小川フミオのモーターカー

イタリアデザインを着こなした和製オープン ダイハツ・コンパーノ・スパイダー

個人的に好きな車型というのがある。4人乗りのフルオープンだ。トランクが長くて、前端から後端まですっと流れるようなラインがきれいだからだ。

(TOP写真:ワンタッチで脱着できるソフトトップというのもウリだった)

1965年に発売された「ダイハツ・コンパーノ・スパイダー」がいまも魅力的に見えるのは、おそらく個人的な好みに加え、タイヤとボディーの関係など、自動車スタイルの黄金律に忠実だからだろう。

コンパーノ・スパイダーは、63年のコンパーノ・ベルリーナ・デラックスをベースに開発された。後者は41馬力の797cc4気筒エンジンだったが、スパイダーは性能も見かけに合っていなくてはいけないと、排気量を958ccにアップするとともにツインカーブレターを装着し、出力も65馬力に高めていた。

ダッシュ力を重視した結果、ギア比は低めて加速性能を向上させている。フルオープンのボディーは補強で多少重くなったものの790キロに抑えた。結果、静止から4分の1マイル(約400メートル)を走りきるのに要する時間は18.5秒と、当時としてはかなり速かった。

「シートバックに(背中を)押しつけられるような鋭い加速」。ダイハツでは当時の広報資料に誇らしげに記している。

私がいまでも思わずニヤニヤしてしまうのは、当時発行されたダイハツによるこのような資料の文言だ。

「スポーツ・カーは限られた人々のセカンド・カーであるという時代は去り、今やファースト・カーとして世界的な支持を受けるようになりました」

なにを根拠にそう述べているのかわからないけれど、熱い気持ちが伝わってきて、そうだよねー、とうなずきたくなるではないか。さらに下記のようなくだりもある。

「一部の人々のシンボルであったスポーツ・カーをそっくりそのままファミリー・カーの位置に置き換えた車、それはちょうど庭先に植えかえた高嶺(たかね)の花とも申せましょう」

高嶺の花だったんだ、と感心する。この時代にすでにオープンモデルへの需要があったことを示唆している。この資料のなかでは、米国ならフォード・マスタング(コンバーティブル)に相当するようなクルマとしている。

65年は東京オリンピックの翌年であり、東名高速(68年)もまだ開通していない。ダイハツは大阪・池田の会社なので、名神高速(65年)が念頭にあったのかもしれない。が、やっぱり時代に先駆けすぎている感はいなめない。

道路だって、国都道府県道の舗装率は25パーセント程度だったようだ。米国の自動車文化を持ってくるには、まだ早かったんじゃないかなと思うのだが、でも世界に通用するライフスタイルカーを作るのだという意気込みはとてもいい。

ボディースタイルはビニャーレのオリジナルをもとにダイハツがまとめた

ボディースタイルはビニャーレのオリジナルをもとにダイハツがまとめた

スタイリングは、イタリアのビニャーレというカロッツェリア(ボディー架装専門メーカー)に依頼した。ビニャーレは、フェラーリのために212ビニャーレクーペ(51年)という名作も生んでいる。大きなグリルでパワーを象徴しつつ、弧をえがくキャビンのエレガントさとうまくマッチさせた名作である。

イタリアデザインをまとったコンパーノ・スパイダーの価格は69万5000円。当時は、トヨペット・コロナ・デラックスが70万円を超えていたりと、クルマは今より相対的にうんと高かった。そこにあっても、フルオープンボディーに消費者がなじめかったのか、販売面では苦労したようだ。

ダイハツがトヨタ自動車と業務提携を結んだのは67年。そこからシャシーの共用化が進み出した。コンパーノ・スパイダーはせっかくの意欲作だったが、効率化の流れには逆らえなかったのだろう。68年には生産中止となってしまった。

【スペックス】
車名 ダイハツ・コンパーノ・スパイダー
全長×全幅×全高 3795×1445×1350mm
958cc直列4気筒 後輪駆動
最高出力 65ps@6500rpm
最大トルク 7.8kgm@4500rpm

(写真=ダイハツ提供)

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PROFILE

小川フミオ

クルマ雑誌の編集長を経て、フリーランスとして活躍中。新車の試乗記をはじめ、クルマの世界をいろいろな角度から取り上げた記事を、専門誌、一般誌、そしてウェブに寄稿中。趣味としては、どちらかというとクラシックなクルマが好み。1年に1台買い替えても、生きている間に好きなクルマすべてに乗れない……のが悩み(笑)。

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