一眼気分

ライカと、譲り受けた1本のオールドレンズで撮ったパリの記憶

基本的に仕事としての撮影はモータースポーツなどの動くものが多いので、僕をレース専門の写真家と思われている方が多いかもしれない。
だが現実にはジャンルにこだわりはなく、自分の興味のままに被写体を選んでいる。

ライカと、譲り受けた1本のオールドレンズで撮ったパリの記憶

Leica M8/Noctilux 50mm F1.0

パリ時代に手に入れた一台のライカ(M8)がある。フィルムカメラも人気のライカだが、時代を考えて所有するフィルムカメラは減らそうとしていたので、現像する時間や手間も考えてデジタルを選択した。購入してからは、とにかく時間ができるとこのカメラを手にパリの街を撮り歩いた。レンズ1本でテーマも制約もなく心の赴くままに歩き回った。

ライカと、譲り受けた1本のオールドレンズで撮ったパリの記憶

Leica M8/P.Angenieux 28mm F3.5 RETROFOCUS TYPE

だが使い込んでくるとやはり交換レンズが欲しくなる。ライカのレンズは当時も今と同様に高価で、新品には簡単に手を出すことはできなかった。だからパリやイギリス、アメリカ、日本などの中古ショップをネットでくまなく探し、数本のお気に入りをそろえ、さらにパリを撮ることに熱中した。

ライカと、譲り受けた1本のオールドレンズで撮ったパリの記憶

Leica M8/Noctilux 50mm F1.0

ライカと、譲り受けた1本のオールドレンズで撮ったパリの記憶

Leica M8/Noctilux 50mm F1.0

ピントもマニュアル、ファインダーのフレームもアバウトで入れたはずの背景が切れていたり……なんでこのカメラが一眼レフよりも高価なのかは、今でも理解できない(笑)。

ただひとつ言えるのは、「撮ってみなければ分からない」という想定外の楽しさがあるということだった。自分で思っていたフレーミングと実際に写ったフレームのギャップに最初は戸惑ったが、最後には「こんなものか!」と思えるようになった。だからシビアな撮影では基本的に使用しないが、楽しみたい撮影ではよく使う。

ライカと、譲り受けた1本のオールドレンズで撮ったパリの記憶

Leica M8/P.Angenieux 28mm F3.5 RETROFOCUS TYPE

ライカと、譲り受けた1本のオールドレンズで撮ったパリの記憶

Leica M8/Noctilux 50mm F1.0

そして気がつくと、「レンズ沼」と言われる深く底のない沼に足を踏み入れている自分がいた(笑)。こだわりは強くなり、どうせパリを撮るならフランス生まれのシネレンズから派生したアンジェニューで撮りたいと思うようになった。しかし、このレンズはさらに高価で希少だった。そんな思いをブログで公開すると、アメリカ在住の僕のブログの読者からメールが届いた。「あなたのパリ写真が好きです。私自身がパリに行くことは叶(かな)いませんが、あなたの写真を見ると旅をした気分になれます。ここに一本のアンジェニューのレンズがあります。私はあなたにこのレンズでパリを撮って見せてほしいのです」と。

高価なものなので、悩んだ末に「レンズの代金を支払うから」というメールを送ると、「その対価はあなたのパリの写真で支払ってください」と言う返信がきた。

結果的に僕はそのレンズを譲り受け、パリの写真を投稿し続けていった。

ライカと、譲り受けた1本のオールドレンズで撮ったパリの記憶

Leica M8/SUMMICRON 35mm F2.0

オールドレンズを使うたびに思うことがある。このレンズは一体どんな光景をカメラに収めてきたのだろうか? 中には第2次世界大戦以前の時代のレンズもあり、果たしてどんな光景を見てきたのかと想像するだけで、あっという間に時間が経過してしまう。

家族や子供の幸せな瞬間、もしかしたら歴史的な瞬間? 想像は尽きない……。
どんな経緯にせよ僕の手元にたどり着いた、僕より年上もいるオールドレンズたちを使う。
そしていつの日か僕の手を離れ、誰かの元に行くであろうオールドレンズたち。

ライカと、譲り受けた1本のオールドレンズで撮ったパリの記憶

Leica M8/Noctilux 50mm F1.0

カメラとレンズでつながる世界があり、並べたレンズを眺めていると空想と現実のはざまで時代を旅しているような錯覚に陥る。これもまたオールドレンズの楽しみ方なのだろう。

僕がこだわる写真は画質やピントが全てではない。むしろ撮影者の心が感じられる写真であればそれで十分だと思っている。

ミラーレス、一眼レフ、あるいはスマートフォン。道具は古くても新しくても何でもいい。肝心なのは道具ではなく、感じた何かをどう切り取るかだろう。

ライカと、譲り受けた1本のオールドレンズで撮ったパリの記憶

Leica M8/Noctilux 50mm F1.0

PROFILE

宮田正和

東京浅草生まれ。1984年のロサンゼルス・オリンピックをはじめ、NBAバスケットボール、各種世界選手権、テニスのグランドスラム大会、ゴルフの全英オープンなどスポーツを中心に世界を舞台に撮影を続ける。1987年、ブラジルF1グランプリを撮影。マシンの持つ美しさ、人間模様にひかれ、1988年よりフランスのパリ、ニースに4年間ベースを移し、以来F1グランプリ、オートバイの世界選手権、ルマン24時間耐久レースなどモータースポーツをメインテーマとして活動を続ける。AIPS(国際スポーツ記者協会会員)A.J.P.S(日本スポーツプレス協会会員)F.O.P.A(Formula One Photographers Association会員)

モータースポーツを撮ってきた写真家が女子ゴルフ大会で切り取った静と動

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