いしわたり淳治のWORD HUNT

岡崎体育が生み出す“キャッチーな違和感” 日本の音楽を楽しくする言葉と歌唱力

音楽バラエティー番組『関ジャム 完全燃SHOW』(テレビ朝日系)で披露するロジカルな歌詞解説が話題の作詞家いしわたり淳治。この連載では、いしわたりが歌詞、本、テレビ番組、映画、広告コピーなどから気になるフレーズを毎月ピックアップし、論評していく。今月は次の5本。

1 “尊い 尊い 尊い 尊い”(Beverly『尊い』歌詞/作詞:岡崎体育)
2 “パワーしゅんでる”(ブラックマヨネーズ小杉竜一)
3 “これ、おいしい印やで”(街頭インタビュー)
4 “肉肉しい”(「2019年ユーキャン新語・流行語大賞」ノミネート語)
5 “KP”(2019年ギャル流行語大賞1位)

最後に日々の雑感をつづったコラムも。そちらもぜひ楽しんでいただきたい。

いしわたり淳治 いま気になる五つのフレーズ

 

岡崎体育が生み出す“キャッチーな違和感” 日本の音楽を楽しくする言葉と歌唱力

岡崎体育が作詞・作曲のBeverlyの新曲『尊い』。A・Bメロから岡崎体育“節”の言葉のセンスが冴(さ)え、サビでは歌詞にあまり使われることのない「尊い」という言葉が連呼される。「尊い 尊い 尊い 尊い キミの横顔 ホクロ 仕草のすべて」という、違和感だらけの歌詞を完璧に歌いこなすBeverlyの歌唱力が素晴らしく、結果的に“良い違和感”のキャッチーさが生まれている。

彼女のイメージでいけば、この「尊い 尊い 尊い 尊い」の部分には、「Baby Baby Baby Baby」みたいな言葉が入るのが自然なんだろうと思う。しかし、それではいかにも似合いすぎていて、聞く者の耳を何事もなく素通りしてしまうだろう。

歌詞には“いかにも歌詞っぽい歌詞”というのがある。例えば「真夜中、冷たい風、流れ星、涙、あなた、ため息、言えない言葉、サヨナラ」という具合に、いかにも歌詞に出て来そうな言葉をつらつらと羅列しただけで、歌っぽいものが自動的に出来上がってしまう。最近は作詞をするAIがあるらしいけれど、人間がこんな凡庸な作詞をしていてはAIにも勝てない気がする。

個性的な歌にするためには、やはり自分だけの「歌詞っぽくない言葉・言い回し」を入れるセンスと勇気が必要なのである。その勇敢な作詞を可能にするものが、歌い手の「高い歌唱力」である。歌唱力がなければ、歌詞っぽくない歌詞は悪目立ちして、ただの悪ふざけに聞こえてしまうだろう。とはいえ、本格派のシンガーほどいわゆる王道の、歌詞らしい歌詞を好んで歌う傾向にあるから、このBeverlyの『尊い』みたいなタイプの曲が増えたら、日本の音楽ももっと楽しくなるのではと思った。

 

岡崎体育が生み出す“キャッチーな違和感” 日本の音楽を楽しくする言葉と歌唱力

関西テレビ『村上マヨネーズのツッコませて頂きます!』で、スピリチュアル雑誌『月刊ムー』の公式ショップを取材していて、そこで販売している人気商品 “ピラミデオン”を紹介していた。説明によると、「エジプト名産のアラバスターといわれる石をピラミッド型に加工した置物で、一般人には未公開の場所、クフ王のピラミッドの中心にある女王の間の中央に、“2時間置かれた”」ものなのだそう。それを聞いた小杉さんが「2時間? 何それ、パワーしゅんでるなってこと?」とツッコんでいた。

「しゅんでる」は関西弁でいうところの「味がしみている」みたいな言葉である。たしかに、改めてそう言われると「たかだか2時間……?」とも思うけれど、いわゆるパワースポットに出かけてものの数秒そこで目を閉じただけで「いやー、パワーもらったわー」などと言う人たちに比べたら、この置物はだいぶ「パワーがしゅんでる」のかもしれない。

