介護職のカッコよさをプロのクリエーターがプロデュース その思い、表現技法とは

優美なしぐさで頰杖を突く女性、白シャツの胸をはだけてカメラを見据える男性……。アート感満載のポートレートがずらりと並ぶ。黒の背景布をバックにライティングで陰影をつけ、メイクを施された顔は、どれも自信に満ちあふれ、強い目力がある。といっても、被写体はプロのモデルではない。

介護福祉士やヘルパーなど、介護現場で働く人たちを取り上げた企画写真展が2019年11月上旬、熊本市内で開かれた(メイン写真)。介護現場の魅力を働き手の姿を通して発信し、深刻な人材不足解消につなげようという熊本県の啓発事業として企画されたもので、国の「介護施設等における生産性向上に資するパイロット事業」の一環でもある。

介護職のカッコよさをプロのクリエーターがプロデュース その思い、表現技法とは

撮影・プロデュースを手掛けたのは、インド出身のクリエイティブ・ディレクター、マンジョット・ベディさん(50)。「介護職のイメージアップを図るのが狙いですが、それ以上に、現場で働く人たちのセルフリスペクトを高めたい。それが最大の目的です」と企画の狙いを語った。同様の企画を今後、全国に広げたいという。

「次世代に残るものを」という思いから

外交官の父とともに17歳で来日、そのまま定住したマンジョットさんは、俳優業などを経て20代後半で広告業界に入り、トヨタ自動車のCMや伊勢神宮の式年遷宮のPR映像を制作するなど活躍してきた。

介護への関心を高めたのは、10年ほど前から。クリエーターとしての実績と名望を積み上げる一方で、「広告の命は短い。次の世代に確実に残るものを手掛けたい」との思いが募るようになったという。

介護業界に勤める友人がいることもあって、老いや病という人間が避けて通れない課題に向き合う介護職への関心が高まった。

介護職のカッコよさをプロのクリエーターがプロデュース その思い、表現技法とは

認知症カフェのプロデュースが縁で

2015年、熊本市内にある福祉施設内に、常設型の認知症カフェ「as a cafe」をプロデュースする機会を得た。全国でも珍しいほぼ年中無休で開設し、施設利用者だけでなく家族や地域住民、学生、専門家らが自由に談笑して交流でき、イベントも開けるスペースとして評判になった。都会のカフェとフリースペースとスタイリッシュな図書館を合わせたような空間で、2018年度グッドデザイン賞にも選ばれた。その縁もあり、今回の事業に関わることになった。

介護職のカッコよさをプロのクリエーターがプロデュース その思い、表現技法とは

マンジョット・ベディさんがプロデュースした認知症カフェ「as a cafe」=熊本市(just on time提供)

「自分自身を尊敬し、魅力を再発見してほしい」

日本が超高齢社会に突入して10年以上が経つ一方で、介護職は「キツい仕事」とのイメージが先行し、必要数を確保できていない。国の推計では、2025年度には全国で約34万人の人材不足に陥るとしている。

マンジョットさんは「日本の介護の世界は、中と外で気持ちや見方に大きなギャップがあります。特に外からの目は、偏見に近いものも多い」と話す。

仕事で訪れる海外の介護現場では、職員が自分の仕事に強く誇りを持ち、周囲も敬意を抱いている場合がほとんど。日本では、介護現場で働いていることを積極的に人に説明しなかったり、就職時に親に反対されたりといった事例を多く耳にした。

「働く人たち自らが介護の魅力を発信できるようにしたい。そのためには、介護職員自身が自分を尊敬し、自分の魅力を再発見できるようなことをやりたい」

そう考え、今回のプロジェクトを「KAiGO PRiDE」と名付けた。

50人の人生をじっくり「演出」

撮影は2019年夏、熊本県内3カ所の福祉施設で行った。一人あたりじっくり1時間。就職のきっかけや現場の苦労、そしてやりがいを聞きながら、総勢50人の人生を「演出」した。

おでこがコンプレックスという人にはあえて前髪を上げてもらうなど、短所を長所に転換するような撮影を心掛けたという。

介護職のカッコよさをプロのクリエーターがプロデュース その思い、表現技法とは

熊本市での撮影風景(just on time提供)

より内面を伝えるためモノクロームに統一した写真の下に、それぞれが介護に対するプライドや思いを込めたメッセージを添えたポートレート作品が完成した。

モデルになった職員たちは「自分ではないみたい」「私の中にこんな一面があったなんて、知らなかった」「なんか誇りを持てるようになりました」と口々に感激の声を漏らした。

介護職のカッコよさをプロのクリエーターがプロデュース その思い、表現技法とは

マンジョット・ベディさんが撮影したポートレート(just on time提供)

50人の中から5人を選び、インタビューシーンをつないだ7分あまりの動画「My Story」も公開。映像には、施設利用者のお年寄りが白い歯を見せ破顔する印象的な表情が挟み込まれ、この仕事の最も大切な「心」を物語っている。

マンジョットさんは「この作品は、私の日本への恩返しでもあります」と語る。

「30年以上日本で生活してきて、日本の魅力はやさしさや礼儀正しさなど、目に見えないものにあると感じてきました。介護の魅力も同じです。日本の介護職の方の質は世界一だと思います。それは、彼ら彼女らのマインドがカッコいいから。今回の撮影では、私の目に見えるカッコよさを描きました。私と同じように、多くの人に、介護に携わる人たちのカッコよさを感じてほしい」

「つらいことが全くない仕事が世の中にあるのか」

介護の現場はそんなきれいごとばかりでは語れない、という指摘には、こう反論する。

介護職のカッコよさをプロのクリエーターがプロデュース その思い、表現技法とは

「どの仕事だって、嫌な上司がいたり、厳しい言葉をかけられたりと、キツいことは多い。つらいことが全くない仕事が世の中にあるのか、と逆に問いたいです。厳しい現実のなかで、みんな誇りをもって頑張っている。そういう仕事の大切な部分、ポジティブな面を人々に伝えることの大切さは、どの仕事でも同じだと思います。やはり、私は人間の良いところを見て、伝えたい」

今回の熊本県の事業を皮切りに、ほかの地域でも自治体などと組んだ「プライド」事業が進んでいる。

(文・石川智也、インタビュー写真・千葉正義)

 

※この記事は、朝日新聞社が厚生労働省の「介護のしごと魅力発信等事業」の補助を受けて実施しているプロジェクトの一環です。

続・ながくつづく、を考える どうやって市場と意識を育てるか

TOPへ戻る

木のぬくもりと粋な会話が魅力の一軒家バー「TACHINOMI-BAR 丸金」(東京・新橋)

RECOMMENDおすすめの記事