エマ・ワトソンらがモデルに 2020年ピレリカレンダーのテーマは「ジュリエットを探して」

最近の文学作品からラブストーリーがなくなっていないか。ベストセラーリストを探して目につくのは「アウシュヴィッツのタトゥー係」ぐらいで、マーダーミステリーかディストピア小説ばかりの印象がある。

そんなとき、中部イタリア・ラベンナ出身の写真家、パオロ・ロベルシ(Paolo Roversi)氏が、「Looking For Juliet(ジュリエットを探して)」という作品を発表した。テーマはもちろん世界的に知られたラブストーリー「ロミオとジュリエット」だ。

パリ在住のロベルシ氏は、「ボーグ」誌や「エル」誌を中心にすぐれたポートレートを発表してきた。私がとりわけ好きなのは、2014年に8×10という、なつかしの大判フォーマットを使って撮られたリアーナのポートレートだ。キュートな表情が多いリアーナだが、ダークともいえる雰囲気の作品たちが印象的だった。

今回の「Looking For Juliet」という作品は、イタリアのタイヤメーカー、ピレリ社が、毎年、世界的な写真家を起用して制作している、いわゆる「ピレリカレンダー」の2020年版のテーマである。カレンダーだが、132ページあり、写真集やアートブックと呼ぶほうがふさわしい。

6 「Looking For Juliet」は132ページの写真集と呼ぶようがふさわしい=筆者撮影

「Looking For Juliet」は132ページの写真集と呼ぶほうがふさわしい=筆者撮影

5 「Looking For Juliet」はいちおうカレンダーなので、こんなふうに日付が入っているが、まったく機能しないだろう(笑)=筆者撮影

「Looking For Juliet」はいちおうカレンダーなので、こんなふうに日付が入っているが、まったく機能しないだろう(笑)=筆者撮影

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ピレリ家はもともとミラノの名家で、アートのパトロンとして知られてきた。そういえば、須賀敦子氏の著作『コルシア書店の仲間たち』にも、実話として、ピレリ家の一族が、ミラノでカトリック左派のひとたちが集まったこの書店の出資者として紹介されている。

「私はピュアな魂をもつ人間を探してきました。無垢(むく)だけれど、同時に、力と美とやさしさと勇気をそなえた人物。私はすべての女性のなかにジュリエットがいると思うのです。それをずっと探し続けているのではないでしょうか」

ロベルシ氏はこう語る。撮影は、シェークスピアが「ロミオとジュリエット」をまとめたときに舞台としたイタリア・ベローナで行われた。報道陣向けの発表会も、18世紀初頭に作られ欧州有数のオペラ劇場として知られる同地のテアトロ・フィラルモニコで行われた。

3 記者発表会の場となったベローナのテアトロ・フィラルモニコ劇場

記者発表会の場となったベローナのテアトロ・フィラルモニコ劇場

ロベルシ氏自身、オペラファンで、グノーのロミオとジュリエットのイメージも、作品に盛り込みたかったようだ。世界中に知られたこの悲恋物語は、総合芸術であるということだろう。

「この物語を私が好きなのは、いろいろなものの境目にあるからです。夢と現実、涙とほほ笑み、幸せと悲しみ、悪と善……私はそれらの境目に魅せられてきました。私の作品は、境目をどちら側に引くか、それを探求してきたといえます」

カレンダー(というか写真集)のなかでジュリエットを演じているのは9人。

日本でもよく知られたエマ・ワトソンをはじめ、英俳優のクレア・フォイ、同ミア・ゴス、米俳優のインドゥヤ・ムーア、同ヤラ・シャヒディ、同クリステン・スチュワート、中国の歌手クリス・リー、スペインの歌手ロザリア、そしてイタリアのアーティスト、ステラ・ロヴェルシだ。

4 「Looking For Juliet」(エマ・ワトスン演じるジュリエット)=筆者撮影

「Looking For Juliet」(エマ・ワトソン演じるジュリエット)=筆者撮影

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「私にとってジュリエットは、驚くほど無垢という印象です。でもそれゆえ、ジュリエットには機知と力がそなわったのだと思っています。私は永遠の愛を信じたい。ええ、そういうものがあるって、思っていたいです」

エマ・ワトソンは、写真家のロベルシ氏とのインタビューのなかで上記のように語っている。

この物語についての説明はいまさら必要ない気もするけれど、念のため。欧州各地で語り継がれていた男女の悲恋の物語を、16世紀に英国のシェークスピアが戯曲としてまとめあげたもの。ベローナを舞台に、対立するキャピュレット家のジュリエットと、モンタギュー家のロミオが恋に落ちる。

ロミオは両家の争いに巻き込まれ、街から追放される。ジュリエットは父親から望まぬ結婚を強要されるが、ロミオへの愛が消えることはない。再会を切望するふたりのために神父が一計を案じ、一時的に仮死状態になる薬を調合してジュリエットに飲ませる。

結婚は取りやめとなり、ロミオがこっそりジュリエットが横たわる安置所へと戻ってくるタイミングで、ジュリエットは仮死状態から目覚めるはずだった。

だが、ロミオに事情を説明した手紙は、手違いで手渡されず、ロミオはジュリエットが死んだと思い込み自害してしまう。目覚めたジュリエットは、傍らで亡くなっていたロミオを見て、自らに短剣を突き立てる……。

ただし、ピレリカレンダーにロミオは登場しない。その理由をロベルシ氏は次のように語った。

「いやいや、ロミオなくしてこの物語は成立しません。ロミオがいると仮定してこそのジュリエットのカレンダーなのです。ふたりがいるからこそ、愛の物語となり、国境も文化も宗教のちがいも超えていくのだと思います」

2 発表会での壇上で、左からウーピー・ゴールドバーグ、ピレリ社のマルコ・トロンケッティCEO、ベローナ市のフェデリコ・スボアリナ市長、パオロ・ロベルシ氏

発表会での壇上で、左からウーピー・ゴールドバーグ、ピレリ社のマルコ・トロンケッティ・プロベラCEO、ベローナ市のフェデリコ・スボアリナ市長、パオロ・ロベルシ氏

報道陣向けの発表会で、米国の俳優でかつコメディアンのウーピー・ゴールドバーグが司会を務めた。そういえば、「ロミオとジュリエット」の物語で私がもっとも好きな登場人物は、ジュリエットの乳母である。ウーピーは向いていたかもしれない。ロベルシ氏にそのことを確認するタイミングは逸してしまった。

(文=小川フミオ、写真=Pirelli Cal提供)

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