もし2時間がパワーがしみるのに十分な時間ということなのだとしたら、これからはもしも何かいいことがあったら、「おや? 最近、2時間以上同じ場所にいたっけ?」と、考えてみようと思う。それが例えば映画館の“G-24”という席だったなと思ったら、そこがつまり自分にとってのパワースポットかもしれない。なので、いつか嫌な出来事が続く日が来たら、またその席で映画を見てみる。そうしたら、再びパワーをもらえるかもしれない。と、まあ、信じるか信じないかは、あなた次第ですが。

 

岡崎体育が生み出す“キャッチーな違和感” 日本の音楽を楽しくする言葉と歌唱力

12/3放送の関西テレビ『やすとも・友近のキメツケ!※あくまで個人の感想です』でのこと。「親やってウソついてまう」というテーマで街頭インタビューをしていて、若い主婦が「半額シールの付いている商品を“これ、おいしい印やで”と子供に言っている」と話していた。何ともすてきなウソである。

認知心理学には、「人は損のインパクトを、得のインパクトの約2.25倍強く感じてしまう」というプロスペクト理論と呼ばれるものがある。これを少し分かりやすく言うと、“450円のお刺し身が夕方になって半額で買えた!”という225円分の得の心理的インパクトは、“隣のスーパーなら100円安くみそを買えたのに!”という100円分の損の心理的インパクトに等しい、ということである。つまり、人間という生き物は「得」よりも2倍以上、「損」に対して敏感な生き物だということである。

インターネットで買い物をするとき、気になるのはコメント欄だ。とはいえ、ほとんどの商品が星五つをつけた人もいれば星一つをつけた人もいるという混沌(こんとん)とした状況なので、コメントを頼りにして品定めしていると、読めば読むほど、どうしたらいいのか分からなくなってくる。

そんな時、このプロスペクト理論を思い出すことにしている。たぶん星一つをつけた人は何かしら自分にとっての不都合があって、それが損のインパクトだから余計に感情的になっているんだ、と思うと、コメントの文章を冷静に読むことができる。おかげで買い物の失敗が結構減った気がしている。

 

岡崎体育が生み出す“キャッチーな違和感” 日本の音楽を楽しくする言葉と歌唱力

最終的にトップ10には入らなかったけれど、2019年ユーキャン新語・流行語大賞に「肉肉しい」という言葉がノミネートされていて、以前から当たり前に耳にしていた気がするこの言葉が2019年の流行語であるということに驚いた。あらためて意味を調べてみると「塊肉などを食べた時の肉らしい肉の食感」みたいなことなのだそう。まあ、分かるような、分からないような。肉を食べておいて「肉らしい」とは、なんとも不思議な感想であるが。

数年前に「空気が読めない」という意味の「KY」がはやった。その頃プロデュースしていた若いバンドのメンバーたちが、やたらとKYを使っていたのを覚えている。待ち合わせに遅刻してきたメンバーに「お前、マジでKYだな」と言い、その後に打ち合わせで入った喫茶店でなかなかオーダーを決められないメンバーに「お前、マジでKYだな」と言い、自分の話をされている途中でトイレに行こうとして立ち上がったメンバーに「お前、マジでKYだな」と言う。

たしかにそれで会話としては成り立っているのかもしれない。でも、表現者としては、どうなのだろう。これらを正確に言うならば、「お前、時間にルーズだな」だし、「お前、優柔不断だな」だし、「お前、トイレ近いな」である。いくら便利な言葉があるからといって、それに甘えていては、表現力は落ちていく一方ではないかと心配になった。そういえば、先日取材を受けた雑誌の編集者も日頃から「やばい」という言葉を極力使わないようにしていると話していた。たしかに、「やばい」もオールマイティーすぎる、危険な言葉のひとつだと思う。

これまでも私たちは塊で肉を食べることはあった。その度に、何か感想を口にして来たはずである。「ん〜、しあわせ〜」「嚙(か)めば嚙むほど中からうまみが……」「ライオンになった気分」「3150(最高)!」とか何とか。そんな個性的な言葉たちが消え、2019年からは「肉肉しい」で片付けられてしまうなんて、やはりどこか寂しい感じが否めない。そのうち、米を食べて「こめこめしい」、パンを食べて「ぱんぱんしい」、なんて言う世の中になるのだろうか。

