マッキー牧元 うまいはエロい

<87>「世界の最先端の料理になる」と確信 インド料理店「スパイスラボ トーキョー」が起こしたイノベーション

今年出会った新しいレストランの中で、最も刺激的な店である。そう思うほどに、知的好奇心を搔(か)き立てられた。この11月にオープンした、インド料理の店「スパイスラボ トーキョー」である。

インド料理というと、我々が真っ先に思い浮かべるのがカレーである。インド料理に詳しい方なら、その言葉からマサラや各種スープ類、タンドリーチキンやサモサ、ドーサやクルチャなどのパン類、あるいは南インド料理か北インド料理といった地方色豊かなメニューを想像するだろう。しかしこの店は、そのどれにも当てはまらない。

フランス料理、イタリア料理、スペイン料理、中国料理、日本料理は、他ジャンルと融合して未到の新たな料理を生み出したり、既存の料理を再構築して“イノベーション”と呼ばれる料理分野を生み出したりしている。

「スパイスラボ トーキョー」の料理も、ある種の“イノベーション”といっていいだろう。今までのインド料理店では、まったく出会わなかった料理ばかりである。たとえ既知の名前がついた料理でも、味わいは異なる。インド料理にも、そんな新しい動きがあったのである。

目新しいということだけではない。アーユルヴェーダ(インド大陸の伝承医学)の知識を生かし、味わいと健康のバランスを考えながら各種のスパイスを駆使する。間違いなく近い将来、世界の最新料理として台頭するだろうと確信した。

そんな刺激的な料理は、昼でもいただける。3300円の「スパイスアロマ」というコースでも、その一端はうかがいしれるが、進取の精神を存分に感じ取るには、4840円の「スパイスブレンド」というコースをオススメしたい。

食欲を刺激する酸味と香り

レンズ豆に、炭とココナツ、トマトとクミン、アボカドとコリアンダーという3色のチャツネが添えられた「寺院 Offering (捧げもの)」

3色のチャツネが添えられた「寺院 Offering(捧げもの)」

それではその料理を紹介しよう。「寺院 Offering(捧げもの)」と題された皿には、カリカリに加熱したレンズ豆に、炭とココナツ、トマトとクミン、アボカドとコリアンダーという3色のチャツネ(ペースト状の調味料)が添えられる。

レンズ豆の優しい甘みに、3種のチャツネが呼びかけ答える。あくまでも優美に、抱き合おうとする。インド料理に色気を感じたのは初めてである。

次は、各地方の屋台などで売られる郷土料理を再構築した「街路 Pride(誇り)」で、5種類の料理が、白い枕の上に盛られる。

中央の丸い「ゴルガッパ」という、揚げた薄いせんべい生地のような素材の中には、梅とみりん、ミント、レモンが入っていて、その様々な酸味と香りが食欲を刺激する。

その右下にあるのは「チャート」と呼ばれる料理で、揚げた紫蘇に、タマリンドチャツネとザクロをあしらったもの。

左下は、「鴨(かも)のケバブ」で、プルーン、マンゴーパウダー添え。左上は、バターチキンを入れたサモサ。右上は、「ドクラ」と呼ぶひよこ豆のケーキで、エビとワサビ添え。このように、和の食材や調味料も加えられているのだが、違和感なく、すんなりと味がまとまっているところが素晴らしい。

揚げた紫蘇にタマリンドチャッツネとザクロをあしらった「チャート(右下)、プルーン、マンゴーパウダー添えられた「鴨(かも)のケバブ」(左下)、バターチキンを入れたサモサ(左上)、エビとワサビが添えられた、ひよこ豆のケーキ「ドクラ」(右上)

揚げた紫蘇にタマリンドチャツネとザクロをあしらった「チャート(右下)、プルーン、マンゴーパウダーが添えられた「鴨(かも)のケバブ」(左下)、バターチキンを入れたサモサ(左上)、エビとワサビが添えられた、ひよこ豆のケーキ「ドクラ」(右上)

 

従来品とは全く質が異なるビリヤニ

続いて、「湾岸 Bay(ベイ)」と題した皿で、スパイスマリネした茹(ゆ)でエビ、赤キャベツで包んだ中にはロブスターライス、さらにクミンで香りづけしたポテト、ニラと長ネギのマスタードソースが添えられる。メインのエビの付け合わせも、程よい味わいで、実に優美さがある。

エビの付け合わせが目を引く「湾岸 Bay(ベイ)」

エビの付け合わせが目を引く「湾岸 Bay(ベイ)」

赤キャベツの中にはロブスターライスが入っている

赤キャベツの中にはロブスターライスが入っている

そして4種類の風味をあしらったクルチャ(薄焼きパン)と、燻製(くんせい)したケツル小豆の煮込み、さらにチキンのビリヤニ(炊き込みご飯)、キュウリのライタとカレーが運ばれる。このビリヤニとて、今まで食べてきた数多くのビリヤニとは質が違う。品があって、インド人でもないのに、食べていくと懐かしさがよぎるような温かみがある。

従来の概念を覆されるチキンの「ビリヤニ」

従来の概念を覆されるチキンの「ビリヤニ」

最後は「フェスティバル Bitter & Sweet Symphony (ビター&スウィートシンフォニー)」と名付けられた、色鮮やかなデザートとなる。

色鮮やかなデザート「フェスティバルBitter & Sweet Symphony (ビター&スウィートシンフォニー)」

色鮮やかなデザート「フェスティバル Bitter & Sweet Symphony (ビター&スウィートシンフォニー)」

聞けば、今まで日本に入ってこなかった貴重なスパイスを使い、すべての料理がおそるべき時間と手間をかけて作られているという。

だからこそ今までのインド料理には感じられなかったエレガントさと色気がある。経済成長に注目が集まりがちな国だが、料理の世界もインドが伸びてくるのは間違いない。

SPICE LAB TOKYO(スパイスラボ トーキョー)

今年11月に開店したインド人が経営するモダンインド料理店。インド出身の料理長デジャス・ソヴァニさんは、「AMAN」のスーシェフ(副料理長)を務めたほか、デンマークの「noma」をはじめとする各国で料理修行を積んできたという。日本の食材や調味料を日々研究する誠実なシェフだ。世界で最も進んでいるインド料理が日本で味わえるのがうれしい。

【店舗情報】
東京都中央区銀座6-4-3 GICROS GINZA GEMS 10階
03-6274-6821
営業時間11:30~15:00(14:30 LO)/18:00~22:30(21:00 LO)
無休
公式サイト:https://www.spicelabtokyo.com/

PROFILE

マッキー牧元

1955年東京生まれ。立教大学卒。年間幅広く、全国および世界中で600食近くを食べ歩き、数多くの雑誌、ウェブに連載、テレビ、ラジオに出演。日々食の向こう側にいる職人と生産者を見据える。著書に『東京・食のお作法』(文藝春秋)『間違いだらけの鍋奉行』(講談社)。市民講座も多数。鍋奉行協会顧問でもある。

読者の皆様へのご報告

<&M編集部より>
『うまいはエロい』の2019年10月15日公開の記事は、筆者が、紹介した店舗の許諾を得ずに掲載していたため、非公開と致しました。
掲載したお店にご迷惑をおかけしたことをおわび致します。
今後は掲載前のチェックを徹底します。

 

<筆者より>
今回は、ご店主に確認せずに執筆してしまいました。そのためご店主にご不快な思いをさせ、ご迷惑をおかけしたことを、改めておわび申し上げます。

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<88>「ああ、うまい……」格が違う“昭和のラーメン”の味/広東麺チャーリー

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