしい(笑)。メジャーリーグのユニホームも参考にしていますが、僕は私服まで調べます。マリリン・モンローと結婚していたジョー・ディマジオは、普段何を着ていたか、とか。あとはスタジアムの観客ですね。時代によってスタジアムに着ていくための服は全然違うので。無名の人からもどんどん採用します」(鈴木さん)

独自性の高い縫製技術を持つJackmanは、コンセプトを守るために一切の妥協を許しません。デザイナーの鈴木さんにはどのようなこだわりがあるのでしょうか。

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「裏毛なんかも表糸を細いものにして、目飛び(縫い目が部分的に飛んでしまうこと)しないようにしています。昔のスウェットやウエアはもっと番手(糸の太さを表す単位)が太かったので、そこに合わせよう、とかも考えながら。グレーはGR7やGR3の糸を使うときれいな色になるんですけど、昔のやりかたで粗びきのものを使っています」(鈴木さん)

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「パンツにしても、右と左で杢(もく)の感じが違ったりする。でもそのほうが自然だから、僕たちはそれでいい、と思っています。ワッフルは生地染めするんですけど、これも編み機を改良してもらっています。サーマル系って、編んでしまうとペタっとなってしまいますが、立体感を出したかったのと、もとに戻る力を均一化させたかったので、針を改良してもらいました」(鈴木さん)

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「『寒い時期の洋服は重くて地厚で着づらい』のを防ぐために、パターンや、縫製を変えています。伸びるところは伸びるように、伸縮性のある縫製にしていますね。首周りはステッチを打たずに遊ばせています」(鈴木さん)

「この商品はスペイン産の滑らかな高級綿である『ピマコットン』を使っています。もともとヨーロッパは紡績の技術が非常に高くて、スペインの綿はヨーロッパ近郊で消費されてしまうので、こっちにはなかなか入ってこないんです。それを手に入れて、カーディガンにしています。『Owners Cardigan』という名前で出しているのですが、実は1930~40年代にアメリカの球団オーナーたちがこぞって着ていた形なんです」(鈴木さん)

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Owners Cardigan

最後に「面白いと思いますよ」とおっしゃっていた、デザインのミーティングについて聞いてみると、Jackmanがどれだけ野球を愛し、そして服を愛しているのかが伝わってきました。

「うちのデザインミーティングはオーナーも同席するんですけど、『内角高め、ストライクギリギリを狙った商品がいいのでは?』という会話をしています(笑)。そこに、たとえば『いや、内角は低めのほうが良いのでは?』と入ってくる人がいる。外から見ると、何をしているかわからないと思いますが(笑)」(鈴木さん)

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お店の敷地内には野球のスコアボードが。エントランスを開けてすぐ、足下には実寸大のベースも。

「売れているアイテムはデザイナーとして色を足したがるじゃないですか。三色で売れたら、四色、五色と。そうするとオーナーに『置きにいっているんじゃないよ!』(安全なところに投げるな)と」(田後さん)

「はたから見ると完全に野球の話なんですけど、でもちゃんと決まっていくんですよね。『置きにいっていると思われるな』と思うと、考え方を変えてインハイ(内角高め)のものを作らないと、と思います。『緩急をつけなさい』も本気で言っていますからね。すべてが高いものじゃなくて、購入しやすく、まずブランドのDNAを体感できる製品も作れ、ということなんですけど」(鈴木さん)

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「こうやって会議は進んでいくんですね(笑)。来季のスタメン(服のラインナップ)も打順のように一番から九番まで考えます。売れている商品、たとえばリブTシャツは『四番 打率.311』とか書いて、新製品は六番くらいに入ってくるわけですよ。調子の良いアイテムは七番から来季三番にあげるので、色をちょっと増やしますとか」(田後さん)

「その打率、なんなんやろと思いますけどね(笑)。打率.320も打てる? みたいなのは、もちろんデータじゃなくて感覚でつけていきます。一番だったら左打ちの足の早い服なんやろうなと、ずっと考えるんです。今の二番バッターはトレンドも変わっていて長距離打者、チームの主砲になりましたよね。昔みたいにバントがうまい、非力な選手ではないんです。そのトレンドも取り入れていて。本当にみんな野球のことが大好きなんです(笑)」(鈴木さん)

(文・&M編集部 岡本尚之 写真・持田薫)

スタッフは全員、野球好き。アメリカン・ベースボールをこよなく愛するブランド「Jackman」店舗情報
東京都渋谷区恵比寿南2-20-5
03-5773-5916
営業時間: 11:00-19:00
定休日: 月・火
※月・火曜が祝日の場合は営業、翌火・水が休み。
http://www.jackman-tm.jp/

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