 

岡崎体育が生み出す“キャッチーな違和感” 日本の音楽を楽しくする言葉と歌唱力

2019年ギャル流行語大賞の1位は「KP(ケーピー)」なのだそう。「乾杯(KANPAI)」を略(?)して「KP」。乾杯をする時にみんなで声をそろえて言うことで、瞬時に楽しいパリピ的空間になるとギャルの間で流行したのだそう。

余談であるが、我が家の2歳の息子は乾杯のことを「ぱんかい」と言う。「ねぇ、パパ、いっしょに、ぱんかいしよう」と言って、ニコニコしながら飲み物の入ったプラスチックの入れ物を差し出す。これを一緒に声をそろえて言うことで、瞬時にあったか空間になると家族の間で流行した。

<<mini column>>
10年経って似合うもの

最近、10年くらい前に買ってあまり履かないまま仕舞ってあった靴を引っ張り出してよく履いている。

職業柄、日頃からアイデアや思いつきをノートや手帳にメモしているのだけれど、ふと、10年前の靴が今の気分なら、10年前に考えていたことも今の気分に合うのかしらと思って、当時の手帳を何となく読み返してみた。若気の至りの、いやに不機嫌な文章が並んでいて失笑した。でも、当時は使い道がなかっただろうけど、今なら使えそうなアイデアもいくつかあって、それは発見だった。

そういえば、2007年に単行本で出版した小説・エッセー集『うれしい悲鳴をあげてくれ』を、それから7年後に文庫化した時、文庫を渡した友人から「前の本よりも面白かった」と感想を言われたことがあった。「いや。それ、中身は同じ本だよ」と内心では思っていたけれど、もしかしたらそれは「年をとって内容が作者に似合うようになった」ということなのかもしれないなと思う。

若い頃は誰しも、無意識で背伸びしている部分が絶対にあるものだ。その意味で、10年前には似合わなかった靴が今は似合う、みたいなことが文章やちょっとしたアイデアにもあるものなのだな、と思った。

あわせて読みたい

「どれが卵の味かわからない」……作詞家いしわたり淳治が“絶対に思いつかない!”と驚いた一言

死ぬまで忘れないタイトルとは? いしわたり淳治がしびれたB’zの曲名

『偽装不倫』主題歌「us」で到達した高み miletの時代、幕開けの予感

RADWIMPS・野田洋次郎は「言葉の角度を変えて耳新しさを出す天才」

「だっせー恋ばっかしやがって」 忘れらんねえよの愛にあふれる自虐フレーズ

いしわたり淳治のWORD HUNT:連載一覧はこちら

\ FOLLOW US /

岡崎体育が生み出す“キャッチーな違和感” 日本の音楽を楽しくする言葉と歌唱力

&M公式SNSアカウント

TwitterInstagramFacebook

「&M(アンド・エム)」はオトナの好奇心を満たすwebマガジン。編集部がカッコいいと思う人のインタビューやモノにまつわるストーリーをお届けしています。

PROFILE

いしわたり淳治

1997年、ロックバンドSUPERCARのメンバーとしてデビュー。全曲の作詞とギターを担当。2005年のバンド解散後は、作詞家としてSuperfly、SMAP、関ジャニ∞、布袋寅泰、今井美樹、JUJU、少女時代、私立恵比寿中学などに歌詞を提供するほか、チャットモンチー、9mm Parabellum Bullet、flumpool、ねごと、NICO Touches the Walls、GLIM SPANKYなどをプロデュース。コカ・コーラCM曲「世界はあなたに笑いかけている」(Little Glee Monster)や、情報番組『スッキリ』(日本テレビ系)のエンディングテーマ曲「Electric Kiss」(EXO)の作詞も担当するなど、さまざまな音楽ジャンルを横断しながら通算600曲以上の楽曲を手掛ける。

「どれが卵の味かわからない」……作詞家いしわたり淳治が“絶対に思いつかない!”と驚いた一言

一覧へ戻る

小さなありがとうの無数の積み重ね いしわたり淳治が見た「愛の歌」の一つの正解

RECOMMENDおすすめの記事